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東大数理院試過去問解答例(2023B03)

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ここでは東大数理の修士課程の院試の2023B03の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。

2023B03

$K=\mathbb{R}(X)$とし、多項式
$$ f(T)=T^8+4T^6+(7-X)T^4+4T^2+1 $$
の解の一つを$Y$とおく。更に$M:=K(Y)$とおき、$M/K$のGalois閉包を$L$とおく。
(1) 拡大次数$[M:K]$及び$[L:K]$を求めよ。
(2) $L/K$の中間体$N$で、$L/N$が巡回$4$次拡大であるようなものの個数を求めよ。
(3) $L/K$の中間体で、$K$上アーベルであるようなもののうち最大のものを$F$とおく。$[F:K]$及び$F$を求めよ。

  1. まず多項式$f$$\mathbb{R}(X)$の範囲で因数分解できたとすると、$\mathbb{R}$係数多項式$j,g,h$を用いて
    $$ f=f(X,T)=j(T)(g(T)X+h(T)) $$
    と分解できることがわかる。しかし$j(T)$$f$$X=1$及び$2$を代入した$(T^2+1)^4$及び$(T^4+1)^2-T^4$のいずれも割り切らないといけないから定数になるしかない。以上から$f$の既約性が従う。特に$Y$の取り方に関わらず$[M:K]={\color{red}8}$である。次に
    $$ \begin{split} f&=(T^2+1)^4-(X-1)T^4\\ &=((T^2+1)^2-\sqrt{X-1}T^2)((T^2+1)^2+\sqrt{X-1}T^2)\\ &=(T^2-\sqrt[4]{X-1}T+1)(T^2+\sqrt[4]{X-1}T+1)(T^2-i\sqrt[4]{X-1}T+1)(T^2+i\sqrt[4]{X-1}T+1) \end{split} $$
    である。以上の因数分解及び既約多項式の根を一つ添加した体のガロア閉包は既約多項式の最小分解体なことを考慮すると、
    $$ L=\mathbb{C}\left(\sqrt[4]{X-1},\sqrt{\sqrt{X-1}-4},\sqrt{\sqrt{X-1}+4}\right) $$
    なことがわかる。$\alpha=\sqrt{X-1}$とおく。このとき
    $$ L=\mathbb{C}(\sqrt{\alpha},\sqrt{\alpha-4},\sqrt{\alpha+4}) $$
    $\mathbb{C}(\alpha)$$8$次拡大であり、$\mathbb{C}(\alpha)$$K$$4$次拡大である。よって$[L:K]={\color{red}32}$である。
  2. まず体
    $$ S=\mathbb{R}(\sqrt{X-1}) $$
    を考えたとき、$H:=\mathrm{Gal}(L/S)\simeq(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})^4$である。これは巡回$4$次部分拡大を持たないから、$N$$S$を含まない。よって位数$4$の巡回群$\mathrm{Gal}(L/N)$の生成元$\sigma$を取ったとき、これは$\sigma(\sqrt{X-1})=-\sqrt{X-1}$を満たしている。このような元は
    $$ \begin{split} \sigma\left(\sqrt[4]{X-1}\right)&=\pm i\sqrt[4]{X-1}\\ \sigma\left(\sqrt{\sqrt{X-1}-4}\right)&=\pm i\sqrt{\sqrt{X-1}+4}\\ \sigma\left(\sqrt{\sqrt{X-1}+4}\right)&=\pm i\sqrt{\sqrt{X-1}-4}\\ \sigma(i)&=\pm i \end{split} $$
    を満たすもので尽くされるが、この中で位数$4$の元は$12$個ある。よって$N$の個数は$\frac{12}{6}={\color{red}6}$個である。
  3. まず$\tau\in G$
    $$ \begin{split} \sigma\left(\sqrt[4]{X-1}\right)&= i\sqrt[4]{X-1}\\ \sigma\left(\sqrt{\sqrt{X-1}-4}\right)&=i\sqrt{\sqrt{X-1}+4}\\ \sigma\left(\sqrt{\sqrt{X-1}+4}\right)&=i\sqrt{\sqrt{X-1}-4}\\ \sigma(i)&=- i \end{split} $$
    で定まる元とし、その生成する部分群を$I\simeq\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$とする。次に$\sigma_{s,t,u,r}$
    $$ \begin{split} \sigma_{s,t,u,r}\left(\sqrt[4]{X-1}\right)&= (-1)^s\sqrt[4]{X-1}\\ \sigma_{s,t,u,r}\left(\sqrt{\sqrt{X-1}-4}\right)&=(-1)^t\sqrt{\sqrt{X-1}-4}\\ \sigma_{s,t,u,r}\left(\sqrt{\sqrt{X-1}+4}\right)&=(-1)^u\sqrt{\sqrt{X-1}+4}\\ \sigma_{s,t,u,r}(i)&=(-1)^ri \end{split} $$
    で定義されるものとする。これら全体は$H$を生成する。このとき
    $$ G\simeq H\rtimes I\simeq (\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})^4\rtimes \mathbb{Z}/2\mathbb{Z} $$
    である。いま$G$の交換子部分群は任意の$s,t,u,r$に対して
    $$ \tau\sigma_{s,t,u,r}\tau\sigma_{s,t,u,r}=\sigma_{0,s,s+r+u,s+r+u} $$
    を含むので、交換子部分群は少なくとも$4$つの元を持つ。よって$[F:K]\leq\frac{32}{4}={8}$である。実際
    $$ {\mathbb{C}(\sqrt{X-1},\sqrt{X-17})} $$
    $K$$8$次アーベル拡大になっている。以上から
    $$ F={\color{red}\mathbb{C}(\sqrt{X-1},\sqrt{X-17})} $$
    であり、$[F:K]={\color{red}8}$である。

上記の議論に於いて$\tau$$\sigma_{s,t,u,r}$への共役を直接計算することで、$G$の群構造は
$$ \begin{split} \mathbb{Z}/2\mathbb{Z}&\to& \mathrm{GL}_4(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})\\ i&\mapsto&\begin{pmatrix} 1&0&0&0\\ 1&1&0&0\\ 1&0&0&1\\ 1&0&1&0 \end{pmatrix}^i\\ \end{split} $$
の誘導する半直積
$$ (\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})^4\rtimes\mathbb{Z}/2\mathbb{Z} $$
として実現されることがわかります。しかしこの問題に於いては(2)では位数$4$の元の個数を、(3)では交換子部分群が位数$4$以上なことを見れば充分であり、いずれも群構造を求めてからこれらを見るよりガロア群の元として直接計算する方が早く確実と判断し、その方針で議論を進めました。

投稿日:20231017
更新日:826
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藍色の日々。趣味の数学と院試の過去問の(間違ってるかもしれない雑な)解答例を上げていきます。リンクはX(旧Twitter)アカウント

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