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微分方程式の積分による解法

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はじめに

本記事では,(主に定数係数の線形)微分方程式を積分で解く方法を紹介します.
最も簡単な形の微分方程式y(x)=f(x)の解は,微分積分学の基本定理によって積分で書けるのでした.

微分積分学の基本定理

yC1(R;R)fC0(R;R)に対して,次の2条件は同値である.

  • 任意のxRに対して,y(x)=f(x)が成り立つ.
  • 任意のx,x0Rに対して,y(x)=y(x0)+x0xf(t)dtが成り立つ.

そこで,様々な微分方程式をy(x)=f(x)の形に帰着して解いてみましょう.

この解法のメリット

  • 斉次・非斉次の線形方程式を同じ方法で解ける.
    (非斉次方程式を,斉次形を経由せずに解ける)
  • 定数係数の線形方程式で,特性方程式が実数解しか持たない場合は解きやすい.
    (重解の有無を気にせず解ける)

この解法のデメリット

  • 積分計算が大変.
  • 定数係数の線形方程式で,特性方程式が虚数解をもつ場合が大変?

例題

実際に答案を見た方がわかりやすいと思うので,早速ですが例題です.

次の2条件を満たす関数yC1(R;R)を求めよ.
{y(x)=2xy(x)(xR),y(0)=1.

y(x)2xy(x)=0ex2y(x)2xex2y(x)=0(ex2y(x))=0ex2y(x)=y(0)+0x0dt=1y(x)=ex2.

初期条件y(0)=1に合わせて,定積分の下端を0にしています.
両辺にex2を掛けるところが一見技巧的ですが,何を掛けるべきかは次の式から判断できます.

y,FC1(R;R)のとき
eF(x)(y(x)+F(x)y(x))=(y(x)eF(x)).

積の微分公式から従う.

要するに,y(x)+f(x)y(x)という式にはef(x)の原始関数を掛ければ良いです.
先ほどの問題ではy(x)2xy(x)という式が出てきたので,2xの原始関数x2を用いてex2を両辺に掛けたというわけです.

変数分離についてコメント

上の微分方程式y=2xyは,いわゆる変数分離の方法で1ydydx=2x1ydy=2xdxlog|y|=x2+Cのように解説されることがありますが,細かいところの説明が面倒くさいので個人的にはあまり好きではありません.

練習問題 (vs ChatGPT)

ChatGPTにいろいろ出題してもらいました.解いてみましょう.

次の2条件を満たす関数yC1(R;R)を求めよ.
{y(x)+2y(x)=4(xR),y(0)=1.

解答例

(両辺にe2xを掛ける)e2xy(x)+2e2xy(x)=4e2x(e2xy(x))=4e2xe2xy(x)=y(0)+0x4e2tdt=1+[2e2t]0x=2e2x1y(x)=2e2x.

次の2条件を満たす関数yC1(R;R)を求めよ.
{y(x)=y(x)sin(x)(xR),y(0)=3.

解答例

(両辺にecos(x)を掛ける)y(x)y(x)sin(x)=0ecos(x)y(x)ecos(x)y(x)sin(x)=0(ecos(x)y(x))=0ecos(x)y(x)=ey(0)+0x0dt=3ey(x)=3e1cos(x).

次の2条件を満たす関数yC1(R;R)を求めよ.
{y(x)=2x(1y(x))(xR),y(0)=0.

解答例

(両辺にex2を掛ける)y(x)+2xy(x)=2xex2y(x)+2xex2y(x)=2xex2(ex2y(x))=2xex2ex2y(x)=y(0)+0x2tet2dt=ex21y(x)=1ex2.

次の2条件を満たす関数yC1(R;R)を求めよ.
{y(x)=2x+3y(x)(xR),y(0)=1.

解答例

(両辺にe3xを掛ける)y(x)3y(x)=2xe3xy(x)3e3xy(x)=2xe3x(e3xy(x))=2xe3xe3xy(x)=y(0)+0x2te3tdt=1+[29(3t+1)e3t]0x=11929(3x+1)e3xy(x)=119e3x23x29.

次の2条件を満たす関数yC1(R;R)を求めよ.
{y(x)=x2+y(x)(xR),y(0)=2.

解答例

(両辺にexを掛ける)y(x)y(x)=x2exy(x)exy(x)=x2ex(exy(x))=x2exexy(x)=y(0)+0xt2etdt=2+[(t2+2t+2)et]0x=4(x2+2x+2)exy(x)=4exx22x2.

次の2条件を満たす関数yC2(R;R)を求めよ.
{y(x)4y(x)+4y(x)=0(xR),y(0)=1,y(0)=0.

解答例

(両辺にe2xを掛ける)e2xy(x)4e2xy(x)+4e2xy(x)=0(e2xy(x))=0(e2xy(x))=2e0y(0)+e0y(0)+0x0dt(e2xy(x))=2e2xy(x)=e0y(0)+0x(2)dt=12xy(x)=(12x)e2x.

次の2条件を満たす関数yC2(R;R)を求めよ.
{y(x)+5y(x)+6y(x)=ex(xR),y(0)=2,y(0)=1.

解答例

(まず両辺にe2xを掛ける)y(x)+5y(x)+6y(x)=ex(y(x)+3y(x))+2(y(x)+3y(x))=exe2x(y(x)+3y(x))+2e2x(y(x)+3y(x))=e3x(e2x(y(x)+3y(x)))=e3xe2x(y(x)+3y(x))=y(0)+3y(0)+0xe3tdt=143+13e3x(次はe3xを作るため,両辺にexを掛ける)e2x(y(x)+3y(x))=143+13e3xe3x(y(x)+3y(x))=143ex+13e4x(e3xy(x))=143ex+13e4xe3xy(x)=y(0)+0x(143et+13e4t)dt=143ex+112e4x114y(x)=143e2x+112ex114e3x.

余談:特性方程式が虚数解をもつ場合

定数係数線形方程式で特性方程式が虚数解をもつ場合も,三角関数を使えば積分で解けます.

次の2条件を満たす関数yC2(R;R)を求めよ.
{y(x)+y(x)=x(xR),y(0)=1,y(0)=2.

両辺にcos(x),sin(x)を掛けて2通りに変形する

微分方程式の両辺にcos(x)を掛けると
y(x)cos(x)+y(x)cos(x)=xcos(x)(y(x)cos(x)+y(x)sin(x))=xcos(x)y(x)cos(x)+y(x)sin(x)=2+0xtcos(t)dt=xsin(x)+cos(x)+1y(x)cos(x)sin(x)+y(x)sin2(x)=xsin2(x)+cos(x)sin(x)+sin(x).
また,両辺にsin(x)を掛けると
y(x)sin(x)+y(x)sin(x)=xsin(x)(y(x)sin(x)y(x)cos(x))=xsin(x)y(x)sin(x)y(x)cos(x)=1+0xtsin(t)dt=xcos(x)+sin(x)1y(x)cos(x)sin(x)y(x)cos2(x)=xcos2(x)+cos(x)sin(x)cos(x).
上の2式より
y(x)=x+sin(x)+cos(x).

一般に,定数係数2階線形微分方程式
y(x)+ay(x)+by(x)=f(x)
の特性方程式λ2+aλ+b=0が虚数解λ=p±qiをもつとき,解と係数の関係よりa=2pb=p2+q2が成り立つので
y(x)2py(x)+(p2+q2)y(x)=f(x)
と表せます.そこで,両辺にepxを掛ければ
epx(y(x)2py(x)+p2y(x))+q2epxy(x)=epxf(x)(epxy(x))+q2epxy(x)=epxf(x)
となるので,あとは上の例題と同様にcos(qx),sin(qx)を掛けて2通りに変形すれば良いです.

定数係数線形2階常微分方程式の解(特性方程式が虚数解をもつ場合)

p,qq0を満たす実数とする.yC2(R;R)
y(x)2py(x)+(p2+q2)y(x)=f(x)
を満たすとき,
y(x)=(y(0)1q0xf(t)eptsin(qt)dt)epxcos(qx)+(y(0)py(0)q+1q0xf(t)eptcos(qt)dt)epxsin(qx)
が成り立つ.

微分方程式の両辺にepxcos(qx)を掛けると,
(y(x)2py(x)+(p2+q2)y(x))epxcos(qx)=f(x)epxcos(qx)((y(x)epx)+q2y(x)epx)cos(qx)=f(x)epxcos(qx)((y(x)epx)cos(qx)+qy(x)epxsin(qx))=f(x)epxcos(qx)(y(x)epx)cos(qx)+qy(x)epxsin(qx)=y(0)py(0)+0xf(t)eptcos(qt)dt.
また,両辺にepxsin(qx)を掛けると
(y(x)2py(x)+(p2+q2)y(x))epxsin(qx)=f(x)epxsin(qx)((y(x)epx)+q2y(x)epx)sin(qx)=f(x)epxsin(qx)((y(x)epx)sin(qx)qy(x)epxcos(qx))=f(x)epxsin(qx)(y(x)epx)sin(qx)qy(x)epxcos(qx)=qy(0)+0xf(t)eptsin(qt)dt.
よって,次の2式
(y(x)epx)cos(qx)sin(qx)+qy(x)epxsin2(qx)=(y(0)py(0)+0xf(t)eptcos(qt)dt)sin(qx)(y(x)epx)cos(qx)sin(qx)+qy(x)epxcos2(qx)=(qy(0)0xf(t)eptsin(qt)dt)cos(qx)
を辺々加えれば
qy(x)epx=(qy(0)0xf(t)eptsin(qt)dt)cos(qx)+(y(0)py(0)+0xf(t)eptcos(qt)dt)sin(qx)y(x)=(y(0)1q0xf(t)eptsin(qt)dt)epxcos(qx)+(y(0)py(0)q+1q0xf(t)eptcos(qt)dt)epxsin(qx)
を得る.

投稿日:2024611
更新日:2024118
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