初投稿です!普段は確率論の周辺を専攻していますが、今回は個人的に好きな複素解析の話をします!
本記事では、リーマン球面と呼ばれる拡張された複素平面を導入し、有理関数をリーマン球面上のリーマン球面値の正則関数とみなすことが出来ることを示します。その後、なぜわざわざそのような拡張を考える必要があるのかについて、いくつかの簡単な応用例を挙げながら述べていきたいと思います。
この記事は、大きく分けて次の三つからなることに注意してください。
複素平面$\mathbb{C}$の1点コンパクト化空間を、$\widehat{\mathbb{C}}=\mathbb{C}$$\cup$$\lbrace \infty \rbrace$とし、リーマン球面(拡張された複素平面)と呼ぶ。$\infty$は、無限遠点と呼ぶ。
$\mathbb{C}$は局所コンパクトハウスドルフ空間なので、その1点コンパクト化が存在します。1点コンパクト化については、集合位相の本を見て下さい。1点コンパクト化の性質より、リーマン球面の位相空間としての構造は次のようになります。
さて、このままだと$\widehat{\mathbb{C}}$の位相は少し抽象的で分かりづらいですが、実は次の立体射影を用いることで、距離化する事が出来ます。
$S^{2}=\lbrace (x_{1},x_{2},x_{3})\in{\mathbb{R}^{3}}|x_{1}^{2}+x_{2}^{2}+x_{3}^{2}=1 \rbrace$を2次元球面とする。北極点を$N=(0,0,1)$とおく。写像
$Z:S^{2}\setminus{\lbrace N \rbrace}\rightarrow\lbrace (X,Y,0)\in{\mathbb{R}^{3}} \rbrace\cong \mathbb{C}=\lbrace X+Yi|X,Y\in{\mathbb{R}}\rbrace$を、$p=(x_1,x_2,x_3)\in{S^{2}\setminus{\lbrace N \rbrace}}$に対し、$Z(p)=(\frac{x_1}{1-x_3},\frac{x_2}{1-x_3},0)$と定める。これを立体射影と呼ぶ。$z=X+iY$により、$(X,Y)$-平面$\lbrace (X,Y,0)\in{\mathbb{R}^{3}} \rbrace$を、$\mathbb{C}$と同一視すれば、$Z(p)=\frac{x_1+ix_2}{1-x_3}$と書ける。このとき、$Z:S^{2}\setminus{\lbrace N \rbrace}\rightarrow\mathbb{C}$は同相写像である。逆写像$Z^{-1}:\mathbb{C}\rightarrow{S}^{2}\setminus{\lbrace N \rbrace}$は、$z\in\mathbb{C}$に対し、$Z^{-1}(z)=(\frac{z+\bar{z}}{\left| z \right|^2+1},\frac{-i(z-\bar{z})}{\left| z \right|^2+1},\frac{\left| z \right|^2-1}{\left| z \right|^2+1})$で定義される。
立体射影は次のように計算出来る。
$P(x_1,x_2,x_3),Q(X,Y,0)$とおくと、点$Q$は球面上の点$P$の$(X,Y)$-平面への射影なので、$\overrightarrow{NP}/\!/\overrightarrow{NQ}$である。
よって、ある実数$\lambda\neq0$が存在し、$(x_1,x_2,x_3-1)=\lambda(X,Y,-1)$となる。これを計算して、$Z,Z^{-1}$の定義を得る。(check!)これらの写像の連続性は、各成分の連続性から従う。よって、$Z$は同相写像である。
次に、この立体射影の$S^2$全体への連続拡張を考えます。
立体射影$Z$に対し、写像
$\widehat{Z}:S^2\rightarrow{\widehat{\mathbb{C}}}$を、$S^2\setminus{\lbrace N \rbrace}$では$Z$とし、$\widehat{Z}(N)=\infty$と定めると、これは同相写像である。
定義より、$\widehat{Z}$は全単射である。次に、連続写像であることを示す。$U$を$\widehat{\mathbb{C}}$内の開集合とする。$U$が$\mathbb{C}$内の開集合なら、$Z$の連続性より、$\widehat{Z}^{-1}(U)=Z^{-1}(U)$は$S^2\setminus{\lbrace N \rbrace}$の開集合である。$S^2\setminus{\lbrace N \rbrace}$は$S^2$の開部分空間なので、$\widehat{Z}^{-1}(U)$は$S^2$の開集合でもある。
次に、$\infty\in{U}$が、$\mathbb{C}$内のあるコンパクト集合$K\subset{\mathbb{C}}$の補集合であるとする。$S^2\setminus{\widehat{Z}^{-1}(U)}=Z^{-1}(K)$であり、これはコンパクト集合の連続写像$Z^{-1}$による像なのでコンパクトである。よって、これは$S^2$の閉集合であるから、このときも$\widehat{Z}^{-1}(U)$は$S^2$の開集合である。したがって、$Z$は連続である。また、$Z$はコンパクト空間$S^2$からハウスドルフ空間$\widehat{\mathbb{C}}$への連続写像なので、閉写像である。以上より、$\widehat{Z}$は同相写像である。
同相写像$\widehat{Z}$と、次の補題により、リーマン球面は距離化可能であることが分かります。
距離空間$(X,d)$から位相空間$Y$への同相写像を$f:X\rightarrow{Y}$とする。任意の$y,y'\in{Y}$に対し、$d'(y,y')=d(f^{-1}(y),f^{-1}(y'))$と定めると、これは$Y$上の距離であり、$d'$が定める位相は$Y$の位相と一致する。すなわち、$Y$は距離化可能である。
証明は簡単なので省略する。(check!)
リーマン球面は、同相写像$\widehat{Z}$が誘導する$S^2$上の距離により、コンパクト距離空間である。その距離を$d$とすれば、
まず$z,w\in{\mathbb{C}}$に対しては、$d(z,w)=\frac{2|z-w|}{\sqrt{(|z|^2+1)(|w|^2+1)}}$となる。
$z\in{\mathbb{C}},w=\infty$のときは、$d(z,\infty)=\frac{2}{\sqrt{|z|^2+1}}$となる。
また、$S^2$はユークリッド空間なる第二可算空間の部分空間なので、第二可算空間である。したがって、$\riemann$は第二可算空間でもある。
補題3より、$d(z,w)=\parallel\widehat{Z}^{-1}(z)-\widehat{Z}^{-1}(w)\parallel$なので、あとは命題1の$\widehat{Z}^{-1}$の定義に沿って、少し大変だが計算するだけである。$\widehat{Z}^{-1}(\infty)=(0,0,1)$に注意。詳細は省略する。(check!)
極は定義より、孤立特異点がなす集合の孤立点となります。よって、$\riemann$上の関数の極の個数は高々可算であることが、$\riemann$の第二可算性から分かります。(check! 極の集合から$\riemann$の可算開基への単射を構成できる)
$\mathbb{C}$に対し、その通常のユークリッド位相と、$\riemann$からの相対位相は一致する。したがって、$z,w\in{\mathbb{C}}$に対し、$d_1(z,w)=|z-w|$と、$d_2(z,w)=\frac{2|z-w|}{\sqrt{(|z|^2+1)(|w|^2+1)}}$は、同値な距離である。
簡単なので大体は省略するが、次のことだけ示しておく。
$U\subset{\riemann}$を、$\infty\in{U},\riemann\setminus{U}\subset{\mathbb{C}}$がコンパクトなる開集合とする。$\mathbb{C}\setminus(U\cap{\mathbb{C}})=\mathbb{C}\setminus(U\setminus\lbrace \infty \rbrace)=\riemann\setminus{U}\subset{\mathbb{C}}$はコンパクトなので、$\mathbb{C}$内の閉集合である。よって、$U\cap\mathbb{C}\subset\mathbb{C}$は$\mathbb{C}$内の開集合である。
以下、$\riemann$の$S^2$上の距離を$d$と表します。$\riemann$上の関数の連続性を考えるとき、実際に$S^2$上の距離を使って議論するのは面倒です。実用的には、次の補題が有用です。
$n\in{\mathbb{N}},z_n\in{\mathbb{C}}$とする。このとき、$$z_n\rightarrow{\infty}\in{\riemann}\Longleftrightarrow{|z_n|\rightarrow{+\infty}}$$が成り立つ。
$z_n\rightarrow{\infty}\in{\riemann}\Longleftrightarrow{d(z_n,\infty)=\frac{2}{\sqrt{|z_n|^2+1}}\rightarrow{0}}\Longleftrightarrow{|z_n|\rightarrow{+\infty}}$
以下、$P(z),Q(z)$を多項式関数とし、有理関数$R(z)=\frac{Q(z)}{P(z)}$の連続性を考えましょう。$Q(z)$の零点の集合を$S\subset{\mathbb{C}}$とすると、$S$は$R(z)$の極からなる有限集合です。よって、各点$w\in{\mathbb{C}\setminus{S}}$に対し、$w$の十分小さな近傍上で、$P(z)\neq0$となるので、$R(z)$は点$w$(の十分小さな近傍)で連続です。このように、写像の連続性は局所的な性質であること、すなわち、各点の近傍で決まる性質であることに注意しましょう。
以上より、後は極の点と無限遠点での連続性が問題となり、実際に次が従います。
有理関数$R(z)=\frac{Q(z)}{P(z)}$の任意の極$\beta\in{\mathbb{C}}$に対し、$R(\beta)=\infty\in{\riemann}$と定めれば、$R(z)$は$\complex$上の$\riemann$値連続関数となる。
さらに、極限$\lim_{z\to\infty}R(z)$が$\riemann$内に存在する。
したがって、この値を$R(\infty)\in{\riemann}$とおけば、$R(z)$は写像$\riemann\rightarrow\riemann$として連続となる。
まず、極での連続性を示す。
極$\beta$の$\beta$を除く十分小さな近傍上に$R(z)$を制限してよい。したがって、極の集合を$S$とおくと、任意の$z_n\in{\complex\setminus{S}},z_n\rightarrow\beta$に対し、$R(z_n)(\in{\complex})\rightarrow\infty$を示せばよい。$z_n\rightarrow\beta$のとき、$|R(z_n)|\rightarrow+\infty$であることは明らか(check!)だから、補題6よりこれは成り立つ。
次に、極限$\lim_{z\to\infty}R(z)$が$\riemann$内に存在することを示す。任意の$z_n\in{\complex\setminus{S}},z_n\rightarrow\infty$に対し、$R(z_n)(\in{\complex})$が$\riemann$内で極限を持つことを言えばよい。まず、補題6より$|z_n|\rightarrow+\infty$である。$P(z),Q(z)$の次数をそれぞれ$m,n$とすれば、$R(z)\sim{z^{n-m}}(|z|\rightarrow +\infty)$である(check!)。
これより、$n\gt{m}$のとき、$|R(z_n)|\rightarrow+\infty$なので、$R(z_n)\rightarrow\infty$である。$n=m$のとき、$R(z_n)$は$\complex\setminus\lbrace {0} \rbrace$の元に収束する。$n\lt{m}$のとき、$|R(z_n)|\rightarrow{0}$である。よって、いずれの場合も$\riemann$内に収束する。
次に、有理関数が定める連続関数$R(z):\riemann\rightarrow\riemann$が正則関数となることを示します。定義域や値域が$\riemann$なので、このままでは複素微分を定義できないですが、連続性と同様に、関数の微分は局所的な性質です。そこで、$\riemann$が局所的に複素平面と同一視できればよく、これはよく知られているように$\riemann$を多様体として考えるということになります。
組$(M,\lbrace {(U_\alpha,\phi_\alpha,V_\alpha)} \rbrace_{\alpha\in{A}})$がリーマン面であるとは、次の条件1~3を満たすことをいう:
$(U_\alpha,\phi_\alpha,V_\alpha)$をチャート、$\lbrace {(U_\alpha,\phi_\alpha,V_\alpha)} \rbrace_{\alpha\in{A}}$をアトラスと呼ぶ。$\phi_\beta\circ\phi_\alpha^{-1}$は座標変換と呼ぶ。
次に、リーマン面からリーマン面への正則写像を定義します。
$M=(M,\lbrace {(U_\alpha,\phi_\alpha,V_\alpha)} \rbrace_{\alpha\in{A}}),M'=(M',\lbrace {(U'_\beta,\phi'_\beta,V'_\beta)} \rbrace_{\beta\in{B}})$をそれぞれリーマン面とする。写像$f:M\rightarrow M'$が正則写像であるとは、次の条件1,2を満たすことをいう:
$U\subset{\complex}$を開集合とする。これをリーマン面とみなして$f:U\rightarrow \complex$が正則写像であることと、通常の意味で$f$が正則関数であることは同値である。
正則写像の条件2をそのままの形でcheckするのは、実は遠回りなことがあります。実は次のように、正則写像であることは局所的な主張で言い換えられます。この証明で、リーマン面の定義における座標変換の正則性が使われることがポイントで、座標変換の正則性が重要となる理由になっています。
$M=(M,\lbrace {(U_\alpha,\phi_\alpha,V_\alpha)} \rbrace_{\alpha\in{A}}),M'=(M',\lbrace {(U'_\beta,\phi'_\beta,V'_\beta)} \rbrace_{\beta\in{B}})$をリーマン面とする。連続写像$f:M\rightarrow M'$に対し、次の条件は互いに同値である。
(1) $f:M\rightarrow M'$は正則写像である。
(2) 任意の$p\in{M}$に対し、ある$\alpha\in{A},\beta\in{B}$が存在し、$p\in{U_\alpha},f(p)\in{U_\beta'}$かつ$\phi_\beta' \circ f \circ \phi_\alpha^{-1}:\phi_\alpha(U_\alpha\cap f^{-1}(U_\beta'))\rightarrow V_\beta'$は$\phi_\alpha(p)$の近傍で、通常の意味で正則関数である。
(1)から(2)は明らかであるから、(2)から(1)を示す。
$\mu\in{A},\nu\in{B}$とする。$\phi_\nu' \circ f \circ \phi_\mu^{-1}:\phi_\mu(U_\mu\cap f^{-1}(U_\nu'))\rightarrow V_\nu'$が正則関数であることを示す。関数の正則性は局所的な性質である。すなわち、任意の$z\in{U_\mu\cap f^{-1}(U_\nu')}$に対し、$\phi_\mu(z)$のある近傍上で$\phi_\nu' \circ f \circ \phi_\mu^{-1}$が正則関数であることを示せばよい。そこで、$z$に条件(2)を適用すると、ある$\alpha\in{A},\beta\in{B}$が存在し、$z\in{U_\alpha},f(z)\in{U_\beta'}$かつ$\phi_\beta' \circ f \circ \phi_\alpha^{-1}:\phi_\alpha(U_\alpha\cap f^{-1}(U_\beta'))\rightarrow V_\beta'$は$\phi_\alpha(z)$のある近傍$O$で正則である。ここで、$\phi_\mu(z)$の十分小さな近傍$O'$が存在して、$O'$上で$\phi_\nu' \circ f \circ \phi_\mu^{-1}=(\phi_\nu' \circ \phi_\beta'^{-1})\circ (\phi_\beta' \circ f \circ \phi_\alpha^{-1})|_O \circ (\phi_\alpha\circ\phi_\mu^{-1})$なる合成写像で表せる。$M,M'$はリーマン面より、座標変換$\phi_\nu' \circ \phi_\beta'^{-1},\phi_\alpha \circ \phi_\mu^{-1}$はそれぞれ正則関数である。よって、$\phi_\nu' \circ f \circ \phi_\mu^{-1}$は$O'$上で正則関数の合成なので正則である。
この補題により、リーマン球面上の正則写像は次で定められます。まず、$\riemann$値正則関数を定めます。
(1)$U\subset\complex$を開集合とする。$U$上の$\riemann$値連続関数$f:U\rightarrow\riemann$が正則関数であるとは、各点$p\in U$に対し、
(2)$U\subset\riemann$を開集合とする。連続関数$f:U\rightarrow\riemann$が正則関数であるとは、各点$p\in{U}$に対し、
補題8による(check!)。
拡張された有理関数$R(z):\riemann\rightarrow\riemann$は、正則関数である。
定理7より、$R(z)$は連続関数である。$p\in{\riemann}$とする。$p$が極でも$\infty$でもないとき、$p$の近傍で$R(z)$は通常の有理関数として正則である。$p\neq\infty$が極であるとき、$R(z)$の連続性より、$p$の$\complex$内の十分小さな近傍が存在し、$R(z)\neq{0}$かつ$1/R(z)$は通常の有理関数となるので正則である。$p=\infty$であるときを考える。$R(\infty)\neq\infty$ならば、$R(z)$の連続性より、$0$の十分小さな近傍が存在し、$R(1/z)\neq\infty$かつ$R(1/z)$は通常の有理関数となるので正則である。$R(\infty)=\infty$ならば、同じく$R(z)$の連続性より、$0$の十分小さな近傍で、$R(1/z)\neq{0}$かつ$1/R(1/z)$は通常の有理関数となるので正則である。以上より、有理関数は$\riemann$上の$\riemann$値正則関数である。
ここからは、有理関数をリーマン球面上の$\riemann$値正則関数に拡張して考えると、どのようなメリットや面白い性質が見えてくるかを紹介します。
有理関数$R(z):\riemann\rightarrow\riemann$とする。$p\in\riemann$に対し、$R(p)=0$のとき零点、$R(p)=\infty\in\riemann$のとき極という。$p=\infty$が零点または極であるとき、$R(1/z)$の$z=0$での零点または極の位数を、$p=\infty$の零点または極の位数と定める。
さて、$R(z)$は単に$\complex$内の関数として考えると、その零点の位数の総和と極の位数の総和は一般に一致しません。しかし、$\riemann$に拡張すれば、これらは一致します!このことは、有理関数をリーマン球面上で考えることが自然であることを表す一つの例となっています。
$P(z)=a_mz^m+\cdots a_1z+a_0,Q(z)=b_nz^n+\cdots b_1z+b_0(a_m\neq{0},b_n\neq{0})$とし、$R(z)=\frac{Q(z)}{P(z)}$とする。このとき、$R(z):\riemann\rightarrow\riemann$の零点の位数の総和と、極の位数の総和は一致し、$\max{\lbrace m,n \rbrace}$となる。そこで、$\max{\lbrace m,n \rbrace}$を、有理関数$R(z)$の位数と呼ぶ。
$R(z)$の$p=\infty$での零点または極の位数を考える。
$R(1/z)=\frac{b_n(1/z)^n+\cdots b_1(1/z)+b_0}{a_m(1/z)^m+\cdots a_1(1/z)+a_0}=z^{m-n}\frac{b_0z^n+b_1z^{n-1}+\cdots b_n}{a_0z^m+a_1z^{m-1}+\cdots a_m}$であるから、$a_m\neq{0},b_n\neq{0}$に注意すると、$R(z)$の$\infty$での位数は、$m\gt{n}$ならば$m-n$位の零点であり、$m\lt{n}$ならば$n-m$位の極である。
よって、$R(z)$の零点の位数の総和は、$n+\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
m-n \space\space(m\gt{n}) \\
0 \quad\quad\space\space\space(m\leq{n})
\end{array}
\right.
\end{eqnarray} =\max {\lbrace m,n \rbrace}$となる。
同様に、極の位数の総和も、$m+\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
0 \quad\quad\space\space\space(m\geq{n}) \\
n-m \space\space(m\lt{n})
\end{array}
\right.
\end{eqnarray} =\max {\lbrace m,n \rbrace}$となる。
有理関数で表される方程式の根の個数は、重複度を込めるとその位数に一致します。
有理関数$R(z):\riemann\rightarrow\riemann$の位数を$m$とする。任意の$a\in{\riemann}$に対し、方程式$R(z)=a$は、$\riemann$上に重複度を込めて$m$個の根を持つ。ここで、$R(z)=a$のある根$w$の重複度とは、有理関数$R(z)-a$の零点$w$の位数と定める。
したがって、有理関数$R(z):\riemann\rightarrow\riemann$は重複度を込めてm対1写像である。
有理関数$R(z):\riemann\rightarrow\riemann$の位数が1ならば、$R(z)$は全単射である。位数1の有理関数は、$R(z)=\frac{az+b}{cz+d},\space ad-bc\neq{0}$と表せる。
前半は定理12から明らか。有理関数の位数は、分母分子の次数のうち大きい方となるので、後半も従う。ただし、定数関数は位数$0$なので、$R(z)$が約分されて定数にならない条件が必要である。そのためには、$a:b\neq c:d\Longleftrightarrow ad-bc\neq 0$であればよい。
これより、メビウス変換を定義します。
$f:\riemann\rightarrow\riemann$を、$f(z)=\frac{az+b}{cz+d},\space ad-bc\neq{0}$と定める。これを、メビウス変換(あるいは一次変換)と呼ぶ。メビウス変換は全単射写像なので、メビウス変換全体は、写像の合成を積とする群を成す。これを$\rm{Aut}(\riemann)$と表し、メビウス群と呼ぶ。
メビウス変換は、数学的に非常に面白い対象です。長くなってしまうので、ここでは定義のみで終わりにしますが、興味がある人はぜひ調べてみることをお勧めします。(この記事の続編をもし書くことがあれば、メビウス変換の話も扱うかも?)
次なる応用として、有理型関数を紹介しましょう。ちなみに呼び方は、「ゆうりがた」でも「ゆうりけい」でも良いようです(多分)。
まず、位相空間で出てくる概念の復習をします。
$M$を距離空間、$D\subset{M}$を開集合、$S\subset{D}$をその部分集合とする。
$M$を距離空間、$D\subset{M}$を開集合、$S\subset{D}$をその部分集合とする。このとき、$S$の$D$における閉包を${\rm{Cl}}_D(S)$と表すと、${\rm{Cl}}_D(S)=\lbrace z\in{D}|z$は$D$内の$S$の集積点$\rbrace\cup\lbrace z\in{D}|z$は$D$内の$S$の孤立点$\rbrace$となる。よって、$S$が$D$内の離散集合であるとき、特に$S$は$D$内の閉集合である。
$\supset$は明らかである(check!)。逆の包含を示す。$z\in{{\rm{Cl}}_D(S)}$とする。$z$が集積点でないとすると、ある$\epsilon\gt{0}$が存在し、$D\cap D(z,\epsilon)\subset{(D\setminus{S})\cup \lbrace {z} \rbrace}$となる。$z\in{{\rm{Cl}}_D(S)}$より、$w\in D\cap D(z,\epsilon)\cap S\neq \varnothing$を取ると、$w\in (D\setminus{S})\cup \lbrace {z} \rbrace$となるので、$w=z$である。よって、$\lbrace z \rbrace=D\cap D(z,\epsilon)\cap S$となるので、$z$は孤立点である。
このように、離散集合と言ったら、孤立点のみからなり、なおかつ閉集合です。これは勘違いしやすいポイントなので注意。
次に、$\infty\in{\riemann}$での孤立特異点を定義します。
$R\gt{0},f:\lbrace z\in{\complex}|\space |z|\gt R \rbrace \rightarrow \complex$を正則関数とする。このとき、$g(z)=f(1/z)$は、$D^*(0,1/R)=D(0,1/R)\setminus\lbrace 0 \rbrace$上の正則関数である。$f$の$\infty$での孤立特異点を、$g$の$0$での孤立特異点として定義する。
準備が整ったので、有理型関数を定義します。
$D\subset\riemann$を領域、$f:D\rightarrow\riemann$が有理型関数であるとは、次の条件1,2を満たすことをいう:
$f$が有理型関数であるとき、$E=f^{-1}(\infty)$の各点は$f$の極です(check!)。
$D\subset\complex$を$\complex$内の領域とする。このとき、$f:D\rightarrow\riemann$が有理型関数であることと、$f$が恒等的に$\infty$でない$\riemann$値正則関数であることは同値である。
$E=f^{-1}(\infty),D'=D\setminus{E}$とおく。
$f$が有理型関数とする。$f$が恒等的に$\infty$とすると、$E=D$となるが、これは$E$が離散集合であることに矛盾する。また、$f$は$D'$上正則である。各点$p\in{E}$に対し、$f$の連続性より、$f$は$p$の十分小さな近傍で連続で、$p$を除いて正則である。よって、正則関数の連続な一点拡張は正則である(check!Cauchyの積分定理とMoreraの定理を使う)から、$f$は$p$の近傍で正則。よって、$f$は$\riemann$値正則である。
次に、$f$が$\riemann$値正則とする。このとき、$f$は$D'$上で正則である。よって、$E$が離散集合とすると、$f$は有理型関数である。あとは、$E$が離散集合でないとき、$f$が恒等的に$\infty$となることを示せばよい。つまり、$E=D$となることを示せばよい。これには、$D$の連結性を使い、$E$が$D$内の空でない開かつ閉集合であることを示せばよい。
任意の$p\in{E}$に対し、$g(z)=1/f(z)$は、$p$のある近傍上で正則であり、$g(p)=0$である。領域で正則なら無限回微分可能であることを使うと、この$p$の近傍で$g(z)$は無限回微分可能なので、任意の次数の導関数$g^{(n)}(z)$が定義され連続である。特に、$E$の各点$p$で、その$n$階微分係数$g^{(n)}(p)$が定義される。そこで、次の集合を考える:
$E_{\infty}=\lbrace p\in{E}|\space $任意の$n\in{\mathbb{N}}$に対し$g^{(n)}(p)=0 \rbrace$
$E$の代わりに、$E_{\infty}$が$D$内の空でない開かつ閉集合であることを示しても、$D=E_{\infty}\subset{E}$となるので問題ない。
$E_{\infty}$が$D$内の開集合であること:$p\in{E_{\infty}}$とすると、$g(z)=1/f(z)$の$p$を中心としたテイラー展開は、$p$における全ての微分係数が$0$であることから、恒等的に$0$である。よって、このテイラー展開の$p$を中心とする$D$での近傍は、その近傍の各点を中心とたテイラー展開を考えれば、$E_{\infty}$に含まれることが分かる(check!)ので、$E_{\infty}$は$D$内の開集合である。
$E_{\infty}$が$D$内の閉集合であること:まず、$E$内の閉集合であることを示す。$p_j\in{E_{\infty}},p_j\rightarrow p\in{E}$とする。任意の$n$に対し、$g^{(n)}(z)$は点$p$の近傍で連続なので、$g^{(n)}(p)=\lim_{j\to \infty} g^{(n)}(p_j)=\lim_{j\to \infty} 0=0$となる。よって、$p\in{E_{\infty}}$であるから、$E_{\infty}$は$E$内の閉集合である。さらに、$E=f^{-1}(\infty)$は$D$内の閉集合でもあるので、$E_{\infty}$は$D$内の閉集合である。
$E_{\infty}$が空でないこと:$E$は離散集合でないので、$D$に集積点を持つ。それを$z'\in{D}$とする。$E$は$D$内の閉集合なので、$z'\in{E}$である。よって、$z'$の$D$でのある近傍$U=D\cap D(z',r)$で、$g(z)=1/f(z)$が定義され、正則である。すると、$E\cap U=E\cap D(z'.r)$上で、$g\equiv 0$であり、$E\cap U$は$U$内の集積点$z'$を持つので、一致の定理より、$U$全体で$g\equiv 0$である。特に、テイラー展開を考えれば、$z'\in{U}\subset E_{\infty}$が分かるので、$E_{\infty}\neq \varnothing$である。
以上より、$D$の連結性から、$D=E_{\infty}\subset {E}$である。すなわち、$D=E$である。
上の定理より、例えば有理型関数の合成が有理型関数であることなどが分かります。
次に、$\riemann$全体で定義された有理型関数は、なんと有理関数に限られるということを示します。これは、$\riemann$がコンパクトであることがポイントになっており、$\riemann$上へと正則関数を拡張して考えることの一つの大きな恩恵といえるでしょう。
$f:\riemann\rightarrow\riemann$に対し、$f$が有理型関数であることと、$f$が有理関数であることは同値である。
$\riemann$上の有理関数が有理型関数であることは、今までの示してきたことから既に明らかである(check!)。
$f:\riemann\rightarrow\riemann$が有理型関数であるとする。$E=f^{-1}(\infty)$は、コンパクト空間$\riemann$内の閉集合なので、コンパクトである。よって、コンパクトな離散集合は有限集合である(check!)から、$E$は有限集合である。そこで、$f$の$\riemann$上の極を$p_1,\cdots p_n$とおく。
$p_j\in{\complex}$のとき:$f(z)$の極$z=p_j$での主要部を、$P_j(z)$とおく。
$p_j=\infty$のとき:$g(z)=f(1/z)$の極$z=0$での主要部を、$Q(z)=\frac{a_{j,1}}{z^{m_j}}+\cdots +\frac{a_{j,m_j}}{z}$とおき、$P_j(z)=Q(1/z)=a_{j,1}z^{m_j}+\cdots +a_{j,m_j}z$を$f(z)$の$z=\infty$での主要部と定義する。
$F(z)=f(z)-\sum_{j=1}^{n}P_j(z)$とおくと、$F(z)$は$\riemann$上の($\complex$値)正則関数であることを示す。$F(z)$は$\riemann\setminus{E}$では正則であるから、$f(z)$の各極の近傍での正則性が問題となる。
$p_j\in{\complex}$のとき:$p_j$の近傍で、$P_k(z),k\neq j$は正則かつ$f(z)-P_j(z)$も正則である。
$p_j=\infty$のとき:まず、$k\neq j$に対しては、$|P_k(z)|\rightarrow 0 (|z|\rightarrow +\infty)$であるから、$P_k(z)\rightarrow 0 (z\rightarrow\infty)$である。
$f(z)-P_j(z)=g(1/z)-Q(1/z)$を考えると、$\lim_{z\to 0}(g(z)-Q(z))$が$\complex$内に収束することから、$\lim_{z\to \infty}(g(1/z)-Q(1/z))$もその値に収束する。
よって、このときは$\lim_{z\to \infty}F(z)$が$\complex$内に収束する。
以上より、$F(z)$は$\complex$上正則で、$\infty$の近傍で$\complex$値連続関数なので、正則関数の連続な一点拡張は正則関数であることから、$F(z)$は$\riemann$上の($\complex$値)正則関数である。
ここで、$\riemann$はコンパクトであるから、コンパクトの連続像はコンパクトより、$|F(z)|$は有界である。特に、$F(z)$は$\complex$上で有界な$\complex$値正則関数なので、リュービルの定理より、$F(z)$は$\complex$上で定数関数である。よって、$F(z)$の連続性から、$F(z)$は$\riemann$上で定数である。これを$c\in{\complex}$とすると、$c=f(z)-\sum_{j=1}^{n}P_j(z)$であるから、$\riemann$上で$f(z)=\sum_{j=1}^{n}P_j(z)+c$となる。これは、有理関数である。
定理15の証明方法を使えば、有理関数の部分分数分解が得られます。結局のところ、有理関数の部分分数分解は全ての極の主要部を求めることに他ならないということになります。
最後に具体的な例を計算してみましょう!
有理関数$f(z)=z^5/[(z-1)^2(z^2+1)]$を部分分数分解せよ。
$f(z)$の極は、$z=i,-i,\infty$が一位の極、$z=1$が二位の極である。
$z=i,-i$での$f(z)$の主要部は、留数の公式を直接用いてやれば、それぞれ$\frac{i}{4}\frac{1}{z-i},-\frac{i}{4}\frac{1}{z+i}$となる(check!)。
$z=\infty$での主要部を求める。$f(1/z)=1/[z(1-z)^2(1+z^2)]$の$z=0$での主要部を求めればよい。これは、$1/[(1-z)^2(1+z^2)]=(1+2z+[z^2])(1+[z^2])=1+2z+[z^2]$より、$1/z$である。よって、求める主要部は$z$である。
$z=1$での主要部を求める。$z^5=1+5(z-1)+[(z-1)^2],z^2+1=2+2(z-1)+[(z-1)^2]$より、
$\frac{1}{z^2+1}=\frac{1}{2}\frac{2}{z^2+1}=\frac{1}{2}[1+(z-1)+[(z-1)^2]]^{-1}=\frac{1}{2}[1-(z-1)+[(z-1)^2]]=\frac{1}{2}-\frac{1}{2}(z-1)+[(z-1)^2]$であるから、$\frac{z^5}{z^2+1}=\frac{1}{2}+2(z-1)+[(z-1)^2]$となる。よって、求める主要部は、$\frac{1}{2}\frac{1}{(z-1)^2}+\frac{2}{z-1}$である。
以上より、$F(z)=f(z)-[\frac{1}{2}\frac{1}{(z-1)^2}+\frac{2}{z-1}+\frac{i}{4}\frac{1}{z-i}-\frac{i}{4}\frac{1}{z+i}+z]$とおくと、定理15の証明と同様に、$F(z)$は$\riemann$上で定数である。$z=0$を代入して計算すると、$F(0)=2$となるので、$F(z)\equiv 2$である。
したがって、求める$f(z)$の部分分数分解は、次のようになる:
$f(z)=2+z+\frac{1}{2}\frac{1}{(z-1)^2}+\frac{2}{z-1}+\frac{i}{4}\frac{1}{z-i}-\frac{i}{4}\frac{1}{z+i}$
実数の範囲では、$\frac{i}{4}\frac{1}{z-i}-\frac{i}{4}\frac{1}{z+i}=-\frac{1}{2}\frac{1}{z^2+1}$として、$z$を実数に制限してやれば次を得る:
$x^5/[(x-1)^2(x^2+1)]=2+x+\frac{1}{2}\frac{1}{(x-1)^2}+\frac{2}{x-1}-\frac{1}{2}\frac{1}{x^2+1}$
さて、定理15より、$\riemann$上の有理型関数は簡単なので、$\complex$上の有理型関数を調べることが興味の対象となってきます。さらに、極が有限個の場合は有理関数になるので、極が$\complex$内に無限個あるような場合を考えていくことになります。そして、実はそのような場合にも、有理関数のように有理型関数の部分分数分解を考えることができることが知られています!(ミッタク=レフラーの定理)
この辺りの話は私もまだ勉強不足なので、いずれまた解説記事を書くことがあるかもしれないです。
かなり長くなってしまったので、今回はこの辺で終わりにしたいと思います。複素解析は個人的に面白いネタの宝庫だと思うので、今後も複素解析に関する記事は書いていきたい所です。今回の記事の内容は、主に私がB2の冬に受けた複素解析の講義ノートが元になっています。この講義が今になってとても勉強になっています。感謝の念に堪えません。