Initial-boundary value problems for time-fractional diffusion equations with time-independent coefficients
はじめに
近年, 異常拡散などの非局所拡散現象を記述する非整数階時間微分を含む拡散方程式の研究が盛んに行われている. 非整数階時間微分を含む拡散方程式とは
である. ここで, は未知関数, は一様楕円型作用素であり, は階Caputo微分と呼ばれ, と十分滑らかなに対して,
と定義される. 方程式は, 作用素が空間変数にのみ依存する場合の解析は多く行われている. 実際, 有界領域における初期値境界値問題はLuchko4によって, Fourier級数を用いた解の表現が与えられている. また, 全空間における初期値問題は基本解の導出, 漸近挙動の解析がEidelman-Kochubei1によって与えられている. 一方, 作用素が時間変数にも依存する場合は, 空間といったHilbert空間に属する解に対する評価しか行われておらず, 古典解の存在性などの基礎理論ですら構築されていない. その理由としては, 半群理論が適用できないことや, での特異性のため, 常微分方程式の基礎理論が適用できないことが挙げられる.
上記の背景を基に, 今回は次の初期値境界値問題
を考える. ただし, は
であり, 任意のに対して,
なるが存在し, をみたす. このとき, 任意のに対してである. また, , を上で定義された絶対連続関数の空間とする. の正則性は後に与える. 以下の議論では, 3を基に行う(3ではが時間変数にも依存している場合であるが, それについては次回述べる).
次に, 問題の弱解の定義を次のように与える.
Weak solution
が次のをみたすとき, 問題の弱解という.
(i),
(ii) 任意のに対して,
をみたす. ただし,
である.
問題に対して, 次の定理が得られる.
Exitence of weak solution and energy estimate
, , 式が成立し, とする. このとき, 問題の弱解が一意に存在する. さらに,
が成立する. ここで, はに依存する定数である. また, のとき, である.
Approximate solutions
本章では, 通常の放物型方程式に対するGalerkin methodと同様に, 式の近似解を構成することを目的とする. を
をみたすの正規直交基底, の直交基底とし, 次の問題の近似解
を求める. すなわち, 係数を決定する. そのため, 次の初期値境界値問題
を考える. ただし,
である. 係数は式をによる有限次元空間への射影を考えることによって決定する. すなわち, 問題の行目の方程式の両辺にをかけて上で積分をすると, 左辺は
となり, 右辺第1項は部分積分より,
となるので,
が得られる.
と定義すると, 式は,
と表される. ここで, である. 以上の議論から次の補題が成立する.
任意のとに対して, 式をみたすが一意に存在する. さらに, である.
方程式の両辺をLaplace変換すると, 階Caputo微分のLaplace変換は
となるので, について整理すると
となる. これは
を示唆している. したがって, 両辺をLaplace逆変換すると,
となる. これが方程式の解になることは直接代入して確かめればよい. また, 一意性に関しては
https://mathlog.info/articles/r2II7keeJFnfPUFwwp5C
よりしたがう. 式の両辺を微分すると,
となる. よって, 両辺にをかければ右辺は上で連続関数となる. 以上で補題の証明が得られた.
この補題より, 次がしたがう.
とする. このとき, 式と式で与えられるは, に対して
をみたす. さらに, とに対して, が十分滑らかなときかつである.
Weak solutions
本章では, 問題に対するEnergy評価を与える. そのため, 次の補題を証明する.
形式的に計算する. Caputo微分の定義より,
となる. 最後の等式第1項ではに対して平均値の定理を用いることで得られる.
補題3より近似解に対してEnergy評価を与えることができる.
Energy Estimate for approximate solution
, , が仮定をみたし, とする. このとき, 各とに対して, 近似解は
をみたす. ここで, はに依存する定数である.
式の両辺にをかけてからまで和をとると,
となる. 左辺は補題3と仮定, 右辺にはHolderの不等式とCauchyの不等式より
と評価できる. よって, まとめると
が得られる. ここで, はに依存する定数である. 次にに対して評価を行う. 式より
であるから, 式の両辺を階Riemann-Liouville積分すると, であるので
となる. したがって, Gronwallの不等式より
となる. この右辺の級数が絶対収束することを確かめる.
と評価できる. よって, 式の両辺をからまで積分し, Riemann-Liouville積分の加法性を用いると
となる. ここで, 先程の議論より
と評価できる. さらに,
とする. ただし, はに依存する定数である. 以上で式が得られ, 補題の証明が完了した.
定理1の証明
補題3より
である. 次にに対する評価を与える. のとき, を定数としてである. と表し, 式の両辺にをかけてからまで和をとると
となるので, Holderの不等式より
と評価できる. より,
である. よって, 式の両辺はの意味でについて一様有界であるので
が得られる. したがって, はの意味でについて一様有界である. 式, 式より, 弱コンパクト性定理を用いると
となる部分列ととが存在する. まず弱微分がの意味で存在することを示す. ,とすると,
となる. よって,
が示され, 得られたに対して式が成立する. 次に, 得られたが等式をみたしていることを確かめる. 稠密性より, に対して成立することを示せば十分である. 式の両辺にをかけてまで和をとる. このとき, を固定し, mollifierを両辺にかけてからまで積分すると,
となる. それぞれの項においての極限を考える. 左辺第1項は
となる. 以下, 同様に計算にする. は上で滑らかなので,
となる. 右辺は各項,
が得られる. したがって, 得られたが等式をみたすことが確かめられた. 一意性は, とおき, 初期値境界値問題
を考え, 同様の議論をすれば a.e. が得られる. 最後に, の連続性を示す.
なる滑らかな近似列をとると, であるので
となる. よって, Holderの不等式より
と評価できる. よって,
が得られる. これより,
となるので, は上のCauchy列となる. 故に, はwell-definedになる. したがって, 先程の評価より
となるので, である. 以上で定理1の証明が完了した.
Regular solutions
本章では, 次の定理を証明することを目的とする.
, , とし, と仮定する. このとき, となる問題の弱解が一意に存在する. さらに,
が成立する. ここで, は, ポアンカレ定数, のノルムに依存する定数である. さらに, のとき, である.
定理5を示すため, 次の補題を証明する.
, , とし, と仮定する. このとき, 各とに対して, 近似解は
をみたす. ここで, は, のノルムに依存する定数である.
式の両辺にをかけてからまで和をとると,
となる. 左辺第1項は, , on とより
となる. 左辺第2項は, 3のProposition 9より
という評価が得られる. ここで, はとのノルムに依存する定数である. 一方右辺は補題4と同様にして
と評価できるので, 以上をまとめると
である. よって, 両辺をからまで積分すると, 式が得られる.
定理5の証明
定理1と同様の議論をすることで
と評価できる. したがって, 弱コンパクト性定理より
となる部分列ととが存在する. 再度定理1と同様の議論をすることで得られたが等式をみたしていること, 一意性と連続性が示せる. 以上で定理の証明が完了した.
-Boundness of -solutions
本章では, 次の定理を証明する.
, , とし, 式が成立すると仮定する. このとき, 問題の弱解
が一意に存在し,
が成立する.
さらに, , のとき, となる弱解
が一意に存在し,
が成立する.
まず式を示す. 式の両辺をからまで階Riemann-Liouville積分すると,
となる. よって,
と評価できるので,
が得られる. よって, とすれば, が得られる.
次に, 式を示す. 補題6の最後の不等式をからまで階Riemann-Liouville積分すると,
と評価でき, 右辺は式より有界となる. したがって, とすればが得られる. 次にの評価を行う. 定理1と同様にすると,
となる. この右辺は, の意味で一様有界である. よって,
が得られる. 以上で定理の証明が完了した.
Improved regularity
, , とし, 式, が成立すると仮定する. このとき, , , となる問題の弱解が一意に存在する. さらに
が成立する. ここで, はに依存する定数である. また, のときである.
とする. 式の両辺を階Caputo微分し, をかけてからまで和をとると,
となるので, 補題3より
となる.
ここで, Holderの不等式より,
と評価できる. よって,
より両辺をからまで階Riemann-Liouville積分すると, から
であるので, Gronwallの不等式より
が得られる. したがって, 式の両辺をからまで階Riemann-Liouville積分すると,
となる.
であり, 定理7と同様の議論をすれば, より
が得られる. 次にを示す.
の両辺にをかけてからまで和をとり, on より
となる. よって, elliptic regularityより
となるので,
が得られる. 右辺はの意味で有界であるので, とすればを得る. さらに, 式の両辺を階caputo微分し, をかけてからまで和をとると,
を得る. 以上で定理の証明が完了した.