この前思いついた話を残しておこうと思って描きます。ベクトル解析でよくrotとかdivとかの合成が0になるみたいな話がありますが、このことから複体が見えます。そのように構成された複体のコホモロジーについてベクトル解析の諸々な公式から考察していきましょう。物理の人が好きな保存力の定理、Poincareの補題についても言及します。馬鹿みたいに微分形式の場所が長くなっちゃったので3つに分割します。線形代数を双対空間までわかってたらスラスラ読めると思いますが、そんな人も少ないと思うので、頑張ってね。
滑らかな関数を$C^\infty(\mathbb{R^3})$、3次元の滑らかなベクトル場を$\mathfrak{X}(\mathbb{R}^3)$としよう。このときgrad, rot, divは次のような写像として書ける。
$$\text{grad}:C^\infty(\mathbb{R^3})\to\mathfrak{X}(\mathbb{R}^3),\ \ \ \text{rot}:\mathfrak{X}(\mathbb{R}^3)\to\mathfrak{X}(\mathbb{R}^3),\ \ \ \text{div}:\mathfrak{X}(\mathbb{R}^3)\to C^\infty(\mathbb{R^3})$$
この写像らの合成は0写像になるわけである。
滑らかな関数$f:\mathbb{R^3\to\mathbb{R}}$を取る。
$$\text{rot}\circ\text{grad}f=0,\ \ \ \text{div}\circ\text{rot} f=0$$
ちゃんと計算するのはめんどくさいので、なんとなくそうだろうと思える計算を見せよう。
$$\text{rot}\circ\text{grad}=\grad\times(\grad \cdot f) = 0$$
$$\text{div}\circ\text{rot} = \grad\cdot(\grad\times f) = \det (\grad,\grad,f)=0$$
この命題から以下の写像の列は複体と見れる。複体とは隣り合った準同型を二つ合成したら0写像になるような準同型の列のことである。
$$0\to C^\infty(\mathbb{R^3})\xrightarrow{\text{grad}}\mathfrak{X}(\mathbb{R}^3)\xrightarrow{\text{rot}}\mathfrak{X}(\mathbb{R}^3)\xrightarrow{\text{div}}C^\infty(\mathbb{R^3})\to0$$
問題は$\mathfrak{X}(\mathbb{R}^3),C^\infty(\mathbb{R^3})$は加群であるかと、各写像が準同型化を確かめないといけないがそれは各自に任せる。
注意しないといけないのは、これは関数の集合で複体を作っている。鎖複体の例を思い出すと、単体の一次結合全体を加群の列として扱っていた。これの双対として、この複体からの準同型でも複体が作れ、これを余複体といった。この複体は関数からできているため、余複体か?とみておくのがいい。
複体があればホモロジーというものが考えられ、穴の情報がわかるという話は聞いたことがあるだろうか?この複体のホモロジーも穴についての情報を含んでいる。ただし今回は余複体なので、コホモロジーと名前を変える。
・複体$0\to C^\infty(\mathbb{R^3})\xrightarrow{\text{grad}}\mathfrak{X}(\mathbb{R}^3)\xrightarrow{\text{rot}}\mathfrak{X}(\mathbb{R}^3)\xrightarrow{\text{div}}C^\infty(\mathbb{R^3})\to0$をde Rham複体と呼ぶ。またこれのコホモロジー、つまり$H_{DR}^i(\mathbb{R}^3) = \ker d_i/\Im d_{i+1}$て定める。ただし、$d_i$らは$\text{grad},\text{rot},\text{div}$のどれかであり、$\ker d_i\supset\Im d_{i+1}$を満たす。
・複体のどれかの加群が完全とは、そこでのコホモロジーが0になるときを言う。つまり$\ker d_i=\Im d_{i+1}$となるときである。またすべての加群が完全であればその複体を完全列という。(多分使わない)
さて物理系の人は多分みんな大好き、保存力にまつわるPoincareの補題を紹介しよう。
$\mathbb{R}^3$の単連結領域$D$で定義された滑らかなベクトル場$\bm{F}\in\mathfrak{X}(D)$について以下同値。
(1) $^\exists \varphi\in C^\infty(D)$ s.t. $\bm{F}=-\text{grad}\varphi$
(2) $\text{rot}\bm{F}=0$
あともう一つ、$\bm{F}$の仕事量に経路が依存しないということも同値なものに含まれるが、ここではおいておく。また(1)ならば(2)は$\ker \text{rot}\supset\Im\ \text{grad} $からすぐに示せる。
さてこの定理は何を主張しているだろう?まず単連結を理解しないといけないが、これはざっと1次元の穴が無いと思っておいていい。たとえば$S^1$やトーラスなどは単連結ではないが、球面は2次元的な穴はあるが1次元的な穴はないため単連結だ。で穴の情報が無いということはコホモロジーが情報が無いともいえるのではないだろうか?つまり各々の加群で完全ということを仮定しているのだ。そうなると$\ker \text{rot} = \Im\text{grad}$が一つとして成り立つ。これがやべえ。
図式を描いて整理していこう。
$\xymatrix@C=36pt@R=4.5pt{
0 \ar[r]& C^\infty(\mathbb{R^3}) \ar[r]^{\text{grad}} & \mathfrak{X}(\mathbb{R}^3) \ar[r]^{\text{rot}} & \mathfrak{X}(\mathbb{R}^3) \ar[r] & \cdots\\
&&\bm{F} \ar@{(-}[u] \ar@{|->}[r] & 0 \ar@{(-}[u] \\
}$
という状況を(2)の仮定は主張している。さらにコホモロジーが0であることから$\bm{F}\in \ker \text{rot} = \Im\text{grad}$を仮定しているため、$\bm{F}\in \Im\text{grad}$も直ちに言える。つまり$\text{grad}$で持ち上がってしまうのだ。つまりこの図式に$\bm{F}=-\text{grad}\varphi$となる$\varphi$を追加できるわけだ。
$\xymatrix@C=36pt@R=4.5pt{ 0 \ar[r]& C^\infty(\mathbb{R^3}) \ar[r]^{\text{grad}} & \mathfrak{X}(\mathbb{R}^3) \ar[r]^{\text{rot}} & \mathfrak{X}(\mathbb{R}^3) \ar[r] & \cdots\\ &-\varphi \ar@{|->}[r] \ar@{(-}[u] &\bm{F} \ar@{(-}[u] \ar@{|->}[r] & 0 \ar@{(-}[u] \\ }$
つまりPoincareの補題はあるベクトル場が持ち上がるということを主張しているのだ。これをストークスの定理と組みあわせると、領域$D$の境界を$C$と置いて
$$\int_C\bm{F}\cdot d\bm{r} = \int\!\!\int_D \text{rot}F\cdot\bm{n}dS = \int\!\!\int_D \text{rot}\circ\text{grad}\ \varphi\cdot\bm{n}dS = \int\!\!\int_D 0\cdot\bm{n}dS = 0$$
を得て、この境界$C$を好きなように二分すれば、端点同士が一致している$C_1,C_2$を得れる。つまり
$$0 = \int_C\bm{F}\cdot d\bm{r} = \int_{C_1}\bm{F}\cdot d\bm{r} - \int_{C_2}\bm{F}\cdot d\bm{r}$$
$$\Leftrightarrow \ \int_{C_1}\bm{F}\cdot d\bm{r} = \int_{C_2}\bm{F}\cdot d\bm{r}$$
を得て、保存力$\text{rot}\bm{F}=0$であれば単連結領域で、$\bm{F}$の仕事量は経路に依らない、という結論を得られる。
これまではスカラーポテンシャルの存在をしているわけだが、ベクトルポテンシャルの存在を保証するPoincareの補題もある。
$\mathbb{R}^3$の可縮な領域$D$で定義された滑らかなベクトル場$\bm{F}\in\mathfrak{X}(D)$について以下同値。
(1) $^\exists \Phi\in C^\infty(D)$ s.t. $\bm{F}=\text{rot}\Phi$
(2) $\text{div}\bm{F}=0$
同様にガウスの発散定理を適応すれば閉曲面で積分すれば0になることを示せる。ちなみに(2)の仮定を満たさない時どうなるか。たしか点電荷が作る電場が(2)を満たしていないが、閉曲面を通る電磁力線の本数が$2\pi$あたりになるなんて高校か中学でやった。これがまさに反例になっているだろう。ベクトル場に点電荷のような湧き出しの特異点があるとEular・Poincareの定理というのを適応すれば上手く行く。この点電荷が作る電場は図式だとどう書けるかなんて試してみても楽しいかもしれない。
可縮について言及しておこう。可縮とは連続変形して1点に潰せるような空間なことを言う。穴があるとそれに引っ掛かって、1点につぶせなくなる。例えば$S^2$も2次元的な穴があるため、1点には潰せない。Euclid空間のようなかなり強い仮定を課さなければいけないのだ。ここでde Rham複体を思い出してみよう。今回言いたいことを書き下してみれば次のような対応が見れる。
$\xymatrix@C=36pt@R=4.5pt{
0 \ar[r]& C^\infty(\mathbb{R^3}) \ar[r]^{\text{grad}} & \mathfrak{X}(\mathbb{R}^3) \ar[r]^{\text{rot}} & \mathfrak{X}(\mathbb{R}^3) \ar[r]^{\text{div}} & C^\infty(\mathbb{R^3}) \ar[r] & 0 \\
&&\Phi \ar@{|->}[r] \ar@{(-}[u] &\bm{F} \ar@{(-}[u] \ar@{|->}[r] & 0 \ar@{(-}[u] \\
}$
つまり可縮のようなすごく強い仮定を課さなくとも$\mathfrak{X}(\mathbb{R}^3)$でのコホモロジーが消えていればよさそうである。つまり2次元的な穴の情報を持つような図形はアウトであり、そのような情報を持たない図形、例えば円柱などはこの定理の仮定を満たしているわけだ。
可縮というのは高次元の穴もすべて無いという仮定を強いる。つまり次のような主張を得れる。
$\mathbb{R}^n$のde Rhamコホモロジーは自明である。