ここでは環とは単位的可換環とする.
$(X,\le)$を空でない順序集合とする.次の(1),(2)は同値.
(1)(極大条件)任意の$\emptyset\ne Y\subset X$は極大元をもつ,つまり
$$\all Y\subset X,\ex x\in Y,\{y\in Y\mid y>x\}=\emptyset $$
(2)(昇鎖条件,ACC)$X$の元の昇鎖$x_1\le x_2\le\cdots$に対し,
$$\ex N\in\N,x_N=x_{N+1}=\cdots $$
昇鎖条件は真の上昇列が存在しないことと言い換えられる.
(1)$\too$(2) $X$の元の昇鎖$x_1\le x_2\le\cdots$に対し,$Y=\{x_1,x_2,\cd\}$とおけば
$\emptyset\ne Y\subset X$より極大元$y_N$が存在する.
このとき,$x_N=x_{N+1}=\cdots$.
(2)$\too$(1) $\emptyset\ne Y\subset X$に極大元が存在しないと仮定する.
$x_1\in Y$とすると$x_1$は極大元でないので,$\ex x_2\in Y,x_1< x_2$.$x_2$は極大元でないので,$\ex x_3\in Y,x_2< x_3$.これを繰り返して真の昇鎖$x_1< x_2< x_3\cd$を得るがこれは矛盾.
同様に極小条件と降鎖条件(DCC)の同値性も示される.
環$A$のイデアル全体を$\mathcal{I}(A)$と表す.$\mathcal{I}(A)$は包含に関する順序が入る.
$A$を環とする.次の(1)-(3)は同値.
(1) $(\mathcal{I}(A),\subset)$は昇鎖条件を充たす.
(2) $(\mathcal{I}(A),\subset)$は極大条件を充たす.
(3) $A$の任意のイデアルは有限生成.
言い換えると,
(1) $A$の任意のイデアルの昇鎖$I_1\subset I_2\subset \cd$に対し,
$$\ex N\in\N,I_N=I_{N+1}=\cd $$
(2) $A$のイデアルの集合$\emptyset\ne Y\subset\mathcal{I}(A)$は包含順序に関して極大元をもつ.
(1)$\Leftrightarrow$(2)は命題1から従う.
(1)$\too$(3) 有限生成でないイデアル$I\subset A$があったと仮定する.
$I\ne(0)$より$x_1\in I\setminus\{0\}$が取れる.
$I\ne(x_1)$より$x_2\in I\setminus(x_1)$が取れる.
$I\ne(x_1,x_2)$より$x_3\in I\setminus(x_1,x_2)$が取れる.
これを繰り返して真の昇鎖$I_1\subsetneq I_2\subsetneq \cd$を得るがこれは昇鎖条件に矛盾.
(3)$\too$(1) $I_1\subset I_2\subset \cd$をイデアルの昇鎖とする.
このとき$\dps I=\bigcup_{n=1}^\infty I_n$とおくとこれはイデアルである(下で証明).$I$は有限生成なので,
$$\ex x_1,\cd,x_m\in I,I=(x_1,\cd,x_m)$$
充分大きい$N$を取れば,$x_1,\cd,x_m\in I_N$であり,$I\subset I_N$となる.このとき$I_N=I_{N+1}=\cd $である.
$a,b\in I$に対し充分大きい$j$を取れば,$a,b\in I_j$なので,
$$a-b\in I_j\subset I,ra\in I_j\subset I\ (\all r\in A)$$
よって$I$はイデアル.
命題2の条件を充たす環をNoether環という.
PIDはNoether環である.
命題2(3)からわかる.
$A$を環とする.$(\mathcal{I}(A),\subset)$が降鎖条件を充たす環をArtin環という.
つまり$A$がArtin環であるとは,任意のイデアルの降鎖$I_1\supset I_2\supset \cd$に対し,
$\ex N\in\N,I_N=I_{N+1}=\cd$
が成り立つこと,すなわちイデアルの真の降鎖がないことをいう.
$\Z$はPIDなのでNeother環である.しかしイデアル列
$$(2)\supsetneq(2^2)\supsetneq(2^3)\supsetneq\cd$$
は真の降鎖なのでArtin環ではない.
$\Z[T]$はPIDではないがNoether環である.PIDでないことは$(T,2)$が単項イデアルでないことから分かり,Noether環であることは次のHilbertの基底定理から分かる.また例1と同様にArtin環ではない.
$A$がNoether環ならば$A[T_1,\cd,T_n]$もNoether環である.
$\Z[T_1,T_2,\cdots]$はNoether環でもArtin環でもない.実際,イデアル列
$$(T_1)\subsetneq(T_1,T_2)\subsetneq(T_1,T_2,T_3)\subsetneq\cdots$$
$$(2)\supsetneq(2^2)\supsetneq(2^3)\supsetneq\cd$$
はそれぞれ真の昇鎖,降鎖となっている.
有限環や体はイデアルが有限個しかないのでNoether環かつArtin環である.
一方,Noether環でないArtin環の例は挙げられない.実際,次の定理が成立する.
可換環$A$について次は同値
(1) $A$はArtin環
(2) $A$はNoether環かつ$\dim(A)=0$
但し,$\dim$はKrull次元である.
つまり,Artin環はNoether環である.定義は対称的であるが実はArtinの方が強い条件となっている.