五項補題を用いる証明で個人的に気に入ったものをメモとして残しておきます. この記事では環$R$は可換として環$R$上の加群を考えることにします.
有限生成加群とは次のようなものでした.
$R$-加群$M$が有限生成加群であるとは, 生成系$S=\{x_1,x_2,\ldots ,x_n\}\subset M$が存在して任意の$x\in M$に対して
\begin{align}
x=\sum_{i=1}^nr_ix_i
\end{align}
となる$r_1,r_2,\ldots ,r_n\in R$が取れることである.
もちろんこの有限和の表示は一意的とは限りません. 有限生成加群であることを次のように言い換えることで扱いやすくなることがあります.
$R$-加群$M$が有限生成加群であることと, ある自然数$n$に対して全射$R$-準同型$R^n\to M$が存在することは同値である.
今回五項補題を使うので主張の復習をしておきましょう.
次のような可換図式において上下の列は完全であるとする.
\begin{align}\xymatrix@C=40pt@R=50pt{
A_1 \ar[r]^{f_1}\ar[d]_{h_1} & A_2 \ar[r]^{f_2}\ar[d]_{h_2} & A_3 \ar[r]^{f_3}\ar[d]_{h_3} & A_4 \ar[r]^{f_4}\ar[d]_{h_4} & A_5\ar[d]_{h_5} \\
B_1 \ar[r]^{g_1} & B_2 \ar[r]^{g_2} & B_3 \ar[r]^{g_3} & B_4 \ar[r]^{g_4} & B_5
}
\end{align}
このとき以下が成り立つ.
(i) $h_1$が全射かつ$h_2,h_4$が単射$\longrightarrow h_3$が単射
(ii) $h_5$が単射かつ$h_2,h_4$が全射$\longrightarrow h_3$が全射
よく使う形としては(i)(ii)を合わせた$h_1,h_2,h_4,h_5$が同型ならば$h_3$が同型という形です. 今回は(ii)のみを使います.
$R$加群の短完全列
\begin{align}
\xymatrix{
0\ar[r] & M_1 \ar[r]^f & M_2 \ar[r]^g & M_3 \ar[r]& 0
}
\end{align}
があるとき$M_1,M_3$が有限生成加群ならば$M_2$も有限生成加群である.
有限生成加群の言い換えより, 全射$p_1\colon R^r\to G_1$, $p_3\colon R^s\to G_3$が存在する. すると次のような二つの短完全列からなる図式が作れる.
\begin{align}
\xymatrix@C=40pt@R=50pt{
0 \ar[r]\ar@{=}[d] & R^r \ar[r]^i\ar@{->>}[d]^{p_1} & R^r\oplus R^s \ar[r]^p\ar@{.>}[d]^{p_2} & R^s \ar[r]\ar@{->>}[d]^{p_3} & 0\ar@{=}[d] \\
0 \ar[r] & M_1 \ar[r]^f & M_2 \ar[r]^g & M_3 \ar[r] & 0
}
\end{align}
この図式を可換にするような$p_2$を構成する. まず$g$が全射であるから, $R^s$の基底$\{y_1,y_2,\ldots ,y_s\}$に対し$g(g_i)=p_3(y_i)$となる$g_1,\ldots ,g_s\in G_2$が存在する.
この対応を用いて$x+y\in R^r\oplus R^s$に対して$p_2(x+y)=(f\circ p_1)(x)+g$で
\begin{align}
y=\sum_{i=1}^sm_iy_i,\quad g=\sum_{i=1}^sm_ig_i
\end{align}
と定めれば図式が可換になる. すると五項補題(i)から$p_2$が全射であることが分かるので$G_2$は有限生成加群であることが示された.
基底に対する対応を先に固定しておくことで$\mathbb{Z}^r$の有限和の表し方が一意であることから$p_2$はちゃんとwell-definedになるんですね. もちろん基底の対応を別のものとして取れば別の$p_2$が得られます.