$\epsilon-$ネットと類似の概念であり,不変量をえることもできるのが$\epsilon-$分離的というものです.
$(X,d)$の部分集合$S$はある$\epsilon>0$が存在して,任意の$x,y\in S$で$x\neq y$なるものに対し$|xy|\geq\epsilon$を満たすとき,$\epsilon-$分離的であるという.
ここで$\epsilon-$ネットとの関係を述べておきましょう.
(1)濃度$\mathfrak{n}$の$\dfrac{\epsilon}{3}-$ネットが存在するとき,$\epsilon-$分離的集合は$\mathfrak{n}$個より多くの点を含まない.
(2)極大な$\epsilon-$分離的集合は常に存在し,$\epsilon-$ネットである.
$X,y$を距離空間とする.写像$f:X\to Y$はある$C\geq 0$が存在して任意の$x,y\in X$に対して$|f(x)f(y)|\leq C|xy|$を満たすときリプシッツ写像といい,$C$をリプシッツ定数という.特に$C\leq1$のとき$f$を非拡大であるという.
非拡大写像は距離空間の圏において射とされる写像のようです.たしかに(?)逆も非拡大写像であれば等長写像になります.さらに非拡大写像は著しい性質を持ちます.
$X$をコンパクト距離空間,$f:X\to X$を距離を保つ写像とする.このとき$f(X)=X$である.
$f$が全射でないと仮定し,$p\in X\backslash f(X)$をとる.$f(X)$はコンパクトだから閉.よってある$\epsilon>0$が存在して$B(p,\epsilon)\cap f(X)=\emptyset$となる.命題1からこの$\epsilon$に対し極大な$\dfrac{\epsilon}{3}-$分離的部分集合が存在するのでそれを$S$とおく.コンパクト性から濃度$|S|$は自然数である.さらに命題1から$S$は$\dfrac{\epsilon}{3}-$ネットでもある.$\dfrac{\epsilon}{3}-$ネットが存在するから再び命題1により,$\epsilon-$分離的な集合は$|S|$より多くの元を含まない.特に$\{|T|:T\text{は}\epsilon-\text{分離的集合}\}$とおくと,これは上に有界な$\mathbb{N}$の部分集合である.
($T$の全体は$2^X$の部分集合なのでこのようなものを考えることができる.)
この最大値を$n$とし,最大値をとるときの$\epsilon-$分離的集合を$T$とおく.$f(T)$はやはり$\epsilon-$分離的で$p$は$f(T)$のどの点からも$\epsilon$以上離れているので$f(T)\cup\{p\}$は$\epsilon-$分離的であり,最大であることに反する.$\Box$
つまり自身への非拡大写像は距離を保てば全射です.さらにこの逆も成り立つことがわかります.つまり全射な非拡大写像は距離を保ちます.つまり自身への非拡大写像に対して距離を保つことと全射であることとは同値になります.(2)は今の定理の一般化です.
$X$をコンパクト距離空間とする.
(1)非拡張写像$f:X\to X$が全射なら等長である.
(2)写像$f:X\to X$が任意の$x,y\in X$に対し$|f(x)f(y)|\geq|xy|$を満たせば等長である.
ある$p,q\in X$が存在して$|f(p)f(q)|<|pq|$であると仮定する.この$p,q$に対し$\epsilon>0$であって$|f(p)f(q)|<|pq|-5\epsilon$を満たすものをとる.$n$を自然数であって少なくとも一つの$n$個の元からなる$\epsilon-$ネットが存在するものとする.$\mathfrak{N}\subseteq X^n$を$n$点の組が$X$の$\epsilon-$ネットをなすようなもの全体の集合とする.$\mathfrak{N}$は$X^n$の閉集合なので特にコンパクトである.
(実際,$b_m\to a$,$b_m\in\mathfrak{N}$とする.$a=(a_1,\dots,a_n)$,$b_m=(b_1^{(m)},\dots,b_n^{(m)})$とおく.任意に$x\in X$をとる.$\text{dist}(x,\{a_1,\dots,a_n\})>\epsilon$とする.ある$\delta>0$が存在して任意の$i$に対して$|xa_i|>\epsilon+\delta$を満たす.一方,収束性からある$m$が存在して,任意の$i$に対して$|b_i^{(m)}a_i|<\delta$.さらにこの$m$に対してある$i'$が存在して$|xb_{i'}^{(m)}|\leq\epsilon$.このときこの$m$と$i'$に対して
$|xa_{i'}|\leq|xb_{i'}^{(m)}|+|b_{i'}^{(m)}a_{i'}|<\epsilon+\delta$.これは$\delta$の取り方に反する.よって$\mathfrak{N}$は閉.)
関数$D:X^n\to \mathbb{R}$を$D(x_1,\dots,x_n)=\displaystyle\sum_{i,j}|x_jx_i|$によって定める.この関数は連続であり,従って$\mathfrak{N}$上で最小値を取る.$S=(s_1,\dots,s_n)$で最小値を取るとする.$f$は全射,非拡大だから$f(S):=(f(s_1),\dots,f(s_n))$とおくとこれは再び$\mathfrak{N}$の元である.
(実際,任意に$x\in X$をとる.$f$は全射だから,ある$c\in X$が存在して$x=f(c)$を満たす.また,$S=(s_1,\dots,s_n)\in\mathfrak{N}$だから任意の$\delta>0$に対してある$i$が存在して$|cs_i|<\epsilon+\delta$が成り立つ.よって
$|xf(s_i)|=|f(c)f(s_i)|\leq C|cs_i|\leq \epsilon+\delta $となり$\text{dist}(x,f(s))\leq \epsilon$.よって$f(S)$も$\mathfrak{N}$の元である.)
任意の$i,j$に対して$|f(s_i)f(s_j)|\leq|s_is_j|$だから$D(f(S))\leq D(S)$である.さらに$D$は$S$で最小値を取るから$D(f(S))=D(S)$であり,任意の$i,j$に対して$|f(s_i)f(s_j)|=|s_is_j|$が成り立つ.一方,ある$i,j$が存在して$|ps_i|\leq\epsilon$,$|qs_j|\leq\epsilon$を満たす.これらの$i,j$に対し
$|s_is_j|\geq |pq|-|ps_i|-|qs_j|\geq |pq|-2\epsilon$.また
$|f(s_i)f(s_j)|\leq |f(p)f(q)|+|f(p)f(s_i)|+|f(q)f(s_j)|$
$\leq |f(p)f(q)|+2\epsilon\leq |pq|-3\epsilon$.
よって$|f(s_i)f(s_j)|<|s_is_j|$となり矛盾.
前の定理の証明と同様の議論で$f(X)$は$X$で稠密である.
(実際,$X\backslash \overline{f(X)}\neq\emptyset$とし,$p\in X\backslash \overline{f(X)} $をとる.$\overline{f(X)}$は閉だから$\text{dist}(p,\overline{f(X)})>0$である.よって,ある$\epsilon>0$が存在して$B(p,\epsilon)\cap \overline{f(X)}=\emptyset$となる.この$\epsilon$に対し$\epsilon-$ネットが存在する自然数のなかで最大のものをとれる.)
$f^{-1}:f(X)\to X$を考える.$f^{-1}$は非拡大写像で$f(X)$は$X$で稠密だから非拡大写像$\overline{f^{-1}}:X\to X$に拡張できる.(1)から$\overline{f^{-1}}$は等長である.よってその逆写像である$f$は全射であり,等長.$\Box$
幾何学的な定理でした.直積を考えて同時に等式を示すところがすごい