今回は、Jordanの補題とCauchyの主値積分を扱い、いよいよ留数定理を使った問題が色々解けるようになっていきたいと思います。
まず解けるようになりたい問題はこちらです。
\begin{equation}
I=\int_{0}^{\infty}dx\frac{\sin{x}}{x}
\end{equation}
を求めよ
これを複素積分を使って解くために、実軸上を$-R$から$R$まで動き、複素平面の上半平面上を半径Rの半円に沿って$0$から$\pi$まで回って$-R$に戻ってくるような閉曲線の経路$C$を考え、実軸上の部分を$C_1$,半円の弧の部分を$C_2$にします。
三角関数は積分する際は指数関数に直した方が扱いやすいので、一旦$f(z)=\frac{e^{iz}}{z}$と置きましょう。すると、
\begin{equation}
\oint_Cdz\frac{e^{iz}}{z}=\int_{-R}^{R}dz\frac{e^{iz}}{z}+\int_{C_2}dz\frac{e^{iz}}{z}
\end{equation}
です。第一項目は、
\begin{equation}
\int_{-R}^{R}dz\frac{e^{iz}}{z}=2i\int_0^R\frac{\sin{z}}{z}
\end{equation}
となり、$R\to \infty$で$I$を求めるのに使えそうです。ということは、$C_2$の積分が邪魔ですね。
こんな時に使えるのがJordanの補題です。
$C_2$を中心0,半径Rの半円($0\leq \theta\leq\pi$)とする。$f(Re^{i\theta})$が$R\to \infty$で一様に$0$に収束し、かつ$a>0$なら
\begin{equation}
\lim_{R\to\infty}\int_{C_2}dze^{iaz}f(z)=0
\end{equation}
0に収束するやつがさらに指数関数で抑えられてたら、線積分しても0だよっていう話です。
\begin{equation}
\int_{C_2}dze^{iaz}f(z)=\int_0^{\pi}d\theta iRe^{i\theta}e^{iaRe^{i\theta}}f(Re^{i\theta})
\end{equation}
\begin{equation}
|iRe^{i\theta}e^{iaRe^{i\theta}}f(Re^{i\theta})|=Re^{-aR\sin{\theta}}|f(Re^{i\theta})|
\end{equation}
なので、
\begin{equation}
\int_{C_2}dze^{iaz}f(z)\leq \int_0^{\pi}d\theta Re^{-aR\sin{\theta}}|f(Re^{i\theta})|
\end{equation}
ここで、一様収束性より、任意の$\varepsilon>0$について$R_0$が存在し、$R>R_0$なら$|f(Re^{i\theta})|<\varepsilon$なので、
\begin{equation}
\int_{C_2}dze^{iaz}f(z)\leq \int_0^{\pi}d\theta Re^{-aR\sin{\theta}}\varepsilon=2\int_0^{\frac{\pi}{2}}d\theta Re^{-aR\sin{\theta}}\varepsilon
\end{equation}
$0\leq\theta\leq\frac{\pi}{2}$で$\sin{\theta}>\frac{2}{\pi}\theta$なので、
\begin{equation}
\int_{C_2}dze^{iaz}f(z)\leq 2\int_0^{\frac{\pi}{2}}d\theta Re^{-\frac{2aR}{\pi}\theta}\varepsilon\leq\frac{\pi\varepsilon}{a}
\end{equation}
よって、$R\to\infty$で$\int_{C_2}dze^{iaz}f(z)\to 0$が示せた。
問題1で登場した式にもこの補題が適用できます。
$\frac{1}{z}$は$R\to\infty$で0に一様収束するので、$R\to\infty$で$\int_{C_2}dz\frac{e^{iz}}{z}\to0$です。
つまり、
\begin{equation}
\lim_{R\to\infty}\oint_Cdz\frac{e^{iz}}{z}=2iI
\end{equation}
となります。
それでは、この式の左辺はどう計算すれば良いでしょうか?
留数定理を使いたいところですが、$ \frac{e^{iz}}{z}$の特異点は$z=0$ですが、これは経路上にバッチリ乗ってしまっています。こんな時に便利なのが、Cauchyの主値積分です。
前回紹介した留数定理によれば、特異点が全て閉曲線内にある時は
\begin{equation}
\oint_Cdzf(z)=2\pi i\sum_{j:C内の特異点}Res(f,z_j)
\end{equation}
でした。経路上の点まで考えたい時は、
\begin{equation} P.V.\oint_Cdzf(z)=\pi i\sum_{j:C上の特異点}Res(f,z_j)+2\pi i\sum_{j:C内の特異点}Res(f,z_j) \end{equation}
のようにして、中にある時の半分だけカウントします。左辺は、Cauchyの主値積分をしましたよ、という意味の記号です。
今回の場合、0での留数は$1$なので、$2iI=\pi i$になり、$I=\frac{\pi}{2}$がもとまります。
ここまで読んでくださりありがとうございました。今回までで、院試で聞かれるような問題はあらかた解けるようになっているはずなので、次回以降は東大の院試を例題にしていくつか問題解説などを投稿しようと思います。