ネットと類似の概念であり,不変量をえることもできるのが分離的というものです.
分離的
の部分集合はあるが存在して,任意のでなるものに対しを満たすとき,分離的であるという.
ここでネットとの関係を述べておきましょう.
(1)濃度のネットが存在するとき,分離的集合は個より多くの点を含まない.
(2)極大な分離的集合は常に存在し,ネットである.
- を濃度のネットとし,を分離的集合とする.はネットだからに対しあるであってを満たすものが存在する.これにより写像をで定めることができる.
(厳密には次のように構成する.開球との共通部分は空でないので選択公理によりは空でない.よってここから元を一つとることができる.)
が単射でないと仮定すると,あるが存在してとなる.このとき
となりが分離的であることに反する.よっては単射であり,の濃度は以下である. - を分離的な部分集合全体のなす族とし,に包含によって順序を入れる.点は分離的だからは空ではない.をの全順序部分集合とする.は再び分離的であってどのよりも大きい.よってZornの補題により極大元が存在する.次に,極大元の一つをとする.それがネットでなければ,のすべての点から以上離れた元が存在するので,極大性に反する.
非拡大写像
を距離空間とする.写像はあるが存在して任意のに対してを満たすときリプシッツ写像といい,をリプシッツ定数という.特にのときを非拡大であるという.
非拡大写像は距離空間の圏において射とされる写像のようです.たしかに(?)逆も非拡大写像であれば等長写像になります.さらに非拡大写像は著しい性質を持ちます.
をコンパクト距離空間,を距離を保つ写像とする.このときである.
が全射でないと仮定し,をとる.はコンパクトだから閉.よってあるが存在してとなる.命題1からこのに対し極大な分離的部分集合が存在するのでそれをとおく.コンパクト性から濃度は自然数である.さらに命題1からはネットでもある.ネットが存在するから再び命題1により,分離的な集合はより多くの元を含まない.特にとおくと,これは上に有界なの部分集合である.
(の全体はの部分集合なのでこのようなものを考えることができる.)
この最大値をとし,最大値をとるときの分離的集合をとおく.はやはり分離的ではのどの点からも以上離れているのでは分離的であり,最大であることに反する.
つまり自身への非拡大写像は距離を保てば全射です.さらにこの逆も成り立つことがわかります.つまり全射な非拡大写像は距離を保ちます.つまり自身への非拡大写像に対して距離を保つことと全射であることとは同値になります.(2)は今の定理の一般化です.
をコンパクト距離空間とする.
(1)非拡張写像が全射なら等長である.
(2)写像が任意のに対しを満たせば等長である.
あるが存在してであると仮定する.このに対しであってを満たすものをとる.を自然数であって少なくとも一つの個の元からなるネットが存在するものとする.を点の組がのネットをなすようなもの全体の集合とする.はの閉集合なので特にコンパクトである.
(実際,,とする.,とおく.任意にをとる.とする.あるが存在して任意のに対してを満たす.一方,収束性からあるが存在して,任意のに対して.さらにこのに対してあるが存在して.このときこのとに対して
.これはの取り方に反する.よっては閉.)
関数をによって定める.この関数は連続であり,従って上で最小値を取る.で最小値を取るとする.は全射,非拡大だからとおくとこれは再びの元である.
(実際,任意にをとる.は全射だから,あるが存在してを満たす.また,だから任意のに対してあるが存在してが成り立つ.よって
となり.よってもの元である.)
任意のに対してだからである.さらにはで最小値を取るからであり,任意のに対してが成り立つ.一方,あるが存在して,を満たす.これらのに対し
.また
.
よってとなり矛盾.
前の定理の証明と同様の議論ではで稠密である.
(実際,とし,をとる.は閉だからである.よって,あるが存在してとなる.このに対しネットが存在する自然数のなかで最大のものをとれる.)
を考える.は非拡大写像ではで稠密だから非拡大写像に拡張できる.(1)からは等長である.よってその逆写像であるは全射であり,等長.
幾何学的な定理でした.直積を考えて同時に等式を示すところがすごい