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大学数学基礎解説
文献あり

中山の補題を行間0で理解する!

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$$\newcommand{d}[0]{\delta_{ij}} \newcommand{p}[0]{\varphi} \newcommand{tb}[0]{\tilde{b}} \newcommand{TD}[0]{\widetilde{\Delta}} $$

はじめに

「中山の補題」は,可換環論のほとんどの本(アティマク,松村など)に載っていて重要な定理ですが,証明がかなり端折られていて正確に理解するのが難しいです.
この記事では中山の補題の証明を完璧に理解することを目指します!

中山の補題

中山の補題

$M$$A$上有限生成な加群,$I$$A$のイデアルとする.
もし$M=IM$なら,$aM=0,a \equiv 1 \space mod \space I$なる$a \in A$が存在する.
さらに,$I \subset rad(A)$ならば$M=0$である.ここで$rad(A)$$A$のジャコブソン根基である.

中山の補題には様々な形があります.他の形についてはMAAMYUを参照してください.可換or非可換など微妙な差はありますが,ほとんど同じことを言っています.

中山の補題を示すときに使う命題(行列式のトリック)

次に示す行列式を用いた命題が,中山の補題の理解を阻害している一番の原因です.
この記事ではこの命題の証明に全力を尽くします.
(Reid可換環論REではこの命題を「行列式のトリック」と称していたため,採用します.)

行列式のトリック

$M$$A$上有限生成な加群,$I$$A$のイデアル,$\varphi :M \to M$を自己準同型とする.
$\varphi(M)\subset IM$ならば,$M$の自己準同型として
$\p^n+a_1\p^{n-1}+\dots+a_{n-1}\p+a_n=0 \space (a_i\in I^i)$
が成り立つ.

Step1. 行列$\Delta$を作る

$M$$A$上有限生成なので,$m_1,\dots,m_n\in M$が存在し,$M=< m_1,\dots,m_n>_A$,つまり$M$の各元は$m_1,\dots,m_n\in M$$A$線型結合で表される.

仮定$\p\subset IM$より,$M$の任意の元$m$に対して$\p(m)\in IM$であるから,$IM$の元の形より
$$m=\sum_{j=1}^n a_{j} m_j\space (a_{j}\in I)$$
と書くことができる.

生成元を$\p$で送った先$\p(m_1),\dots,\p(m_n)\in M$もこのように書けるため,各$i=1,\dots,n$について
$$\p(m_i)=\sum_{j=1}^n a_{ij} m_j\space (a_{ij}\in I)$$
と書くことができる.

ここで,$\p(m_i)-\sum_{j=1}^n a_{ij} m_j=0$なので,クロネッカーのデルタ$\d$を用いて

$$(1)\space\sum_{j=1}^n (\d\p-a_{ij})(m_j)=0\space$$

と書くことができる.

ここで,$a_{ij}$$m \mapsto a_{ij}m$という$M\to M$の自己準同型として扱っている.つまり

$$(\d\p-a_{ij})(m_i)= \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} \p(m_i)-a_{ii}m_i\space &(i=j) \\ -a_{ij}m_j\space &(i\neq j) \end{array} \right. \end{eqnarray} $$

となり,$(\d\p-a_{ij})\in End_A(M)$ ($M$の自己準同型全体)となっている.
(もしこれが分かりにくければ,$l_{a_{ij}}:M\to M;m\mapsto a_{ij}m$$a_{ij}$の代わりに用いて読み替えていただきたい.)

ここで,$\d\p-a_{ij}$$M$の生成元$m_1,\dots,m_n$を全て$0$に送るから,準同型写像として$0$である.

$b_{ij}:=\d\p-a_{ij}$とし,$\Delta:=(b_{ij})_{i,j}\in End_A(M)^{n\cross n}$とする.

つまり,$\Delta$は自己準同型を成分とする$n\cross n$行列である.

Step2. $det\Delta = 0$を示す

行列式$det\Delta$を計算するために,余因子行列を用いる.

$\Delta$の余因子行列$\TD=(\tb_{ij})_{i,j}\in End_A(M)^{n\cross n}$に対し,$\TD \cdot \Delta=det\Delta \cdot I_n$ ($I_n$$n$次単位行列)であるから,行列の積$\TD \cdot \Delta$$(i,j)$成分に着目すると,

$$ \sum_{k=1}^n \tb_{ik}b_{kj}= \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} det\Delta\space &(i=j) \\ 0\space &(i \ne j) \end{array} \right. \end{eqnarray} $$

であるから,再びクロネッカーのデルタ$\d$を用いると,

$$ \sum_{k=1}^n \tb_{ik}b_{kj}=\d det\Delta$$

と書ける.

ここで,$j$について和を取ると,

$$ (2)\space \sum_{j=1}^n \sum_{k=1}^n \tb_{ik}b_{kj}=\sum_{j=1}^n \d det\Delta=det\Delta\space(i=j)$$

となるが,左辺を変形すると,

$$ (3)\space \sum_{j=1}^n \sum_{k=1}^n \tb_{ik}b_{kj}=\sum_{k=1}^n \tb_{ik}\sum_{j=1}^n b_{kj}=\sum_{k=1}^n \tb_{ik}\sum_{j=1}^n (\delta_{kj}\p-a_{kj})$$

となり,$(1)$で言ったように$(\d\p-a_{ij})$は準同型写像として$0$なので,$(3)=\sum_{k=1}^n \tb_{ik}\sum_{j=1}^n0=0$となる.

従って$(2),(3)$を合わせて

$$ det\Delta=\sum_{j=1}^n \sum_{k=1}^n \tb_{ik}b_{kj}=0$$

が示された.

Step3. $\p^n+a_1\p^{n-1}+\dots+a_{n-1}\p+a_n=0$なる$a_i$を作る

今一度,行列$\Delta$を成分表示すると,

$$ \Delta=\begin{pmatrix} \p-a_{11} & -a_{12} & \dots & -a_{1n} \\ -a_{21} & \p-a_{22} & \dots & -a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ -a_{n1} & -a_{n2} & \dots & \p-a_{nn} \end{pmatrix} $$

となっていた.

$$ det\Delta=det\begin{pmatrix} \p-a_{11} & -a_{12} & \dots & -a_{1n} \\ -a_{21} & \p-a_{22} & \dots & -a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ -a_{n1} & -a_{n2} & \dots & \p-a_{nn} \end{pmatrix} =0$$

より,実際にこれを定義通り展開して計算し,$\p$の次数でくくることを考える.

各項は,$(\p-a_{11})(-a_{23})\cdots (-a_{n2})$のような形をしており,これを展開するのだから,$\p$の多項式の形になる.ここから求める式

$\p^n+a_1\p^{n-1}+\dots+a_{n-1}\p+a_n=0$

が出てくる.

ここで,$\p^{n-i}$の係数$a_i$は,行列式の計算では$i$個,対角成分でない成分との積を取っているのだから,それぞれの元$a_{kl}\in I$より,$a_i\in I^i$となる.

以上より,求める式

$\p^n+a_1\p^{n-1}+\dots+a_{n-1}\p+a_n=0 \space (a_i\in I^i)$

を作ることができた.

$A$の元を$M\to M$の準同型とも見ることができる,というのが大事なポイントです.

定理の証明

では,中山の補題を示していきましょう.

中山の補題

Step1. $a$の存在

$M=IM$という仮定は,特に$id_M(M) \subset IM$と書くこともできる.
これは「行列式のトリック」の仮定を満たすから,$a_1,\dots ,a_n\space (a_i\in I^i)$が存在して,

$$id_M^n+a_1id_M^{n-1}+\dots +a_{n-1}id_M+a_n=0$$

となる.

ここで$id_M$$1$と書くことにすれば,準同型の等式として

$$1+a_1+\dots+a_{n-1}+a_n=0$$

となる.これは,$m\in M$を代入すると

$$(1+a_1+\dots+a_{n-1}+a_n)(m)=m+a_1m+\dots+a_{n-1}m+a_nm=0$$

となるということである.上の式は準同型の等式だったが,$1+a_1+\dots+a_{n-1}+a_n\in A$に注意しよう.

ここで$a:=1+a_1+\dots+a_{n-1}+a_n\in A$とすれば,$a$は準同型として$0$に等しいため,任意の$m\in M$について$am=0$となるから,$aM=0$である.

また,$a_1,\dots,a_n\in I$より

$$a=1+a_1+\dots+a_{n-1}+a_n \equiv 1\space mod\space I$$

がわかる.($a_i\equiv 0\space mod\space I$ということである)

Step2. $I\subset rad(A)$の場合

$a\equiv 1\space mod\space I$だったから,$a-1\equiv 0\space mod\space I$,従って

$$a-1\in I\subset rad(A)$$

ここで,$x\in rad(A) \Longleftrightarrow x-1$$A$の単元

が一般に成り立つので,$a$$A$の単元である.(この証明はAMなどを参照)

$aM=0$だったから,両辺に左から$a^{-1}$をかけて

$$aa^{-1}M=M=0$$

となる.

なにか間違っている点,分かりにくい点があれば,教えていただけると幸いです!みんなで中山の補題を倒しましょう!

参考文献

[1]
Miles Reid, Undergraduate Commutative Algebra
[2]
松村英之, 復刊 可換環論
[3]
Atiyah-MacDonald, 可換代数入門
[4]
雪江明彦, 代数学の広がり
投稿日:13日前
OptHub AI Competition

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代数幾何を勉強しています

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