はじめに
こんにちは. 今回は, Twitterで出した以下の問題の解説をしようと思います.
縦線が4本あり, ここに横線を本書き加えて, あみだくじを作ります.
ただし, 以下のルールに従います.
- 横線は, 隣り合う縦線を結ぶもののみとする.
- どの隣り合う縦線を結ぶ横線を書くかは, 確率で決まる.
- 横線は, 上の方から順に書いていく.
このとき, 何も動かさないあみだくじができる確率を求めてください.
母関数で表す
この問題は, を次対称群として, 隣接互換から選んで回掛け合わせて, 結果恒等置換になるような確率を求めよということになります. 掛け合わせて〇〇になる確率, と言えば母関数ですよね.
ただし今回は, よくあるやつと違って掛ける順番によって結果が変わってしまいます. なので普通の多項式は使えません. そこで群環の登場です. 群環を用いた母関数については
私の過去の記事
も参考にしてください.
群環で考えると, 以下のように言い換えられます.
行列環の直積で表す
の構造を知りたいのですが, よく知られたようにこれは行列環の直積になり, しかも具体的な同型が表現論を用いて計算できます.
を有限群, をの既約表現全体, とする. を線型に拡張して定まるは同型である.
そこで, の既約表現を調べましょう.
の共役類はで代表されるつなので既約表現もつになります.
まず自明表現と置換の符号によりつの次表現があります.
次にKleinの四元群をとしてなので, のへの自然な作用(回転と反転による)を, の元を自明に作用させることでの作用に拡張できこれが次表現になります.
さらにへの基底の置換による作用が次表現になります.
残りは次表現がつですが, これの指標は直交関係式から分かります. 実はこれは, 上の次表現に符号による表現をテンソルしたものになっています.
以上より, であると分かります.
同型を具体的に求める
これが一番大変なところです. 上で求めた既約表現(を線型性で延長したもの)がそのまま同型になっているので, 既約表現を具体的に求めないといけません.
長くなるので畳んでおきます.
(クリックして開く)
・2次既約表現
上で述べた通り, の自然な作用, つまり回転を, 反転をに送るような作用を拡張するので,
と送れば良いです.
・3次既約表現
これは少し難しいですが, 基底の入れ替えによる3次表現ということは正6面体群が浮かびます. (うれしいことに, 正6面体群はとなります!)
つまり, 立方体の回転に対応するような基底の取り換えが表現になっているはずです. 実際が度回転のに対応します. 互換はというと, 少し計算すると対角線での回転に対応させるとうまく行くとわかります.
さてもう1つの既約表現ですが, こちらは上で述べたように, 置換の符号の表現をテンソルしたものなので, 符号をただ掛けたものになります.
以上により, 具体的な同型を計算すると次のようになります.
これを用いて, を計算していきましょう.
乗を計算する
上の同型により, 行列環の方ではは
になります. あとはこれを計算して, に戻せばいいです.
ここで先に逆に戻す公式Fourier逆変換を思い出しておきます.
の既約表現全体をとしたとき, の元をに戻したときのの係数はである
ということで, 特にのときを考えて, 結局分かればいいのは上の行列のトレースなのです. 乗のトレースは固有値の乗の和なので簡単に計算できます.
の固有値は, の固有値はであることから, Fourier逆変換公式を使って, 整理すると以下を得ます.
求める確率は, が奇数のときであり, が偶数のとき
具体的に計算すると, となります. とするとつまり偶置換の個数の逆数になっているので, 合っていそうですね.
それでは, ここまで読んでくださった方, ありがとうございました.