0
大学数学基礎解説
文献あり

『層とホモロジー代数』1, 2章 ♯f と f♯ の視覚的理解 (引数を♯の側において合成)

11
0
$$$$

はじめに

数学書を読んでいると、ひとまず眼を背けたくなる記号に出くわすことがある。

志甫淳『層とホモロジー代数』の1章にて導入される、
$\mathrm{Hom}$集合 (写像をあつめた集合) どうしの間の写像
$f^\sharp$ と $^\sharp f$ という記法はその一例である、と個人的に感じた。

本記事では、記号 $\sharp$ (シャープ) が、
同書において単に、次の内容を示す目印であることを確認する:

  • 記号 $\sharp$ が付いている側 ($f^\sharp$ なら右側) に、
    受け取った引数が来るように合成する ($f^\sharp(\varphi) = f \circ \varphi$)

以下では、1章の内容を用いて記号 $\sharp$ の意味を確認するが、
目印としての意味合いは、2章においても共通している。

定義域・終域と、始点・終点

本記事では、簡易な表現を用いる目的で、
写像の定義域・終域のことを、それぞれ「始点」・「終点」と呼ぶことにする。
すなわち、写像$X \to Y$について、定義域$X$を「始点」、終域$Y$を「終点」と呼ぶ。

1. 定義の確認:$f^\sharp$ と $^\sharp f$

環 $R$ 上の左 $R$ 加群 $M, N, X$ を考える。
ある左 $R$ 加群の準同型写像 $f \in \mathrm{Hom}_R(M, N)$
(すなわち $M \to N$ という ($R$ 準同型) 写像たちのうちの1つ)
が与えられたとき、
これを用いて以下の2つの写像が定義される。

$$f^\sharp : \mathrm{Hom}_R(X, M) \to \mathrm{Hom}_R(X, N); \quad \varphi \mapsto f \circ \varphi$$
$$^\sharp f : \mathrm{Hom}_R(N, X) \to \mathrm{Hom}_R(M, X); \quad \varphi \mapsto \varphi \circ f$$

数式の字面だけを追うと、

  • 合成の順序($f \circ \varphi$ と $\varphi \circ f$)
  • 始点・終点の移り変わりかた

が直観的に把握しづらい場合がある。

2. 図解と整理

内容を図示し、各写像がどこからどこへ向かっているのかを確認すると、理解の助けになる。
図を見ながら、それぞれのはたらきを確認する。

① $f^\sharp$(引数が右側に来るように合成)

!FORMULA[25][1596495226][0]の機能 $f^\sharp$の機能
図1にあるように $f^\sharp$ の機能は次の通り:
$\mathrm{Hom}_R(X, M)$ の元である $\varphi$ を受け取り、
その終点 $M$ から更に $f$ をつないだ写像($X \xrightarrow{\varphi} M \xrightarrow{f} N$)を出力として返す。

結果として得られるのは、写像 $X \to N$ (つまり$\mathrm{Hom}_R(X, N)$の元) であり、
$f^\sharp$ が示す写像全体の向きは $\mathrm{Hom}_R(X, M) \to \mathrm{Hom}_R(X, N)$ ($M$ から $N$ へ)、
これはもとの写像 $f: M \to N$ の向きと一致している。
(このような性質は「共変性」と呼ばれるが、ここでは深入りしない。)

② $^\sharp f$(引数が左側に来るように合成)

!FORMULA[40][-1083718314][0]の機能 $^\sharp f$の機能
図2にあるように $^\sharp f$ の機能は次の通り:
$\mathrm{Hom}_R(N, X)$ の元である $\varphi$ を受け取り、
その始点 $N$ にたどり着くように $f$ をつないだ写像($M \xrightarrow{f} N \xrightarrow{\varphi} X$)を出力として返す。

結果として得られるのは、写像 $M \to X$ (つまり $\mathrm{Hom}_R(M, X)$ の元) である。
$^\sharp f$ が示す写像全体の向きは $\mathrm{Hom}_R(N, X) \to \mathrm{Hom}_R(M, X)$ ($N$ から $M$ へ)、
これはもとの写像 $f: M \to N$ に対して、向きが反転している。
(このような性質は「反変性」と呼ばれるが、ここでは深入りしない。)

$g^\sharp \circ f^\sharp = (g \circ f)^\sharp$ についても、図3で各写像の行き先を追うと確認できる。
!FORMULA[55][-840607280][0] $g^\sharp \circ f^\sharp = (g \circ f)^\sharp$
特に、以下の2点に注意すると、確認が容易である:
(というより、等式の表す内容から、確認すべき内容が、以下2点の相等性である)

  • $f^\sharp$ および $g^\sharp$ に対して、引数 $\varphi$, $f^\sharp(\varphi)$ が、それぞれどのように合成されているか
  • $f^\sharp$ と $g^\sharp$ の合成結果に対して引数 $\varphi$ を渡したときに、どのような結果が得られるか

まとめ

記号 $\sharp$ の位置($f^\sharp$ or $^\sharp f$)は、
引数 $\varphi$ を合成する際、$f$ から見て左右どちらに記せばよいか、
という目印として機能していることを確認した。

確認に際して有効であったのは、
図を用いた、写像ごとの始点・終点の確認($X \xrightarrow{\varphi} M \xrightarrow{f} N$ など)つまり、
見慣れた範囲に分けてから1つ1つたどっていく、
という (とても素朴な) 手法であった。

なお、写像と引数の並び ($f^\sharp(\varphi)$ or ${}^\sharp f(\varphi)$) に対して
「合成の順序が保たれるか、反転するか」($f \circ \varphi$ or $\varphi \circ f$) は、
圏論における基本的な概念である共変性、反変性という性質の表れである
(同書の2章で登場する)。

参考文献

[1]
志甫淳, 層とホモロジー代数, 共立出版, 2016, 10-11, 82, 93
投稿日:3日前
数学の力で現場を変える アルゴリズムエンジニア募集 - Mathlog served by OptHub

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中