2
大学数学基礎議論
文献あり

非整数階時間微分を含む拡散方程式の初期値境界値問題

234
0

Initial-boundary value problems for time-fractional diffusion equations with time-independent coefficients

はじめに

近年, 異常拡散などの非局所拡散現象を記述する非整数階時間微分を含む拡散方程式の研究が盛んに行われている. 非整数階時間微分を含む拡散方程式とは
(P)0cDtαu=Lu
である. ここで, u=u(x,t)は未知関数, Lは一様楕円型作用素であり, 0cDtαuα階Caputo微分と呼ばれ, α(0,1)と十分滑らかなuに対して,
0cDtαu:=0tgα(tτ)u(τ) dτ,   gα(t)=tαΓ(1α)
と定義される. 方程式(P)は, 作用素Lが空間変数にのみ依存する場合の解析は多く行われている. 実際, 有界領域における初期値境界値問題はLuchko4によって, Fourier級数を用いた解の表現が与えられている. また, 全空間における初期値問題は基本解の導出, 漸近挙動の解析がEidelman-Kochubei1によって与えられている. 一方, 作用素Lが時間変数にも依存する場合は, L2空間といったHilbert空間に属する解に対する評価しか行われておらず, 古典解の存在性などの基礎理論ですら構築されていない. その理由としては, 半群理論が適用できないことや, t=0での特異性のため, 常微分方程式の基礎理論が適用できないことが挙げられる.

上記の背景を基に, 今回は次の初期値境界値問題
(1){0cDtαu=Lu+fin  Ω×(0,T)=:QT,u=0on  Ω×[0,T]=:ΣT,u=u0on  Ω×{t=0}
を考える. ただし, L
Lu=i,j=1Ni(ai,j(x)ju)+j=1Nbj(x)ju+c(x)u,   i:=xi
であり, 任意のxΩに対して,
(2)λ|ξ|2i,j=1Nai,j(x)ξiξjμ|ξ|2
なるλ,μ>0が存在し, ai,j=aj,iをみたす. このとき, 任意のxΩに対して|ai,j|μである. また, b=(b1,,bN), AC[0,T][0,T]上で定義された絶対連続関数の空間とする. ai,j,b,cの正則性は後に与える. 以下の議論では, 3を基に行う(3ではLが時間変数にも依存している場合であるが, それについては次回述べる).

次に, 問題(1)の弱解の定義を次のように与える.

Weak solution

uが次の(i),(ii)をみたすとき, 問題(1)の弱解という.
(i)uW(u0,H01(Ω),L2(Ω):={uL2(0,T;H01(Ω));I1α[uu0]0H1(0,T;H1(Ω))},
(ii) 任意のφH01(Ω)に対して,
ddtΩI1α[u(x,)u0(x)](t)φ(x) dx+i,j=1NΩai,j(x)ju(x,t)iφ(x) dx(3)=j=1NΩbj(x)ju(x,t)φ(x) dx+Ωc(x)u(x,t)φ(x) dx+Ωf(x,t)φ(x) dx,  a.e.  t(0,T)
をみたす. ただし,
0H1(0,T)={fH1(0,T);f(0)=0}
である.

問題(1)に対して, 次の定理が得られる.

Exitence of weak solution and energy estimate

u0L2(Ω), fL2(0,T;H1(Ω)), 式(2)が成立し, b,cL(Ω)とする. このとき, 問題(1)の弱解u=u(x,t)が一意に存在する. さらに,
(4)I1α[uu0]H1(0,T;H1(Ω))+uL2(0,T;H01(Ω))+uHα2(0,T;L2(Ω))C(u0L2(Ω)+fL2(0,T;H1(Ω)))
が成立する. ここで, Cα,μ,λ,T,N,bL(Ω),cL(Ω)に依存する定数である. また, α(12,1)のとき, uC([0,T];H1(Ω))である.

Approximate solutions

本章では, 通常の放物型方程式に対するGalerkin methodと同様に, 式(1)の近似解を構成することを目的とする. {φn(x)}nN
{Δφn=λnφnin  Ω,φn=0on  Ω
をみたすL2(Ω)の正規直交基底, H01(Ω)の直交基底とし, 次の問題(1)の近似解
(5)un(x,t)=k=1ndn,k(t)φk(x)
を求める. すなわち, 係数dn,kを決定する. そのため, 次の初期値境界値問題
(6){0cDtαun=Lun+fnin  QT,un=0on  ΣT,un=un,0on  Ω×{t=0}
を考える. ただし,
un,0(x)=φk(x)(k=1nΩu0(y)φk(y) dy),
fn(x,t)=(η1/nf(x,))(t),  fnf  strongly in  L2(QT)  as  n
である. 係数dn,kは式(6){φ1,,φn}による有限次元空間への射影を考えることによって決定する. すなわち, 問題(6)1行目の方程式の両辺にφmをかけてΩ上で積分をすると, 左辺は
Ωφm(x)0cDtαun(x,t) dx=Ωφm(x)0cDtα(k=1ndn,k(t)φk(x)) dx=0cDtα(k=1ndn,k(t)Ωφm(x)φk(x) dx)=0cDtαdn,m(t)
となり, 右辺第1項は部分積分より,
i,j=1NΩφm(x)i(ai,j(x)jun(x,t)) dx=i,j=1NΩai,j(x)jφk(x)k=1ndn,k(t)iφm(x) dx=i,j=1Nk=1ndn,k(t)Ωai,j(x)jφk(x)iφm(x) dx
となるので,
0cDtαdn,m(t)=k=1ni,j=1Ndn,k(t)Ωai,j(x)jφk(x)iφm(x) dx+k=1nj=1Ndn,k(t)Ωbj(x)jφk(x)φm(x) dx+k=1ndn,k(t)Ωc(x)φk(x)φm(x) dx(7)+Ωfn(x,t)φm(x) dx
が得られる.
dn(t)=(dn,1(t),,dn,n(t)),
Am,kn=i,j=1NΩai,j(x)jϕk(x)iϕm(x) dx,  An(t)={Am,kn}k,m=1n,
Bm,kn=j=1NΩbj(x)jϕk(x)ϕm(x) dx,  Bn={Bm,kn}k,m=1n,
Cm,kn=Ωcn(x)ϕk(x)ϕm(x)dx,  Cn={Cm,kn}k,m=1n,
Fn(t)=(Ωfn(y,t)ϕ1(y) dy,,Ωfn(y,t)ϕn(y) dy),
dn,0=(Ωu0(y)ϕ1(y) dy,,Ωu0(y)ϕn(y) dy)
と定義すると, 式(6)は,
(8){0cDtαdn(t)=A~dn(t)+Fn(t),dn(0)=dn,0
と表される. ここで, A~=AnBnCnである. 以上の議論から次の補題が成立する.

任意のnNとに対して, 式(8)をみたすdnC1((0,T])C([0,T])が一意に存在する. さらに, t1αdnC[0,T]である.

方程式の両辺をLaplace変換すると, α階Caputo微分のLaplace変換は
L[0cDtαdn](s)=sαL[dn](s)dn,0sα1
となるので, L[dn]について整理すると
L[dn](s)=dn,0sα1sα+A~+L[Fn](s)1sα+A~
となる. これは
L[dn](s)=dn,0L[Eα,1(A~tα)](s)+L[Fn](s)L[tα1Eα,α(A~tα)](s)
を示唆している. したがって, 両辺をLaplace逆変換すると,
(9)dn(t)=dn,0Eα,1(A~tα)+0t(ts)α1Eα,α(A~(ts)α)Fn(s) ds
となる. これが方程式の解になることは直接代入して確かめればよい. また, 一意性に関しては https://mathlog.info/articles/r2II7keeJFnfPUFwwp5C よりしたがう. 式(9)の両辺を微分すると,
dn(t)=Atα1Eα,α(Atα)+0t(ts)α1Eα,α(A~(ts)α)(Fn)(s) ds+tα1Eα,α(A~tα)Fn(0)
となる. よって, 両辺にt1αをかければ右辺は[0,T]上で連続関数となる. 以上で補題の証明が得られた.

この補題より, 次がしたがう.

nNとする. このとき, 式(5)と式(8)で与えられるunは, m{1,,n}に対して
Ω0cDtαun(x,t)φm(x) dx+i,j=1NΩai,j(x)jun(x,t)iφm(x) dx(10)=j=1NΩbj(x)jun(x,t)φm(x) dx+Ωc(x)un(x,t)φm(x) dx+Ωfn(x,t)φm(x) dx
をみたす. さらに, xΩβNNに対して, Ωが十分滑らかなときxβun(x,)AC[0,T]かつt1αxβun(x,)C(QT)である.

Weak solutions

本章では, 問題(1)に対するEnergy評価を与える. そのため, 次の補題を証明する.

wL2(QT),
(11)w(x,)AC[0,T]  for  xΩ,
かつ
(12)t1αwtL(QT)
と仮定する. このとき, 等式
0cDtαw(t)L2(Ω)2+αΓ(1α)0tw(t)w(τ)L2(Ω)2(tτ)α+1 dτ(13)+gα(t)w(t)w(0)L2(Ω)2=2Ω0cDtαw(x,t)w(x,t) dx
が成り立つ.

形式的に計算する. Caputo微分の定義より,
2Ω0cDtαw(x,t)w(x,t) dx0cDtαw(t)L2(Ω)2=2Ωw(x,t)0tgα(ts)ws(x,s) dsdx20tgα(ts)Ωws(x,s)w(x,s)ds=20tgα(ts)Ωws(x,s)(w(x,t)w(x,s)) dxds=0tgα(ts)sΩ|w(x,t)w(x,s)|2 dxds=[gα(ts)Ω|w(x,t)w(x,s)|2 dx]s=0s=t+αΓ(1α)0t(ts)a1Ω|w(x,t)w(x,s)|2 dxds=gα(t)w(t)w(0)L2(Ω)2+αΓ(1α)0tw(x,t)w(x,s)L2(Ω)2(ts)a+1ds
となる. 最後の等式第1項ではwに対して平均値の定理を用いることで得られる.

補題3より近似解に対してEnergy評価を与えることができる.

Energy Estimate for approximate solution

u0L2(Ω), fL2(0,T;H1(Ω)), {ai,j}i,j=1Nが仮定(2)をみたし, b,cL(Ω)とする. このとき, 各t[0,T]nNに対して, 近似解un
I1αun(t)L2(Ω)2+αΓ(1α)0t0sun(s)un(τ)L2(Ω)2(sτ)α+1 dτds+0tgα(s)un(s)un,0L2(Ω)2 ds+λ0tun(s)L2(Ω)2 ds(14)C0(u0L2(Ω)2+0tfn(s)H12 ds)
をみたす. ここで, C0bL(Ω),cL(Ω),λ,α,Tに依存する定数である.

(10)の両辺にdn,mをかけてm=1からnまで和をとると,
Ω0cDtαun(x,t)un(x,t) dx+i,j=1NΩai,j(x)jun(x,t)iun(x,t) dx=j=1NΩbj(x)jun(x,t)un(x,t) dx+Ωcn(x)|un(x,t)|2 dx+Ωfn(x,t)un(x,t) dx
となる. 左辺は補題3と仮定(2), 右辺にはHolderの不等式とCauchyの不等式より
120cDtαun(t)L2(Ω)2+α2Γ(1α)0tun(t)un(s)L2(Ω)2(ts)α+1 ds+12gα(t)un(t)un,0L2(Ω)2+λun(t)L2(Ω)2bL(Ω)un(t)L2(Ω)un(t)L2(Ω)+cL(Ω)un(t)L2(Ω)2+fn(t)H1(Ω)(un(t)L2(Ω)2+un(t)L2(Ω)2)121λbL(Ω)2un(t)L2(Ω)2+λ4un(t)L2(Ω)2+cL(Ω)un(t)L2(Ω)2+1λfn(t)H1(Ω)2+λ4un(t)L2(Ω)2+λ4un(t)L2(Ω)2
と評価できる. よって, まとめると
0cDtαun(t)L2(Ω)2+αΓ(1α)0tun(t)un(s)L2(Ω)2(ts)α+1 ds+gα(t)un(t)un,0L2(Ω)2+λun(t)L2(Ω)2(15)Cun(t)L2(Ω)2+1λfn(t)H1(Ω)2
が得られる. ここで, CbL(Ω),cL(Ω),λに依存する定数である. 次にun(t)L2(Ω)2に対して評価を行う. 式(15)より
(16)0cDtαun(t)L2(Ω)2Cun(t)L2(Ω)2+1λf(t)H1(Ω)2
であるから, 式(16)の両辺をα階Riemann-Liouville積分すると, un(t)L2(Ω)2AC[0,T]であるので
un(t)L2(Ω)2u0L2(Ω)2+CIαun(t)L2(Ω)2+1λIαfn(t)H1(Ω)2
となる. したがって, Gronwallの不等式より
un(t)L2(Ω)2u0L2(Ω)2k=0tαkΓ(αk+1)+1λk=0CkIα(k+1)fn(t)H1(Ω)2
となる. この右辺の級数が絶対収束することを確かめる.
k=0tαkΓ(αk+1)=Eα,1(tα)<,
k=0CkIα(k+1)fn(t)H1(Ω)2=k=0Ck0t(ts)α(k+1)1Γ(α(k+1))fn(s)H1(Ω)2 dssups[0,t]fn(s)H1(Ω)2k=0Cktα(k+1)Γ(αk+α+1)=sups[0,t]fn(s)H1(Ω)2tαEα,α+1(Ctα)<
と評価できる. よって, 式(16)の両辺を0からtまで積分し, Riemann-Liouville積分の加法性I=I1αIαを用いると
I1αun(t)L2(Ω)2+αΓ(1α)0t0sun(s)un(τ)L2(Ω)2(sτ)α+1 dτds+0tgα(t)un(s)un,0L2(Ω)2 ds+λ0tun(s)L2(Ω)2 dst1αΓ(2α)u0L2(Ω)2+1λ0tfn(s)L2(Ω)2 ds+CIun(t)L2(Ω)2
となる. ここで, 先程の議論より
CIun(t)L2(Ω)2Cu0L2(Ω)2k=0tαk+1Γ(αk+2)+1λk=0Ck+1Iα(k+1)+1fn(t)H1(Ω)2=Cu0L2(Ω)2k=0tαk+1Γ(αk+2)+1λk=00tCk+1(ts)α(k+1)Γ(α(k+1)+1)fn(s)H1(Ω)2 dsCu0L2(Ω)2k=0tαk+1Γ(αk+2)+1λk=0Ck+1tα(k+1)Γ(α(k+1)+1)0tfn(s)H1(Ω)2 dsCu0L2(Ω)2tEα,2(tα)+CλtαEα,α+1(Ctα)0tfn(s)H1(Ω)2 ds
と評価できる. さらに,
supnsupt[0,T]tEα,2(tα)=supnTEα,2(Tα)=:D1,
supnsupt[0,T]tαEα,α+1(Ctα)=supnTαEα,α+1(CTα)=:D2
とする. ただし, D1,D2bL(Ω),cL(Ω),λ,Tに依存する定数である. 以上で式(14)が得られ, 補題の証明が完了した.

定理1の証明

補題3より
(17)unL2(0,T;L2(Ω))+unHα2(0,T;L2(Ω))C0
である. 次に0cDtαunに対する評価を与える. wH01(Ω)のとき, θmを定数としてw(x)=m=1θmφm(x)である. wn(x)=m=1nθmφm(x)と表し, 式(10)の両辺にθmをかけてm=1からnまで和をとると
Ω0cDtαun(x,t)wn(x) dx+i,j=1NΩai,j(x)jun(x,t)iwn(x) dx=j=1NΩbj(x)jun(x,t)wn(x) dx+Ωcn(x)un(x,t)wn(x) dx+Ωfn(x,t)wn(x) dx
となるので, Holderの不等式より
|Ω0cDtαun(x,t)wn(x) dx|μN2un(t)L2(Ω)wn(x)L2(Ω)+bL(Ω)un(t)L2(Ω)wnL2(Ω)(18)+cL(Ω)un(t)L2(Ω)wnL2(Ω)+fn(t)H1(Ω)wnH01(Ω)
と評価できる. un(x,)AC[0,T]より0cDtαun=ddtI1α[unun,0],
ddtI1α[unun,0](t)H1(Ω)=supwH01(Ω)=1|Ω0cDtαun(x,t)wn(x) dx|
である. よって, 式(18)の両辺はL2(0,T)の意味でnについて一様有界であるので
(19)supnddtI1α[unun,0]L2(0,T;H1(Ω))<
が得られる. したがって, {I1α[unun,0]}0H1(0,T;H1(Ω))の意味でnについて一様有界である. 式(17), 式(19)より, 弱コンパクト性定理を用いると
(20)unku  weakly in  L2(0,T;H01(Ω))  as  k,
(21)I1α[unkunk,0]v  weakly in  L2(0,T;H1(Ω))  as  k
となる部分列{unk}uL2(0,T;H01(Ω))Hα2(0,T;L2(Ω))v0H1(0,T;H1(Ω))が存在する. まず弱微分ddtI1α[uu0]L2(0,T;H1(Ω))の意味で存在することを示す. ϕC0(0,T),φH01(Ω)とすると,
0Tϕ(t)Ωddtv(x,t)φ(x) dxdt=limk0Tϕ(t)ΩddtI1α[unk(x,)unk,0(x)](t)φ(x) dxdt=limkΩφ(x)0Tϕ(t)ddtI1α[unk(x,)unk,0(x)](t) dtdx=limkΩφ(x)0Tϕ(t)I1α[unk(x,)unk,0(x)](t) dtdx=limk0Tϕ(t)ΩI1α[unk(x,)unk,0(x)](t)φ(x) dxdt=0Tϕ(t)ΩI1α[u(x,)u(x)](t)φ(x) dxdt
となる. よって,
ddtI1α[uu0]=ddtvL2(0,T;H1(Ω))  in the weak sense
が示され, 得られたuに対して式(4)が成立する. 次に, 得られたuが等式(3)をみたしていることを確かめる. 稠密性より, w(x)=m=1Kθmφmに対して成立することを示せば十分である. 式(10)の両辺にθmをかけてm=Kまで和をとる. このとき, t0(0,T)を固定し, mollifierηε(tt0)を両辺にかけて0からTまで積分すると,
0Tηε(tt0)ΩddtI1α[unk(x,)unk,0(x)](t)w(x) dxdt+i,j=1N0Tηε(tt0)Ωai,j(x)junk(x,t)iw(x) dxdt=j=1N0Tηε(tt0)Ωbj(x)junk(x,t)w(x) dxdt+0Tηε(tt0)Ωc(x)unk(x,t)w(x) dxdt+0Tηε(tt0)Ωfn(x,t)w(x) dxdt
となる. それぞれの項においてk,ε0の極限を考える. 左辺第1項は
0Tηε(tt0)ΩddtI1α[unk(x,)unk,0(x)](t)w(x) dxdt=0Tηε(tt0)ΩI1α[unk(x,)unk,0(x)](t)w(x) dxdtk0Tηε(tt0)ΩI1α[u(x,)u0(x)](t)w(x) dxdt=0Tηε(tt0)ΩddtI1α[u(x,)u0(x)](t)w(x) dxdtε0ΩddtI1α[u(x,)u0(x)](t0)w(x) dx  for a.e.  t0(0,T)
となる. 以下, 同様に計算にする. iw(x)ηε(tt0)QT上で滑らかなので,
0Tηε(tt0)Ωai,j(x)junk(x,t)iw(x) dxdtk0Tηε(tt0)Ωai,j(x)ju(x,t)iw(x) dxdtε0Ωai,j(x)ju(x,t0)iw(x) dx  for a.e.  t0(0,T)
となる. 右辺は各項,
0Tηε(tt0)Ωbj(x)junk(x,t)w(x) dxdtk, ε0Ωbj(x)ju(x,t0)w(x) dx  for a.e.  t0(0,T),
0Tηε(tt0)Ωc(x)unk(x,t)w(x) dxdtk, ε0Ωc(x)u(x,t0)w(x) dx  for a.e.  t0(0,T),
0Tηε(tt0)Ωfnk(x,t)w(x) dxdtk, ε0Ωf(x,t0)w(x) dx  for a.e.  t0(0,T)
が得られる. したがって, 得られたuが等式(3)をみたすことが確かめられた. 一意性は, u~=u1u2とおき, 初期値境界値問題
{0cDtαu~=Lu~in  QT,u~=0on  ΣT,u~0=0on  Ω×{t=0}
を考え, 同様の議論をすればu1=u2 a.e. が得られる. 最後に, uH1(Ω)連続性を示す.
unu  strongly in  L2(0,T;H01(Ω))  as  n,
I1α[unun,0]I1α[uu0]  strongly in  L2(0,T;H1(Ω))  as  n
なる滑らかな近似列{un}をとると, I1α[unun,0]AC[0,T]であるので
IαddtI1α[unun,0](t)=un(t)un,0
となる. よって, Holderの不等式より
un(t)un,0H1(Ω)=IαddtI1α[unun,0](t)H1(Ω)IαddtI1α[unun,0](t)H1(Ω)=1Γ(α)0t(ts)α1ddtI1α[unun,0](s)H1(Ω) ds1Γ(α)(0t(ts)2α2 ds)12ddtI1α[unun,0]L2(0,T;H1(Ω))=Cαtα12ddtI1α[unun,0]L2(0,T;H1(Ω))
と評価できる. よって,
unun,0C([0,T];H1(Ω))=maxt[0,T]un(t)un,0H1(Ω)Cα,TddtI1α[unun,0]L2(0,T;H1(Ω))
が得られる. これより,
(unun,0)(umum,0)C([0,T];H1(Ω))Cα,TddtI1α[unun,0]ddtI1α[umum,0]L2(0,T;H1(Ω))0  as  n,m
となるので, {unun,0}C([0,T];H1(Ω))上のCauchy列となる. 故に, u(0)はwell-definedになる. したがって, 先程の評価より
maxs[0,t]u(t)u0H1(Ω)Cαtα12ddtI1α[uu0]L2(0,T;H1(Ω))0  as  t0
となるので, u(0)=u0である. 以上で定理1の証明が完了した.

Regular solutions

本章では, 次の定理を証明することを目的とする.

u0H01(Ω), fL2(0,T;L2(Ω)), b,cL(Ω)とし, maxi,jai,jL(Ω)<と仮定する. このとき, I1α[uu0]0H1(0,T;L2(Ω))となる問題(1)の弱解uL2(0,T;H2(Ω))Hα2(0,T;H01(Ω))が一意に存在する. さらに,
(22)I1α[uu0]H1(0,T;L2(Ω)+uL2(0,T;H2(Ω))+uHα2(0,T;H01(Ω))C(u0H01(Ω)+fL2(0,T;L2(Ω)))
が成立する. ここで, Cα,μ,λ,T,N,bL(Ω),cL(Ω),maxi,jai,jL(Ω), ポアンカレ定数, ΩC2ノルムに依存する定数である. さらに, α(12,1)のとき, uC([0,T];L2(Ω))である.

定理5を示すため, 次の補題を証明する.

u0H01(Ω), fL2(0,T;L2(Ω)), b,cL(Ω)とし, maxi,jai,jL(Ω)<と仮定する. このとき, 各t[0,T]nNに対して, 近似解un
I1αun(t)L2(Ω)2+αΓ(1α)0t0sun(s)un(τ)L2(Ω)2(sτ)α+1 dτds+0tgα(s)un(s)un,0L2(Ω)2 ds+λ0tun(s)L2(Ω)2 ds(23)t1αΓ(2α)u0L2(Ω)2+4λ0tfn(s)L2(Ω)2 ds+C1(0tun(s)L2(Ω)2 ds+0tun(s)L2(Ω)2 ds)
をみたす. ここで, C1α,λ,bL(Ω),cL(Ω),maxi,jai,jL(Ω), ΩC2ノルムに依存する定数である.

(10)の両辺にλmdn,mをかけてm=1からnまで和をとると,
Ω0cDtαun(x,t)Δun(x,t) dxi,j=1NΩai,j(x)jun(x,t)iΔun(x,t) dx=j=1NΩbj(x)jun(x,t)Δun(x,t) dxΩcn(x)un(x,t)Δun(x,t) dxΩfn(x,t)Δun(x,t) dx
となる. 左辺第1項は, Δun=0, 0cDtαun=0 on Ωun(x,)AC[0,T]より
Ω0cDtαun(x,t)Δun(x,t) dx=Ω0cDtαun(x,t)un(x,t) dx=120cDtαun(t)L2(Ω)2+α2Γ(1α)0tun(t)un(s)L2(Ω)2(ts)α+1 ds+12gα(t)un(t)un,0L2(Ω)2
となる. 左辺第2項は, 3のProposition 9より
i,j=1NΩai,j(x)jun(x,t)iΔun(x,t) dx=i,j=1NΩi(ai,j(x)jun(x,t))Δun(x,t) dxλ42un(t)L2(Ω)2Cun(t)L2(Ω)2
という評価が得られる. ここで, Cmaxi,jai,jL(Ω)ΩC2ノルムに依存する定数である. 一方右辺は補題4と同様にして
j=1NΩbj(x)jun(x,t)Δun(x,t) dxΩcn(x)un(x,t)Δun(x,t) dxΩfn(x,t)Δun(x,t) dx2λbL(Ω)2un(t)L(Ω)2+2λcL(Ω)2un(t)L2(Ω)2+2λfn(t)L2(Ω)2+3λ162un(t)L2(Ω)2
と評価できるので, 以上をまとめると
0cDtαun(t)L2(Ω)2+αΓ(1α)0tun(t)un(s)L2(Ω)2(ts)α+1 ds+gα(t)un(t)un,0L2(Ω)2+λ82un(t)L2(Ω)24λfn(t)L2(Ω)2+C(un(t)L2(Ω)2+un(t)L2(Ω)2)
である. よって, 両辺を0からtまで積分すると, 式(23)が得られる.

定理5の証明

定理1と同様の議論をすることで
ddtI1α[uu0]L2(0,T;L2(Ω))C(u0H01(Ω)+fL2(0,T;L2(Ω)))
と評価できる. したがって, 弱コンパクト性定理より
unku  weakly in  L2(0,T;H2(Ω))  as  k,
I1α[unkunk,0]w  weakly in  H1(0,T;L2(Ω))  as  k
となる部分列{unk}uL2(0,T;H2(Ω))Hα2(0,T;H01(Ω))w0H1(0,T;L2(Ω))が存在する. 再度定理1と同様の議論をすることで得られたuが等式(3)をみたしていること, 一意性とL2連続性が示せる. 以上で定理の証明が完了した.

L-Boundness of L2(Ω)-solutions

本章では, 次の定理を証明する.

u0L2(Ω), fL(0,T;H1(Ω)), b,cL(Ω)とし, 式(2)が成立すると仮定する. このとき, 問題(1)の弱解
uL(0,T;L2(Ω))L2(0,T;H01(Ω))Hα2(0,T;L2(Ω))
が一意に存在し,
I1α[uu0]H1(0,T;H1(Ω))+uL(0,T;L2(Ω))+uL2(0,T;H01(Ω))+uHα2(0,T;L2(Ω))(24)C(u0L2(Ω)+fL(0,T;H1(Ω)))
が成立する.
さらに, u0H01(Ω), fL(0,T;L2(Ω))のとき, I1α[uu0]W1,(0,T;H1(Ω))となる弱解
uL(0,T;H01(Ω))L2(0,T;H2(Ω))Hα2(0,T;H01(Ω))
が一意に存在し,
I1α[uu0]W1,(0,T;H1(Ω))+uL(0,T;H01(Ω))+uL2(0,T;H2(Ω))+uHα2(0,T;H01(Ω))(25)C(u0H01(Ω)+fL(0,T;L2(Ω)))
が成立する.

まず式(24)を示す. 式(15)の両辺を0からtまでα階Riemann-Liouville積分すると,
un(t)L2(Ω)2+αΓ(α)Γ(1α)0t(ts)α10sun(s)un(τ)L2(Ω)2(sτ)α+1 dτds+1Γ(α)0t(ts)α1gα(s)un(s)un,0L2(Ω)2 ds+1Γ(α)0t(ts)α1un(s)L2(Ω)2 dsu0L2(Ω)2+CIαun(t)L2(Ω)2+1λIαfn(t)H1(Ω)2
となる. よって,
CIαun(t)L2(Ω)2u0L2(Ω)2k=0Ck+1Iα(tαkΓ(αk+1))+1λk=0Ck+1Iα(k+2)fn(t)H1(Ω)2u0L2(Ω)2k=0Ck+1tα(k+1)Γ(α(k+1)+2)+1λfn(t)L(0,t;H1(Ω))2k=0Ck+1tα(k+2)Γ(α(k+2)+1)=u0L2(Ω)2CtαEα,α+2(Ctα)+Cλfn(t)L(0,t;H1(Ω))2t2αEα,2α+1(Ctα)
と評価できるので,
supt[0,T]un(t)L2(Ω)2+αTα1Γ(α)Γ(1α)0t0sun(s)un(τ)L2(Ω)2(sτ)α+1 dτds+1Γ(α)0t(ts)α1gα(s)un(s)un,0L2(Ω)2 ds+Tα1Γ(α)0tun(s)L2(Ω)2 ds(26)C3(u0L2(Ω)2+fL(0,T;H1(Ω))2)
が得られる. よって, nkとすれば, uL(0,T;L2(Ω))L2(0,T;H01(Ω))Hα2(0,T;L2(Ω))が得られる.

次に, 式(25)を示す. 補題6の最後の不等式を0からtまでα階Riemann-Liouville積分すると,
un(t)H01(Ω)2+αTα1Γ(α)Γ(1α)0t0sun(s)un(τ)L2(Ω)2(sτ)α+1 dτds+1Γ(α)0t(ts)α1gα(s)un(t)un,0L2(Ω)2 ds+1α0t(ts)α12un(s)L2(Ω)2 dsC(u0L2(Ω)2+0t(ts)α1un(s)L2(Ω)2 ds+0t(ts)α1un(s)L2(Ω)2 ds+0t(ts)α1fn(s)L2(Ω)2 ds)
と評価でき, 右辺は式(26)より有界となる. したがって, nkとすればuL(0,T;H01(Ω))L2(0,T;H2(Ω))Hα2(0,T;H01(Ω))が得られる. 次に0cDtαunの評価を行う. 定理1と同様にすると,
|Ω0cDtαun(x,t)wn(x) dx|μN2un(t)L2(Ω)wn(x)L2(Ω)+bL(Ω)un(t)L2(Ω)wnL2(Ω)(27)+cL(Ω)un(t)L2(Ω)wnL2(Ω)+fn(t)L2(Ω)wnH01(Ω)
となる. この右辺は, L(0,T)の意味で一様有界である. よって,
ddtI1α[uu0]L(0,T;H1(Ω))C(u0H01(Ω)2+fL(0,T;L2(Ω)))
が得られる. 以上で定理の証明が完了した.

Improved regularity

u0H01(Ω)H2(Ω), fH1(0,T;L2(Ω)), b,cL(Ω)とし, 式(2), maxi,jai,jL(Ω)<が成立すると仮定する. このとき, I1α[uu0]W1,(0,T;L2(Ω))0H1(0,T;H01(Ω)), tα(uu0)Hα2(0,T;L2(Ω)), 0cDtα(tα(uu0))L2(0,T;H1(Ω))となる問題(1)の弱解uL(0,T;H2(Ω))が一意に存在する. さらに
I1α[uu0]W1,(0,T;L2(Ω))+0cDtαuL2(0,T;H01(Ω))+0cDtαuHα2(0,T;L2(Ω))+0cDtα(tα(uu0))L2(0,T;H1(Ω))+uL(0,T;H2(Ω))C(u0H2(Ω)+fH1(0,T;L2(Ω)))
が成立する. ここで, Cα,T,λ,μ,N,bL(Ω),bL(Ω)に依存する定数である. また, α(12,1)のときI1α[uu0]C1([0,T];H1(Ω))である.

0cDtαu=u~とする. 式(10)の両辺をα階Caputo微分し, 0cDtαdn,mをかけてm=1からnまで和をとると,
Ω0cDtαu~n(x,t)u~n(x,t) dx+i,j=1NΩai,j(x)iu~n(x,t)iun(x,t) dx=j=1NΩbj(x)ju~n(x,t)u~n(x,t) dx+Ωc(x)|u~n(x,t)|2 dx+Ωfn~(x,t)un~(x,t)
となるので, 補題3より
(28)0cDtαu~n(t)L2(Ω)2+αΓ(1α)0tu~n(t)u~n(s)L2(Ω)2(ts)α+1 ds+λu~n(t)L2(Ω)2Cu~n(t)L2(Ω)2+f~n(t)L2(Ω)2
となる.
ここで, Holderの不等式より,
0cDtαfn(t)L2(Ω)2(I1αfn(t)L2(Ω))2=(0tgα12(ts)gα12(ts)fn(t)L2(Ω) ds)2(0tgα(ts) ds)(0tgα(ts)fn(s)L2(Ω)2 ds)t1αΓ(2α)I1αfn(t)L2(Ω)2
と評価できる. よって,
0cDtαu~n(t)L2(Ω)2Cu~n(t)L2(Ω)2+t1αΓ(2α)I1αfn(t)L2(Ω)2
より両辺を0からtまでα階Riemann-Liouville積分すると, IαI1α=Iから
u~n(t)L2(Ω)2u~n(0)L2(Ω)+CIαu~n(t)L2(Ω)2+q(t)Ifn(t)L2(Ω)2
であるので, Gronwallの不等式より
u~n(t)L2(Ω)2u~n(0)L2(Ω)k=0CktαkΓ(αk+1)+q(t)k=0CkIαk+1fn(t)L2(Ω)2
が得られる. したがって, 式(28)の両辺を0からtまでα階Riemann-Liouville積分すると,
u~n(t)L2(Ω)2+αΓ(α)Γ(1α)0t(ts)α10su~n(s)u~n(τ)L2(Ω)2(sτ)α+1 ds+1Γ(α)0t(ts)α1u~n(s)L2(Ω)2u~0L2(Ω)2+CIαu~n(t)L2(Ω)2+q(t)Ifn(t)L2(Ω)2
となる.
u~n(0)L2(Ω)Cu0H2(Ω)
であり, 定理7と同様の議論をすれば, nkより
0cDtαuL(0,T;L2(Ω))L2(0,T;H01(Ω))Hα2(0,T;L2(Ω))
が得られる. 次にuL(0,T;H2(Ω))を示す.
(10)の両辺にλmdn,mをかけてm=1からnまで和をとり, Δun=0 on Ωより
ΩLun(x,t)Δun(x,t) dx=Ω0cDtαun(x,t)Δun(x,t) dxΩfn(x,t)Δun(x,t) dx
となる. よって, elliptic regularityより
un(t)H2(Ω)2ΩLun(x,t)Δun(x,t) dx+Cun(t)L2(Ω)2
となるので,
un(t)H2(Ω)2C(fn(t)L2(Ω)2+u~n(t)L2(Ω)2+un(t)L2(Ω))
が得られる. 右辺はL(0,T)の意味で有界であるので, nkとすればuL(0,T;H2(Ω))を得る. さらに, 式(10)の両辺をα階caputo微分し, θmをかけてm=1からnまで和をとると,
0cDtα0cDtαuL2(0,T;H1(Ω))
を得る. 以上で定理の証明が完了した.

参考文献

[1]
Eidelman, Samuil D and Kochubei, Anatoly N., Cauchy problem for fractional diffusion equations, J. Differential Equations, 2004
[2]
Evans, Lawrence C., Partial differential equations, Graduate Studies in Mathematics, American Mathematical Society, Providence, RI, 2010, xxii+749
[3]
Kubica, Adam and Yamamoto, Masahiro, Initial-boundary value problems for fractional diffusion equations with time-dependent coefficients, Fract. Calc. Appl. Anal., 2018
[4]
Luchko, Yury, Some uniqueness and existence results for the initial-boundary-value problems for the generalized time-fractional diffusion equation, Comput. Math. Appl., 2010
投稿日:2023829
更新日:2023112
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

カメ
カメ
7
1387
大学院では非線形拡散方程式(主にFast Diffusion, Porous Medium), 非整数階時間微分を含む拡散方程式を専攻していました. 現在は非整数階時間微分を含む拡散方程式の可解性の研究をしています.

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. Initial-boundary value problems for time-fractional diffusion equations with time-independent coefficients
  2. はじめに
  3. Approximate solutions
  4. Weak solutions
  5. Regular solutions
  6. $L^\infty$-Boundness of $L^2(\om)$-solutions
  7. Improved regularity
  8. 参考文献