1

距離空間2 非拡大写像

42
0

ϵネットと類似の概念であり,不変量をえることもできるのがϵ分離的というものです.

ϵ分離的

(X,d)の部分集合Sはあるϵ>0が存在して,任意のx,ySxyなるものに対し|xy|ϵを満たすとき,ϵ分離的であるという.

ここでϵネットとの関係を述べておきましょう.

(1)濃度nϵ3ネットが存在するとき,ϵ分離的集合はn個より多くの点を含まない.
(2)極大なϵ分離的集合は常に存在し,ϵネットである.

  1. Sを濃度nϵ3ネットとし,Sϵ分離的集合とする.Sϵ3ネットだからsSに対しあるsSであって|ss|<ϵ3+ϵ7を満たすものが存在する.これにより写像f:SSf(s)=sで定めることができる.
    (厳密には次のように構成する.開球B(s,ϵ3+ϵ7)Sの共通部分は空でないので選択公理によりsS(B(s,ϵ3+ϵ7)S)は空でない.よってここから元を一つとることができる.)
    fが単射でないと仮定すると,あるs,tSが存在してf(s)=f(t)=sとなる.このとき
    |st||ss|+|st|ϵ3+ϵ7+ϵ3+ϵ7<ϵとなりSϵ分離的であることに反する.よってfは単射であり,Sの濃度はn以下である.
  2. Sϵ分離的な部分集合全体のなす族とし,Sに包含によって順序を入れる.1点はϵ分離的だからSは空ではない.{Si}iSの全順序部分集合とする.iSiは再びϵ分離的であってどのSiよりも大きい.よってZornの補題により極大元が存在する.次に,極大元の一つをSとする.それがϵネットでなければ,Sのすべての点からϵ以上離れた元が存在するので,極大性に反する.
非拡大写像

X,を距離空間とする.写像f:XYはあるC0が存在して任意のx,yXに対して|f(x)f(y)|C|xy|を満たすときリプシッツ写像といい,Cをリプシッツ定数という.特にC1のときfを非拡大であるという.

非拡大写像は距離空間の圏において射とされる写像のようです.たしかに(?)逆も非拡大写像であれば等長写像になります.さらに非拡大写像は著しい性質を持ちます.

Xをコンパクト距離空間,f:XXを距離を保つ写像とする.このときf(X)=Xである.

fが全射でないと仮定し,pXf(X)をとる.f(X)はコンパクトだから閉.よってあるϵ>0が存在してB(p,ϵ)f(X)=となる.命題1からこのϵに対し極大なϵ3分離的部分集合が存在するのでそれをSとおく.コンパクト性から濃度|S|は自然数である.さらに命題1からSϵ3ネットでもある.ϵ3ネットが存在するから再び命題1により,ϵ分離的な集合は|S|より多くの元を含まない.特に{|T|:Tϵ分離的集合}とおくと,これは上に有界なNの部分集合である.
(Tの全体は2Xの部分集合なのでこのようなものを考えることができる.)
この最大値をnとし,最大値をとるときのϵ分離的集合をTとおく.f(T)はやはりϵ分離的でpf(T)のどの点からもϵ以上離れているのでf(T){p}ϵ分離的であり,最大であることに反する.

つまり自身への非拡大写像は距離を保てば全射です.さらにこの逆も成り立つことがわかります.つまり全射な非拡大写像は距離を保ちます.つまり自身への非拡大写像に対して距離を保つことと全射であることとは同値になります.(2)は今の定理の一般化です.

Xをコンパクト距離空間とする.
(1)非拡張写像f:XXが全射なら等長である.
(2)写像f:XXが任意のx,yXに対し|f(x)f(y)||xy|を満たせば等長である.

  1. あるp,qXが存在して|f(p)f(q)|<|pq|であると仮定する.このp,qに対しϵ>0であって|f(p)f(q)|<|pq|5ϵを満たすものをとる.nを自然数であって少なくとも一つのn個の元からなるϵネットが存在するものとする.NXnn点の組がXϵネットをなすようなもの全体の集合とする.NXnの閉集合なので特にコンパクトである.
    (実際,bma,bmNとする.a=(a1,,an),bm=(b1(m),,bn(m))とおく.任意にxXをとる.dist(x,{a1,,an})>ϵとする.あるδ>0が存在して任意のiに対して|xai|>ϵ+δを満たす.一方,収束性からあるmが存在して,任意のiに対して|bi(m)ai|<δ.さらにこのmに対してあるiが存在して|xbi(m)|ϵ.このときこのmiに対して
    |xai||xbi(m)|+|bi(m)ai|<ϵ+δ.これはδの取り方に反する.よってNは閉.)
    関数D:XnRD(x1,,xn)=i,j|xjxi|によって定める.この関数は連続であり,従ってN上で最小値を取る.S=(s1,,sn)で最小値を取るとする.fは全射,非拡大だからf(S):=(f(s1),,f(sn))とおくとこれは再びNの元である.
    (実際,任意にxXをとる.fは全射だから,あるcXが存在してx=f(c)を満たす.また,S=(s1,,sn)Nだから任意のδ>0に対してあるiが存在して|csi|<ϵ+δが成り立つ.よって
    |xf(si)|=|f(c)f(si)|C|csi|ϵ+δとなりdist(x,f(s))ϵ.よってf(S)Nの元である.)
    任意のi,jに対して|f(si)f(sj)||sisj|だからD(f(S))D(S)である.さらにDSで最小値を取るからD(f(S))=D(S)であり,任意のi,jに対して|f(si)f(sj)|=|sisj|が成り立つ.一方,あるi,jが存在して|psi|ϵ,|qsj|ϵを満たす.これらのi,jに対し
    |sisj||pq||psi||qsj||pq|2ϵ.また
    |f(si)f(sj)||f(p)f(q)|+|f(p)f(si)|+|f(q)f(sj)|
    |f(p)f(q)|+2ϵ|pq|3ϵ.
    よって|f(si)f(sj)|<|sisj|となり矛盾.

  2. 前の定理の証明と同様の議論でf(X)Xで稠密である.
    (実際,Xf(X)とし,pXf(X)をとる.f(X)は閉だからdist(p,f(X))>0である.よって,あるϵ>0が存在してB(p,ϵ)f(X)=となる.このϵに対しϵネットが存在する自然数のなかで最大のものをとれる.)
    f1:f(X)Xを考える.f1は非拡大写像でf(X)Xで稠密だから非拡大写像f1:XXに拡張できる.(1)からf1は等長である.よってその逆写像であるfは全射であり,等長.

幾何学的な定理でした.直積を考えて同時に等式を示すところがすごい

投稿日:2024121
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

qq_pp
qq_pp
6
3448

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中