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大学数学基礎解説
文献あり

格子の道と行列式について

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ゲッセルとヴィアンノの補題について

今回は参考文献tenshoを元にして、格子の道と行列式との関係について手短に見て行きます。
まず次の事を認めましょう。

M=(mij)n×n行列とする。この時、Mの行列式は次の様な重み付きの有効2部グラフを用いて表すことができる。
すなわち、頂点A1,A2,...,Anを行列Mのそれぞれの行に対応させ、頂点B1,B2,...,Bnを行列Mのそれぞれの列に対応する様にし、図の様にAiからBjへの矢印を描き、重みmijを与えた2部グラフを考えると次のように書ける。
det(M)=σSnsgn(σ)w(Pσ)
ただし、この式の意味は次の様だ。
σSnを固定した時のA=A1,A2,...,AnからB=B1,B2,...,Bnへの頂点分離系の道をPσ、またw(Pσ)は道Pσの重みを表している。


!FORMULA[15][1738373656][0]の場合 3×3の場合

以下ゲッセルとヴィアンノの補題を証明するにあたって必要なものを定義します。

重み

重み付き有効グラフGの頂点Aと頂点Bを結ぶ道Pが与えられているとき、道Pの重みw(P)を次の様に定義する。
w(P)=ePw(e)

行列

重み付き有向グラフG=(V,E)について、頂点の部分集合A={A1,A2,...,An},B={B1,B2,...,Bn}に対して、n×n行列M=(mij)を次のように定義する。
mij=P:AiBjw(P)

記号

重み付き有向グラフG=(V,E)について、頂点の部分集合A={A1,A2,...,An},B={B1,B2,...,Bn}に対して、AからBへの道の系PσPi:AiBσ(i)(i=1,2,...,n)とからなるもので、sign(Pσ)=sign(σ)と書く。また、道の系Pσの重みw(P)を次のように書く。
w(Pσ)=i=1nw(Pi)

頂点分離

サイクルの無い重み付き有向グラフG=(V,E)について、頂点の部分集合A={A1,A2,...,An},B={B1,B2,...,Bn}に対して、AからBへの道の系Pσ=(P1,P2,...,Pn)が頂点分離であるとは、この道の系Pσ任意の異なる二つの道を選んでも、それらの道が共通の頂点を持たない事である。

ゲッセルとヴィアンノの補題

サイクルの無い重み付き有向グラフG=(V,E)を考える。頂点の部分集合A={A1,A2,...,An},B={B1,B2,...,Bn}に対して、M=(mij)AからBへの道の行列とする。この時以下の式が成り立つ。
detM=P(AB)sign(P)w(P)

まず定義より、次の式が成り立つ。
detM=σSnsign(σ)(P1:A1Bσ(1)w(P1))(P2:A2Bσ(2)w(P2))(Pn:AnBσ(n)w(Pn))=P(AB)sign(σ)P1:A1Bσ(1)P2:A2Bσ(2))Pn:AnBσ(n)w(P1)w(P2)w(Pn)=P(AB)sign(P)w(P)
示すべきことは以下の事である。それはAからBへの道の系のうち頂点分離でない道の系をNとすると、次の事が成り立つことである。PNsign(P)w(P)=0
実際、PNを道Pi:AiBσ(i)を持つものとする。すると道Nの定義より、少なくとも一つ道Pjが存在して共通の頂点を持つ。
その共通の頂点でAiから出発して一番最初にPiPjの最初に共有する頂点をXとする。
次に、ππP=(P1,P2,...,Pi,...,Pj,...,Pn)の様に定める。ただし、Pi(i=1,2,...,n)は次の様な道をなす。
{ki,jPk=PkPiAiXPiXBσ(j)Pj沿PjAjXPjXBσ(i)Pi沿
すると、以下の事が分かる。
まず、π(πP)=P。これは明らか。また、πPPは同じ辺を使用しているのでw(πP)=w(P)となる。
また、新しい置換σは置換σ(i,j)をかけたものなので、sign(πP)=sign(P)となる。ゆえに、補題は示された。


ゲッセル・ヴィアンノの補題参考画像 ゲッセル・ヴィアンノの補題参考画像

応用1.ビネ-コーシーの公式の証明

ビネ-コーシーの公式

Pr×s行列、Qs×r行列(rs)であれば以下の式が成り立つ。
detPQ=ZdetPZdetQZ
ただし、Z=(j1,j2,...,jr)Nr(1j1j2jrs)なる もの全体とし、PZPj1,j2,...,jr列を抜き出して作ったr×r行列。また、QZQj1,j2,...,jr行を抜き出したr×r行列とした。

グラフG=(V,E)A={A1,A2,...,Ar},B={B1,B2,...,Bs},C={C1,C2,...,Cr}とし、
E=ABCとする。また、AmathcalBの部分を見ると2部グラフ、またBmathcalCの部分を見たときも同様に2部グラフになる様に辺の集合Vを構成する。
また、各辺の重みはw(AiBj)=pij,w(BjCk)=qjkとなる様にとると、AからCへの道の(i,k)行列Mの成分mikはグラフの構成の仕方からmik=j=1spijqjk
また、繋いだグラフにおけるAからCへの頂点分離の道の系はそれぞれAからBへの頂点分離の道の系とBからCへの頂点分離の道の系の対なので、下記の式が導かれるので証明が完了する。
detM=detPQ=Zsign(στ)piσ(j)qσ(j)k=Zsign(σ)piσ(j)sign(τ)qσ(j)k=ZdetPdetQ


ビネ-コーシの公式 ビネ-コーシの公式

応用2.行列式の計算

a1<a2<<anb1<b2<<bnを自然数の作る2つの集合とする。今mijが2項係数aiCbjである様な行列M=(mij)の行列式を計算せよ。

下記図の様な格子を考える。
また点Aiの座標を(0,ai)、点Bjの座標を(bj,bj)の様に設定する。
この格子上で点AiからBjまで最短で移動する(上あるいは右に移動するのみが許される)道の数は簡単な考察からaiCbj.ゆえに与えられた行列Mはすべての辺の重みが1であり、すべての辺の向きが右向きあるいは上向きの有向グラフで、A={A1,A2,...,An}からB={B1,B2,...,Bn}への道の行列になる。
また、AからBへの任意の頂点分離の道の系Pはすべてのiに対して、Pi:AiBiである道からなっていないといけないことが分かる。
ゆえに、以下の結論を得る。
detM=#{AB}


ゲッセルとヴィアンノの補題応用 ゲッセルとヴィアンノの補題応用

参考文献

[1]
M.アイグナー・G.M.ツィーグラー, 天書の証明, 丸善出版, 253-257
投稿日:202456
更新日:202456
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数学とイラストを描くことが趣味の人 ただそれだけです。 よろしくお願いいたします。 *かじゅみと僕は同一人物です。

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  1. ゲッセルとヴィアンノの補題について
  2. 応用1.ビネ-コーシーの公式の証明
  3. 応用2.行列式の計算
  4. 参考文献