ここでは東大数理の修士課程の院試の2016B01の解答例を解説していきます(ただし解説の都合で少し問題を改変しています)。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。
群$G$は$\mathbb{Z}$と同型な正規部分群$N$を持ち、更に$G/N$は巡回群$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$と同型であるとする(ここで$n>1$である)。このとき$G$の群構造としてあり得るものを全て挙げなさい。
$N$の生成元を$x$、$G/N$の生成元の$G$への持ち上げのひとつを$a$とおく。このとき問題の条件から$G$はある整数$s,t$について表示$$G=\langle a,x|axa^{-1}=x^s, a^n=x^t\rangle$$を持つ群である(ただしこれに加えて$x$の位数は無限であるという条件がついている)。ここで$x^t=a^n=ax^ta^{-1}=x^{st}$であるから、$a,x$は$$x^{(s-1)t}=1$$を満たしている。ここで$x$の位数は有限ではないから、$s=1$または$t=0$のいずれかが満たされていなければならない。
まず後者が満たされている場合を考える。このとき$1+n\mathbb{Z}\mapsto a$で定義される単射群準同型$G/N\hookrightarrow G$が射影の切断になっていることから、群の同型$$G\simeq N\rtimes G/N$$が成り立っている。ここで左辺の群構造は群準同型$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}\simeq G/N\to \mathrm{Aut}(N)\simeq\{\pm1\}$がどのように定まっているかで決定される。もし$n$が奇数であれば、このような群準同型は自明なもの以外しかあり得ないので$G\simeq\mathbb{Z}\times \mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$である。一方$n$が偶数であれば生成元を$-1$に送るような準同型が構成できる。
次に前者が満たされている場合を考える。このとき$G$はアーべル群であり、$(\mathbb{Z}\times\mathbb{Z})/(n,-t)\mathbb{Z}$に同型である。ここで整数$k,\ell$を$-nk+\ell t=d:=\mathrm{gcd}(n,t)$となるようにとる。このとき群同型
$$
\begin{split}
\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}&\to \mathbb{Z}\times\mathbb{Z}\\
(\frac{n}{d},\frac{-t}{d})&\mapsto (0,1)\\
(-\ell,k)&\mapsto (1,0)
\end{split}
$$
を考えることで$G\simeq\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/d\mathbb{Z}$であることがわかる。そして実際$$G=\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/d\mathbb{Z}$$$$N=(\frac{n}{d},1+d\mathbb{Z})\mathbb{Z}$$
とすれば、これは所望の条件を満たしている。
以上の議論から$G$の同型類としてあり得るのは、$n$が奇数のときは$G=\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/d\mathbb{Z}$(ここで$d$は$n$の任意の約数)で尽くされていて、$n$が偶数のときは上記の$\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/d\mathbb{Z}$及び非自明な群準同型$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}\to\mathrm{Aut}(\mathbb{Z})=\{\pm1\}$から誘導される半直積$\mathbb{Z}\rtimes\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$で尽くされている。