友人に紹介されて興味を持った黄金数について丸一年研究して得られたものを、いくつか証明とともに書き残そうと思います。今回は$\frac{1}{2}$を用いた黄金数の近似編で、なぜ$\sqrt{e}\fallingdotseq\varphi$かがなんとなくわかる回です。
前回:黄金数と双曲線関数【黄金数の性質#1】
黄金数は、前回示したように、双曲線関数によって$\frac{1}{2}$や$\frac{\sqrt{5}}{2}$を用いて表すことができます。
$$\varphi=e^{\hypsin{\frac{1}{2}}}=e^{\hypcos{\frac{\sqrt{5}}{2}}}$$
ここで、指数関数にのっかっている関数$f(x)=\hypsin{x}$に注目すると、$f(x)=\log{\left(x+\sqrt{x^2+1}\right)}$であり、$f'(x)=\frac{1}{\sqrt{x^2+1}}$であることがわかりますが、ここで重要なのは、
$$\lim_{x\to0}f(0)=0, \lim_{x\to0}f'(0)=1$$
という性質です。この性質を満たす関数を探してみると、次のような関数が挙げられます。
$$x, \sin{x}, \arcsin{x}, \sinh{x}, \hypsin{x}, \tanh{x}, \arctan{x}, \tanh{x}, \mathrm{artanh}{x}, \cdots$$
言い換えれば、これらの関数からどの組$f(x),g(x)$を選んでも、
$$\lim_{x\to0}\left(f(x)-g(x)\right)=0, \lim_{x\to0}\left(f'(x)-g'(x)\right)=0$$
$$\lim_{x\to0}\left(e^{f(x)}-e^{g(x)}\right)=0, \lim_{x\to0}\left(e^{f(x)}\right)'=\left(e^{g(x)}\right)'=0$$
を満たすといえます。
本題に戻ると、
$$\varphi=e^{\hypsin{\frac{1}{2}}}$$
であり、$x=\frac{1}{2}$のケースを考えればよいわけですが、貴金属数の中では最も0に近い$x$であるといえます。そのため、貴金属数の中では最も、先ほど挙げた関数の$x=\frac{1}{2}$における値が元の数に近くなるわけです。したがって、$\sqrt{e}\fallingdotseq\varphi$は、$e^{\frac{1}{2}}\fallingdotseq e^{\hypsin{\frac{1}{2}}}$という視点から理解することができます。
試しに先程の関数の値をいくつか求めてみると以下のようになりました。($e^{\hypsin{-\frac{1}{2}}}=\varphi^{-1}, e^{\hypsin{1}}=\tau$であり、後者は第2貴金属数の白銀数です。)
$e^{f(x)}$ | $e^{f(\frac{1}{2})}$ | $e^{f(-\frac{1}{2})}$ | $e^{f(1)}$ |
---|---|---|---|
$e^{x}$ | 1.648721... | 0.606531... | 2.718282... |
$e^{\sin{x}}$ | 1.615146... | 0.619139... | 2.319777... |
$e^{\arcsin{x}}$ | 1.688092... | 0.592385... | 4.810477... |
$e^{\sinh{x}}$ | 1.683871... | 0.593870... | 3.238795... |
$e^{\hypsin{x}}$ | 1.618034... | 0.618034... | 2.414214... |
$e^{\sin{x}}$の近似精度が断トツであることがわかります。また、$x=1$である第2貴金属数では差がかなり大きくなっており、貴金属数で近似できるのは黄金数くらいであることもわかります。
次に、グラフは以下のようになりました。
$e^{f(x)}$と直線$x=\frac{1}{2},x=-\frac{1}{2},y=\varphi,y=\varphi^{-1}$のグラフ
$x=\frac{1}{2}$付近のグラフ
$x=-\frac{1}{2}$付近のグラフ
当然ですが、$x=0$に向かって集まっていく様子が綺麗です。
関数を作ってみる元の関数$e^{\hypsin{x}}$の導関数$1+\frac{x}{\sqrt{x^2+1}}$のグラフを見ていたところ、少し閃きました。
$e^{\hypsin{x}}$と$1+\frac{x}{\sqrt{x^2+1}}$のグラフ
これ$\tanh{x}+1$のグラフに似てない?
というわけで、$\tanh{x}+1$を積分して適当な積分定数を選べば、いい感じに近似できる関数が作れるのではないかと思い、作ってみました。
$$\int\left(\tanh{x}+1\right)dx=\int\frac{2e^x}{e^x+e^{-x}}dx=\int\frac{2}{t+t^{-1}}dt=\int\frac{2t}{t^2+1}dt=\log{\left(e^{2x}+1\right)}+C$$
ここで、$x=0$とすると$\log{2}$なので、$C=1-\log{2}$とすればよさそうです。
よって、$\log{\frac{e}{2}\left(e^{2x}+1\right)} = \log{\cosh{x}}+x+1$という関数が求められました。
実際にグラフにしてみると、
諸関数と直線$x=\frac{1}{2},x=-\frac{1}{2},y=\varphi,y=\varphi^{-1}$のグラフ(桃色が人工の関数)
$x=\frac{1}{2}$付近のグラフ
$x=-\frac{1}{2}$付近のグラフ
となり、$\sin{x}$なみの近似精度です。他の関数と異なり、$x=0$付近でなくても$x\geq0$はずっと近似精度が高いのも特徴です。具体的に計算すると、たとえば
$$\lim_{x\to\infty}\left(e^{\hypsin{x}}-e^{\sin{x}}\right)=\infty$$
ですが、この人工関数の場合は差が収束し、
$$\lim_{x\to\infty}\left(\log{\frac{e}{2}\left(e^{2x}+1\right)}-e^{\hypsin{x}}\right)=1-\log{2}\approx0.307...$$
となります。
とはいえ、$x=\frac{1}{2}$ではこの人工の関数のほうが近似精度が高いですが、$x=-\frac{1}{2}$では$\sin{x}$のほうが近似精度が高くなっています。天然と人工が拮抗してて面白いですね。
$g(x)$ | $g(\frac{1}{2})$ | $g(-\frac{1}{2})$ | $g(1)$ |
---|---|---|---|
$\log{\frac{e}{2}\left(e^{2x}+1\right)}$ | 1.620115... | 0.620115... | 2.433781... |
$e^{\sin{x}}$ | 1.615146... | 0.619139... | 2.319777... |
$e^{\hypsin{x}}$ | 1.618034... | 0.618034... | 2.414214... |
友人が電卓で$e^{\sinh{\frac{1}{2}}}$の値が黄金数に近いことに気づき、そのおかげで$\sqrt{e}\fallingdotseq\varphi$の仕組みに気づけたりしました。感謝です。
次回:もう少々お待ち下さい