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大学数学基礎解説
文献あり

青雪江のk代数の定義なんかムズそうじゃね

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はじめに

青雪江こと雪江明彦『代数学2 環と体とガロア理論』(日本評論社)に載っている$k$-代数の定義に面食らう人は少なくないと思います。筆者も初めて見たときは困惑しました。今回は、「$k$-代数とは$k$-加群の構造を併せもつ環のことである」ということを説明したいと思います。
個人的には、加群を知る前に$k$-代数のことを勉強する必要はないと思います。

$k$-代数の定義が載っている青雪江の1章3節では環といえば可換環であることを仮定していました。したがって、この記事でも環といえば可換環であると仮定します。なお、青雪江では節によって環に可換性を課したり課していなかったりするので注意してください。
また、青雪江では全体を通して環は単位的、すなわち乗法単位元をもつことを仮定しているので、この記事でもそのようにします。
また、環準同型は乗法単位元を保つことを仮定します。すなわち、$f : A \rightarrow B$が環準同型のとき、$f(1_A)=1_B$であるとします。

$k$-代数の定義の復習

以下が青雪江に載っている$k$-代数の定義です。

$k$-代数(青雪江定義1.3.15)
  1. $k, A$を環とする。$k$から$A$への準同型$\phi $が定まっているとき、組$(A, \phi)$$k$-代数という。$\phi$が明らかなとき、単に$A$$k$-代数という。($\phi$を構造射という。)
  2. $k, A, B$を環、$\phi: k \rightarrow A, \psi : k \rightarrow B $を環準同型写像とし、$\phi, \psi$により$A, B$$k$-代数とみなす。環準同型$f : A \rightarrow B $であって$f \circ \phi = \psi $をみたすものを$k$-代数の準同型(写像)、あるいは$k$-準同型(写像)という。全単射な$k$準同型を$k$-同型という。
  3. $i : A \rightarrow B$を単射な$k$-準同型とする。このとき、$A$$B$の部分集合とみなしたものを部分$k$-代数という。

青雪江では(3)の$i$$\phi$になっていますが、記号の意味が紛らわしいのでこの記事では$i$を採用しました。

今回の記事では$k$-代数、$k$-準同型写像について解説し、最後に部分$k$-代数について簡単に述べます。

$k$-加群の定義の復習

まずは、$k$-加群の2種類の等価な定義を復習します。

$k$-加群の定義その1

$k$を環、$V$をアーベル群とする。$V$と、以下の条件をみたす写像$m : k \times V \rightarrow V, (t,v) \mapsto t \cdot v $の組$(V, m)$$k$-加群という。
(1) 任意の$t \in k$ と任意の$ v, w \in V$に対して、$t \cdot (v + w) = t \cdot v + t \cdot w $が成り立つ。
(2) 任意の$t,s \in k$と任意の$ v \in V$に対して、$(t + s) \cdot v = t \cdot v + s \cdot v $が成り立つ。
(3) 任意の$t,s \in k$と任意の$ v \in V$に対して、$(ts) \cdot v = t \cdot (s \cdot v) $が成り立つ。
(4) $k$の乗法単位元$1$と任意の$v \in V$に対して、$1 \cdot v = v$が成り立つ。

上のような写像に名前をつけるときは$\varphi$$\psi$を使うことが多いと思います。今回は構造射で既に使ってしまったので、$m$を用いました。定義2, 3が等価であることを述べるときにこの写像に名前があると記述が便利です。

$k$-加群の定義その2

$k$を環、$V$をアーベル群とする。また、$\text{End}(V)$$V$から$V$自身への群準同型全体のなす環とし、$\xi : k \rightarrow \text{End}(V)$を環準同型とする。このとき、組$(V, \xi)$$k$-加群という。

この2つの定義は互いに等価です。すなわち次の2つの命題が成り立ちます。

$(V,m)$を定義その1の意味での$k$-加群とする。このとき、$\xi : k \rightarrow \text{End}(V)$$t \in k$に対し、$\xi(t) \coloneqq m(t,-)$と定める。
ただし、$m(t, -) : V \rightarrow V , v \mapsto m(t, v)$と定める。
このとき、$(V, \xi)$は定義その2の意味での$k$-加群である。

証明の細部は省略します。
定義その1の条件(1)は、$\xi(t)=m(t,-)$$V$から$V$への群準同型であることを意味します。
また、条件(2),(3),(4)はそれぞれ$\xi$が加法と整合していること、乗法と整合していること、単位元を保つことを意味します。

$(V,\xi)$を定義その2の意味での$k$-加群とする。このとき、$m : k \times V \rightarrow V$$t \in k$$v \in V$に対し、$m(t,v) \coloneqq (\xi(t))(v) \in V$と定める。
このとき、$(V, m)$は定義その1の意味での$k$-加群である。

証明の細部は省略します。
$\xi(t) \in \text{End}(V)$であることから、$m$が定義その1の条件(1)をみたすことが従います。
また$\xi$が加法と整合していることから条件(2)が、乗法と整合していることから条件(3)が、単位元を保つことから条件(4)が従います。

さて、命題1では$m$から$\xi$を構成し、命題2では$\xi$から$m$を構成しました。これらの操作は互いに逆の操作になっています。すなわち、$m: k \times V \rightarrow V$が与えられたとき命題1の方法で$\xi: k \rightarrow \text{End}(V)$を構成し、その$\xi $に対し命題2の方法で$m' : k \times V \rightarrow V$を構成すると、$m=m'$となります。逆の順番でも同様です。

また、群作用の定義でも似たような定義があります。群$G$の集合$X$への作用のことを$G \times X$から$X$への写像と定義している本がある一方、$X$上の全単射全体のなす群への群準同型$G \rightarrow \text{Sym}(X) $と定義している本もあります。

数学でよくある手法として、''2変数の写像があるとき、片方の変数を固定する''という手法があります。まさに命題1ではこの手法が使われています。説明はalg-dさんの動画 [ https://youtu.be/EbBiHNUdJjg?si=TE-oekroTvnoDuUT] の2:00くらいからのシーンを見てください。

$k$-代数とは$k$-加群の構造を併せもつ環である

$(A,\phi)$$k$-代数のとき、アーベル群$A$$k$-加群の構造を入れることができます。

$(A,\phi)$$k$-代数とする。このとき$m : k \times A \rightarrow A$$t \in k$$x \in A$に対して$m(t,x) \coloneqq t \cdot x \coloneqq \phi(t)x $と定めると、$(A,m)$$k$-加群になる。$\phi(t)x$$A$の2つの元$\phi(t),x$の積である。

$\xi$の方の定義だと、$\xi(t)$は左$\phi(t)$倍写像、すなわち$\xi(t) : A \rightarrow A , x \mapsto \phi(t)x$です。

正則加群を知っている人向けの説明をすると、$\phi$を用いて正則加群$A$$k$-加群の構造を定めているということです。

証明ですが、4つの条件を順に検証していくだけなので省略します。(4)の検証では、環準同型写像は単位元を保つと仮定していたことに注意してください。

さて、$k$-代数$(A,\phi)$$k$-加群の構造を入れることができました。実はこの$k$-加群の構造は、環$A$の積と整合します。すなわち、次が成り立ちます。

$(A,\phi)$$k$-代数とし、定理3の方法で$k$-加群とみなす。このとき$A$の積は$k$-双線型写像である。すなわち、任意の$t \in k$と任意の$x, y \in A$に対して$(t \cdot x) y = x (t \cdot y) =t \cdot (xy)$が成り立つ。

双線型と書きましたが積と和の整合性は環の定義(分配法則)に課されているので、積と$k$の作用の整合性だけを検証すれば良いです。

$ (t \cdot x) y = (\phi(t)x)y, ~x(t \cdot y)= x(\phi(t)y), ~ t \cdot (xy) = \phi(t) (xy)$ですが、$A$の積は可換で結合的なのでこの3つは等しいです。

ここまで、$k$-代数は$k$-加群の構造をもち、さらにその加群構造は積と整合していることを見てきました。
反対に、$k$-双線型な積をもつ環$A$$k$-代数である、つまり$k$から$A$への環準同型写像があることを示します。

$A$を環とし、$(A,m)$$k$-加群であるとする。さらに$A$の積は$k$-双線型写像であるとする。このとき、$\phi : k \rightarrow A$$t \in k$に対し、$\phi(t) \coloneqq t \cdot 1_A \coloneqq m(t, 1_A)$と定めると$\phi$は環準同型写像である。
よって、$ (A, \phi)$$k$-代数となる。

$m$の条件(2), (3), (4)から従います。$\phi$と積との整合性だけ示します。積の双線型性を使うのはここです。$s, t \in k$を任意にとります。$\phi(ts)= ts \cdot 1_A =t \cdot (s \cdot 1_A) = t \cdot \phi(s) = t \cdot (1_A \phi(s)) = (t \cdot 1_A) \phi(s) = \phi(t) \phi(s)$なので、$\phi$は積と整合しています。

定理4では$k$から$A$への環準同型を使って$k$-加群の構造を定め、定理5では$k$-加群の構造から環準同型を作りました。これらの操作は互いに逆の操作になっていることが確かめられます。
これは一見、不思議なことのように思えます。なぜなら、$k$-加群から環準同型を作るときに必要だったのは$t\ \cdot 1_A$、つまり$1_A$の行き先の情報だけだったからです。情報が失われない理由は積との整合性にあります。積が双線型のとき、任意の$x \in A$に対し、$t \cdot x = t \cdot (1_A x)=(t \cdot 1_A)x$なので、$1_A$の行き先$t \cdot 1_A$を指定すると、$A$のすべての元の行き先が決まってしまうのです。これが情報が失われない理由です。

定理4,5の操作は互いに逆の操作なので、環$k,A$が与えられたとき、$A$$k$-代数とみなす($k$から$A$への環準同型写像を指定する)方法と、$A$に積が双線型写像になるように$k$-加群の構造を定める方法は1対1に対応します。つまり、$k$-代数とは$k$-加群の構造を併せもつ環と等価な概念です。

$k$-準同型とは、まさに$k$-線型な環準同型のことである

$(A,\phi), (B,\psi)$$k$-代数のとき、構造射と整合する($f \circ \phi = \psi$をみたす)環準同型$f :A \rightarrow B$$k$-準同型写像といいました。$k$-加群の言葉を使って$k$-準同型写像を特徴付けます。

$(A,\phi), (B,\psi)$$k$-代数とし、定理3の方法でそれぞれ$k$-加群とみなす。このとき環準同型写像$f: A \rightarrow B$$k$-準同型写像であること($f \circ \phi = \psi$をみたすこと)の必要十分条件は、$f$$k$-線型写像であることである。

まず、$f$$k$-準同型だと仮定します。$f$は環準同型写像なので和とは整合しています。よって、$k$の作用との整合性を示せばよいです。$t \in k$$x \in A$を任意にとります。$f \circ \phi = \psi$なので$f(t \cdot x) = f(\phi(t)x)=f(\phi(t)) f(x) = \psi(t) f(x) = t \cdot f(x)$が成り立ちます。したがって、$f$$k$-線型写像です。
次に、$f$$k$-線型写像だと仮定します。$t \in k$を任意にとります。$k$-加群の構造の定め方から、$f(\phi(t)) = f(\phi(t) 1_A) = f(t \cdot 1_A)$が成り立ちます。$f$$k$-線型であり、環準同型なので乗法単位元を保ちます。ゆえに、$f(\phi(t)) = f(t \cdot 1_A) = t \cdot f(1_A) = t \cdot 1_B = \psi(t)1_B = \psi(t)$が成り立ちます。
よって、$t $の任意性から$f \circ \phi = \psi$が従います。したがって、$f$$k$-準同型です。

部分$k$-代数について

著者は雪江代数3や可換環論、代数幾何をやっておりません。以下は著者の憶測です

青雪江では$i : A \rightarrow B$が単射な$k$-準同型のとき、$A$$B$の部分集合とみなしたものを部分$k$-代数と定義していました。
$(A, \phi),(B, \psi)$$k$-代数で、$i : A \rightarrow B $が単射$k$-準同型のとき、$(i(A), \psi)$$(A, \phi)$と同型な$k$-代数になります。実際、$i$は環準同型写像なので$i(A)$$B$の部分環です。また、$\psi(k)= i(\phi(k)) \subset i(A)$なので$\psi : k \rightarrow B$の終域を$i(A)$に変更することができます。よって、$k$-代数$(i(A), \psi)$が定義でき、$i : A \rightarrow i(A)$によって同型となります。
つまり、$A$$B$の中に埋め込めます。
ではなぜ、雪江先生は部分$k$-代数を$B$の特別な部分集合として定義しなかったのでしょうか。その理由は$A$の埋め込み方が重要になる場面があるからだと考えられます。例えば、$k[x] $$ k[y,z]$に埋め込む方法としては$f(x) \mapsto f(y)$$f(x) \mapsto f(z)$などがあります。どちらの方法で埋め込むかによって、状況は変わってきます。(例えば係数制限を考える時など)
そのような場合に備えているのだと考えられます。

おわりに

今回は青雪江の$k$-代数について解説しました。なお、$k$が体のときは、$k$-代数のことを$k$上の多元環ともよくいいます。

参考文献

[1]
雪江明彦, 環と体とガロア理論, 日本評論社
投稿日:8日前
更新日:2日前
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