はじめに
はじめまして、シェーマと申します。
いつかMathlogに記事を書きたいなと思っていたら、面白そうな問題を見つけたので、記事を書く練習がてら考えてみようと思いました。
先日
ぱぺさん
の投稿した
【問題提起】加算と2倍のレパートリー
という記事において、下記の問題が提示されています。
整数1に対して、以下の2つの操作を計回 (操作のみを回、操作のみを回も可)だけ行ったとき、その計算結果としてあり得る整数の個数をで表せ。
【操作】
回の操作でできる整数からなる集合を、その要素数をとおくと、定義から
が成り立ちます。
この問題はの一般項を求めよ、ということですね。
執筆時点で元の記事にはコメントにて
nissyさん
が先に一般項を求めておられましたが、別のアプローチを紹介したいと思います。
自然数の結合と重み付き和
唐突ですが、次の概念を考えます。
自然数の結合
自然数からなる組がを満たすとき、この組を自然数の結合という。また、自然数の結合のなす集合をとおく。
この「結合」という名称が正式なものかはわかりませんが、「composition」の直訳です。
いくつか具体例を見てみましょう。
との関係
さて、との例を見比べた方の中にはお気づきの方もいらっしゃるでしょうが、との間には次のような関係が存在します。
この事実を証明する前に、次の補題を用意します。
の元は、の元から次の2通りで構成されます。
この構成法によりの元は全てつくされます。
この操作をで考えると、(1)は、(2)はに対応しています。これにより、補題が示されます。
では定理1を証明していきましょう。
定理1
数学的帰納法で証明します。
のとき、より明らかです。
のときに成り立つと仮定し、のときを考えます。
補題1より、の元はの元を用いてまたはと表されます。
帰納法の仮定より、はの元です。これにより、とはの元です。
であるため、は全単射を与えることがわかります。
以上より、任意のについて主張が示されました。
これにより、を考察する際にとを用いることができるようになります。
の計算
では実際にを求めていきます。
そのために次の漸化式を証明しましょう。
のときは明らかです。
のときを考えます。そのためにを次の3つに分解します:
をの元としたとき、
(1) である元全体の集合。これはと表されるため、の元と1対1対応があります。
(2) である元全体の集合。これはと表されるため、の元と1対1対応があります。
(3) である元全体の集合。
これによりの元はの3つの集合の元から構成されることがわかります。
の分解法から、の元において由来の元は、由来の元はで与えられます。
前者は奇数、後者は偶数であるため、これらの像に重複する数字は存在しません。
つまりの元のうち、からくる元は個、からくる元は個存在することがわかりました。
後はからくる元のうち、重複しない元が個であることを示せば終了です。
さてをさらに次の2つに分解します:
をの元としたとき、
[1] の元全体からなる集合。
[2] の元全体からなる集合。
前者はであり、全部で個の元からなります(ただし、のときはとを同一視します)。
この集合からくるの元は、由来の元と重複しません。
なぜならの重み付き和による像はであり、最大の数はです。
一方の最小の数はであるため、由来の元の最小値はです。
これによりの元のうち、由来の元が個存在することがわかりました。
最後に由来の元は、全て由来の元と重複することを示します。
それは次の等式から示されます:
に対し、
が成り立つため、と、との重み付き和はそれぞれ等しくなります。
つまりであるとき、この操作を繰り返すことによって重み付き和の値が等しいまたはであるを見つけることができます。
このことは由来の元は全て由来の元と重複することを意味します。
以上より、の元はからくる元で全てつくされるため、が示されました。
最後にこの漸化式を解いていきましょう。
まず階差数列を考えると、
が成り立ちます。
最後の式は
と変形できます。これはフィボナッチ数列の漸化式と同じものです。
さらにであることから、
となります。
よって、
が導かれます(途中での公式を使いました)。
これはよりのときも成り立っています。
終わりに
はじめての記事でしたが、いかがでしたでしょうか。の数え方にはフィボナッチ数列が関係していなさそうなのに、一般項にはフィボナッチ数列が出てくるところが面白いですね。
最後におまけとして、唐突に出てきた自然数の結合やその重み付き和はどこから考えたのかを簡単に書いておきたいと思います。こちらは読みたい方だけどうぞ。それでは。
おまけ
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まずこの問題を考えるにあたって、いくつか計算してみようと思いました。
ただ、が大きくなると計算するの組み合わせが多くなるため、面倒だなと。
そこでの関係式を使い、を全て左に持っていっての形に持っていけば計算が多少楽になるのでは、と考えたわけです(ここではを自然数への右作用とみなしています)。
ではどうやっての組み合わせをの形に持っていくのか。
その初めの一歩として
というように、左から数えて何番目にがあるのか、という対応を考えます。
この対応で得られる組をとおいたとき、これはどのような演算に対応するのでしょうか。
の関係式から、との順番を入れ替えるとの数が2倍になることがわかります。
つまりを左に入れ替えていくと、そのよりも左にあるの数が2倍になって右に行くことになります。
において、番目のより左には個のがあり、それは入れ替えをすることで右に個のが並びます。
番目のと番目のの間には個のがもともとあるため、全部で個のが並んでいるわけです。
これらのは番目のを入れ替えていくことで個のになります。
以上の操作を繰り返すことで、を回作用させるとき、と同じ操作を与える作用は
となります。
これにより、2にを回作用させるとき、その作用がに対応しているとすると、
が得られることがわかります。
最後のシグマ記号の中身を見てみると、
であることから、
という対応で自然数の結合が得られます。
そして作用の計算結果は重み付き和となっています。
これらの概念はこうやって思いついたということですね。
以上、おまけでした。