$f(X)$を整数係数の多項式,$p$を素数とする.このとき,もしある整数$x_1$が存在して
$$
f(x_1) \equiv 0, f'(x_1) \not\equiv 0 \pmod{p}
$$
となるならば,任意の正の整数$n$に対してある整数$x_n$が存在して
$$
f(x_{n + 1}) \equiv 0 \pmod{p^{n + 1}}, x_{n + 1} \equiv x_n \pmod{p^n}
$$
が成り立つ.
$n$に関する数学的帰納法.$n > 1$とし,定理の条件を満たすような$x_{n - 1}$が存在すると仮定する.このとき,$f(X) = \sum_{i = 0}^r a_i X^i$とおけば,$\symbb{Z} / p^n \symbb{Z}$で
\begin{align}
&f(x_{n - 1} - f(x_{n - 1}) f'(x_{n - 1})^{-1})\\ &= \sum_{i = 0}^r a_i (x_{n - 1} - f(x_{n - 1}) f'(x_{n - 1})^{-1})^i \text{(仮定$f'(x_1) \not\equiv 0 \pmod{p}$により,$f'(x_{n - 1})$は$\symbb{Z} / p^{n}\symbb{Z}$で逆元を持つ.)}\\
&= \sum_{i = 0}^r a_i \sum_{j = 0}^i \binom{i}{j} x_{n - 1}^{j} f(x_{n - 1})^{i - j} f'(x_{n - 1})^{j - i}\\
&= \sum_{i = 0}^r a_i(x_{n - 1}^i - i x_{n - 1}^{i - 1} f(x_{n - 1}) f'(x_{n - 1})^{-1}) \text{ ($f(x_{n - 1})$は$p^{n - 1}$で割り切れるから,$e \ge 2$のとき$f(x_{n - 1})^e$は$p^n$で割り切れる.)}\\
&= f(x_{n - 1}) - f(x_{n - 1}) f'(x_{n - 1}) f'(x_{n - 1})^{-1}\\
&= 0
\end{align}
が成り立つ.そして,$f(x_{n - 1}) \equiv 0 \pmod{p^{n - 1}}$だから,$x_n = x_{n - 1} - f(x_{n - 1}) f'(x_{n - 1})^{-1}$($\symbb{Z} / p^n \symbb{Z}$における逆元の$\symbb{Z}$における原像を任意に選ぶ)とすれば$x_n \equiv x_{n - 1} \pmod{p^{n - 1}}$.ゆえに定理は示された.
方程式の解をコンピュータで効率的に求める方法の1つに,Newton法と呼ばれるものがあります(
Wikipedia
).これでは,最初に適当な実数$x_1$が与えられたとき,実数$x_n$($n > 1$)を漸化式
$$
x_n = x_{n - 1} - \frac{f(x_{n - 1})}{f'(x_{n - 1})} \tag{$\ast$}
$$
によって定めることで,方程式$f(X) = 0$に解が存在するならば
$$
f\Bigl(\lim_{n \to \infty} x_n\Bigr) = 0
$$
となるため,適当な$n$で計算を打ち切ることにより,方程式$f(X) = 0$の解の近似値を求めることができます.
この方法において,解の近似値を求める漸化式 ($\ast$) が,Henselの補題の証明における$x_n$を定める漸化式と非常に類似していることがわかるかと思います.つまり,Henselの補題において,$\bmod p$における「荒い」解を,$p^2, p^3, \dotsc$という風に「正確に」していくことができる,とHenselの補題の主張を言い換えることができます.
そこで,Henselの補題において,$n \to \infty$とすることができれば,Newton法のように「限りなく近い」解が得られそうです.そして,そのようにして「限りなく近い」解が得られるような空間が$p$進整数環$\symbb{Z}_p$です.つまり,Henselの補題は$\symbb{Z}_p$におけるNewton法のようなものであるということができます.