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無限次元線型空間の次元を計算しよう〜理論編〜

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無限次元線型空間の次元を求めるのは有限次元の場合に比べると難しくなることが多いです. この記事では、線型空間の直積や双対空間、$\mathrm{Hom}$の次元を計算する方法を紹介します. 続編として別記事で実際にさまざまな具体的空間の次元を計算する予定です.

  • $K$を体(0以外の元が全て可逆な可換環であって、零環でないもの)とします.
  • "線型独立である"や"基底である"という述語が(元の列だけでなく)線型空間の部分集合に対しても定義されているとします.
  • 可算無限濃度$|\mathbb{N}|$$\aleph_0$で、連続体濃度$|\mathbb{R}|=2^{\aleph_0}$$\mathfrak{c}$で表すことにします.
  • $0\in\mathbb{N}$とします.
次元と濃度の関係

無限次元$K$-線型空間$V$に対し、$|V|=|K|\cdot\dim(V)$

$\dim(V)$$\kappa$とおく. $\aleph_0\le\kappa\le|V|$に注意する. $V=K^{\oplus \kappa}$として示せばよい. $P$$\kappa$の有限部分集合全体の集合とすると、$|P|=\kappa$$V=\bigcup_{s\in P}K^{\oplus s}$となる.

  • $\kappa\le|K|$のとき
    $K$は無限体. $|K|\le|V|$は明らかなので$|V|\le|K|$を示せばよい. $s\in P$に対し$|K^{\oplus s}|\le|K|$なので$|V|=|\bigcup_{s\in P}K^{\oplus s}|\le|P|\cdot|K|=\kappa\cdot|K|=|K|.$
  • $|K|\le\kappa$のとき
    $|V|\le\kappa$を示せばよい. $s\in P$に対し$|K^{\oplus s}|\le\kappa^{|s|}\le\kappa$なので$|V|=|\bigcup_{s\in P}K^{\oplus s}|\le|P|\cdot\kappa=\kappa.$

$K$-線型空間$V$に対し、$|V|$が無限で$|K|<|V|$なら$\dim(V)=|V|$

系から次の例が導かれます:

  • $\mathbb{R}, \mathbb{C}, \mathbb{Q}_p$$\mathbb{Q}$上の拡大次数は$\mathfrak{c}$.
直和空間の次元

$K$-線型空間$V_i:i\in I$に対し、$$\dim(\bigoplus_{i\in I}V_i)=\sum_{i\in I}\dim(V_i)$$

$i\in I$で基底$B_i\subseteq V_i$を選択するとこれらの非交和$\bigcup_{i\in I}B_i\subseteq\bigoplus_{i\in I}V_i$$\bigoplus_{i\in I}V_i$の基底となる.

直積空間の次元

$I$が無限集合であるとき、$K$-線型空間$V_i\neq0:i\in I$に対し、
$$\dim (\prod_{i\in I}V_i)=\prod_{i\in I}|V_i|=|\prod_{i\in I}V_i|$$

$\prod_{i\in I}V_i$$V$$\dim(V)$$\kappa$とおく. $|V|\le\kappa$を示せばよい. $V$は無限次元であり、$|K|\le|V|$なので系1より$|K|=|V|$としてよい. したがって$V$が濃度$|K|$の線型独立系$S$を持てばよいが、$V$$K^{\mathbb{N}}$と同型な部分空間を持つのでこれは$V=K^{\mathbb{N}}$として示せば十分.
$S=\{(a^n)_{n\in\mathbb{N}}:a\in K\}\subseteq K^{\mathbb{N}}$とするとこれは線型独立系. 実際、相異なる$a_1, \ldots, a_m\in K$に対し $(a_1^n)_{n< m},\ldots, (a_m^n)_{n< m}\in K^m$はvandermondの行列式より線型独立で、したがって$(a_1^n)_{n\in\mathbb{N}},\ldots, (a_m^n)_{n\in\mathbb{N}}\in K^m$も線型独立と分かる.

  • $K$上の形式的冪級数環$K[[x]]$$K$$|K|^{\aleph_0}$次元

この定理から無限次元な$V$の双対空間$V^*$の次元を求めることができます:

無限次元$K$-線型空間$V$に対し、$\dim(V^*)=|K|^{\dim(V)}$

$V^*\cong (K^{\oplus \dim(V)})^*\cong K^{\dim(V)}$だったので、これに定理を適用すればよい.

$\dim(V)<2^{\dim(V)}\le|K|^{\dim(V)}=\dim(V^*)$より、有限次元の場合と対照的に無限次元空間の双対空間は元の空間より必ず大きくなることがわかります. ではこれを一般化した「$K$-線型空間$V\neq0$に対し、$\kappa$が無限なら$\dim(V^{\oplus\kappa})<\dim(V^\kappa)$」は言えるでしょうか. これには次のような反例があります.

直積空間の次元は直和空間より真に大きいとは限らない

$$\dim((\mathbb{Q}^{\oplus\mathfrak{c}})^{\oplus\aleph_0})=\dim((\mathbb{Q}^{\oplus\mathfrak{c}})^{\aleph_0})=\mathfrak{c}.$$

次元に関しては直和空間と直積空間に差がないことがあるわけですが、次の意味で直積空間の方がとても大きいということができます.

同一の空間の直和の余次元

$K$-線型空間$V\neq0$と無限集合$I$に対し部分空間$V^{\oplus I}\subseteq V^I$の余次元は$\dim (V^I)=|V^I|$

$\kappa=\dim(V)$とおく. 定理2, 3より$\dim(V^{\oplus I})=|I|\cdot\kappa, \dim(V^I)=|V^I|>|I|$は常に成り立つ. $\dim(V^{\oplus I})+\mathrm{codim}(V^{\oplus I})=\dim(V^I)$なので$\dim(V^{\oplus I})=\dim(V^I)$の時を考えれば十分で、このとき$\kappa=|V^I|$となる.
濃度$\kappa$の線型独立系$S\subseteq V^I$であって、$\mathrm{Span}(S)\cap V^{\oplus I}=0$となるものがあればよい. $V$の基底$B\subseteq V$がとれ、濃度は$\kappa$. このとき$S=\{(x)_{i\in I}\in V^I: x\in B\}\subseteq V^I$が条件を満たす.

異なる空間の直和の場合は同じことはいえません:

直和空間の余次元が小さい例

$V_0=\mathbb{Q}^{\oplus2^\mathfrak{c}}, V_n=\mathbb{Q}:n>0$とすると$\mathrm{codim}(\bigoplus_{n\in \mathbb{N}}V_n)=\mathfrak{c}<2^\mathfrak{c}=\dim(\prod_{n\in \mathbb{N}}V_n)$

でも余次元が無限であることくらいはいえます:

直和空間の余次元

$I$が無限集合であるとき、$K$-線型空間$V_i\neq0:i\in I$に対し、$\bigoplus_{i\in I}V_i\subseteq \prod_{i\in I}V_i$の余次元は$2^{|I|}$以上.

$i\in I$に対し$1$次元部分空間$W_i\subseteq V_i$がとれる. $\bigoplus_{i\in I}W_i\subseteq\prod_{i\in I}W_i$の補空間$U$をとると定理3より$\dim(U)\ge2^{|I|}$で、$U\cap\bigoplus_{i\in I}V_i=0.$

テンソルの次元

$K$-線型空間$V_1, V_2$に対し、$$\dim(V_1\otimes V_2)=\dim(V_1)\cdot\dim(V_2)$$

基底$B_1\subseteq V_1$$B_2\subseteq V_2$をとると$x\otimes y:x\in B_1, y\in B_2$$V_1\otimes V_2$の基底となる. 証明は有限次元のときと同じなので省略する.

Homの次元

$K$-線型空間$V_1, V_2$に対し、

  • $V_1$が有限次元なら$\dim(\mathrm{Hom}(V_1, V_2))=\dim(V_1)\cdot\dim(V_2)$.
  • $V_1$が無限次元なら$\dim(\mathrm{Hom}(V_1, V_2))=(|K|\cdot\dim(V_2))^{\dim(V_1)}$

$\kappa=\dim(V_1), \lambda=\dim(V_2), \mu=\dim(\mathrm{Hom}(V_1, V_2))$とおく. このとき、直和空間の普遍性より$\mathrm{Hom}(V_1, V_2)\cong\mathrm{Hom}(K^{\oplus \kappa}, K^{\oplus \lambda})\cong(K^{\oplus\lambda})^\kappa$となる.

  • $\kappa$が有限なとき
    $(K^{\oplus\lambda})^\kappa=(K^{\oplus\lambda})^{\oplus\kappa}\cong K^{\oplus(\kappa\cdot\lambda)}$となり、この空間の次元は$\kappa\cdot\lambda$.
  • $\kappa$が無限なとき
    $\lambda\neq0$としてよい. 定理3より$\mu=\dim((K^{\oplus\lambda})^\kappa)=|K^{\oplus\lambda}|^\kappa$である. $\lambda$が有限なら$|K|^\kappa\le|K^{\oplus\lambda}|^\kappa\le|K^{\aleph_0}|^\kappa=|K|^\kappa$より$\mu=|K|^\kappa$となるがこれは($|K|$が有限か無限かによらず)$(|K|\cdot\lambda)^\kappa$と一致する. よって$\lambda$が無限なときを考えればよいが、このとき定理1より$\mu=|K^{\oplus\lambda}|^\kappa=(|K|\cdot \lambda)^\kappa$となる.
投稿日:11日前
更新日:12時間前
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praton
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