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母関数とはFourier展開である

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$$\newcommand{a}[0]{\alpha} \newcommand{asn}[0]{\hspace{16pt}(\mathrm{as}\ n\to\infty)} \newcommand{b}[0]{\beta} \newcommand{beq}[0]{\begin{eqnarray*}} \newcommand{c}[2]{{}_{#1}\mathrm{C}_{#2}} \newcommand{c}[0]{\gamma} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{cb}[0]{\binom{2n}{n}} \newcommand{del}[0]{\partial} \newcommand{dhp}[0]{\dfrac{\pi}2} \newcommand{ds}[0]{\displaystyle} \newcommand{eeq}[0]{\end{eqnarray*}} \newcommand{ep}[0]{\varepsilon} \newcommand{F}[0]{\mathbb{F}} \newcommand{Fp}[0]{\mathbb{F}_p} \newcommand{hp}[0]{\frac{\pi}2} \newcommand{l}[0]{\ell} \newcommand{limn}[0]{\lim_{n\to\infty}} \newcommand{limx}[0]{\lim_{x\to\infty}} \newcommand{nck}[0]{\binom{n}{k}} \newcommand{phi}[0]{\varphi} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Res}[1]{\underset{#1}{\mathrm{Res}}} \newcommand{space}[0]{\hspace{12pt}} \newcommand{sumn}[1]{\sum_{n={#1}}^\infty} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

導入

以下のような問題と解法を見たことはあるでしょうか?

コインを$n$回投げて表が3の倍数回出る確率$p_n$を求めよ.

解答.
$f(x)=(\frac12 x+\frac12)^n$の, $x$の次数が3の倍数であるような項の係数の和が$p_n$なので, $\omega=\frac{-1+\sqrt{-3}}2$を1の原始3乗根として

$$ p_n=\frac{f(1)+f(\omega)+f(\omega^2)}3 $$

${}$

これがいわゆる母関数による解法です. 確率や場合の数の問題で, 事象を選ぶことを多項式をかけることに対応させ, 係数を求める問題に帰着させるという考え方です.

今回は, この方法を代数的に捉え直してみましょう.

${}$

群環

群環

$G$と環$R$に対して, $G$で添字付けられた基底をもつ自由$R$加群を考え, その元を$\sum_ga_g\, g$とかく. ($g\in G$による基底$e_g$を単に$g$とかき, その係数を$a_g\in R$とした.)

$\sum_g a_g\,g$$\sum_g b_g\,g$の積を

$$ \Big(\sum_{g\in G} a_g\,g\Big)\Big(\sum_{g\in G} b_g\,g\Big):=\sum_{g,h\in G}a_gb_h\,gh=\sum_{g\in G}\Big(\sum_{h\in G}a_hb_{gh^{-1}}\Big)g$$

と定めることで環構造が入る. この環を$R[G]$とかき, 群環という. これは$R$代数にもなっている.

群環は, 群の元を変数のように扱った形式和だと思うのがよい. 例えば$g,h\in G$として, $\Z[G]$において
$$ (g+2h)(3g^{-1}+h)= 3e+gh+6hg^{-1}+2h^2$$
のように計算ができる.

${}$

この概念を用いると, 先ほどの問題は次のように言い換えられます.
${}$

表の回数を3で割った余りを$\Z/3\Z$の元で表すと, コインを投げることは$\Z/3\Z$において$[1]$または$[0]$を確率$\frac12$で足すことに相当する

→群環$\C[\Z/3\Z]$での$(\frac12[1]+\frac12[0])^n$$[0]$の係数が, 表が3の倍数回出る確率$p_n$である.

${}$

群環での計算問題に言い換えることができました. では, 群環の構造を詳しく調べてみましょう.

${}$

中国剰余定理

例1 において「群環は, 群の元を変数と思って...」と言いましたが, 群が可換な場合はまさに多項式とみなすことができます.

$\C[\Z/3\Z]$は, $[0]$を1, $[1]$$X$, $[2]$$X^2$に送ることにより

$$ \begin{array}{ccc} \C[\Z/3\Z]&\stackrel{\sim}{\longrightarrow}&\C[X]/(X^3-1)\\ \frac12[1]+\frac12[0] & \longmapsto &\frac12X+\frac12 \end{array}$$

さらに中国剰余定理より環として$\C[X]/(X^3-1)\cong \C^3 $となります.

${}$

$\C$の直積環と同型になることがわかりました. 直積環では$n$乗の計算はとても簡単です!

つまり$ \C[X]/(X^3-1) $において$(\frac12 X+\frac12)^n$の定数項を求めるには,

$$ \begin{array}{rcc} \C[X,Y]/(X^3-1) &\stackrel{f}{\longrightarrow}& \C^3 \\[5pt] \frac12 X+\frac12 & \longmapsto & (a,b,c)\\ & & \downarrow\\ p_n+\boxed{\phantom{t}}X+\boxed{\phantom{t}}Y+\boxed{\phantom{t}}XY & \longleftarrow& (a^n,b^n,c^n) \end{array}$$

のように, 同型$f$$\frac12X+\frac12$を送り, $n$乗してから引き戻すことによって$p_n$を求められます.

${}$

同型を計算する

では, 同型$f:\C[X]/(X^3-1)\stackrel{\sim}{\longrightarrow}\C^3$を具体的に書き下しましょう.

先ほどの中国剰余定理を丁寧に書くと

$$ \begin{align*} \C[X]/(X^3-1)&\cong \C[X]/(X-1)\times\C[X]/(X-\omega)\times\C[X]/(X-\omega^2)\\[5pt] &\cong \C\times\C\times\C \end{align*}$$

ここで$\C[X]/(X-1)\stackrel{\sim}{\longrightarrow}\C$は, $X-1$で割った余り即ち$1$を代入するという写像なことに注意すれば,
$$ f:P(X)\longmapsto (P(1),P(\omega),P(\omega^2))$$

とわかります.

${}$

従って, $P(X)=\frac12X+\frac12$として, $p_n=\Big(f^{-1}(P(1)^n,P(\omega)^n,P(\omega^2)^n)\text{の定数項}\Big)$ となります.

中国剰余定理の逆写像は一般に綺麗にはかけませんが, 今回は計算してみると$f^{-1}(a,b,c)$の定数項は$\dfrac{a+b+c}3$であることがわかるので, 一番最初の結果と一致することが確かめられます.

${}$

Artin-Wedderburn

実は, 群環の構造を調べるには中国剰余定理ではなく, もっと一般的な以下の定理を用いる方が見通しが良いです.

Artin-Wedderburnの定理(の群環への適用)

$G$を有限群, $G$$\C$係数既約表現の全体を$(\rho,V_\rho)_\rho$とし, $V_\rho$を自然に$\C[G]$加群とみることで$\phi_\rho:\C[G]\to\mathrm{End}\,V_\rho\cong\mathrm{M}_{d_\rho}(\C)$を定める. $\phi_\rho$を並べてできる
$$ \Phi:\ \C[G]\ \stackrel{\sim}{\longrightarrow}\ \prod_\rho \mathrm{M}_{d_\rho}(\C)$$
は, 環の同型である.

Fourier逆変換公式

上の状況で, $(A_\rho)\in\prod_\rho\mathrm{M}_{d_\rho}(\C)$に対し$\Phi^{-1}((A_\rho))\in\C[G]$$g$の係数は
$$ \frac{1}{|G|}\sum_\rho d_\rho \Tr(\phi_\rho(g^{-1})A_\rho)$$

${}$
特に$G$が有限Abel群の場合は, 既約表現は全て1次元指標ですから, 次のようになります.

${}$

$G$が有限Abel群ならば, その$|G|$個の指標全体を$(\chi_i)_i$として,
$$\begin{array}{rccc} \rho:&\C[G]&\stackrel{\sim}{\longrightarrow}&\C^{|G|}\\[5pt] & g & \longmapsto & (\chi_i(g))_i \end{array} $$
は環の同型である. 逆写像は

$$ \Phi^{-1}((c_i)_i)=\sum_g a_g\,g,\quad a_g=\frac1{|G|}\sum_i\chi_i(g^{-1})c_i$$
で与えられる.

前半は, 先ほど中国剰余定理を使った結果と同じことを言っています. しかし今度は逆写像が綺麗に表せているところがポイントです.

先ほどの問題に適用する. $G=\Z/3\Z$とすると, 指標は$[1]$$1,\omega,\omega^2$に送る3つがある.

$\Phi(\frac12[1]+\frac12[0])=(1,\frac{1+\omega}2,\frac{1+\omega^2}2)$であり, これの$n$乗の引き戻しの$[0]$の係数は, 公式より
$$ p_n=\dfrac{1+(\frac{1+\omega}2)^n+(\frac{1+\omega^2}2)^n}{3}$$
である.

${}$

応用

$xy$平面の原点に点$\mathrm{P}$があり, 縦横斜めに隣り合う8つの格子点をランダムに選び移動することを毎秒繰り返す. $n$秒後に$\mathrm{P}$$x,y$座標が共に奇数である確率$p_n$を求めよ.

解答.

$\mathrm{P}$$x,y$座標の偶奇を$G=(\Z/2\Z)^2$の元で表すと, この操作は$a=\frac14(1,0)+\frac14(0,1)+\frac12(1,1)\in \C[G]$を掛けることに対応する. $a^n$$(1,1)$の係数が$p_n$である.

$G$の指標は$(1,0),(0,1)\in G$$\pm1$に送る4つであるから, $\Phi:\C[G]\stackrel{\sim}{\longrightarrow}\C^4$による$a$の像は$\Phi(a)=(1,-\frac12,-\frac12,0)$である. $\Phi^{-1}(\rho(a)^n)$$(1,1)$の係数$p_n$は, 公式より
$$ p_n=\frac{1-2(-\frac12)^n}{4}$$
となる.

${}$

Artin-Wedderburnを使うと, 群が非可換な場合にも母関数を考えることができます. 詳しくは 私の過去の記事 の例などを参照してください.

${}$

Fourier変換

ところで, 上の定理2の式にはなぜFourier逆変換という名前がついているのでしょうか?

実は, 群環を$G$上の関数とみて, それを既約表現の和に分解していると捉えると, Fourier展開との類似性が見えてきます. 次のような一般化が存在します.

Peter-Weyl theorem

$G$をcompact位相群, $L^2(G)$をそのHaar測度に関する$L^2$空間とする.

$$ \Psi:\ \bigoplus_\rho \mathrm{End}\,V_\rho\longrightarrow L^2(G)$$

を, $\Psi(E_{ij}^{(\rho)})(g)=\rho(g)_{ij}$を線型に拡張して定める. (ここで$\rho$$G$のunitary既約表現全体を動き, $V_\rho$$\rho$の表現空間であり, $V_\rho$の標準基底を一つ取り$E_{ij}^{(\rho)} $を行列単位, $\rho(g)_{ij}$$\rho(g)$の表現行列の$(i,j)$成分とした. また左辺はHilbert空間としての直和とする. )

このとき, $L^2(G)$をleft translationにより$G$の表現とみると$\Psi$は表現の同型である. さらに, $d_\rho=\dim V_\rho$として, $\big\{\sqrt{d_\rho}\, \Psi(E_{ij}^{(\rho)})\big\}_{\rho,i,j}$$L^2(G)$の正規直交基底である.

${}$

$G=S^1$のときが通常のFourier展開に相当します.

$G=S^1$

まず$S^1$のunitary既約表現は$\theta\mapsto e^{in\theta}$が全てである. 特に全て1次表現なので,
$$ \Psi^{-1}:L^2(S^1)\stackrel{\sim}{\longrightarrow}\bigoplus_n\C=\ell^2(\C) $$
であり, $\{\theta\mapsto e^{in\theta}\}$が正規直交基底となる. これは通常のFourier展開の理論である.

次に, $G$が有限群のときに, 前述のArtin-WedderburnおよびFourier逆変換公式が導かれることを見ましょう.

$G$:有限群

$g\mapsto\mathbb{1}_g$(:特性関数)により$\C[G]$$L^2(G)$を同一視する. Artin-WedderburnとPeter-Weylの2つの写像
$$ \begin{array}{rccc} \Phi:& \C[G] &{\longrightarrow} & \prod _\rho\mathrm{End}\,V_\rho\\ \Psi^{-1}: & L^2(G) & {\longrightarrow} & \prod _\rho\mathrm{End}\,V_\rho \end{array} $$

の関係を調べる. まず$\Phi(g)=(\rho(g))_\rho$である.

次に$\Psi^{-1}(\mathbb{1}_g)=(A_\rho)_\rho$だとすると, $\ds\mathbb{1}_g=\sum_{\rho,i,j}(A_\rho)_{ij}\Psi(E_{ij}^{(\rho)})$となり, $\sqrt{d_\rho}\, \Psi(E_{ij}^{(\rho)})$が正規直交基底であったことから, 内積をとれば係数$(A_\rho)_{ij} $が求められる. 即ち,

$$ \begin{align*} (A_\rho)_{ij} &=d_\rho\cdot\langle \mathbb{1}_g\,,\Psi(E_{ij}^{(\rho)})\rangle\\[5pt] &=d_\rho\int_G \mathbb{1}_g(x)\,\overline{ \rho(x)_{ij}}\,dx\\[5pt] &= \frac{d_\rho}{|G|}\rho(g^{-1})_{ji} \end{align*} $$
より, $\Psi^{-1}(g)=(\frac{d_\rho}{|G|}\rho(g^{-1})^T)_\rho$である. ここで最後に$\rho$がunitaryであることを使った.

この2つを見比べると以下の可換図式を得る.

$$ \xymatrix{ {\C[G]} \ar[rr]_{\Phi} \ar[d]_{g\mapsto g^{-1}} & {} & {\prod _\rho\mathrm{End}\,V_\rho} \ar[d]^{\times\frac{d_\rho}{|G|}\,(\bullet)^T}\\ {L^2(G)} \ar[rr]^{\sim}_{\Psi^{-1}} &{}& {\prod _\rho\mathrm{End}\,V_\rho} }$$
これによりArtin-Wedderburnの$\Phi$が同型だと言えた.
${}$

最後に$\Phi^{-1}((A_\rho)_\rho)$$g$の係数$a_g$を求めると,
$$ \begin{align*} a_g&= \Psi\Big(\Big(\frac{d_\rho}{|G|}A_\rho^T\Big)_\rho\Big)(g^{-1})\\[5pt] &=\frac1{|G|}\sum_{\rho,i,j}d_\rho\cdot (A_\rho)_{ji}\,\rho(g^{-1})_{ij}\\[5pt] &=\frac1{|G|}\sum_{\rho}d_\rho\Tr(\rho(g^{-1})A_\rho) \end{align*}$$
Fourier逆変換公式が従う.

${}$

このように $\ds\Psi^{-1}(f)=\Big(d_\rho\int_Gf(g)\rho(g^{-1})^T\,dg\Big)_\rho$であり, $G=S^1$のときこれはFourier展開係数を求める積分で, $G$が有限群のときほとんど$\Phi$だったので, Artin-WedderbunはFourier展開の類似であることが納得できました.

つまり, 母関数とはFourier展開なのです.

${}$

ここまで読んでくださった方, ありがとうございました.

投稿日:12時間前
更新日:12時間前
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東大数理M1

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