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複素関数の復習その3

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今回も引き続き複素関数の積分について復習していきます。

前回、正則な複素関数は次のようにTaylor展開できることを議論しました。

複素関数のTaylor展開

Dを複素平面上の単連結領域、CをD内の区分的に滑らかな閉曲線、z0をC内の点とする。f(z)がD上で正則な時、f(z)=n=0Cn(z0)(zz0)nとTaylor展開すれば、
Cn(z)=Cdz2πif(z)(zz0)n+1

今回は、正則でない場合の展開方法に拡張できないか考えてみましょう。

Laurent 展開

正則でない関数は、発散したりして特異点を持ちます。特異点では微分係数が存在しなくなるので、正の次数の多項式の足しあわせでは表現できません。そこで、負の次数の多項式まで用いて元の関数を展開することを考えます。この展開方法をローラン展開といいます。この時の展開係数は、テイラー展開の時と同様に特異点を囲む線積分で決定できますが、この時線積分の経路が特異点を踏まないように設定しないといけません。以上から、次のように展開が定義できます。

Laurent展開

f(z)がr<|zz0|<Rの範囲で正則とする。この時、r<|zz0|<Rの範囲に含まれる任意の単一閉曲線Cを用いて、
Cn(z)=Cdz2πif(z)(zz0)n+1
とすれば、f(z)=n=Cn(z0)(zz0)nとLaurent展開できる。

f(z)=1(z1)(z2)z=1周りにLaurent展開してみよう。

1(z1)(z2)=1z111+(z1)=1z1n=0(z1)n=n=1(z1)n

となります。Laurent展開の定理では線積分の形で係数を決定したがもとまればなんでもいいので何も毎回線積分を計算する必要があるわけではないです。

留数定理

さて、特異点を含んだ閉曲線の線積分の値によって特異点での複素関数の振る舞いが決まることがわかりました。逆に言えば、特異点での複素関数の振る舞いから、線積分を計算することができます。これが、留数定理です。

留数定理

Dを複素数平面上の単連結領域とする。f(z)は有限個の特異点z=zjを除いてD内で正則であるとする。この時、特異点を含まないD上の閉曲線をCとして、
Cdz2πif(z)=j:CRes(f,zj)
となる。ただし、Res(f,zj)は留数で、次のように計算する。Cjは特異点をzjの一つのみ含むD上の閉曲線である。
Res(f,zj)=Cjdz2πif(z)=C1(zj)

留数は特異点なので、k位の極であることが多いです。そこで、次のような計算方法があります。

k位の極の留数の計算

z=zjがk位の極であるならば、
Res(f,zj)=limzzj1(k1)!(ddz)k1((zzj)kf(z))

z=zjがk位の極であるならば、
f(z)=Ck(zj)(zzj)k+Ck+1(zj)(zzj)k1++C1(zj)(zzj)+
なので、(zzj)kをかけると、Cn(zj)(zzj)knの係数になる。そして、zでk1階微分してzzjを考えるとk1階微分した時の(zzj)0がもとまる。これは、k1階微分する前の(zzj)k1の係数であり、つまり、C1(zj)=Res(f,zj)

具体例を見てみましょう。

1位の極の場合

f(z)=1z2+1の時の、z=±iにおける留数を求める。
Res(f,i)=limzi(zi)1(zi)(z+i)=12i
Res(f,i)=limzi(z+i)1(zi)(z+i)=12i

演習

複素積分
I=Cdzz2023z2023+z2022+z2021+1
を求めよ。ここでCは|z|=2の円周上を反時計回りに回る経路である。
ヒント:z2023+z2022+z2021+1=0の解が全てC内部にあることを示してみよ

まず、ヒントに従いz2023+z2022+z2021+1=0の解が全てC内部にあることを示そう。z2023+z2022+z2021+1=0の解は、z2021(z2+z+1)=1を満たす。そこで、z=reiθとしてr2021|(r2e2iθ+reiθ+1)|=1が成り立つ。r>1の時、r2021>1なので、|(r2e2iθ+reiθ+1)|<1にならなければならない。三角不等式より|(r2e2iθ+reiθ+1)|||r2e2iθ+reiθ||1||=|r2e2iθ+reiθ|1>r2r1が成立する。ここで、r2r1r>1で単調増加し、r=2の時r2r1=1なので、r2だと|(r2e2iθ+reiθ+1)|r2r11となり、|(r2e2iθ+reiθ+1)|<1にならないことから、z2023+z2022+z2021+1=0の解が全てr<2を満たし、C内部にあることが示せた。

次に、x2021(x2+x+1)=1を満たす実数解の個数を考える。

  • x<1の時、|x2021|>1かつx2+x+1>1なので、実数解はない
  • x=1x2021(x2+x+1)=1を満たすので実数解である
  • 1<x<0の時、|x2021|<0かつ|x2+x+1|<1なので、実数解はない
  • 0xの時、x20210かつx2+x+1>0なので左辺0になり、実数解はない
    以上より、実数解はx=1のみで、他の2022個の解は全て1011組の共役複素解である。共役複素数解の留数同士でうまく打ち消し合うとかできればいいが、いまいちいい方法が思いつかない。(何かあればコメントで教えてください)

そこで、逆に円周の内側に集まった留数を円の外側に出せないか考える。つまり、円のうちと外をひっくり返すような変換を考える。ω=1zとすればそれが叶う。この変換を使えば、Cは|ω|=12時計回りに一周する円周にうつり、反時計回りにしたものをC'として、
I=Cdzz2023z2023+z2022+z2021+1=Cdω1(ω2023+ω2+ω+1)ω2
になり、1(ω2023+ω2+ω+1)の特異点は全て円周の外側なので、1(ω2023+ω2+ω+1)ω2=g(ω)としてRes(g,0)のみ計算すれば、I=2πiRes(g,0)ともとまる。
公式2に代入すれば、Res(g,0)=1なので、I=2πi

次回

最後までお読みくださりありがとうございました。次回はJordanの補題と、それを応用した演習問題を扱っていきたいと思います。

投稿日:2024310
更新日:2024310
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投稿者

工学部の3年生です。

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