この文章ではConway-Coxeterのfrieze patternと, その連続極限であるLiouvilleの偏微分方程式についての事実をまとめる.
\begin{array}{ccccccc}
1&&1&&1&&1\\
&3&&2&&2&\\
2&&5&&3&&3\\
&3&&7&&4&\\
1&&4&&9&&1\\
&1&&5&&2&\\
1&&1&&1&&1
\end{array}
のように, 斜めの格子上に数が並んでいて, 全ての4つ組
\begin{array}{ccc}
&b&\\
a&&d\\
&c&
\end{array}
に対して$ad-bc=1$が成り立つものをConway-Coxeterのfrieze patternと呼ぶ.
\begin{array}{ccccc}
&&e&&\\
&b&&g&\\
a&&d&&i\\
&c&&h&\\
&&f\\
\end{array}
部分的にこういう並び($ad-bc=1$等が成り立つ)のときに$a,\dots,h$が
正整数なら$i$も整数であることを言いたい。次のような行列の積を考える(上の並びを2$\times$2のブロックで見たときの下$\times$左${}^{-1}\times$上という形をしている);
\begin{align}
&\begin{pmatrix}
c&d\\f&h
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
a&b\\c&d
\end{pmatrix}^{-1}
\begin{pmatrix}
b&e\\d&g
\end{pmatrix}\\
=&
\begin{pmatrix}
c&d\\f&h
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
d&-b\\-c&a
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
b&e\\d&g
\end{pmatrix}\\
=&
\begin{pmatrix}
d&g\\h&j
\end{pmatrix},
\end{align}
ただし$j=fde-hce-fbg+hag$であり、これは$a,\dots,h$が整数ならばやはり整数.
一方、行列式の性質より$dj-gh=1$であり、frieze patternのルールにより$di-gh=1$でもあるので$i=j$. よって左から右への帰納法が使えるので、パターンに登場する数は全て整数.
まず便宜上frieze pattern を45度回転して、
\begin{align}
\begin{matrix}
a_{11}&a_{12}&\cdots&1&0&-1\\
a_{21}&a_{22}&&&1&0\\
\vdots&&\ddots&&&\ddots\\
1&&&&&\\
0&1&&&&\\
-1&0&\ddots&&&
\end{matrix}
\end{align}
というように、パターンに現れる数たちを$a_{i,j}$とする. Frieze pattern のルールに則り、斜めに並んだ$1$の外側を$0$、さらにその外側を$-1$で形式的に埋めてある. 各の位置にある$2\times2$小正方行列を
$
\begin{pmatrix}
a_{i,j}&a_{i,j+1}\\
a_{i+1,j}&a_{i+1,j+1}
\end{pmatrix}
\equiv A_{i,j}
$
とすると、
\begin{align} {A_{i,j}}^{-1}A_{i,j+1}={A_{i+1,j}}^{-1}A_{i+1,j+1}, \end{align}
がなりたつ. これより、
\begin{align} {A_{i,j}}^{-1}A_{i,j+l}={A_{i+k,j}}^{-1}A_{i+k,j+l}. \end{align}
上の図より
$
A_{1+k,1}=
\begin{pmatrix}
0&1\\-1&0
\end{pmatrix},
A_{1,1+l}=
\begin{pmatrix}
0&-1\\1&0
\end{pmatrix}
$
となる$k,l$が存在するので、
\begin{align}
A_{1+k,1+l}&=A_{1+k,1}{A_{1,1}}^{-1}A_{1,1+l}\\
&=
\begin{pmatrix}
0&1\\-1&0
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
a_{22}&-a_{12}\\-a_{21}&a_{11}
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
0&-1\\1&0
\end{pmatrix}\\
&=
\begin{pmatrix}
a_{11}&a_{21}\\a_{12}&a_{22}
\end{pmatrix}
\qquad(={A_{1,1}}^{\mathrm T}),
\end{align}
がなりたつ(周期性).
Frieze pattern のルール
\begin{align} a_{i,j}a_{i+1,j+1}-a_{i,j+1}a_{i+1,j}=1,\tag{1}\label{eq:dfp} \end{align}
において$a_{i,j}=\varepsilon^{-1}u(x,y),a_{i+k,j+l}=\varepsilon^{-1}u(x+k\varepsilon,y+l\varepsilon)$とおいて連続極限$\varepsilon\to0$をとると,
\begin{align} uu_{xy}-u_xu_y=1.\tag{2}\label{eq:cfp} \end{align}
ただし, $u_x\equiv\displaystyle\frac{\partial u}{\partial x}$などの表記を用いる. 変換$u=e^\phi$により, 可積分系におけるLiouvilleの偏微分方程式
\begin{align} \phi_{xy}=e^{-2\phi}, \end{align}
が現れる.
変数変換$u^{-2}=-\lambda$をおこなったLiouville の偏微分方程式
\begin{align} (\log\lambda)_{xy}\equiv\frac{\partial^2\log\lambda}{\partial x\partial y}=2\lambda, \end{align}
の一般解を求めたい. 変数変換$\lambda=\theta_x$を行い, $x$で一回積分すると,
\begin{align}
\frac{\theta_{xy}}{\theta_x}=2\theta+\mu(y),
\end{align}
ただし$\mu$は任意函数. 分母を払って再び$x$で積分すると,
\begin{align}
\theta_y=\theta^2+\mu(y)\theta+C(y).\tag{3}\label{eq:riccati}
\end{align}
ただし$C$も任意函数. これはRiccati型常微分方程式の形をしているので, 特殊解$\theta_0(y)=\varpi(y)$が見つかれば一般解を求めることができる; 変数変換
\begin{align}
\theta(x,y)=\varpi(y)-\frac1{\zeta(x,y)},
\end{align}
を(\ref{eq:riccati})に代入し, $\varpi$が特解であることに注意して整理すると,
\begin{align}
\zeta_y+(2\varpi+\mu)\zeta=1.
\end{align}
これは容易に積分ができて,
\begin{align}
\psi(y)+\varphi(x)=\psi'(y)\zeta.
\end{align}
ただし,
\begin{align}
\psi'(y)=\exp\int^y(2\varpi+\mu)dy,
\end{align}
により, 任意函数$\mu$の自由度を$\psi$で置き換えた. また$\varphi(x)$は新たな任意函数($y$で積分した時の積分定数)である. 結局,
\begin{align} \lambda=\theta_x=\left(\varpi(y)-\frac1\zeta\right)_x=\frac{\varphi'(x)\psi'(y)}{[\varphi(x)+\psi(y)]^2},\tag{4}\label{eq:general_solution_liouville} \end{align}
である(特解$\varpi$に依らない)[1].
差分方程式(\ref{eq:dfp})を"元祖" Frieze pattern の境界条件$a_{i,i}=0,a_{i+1,i}=1$のもとで解くと
\begin{align} a_{i,j}=a_{i,1}a_{j,0}-a_{i,0}a_{j,1},\quad(a_{i,1}a_{i+1,0}-a_{i,0}a_{i+1,1}=1),\tag{5}\label{eq:sol_d} \end{align}
という解が得られる. これをヒントに非線形方程式(\ref{eq:cfp})を境界条件
\begin{align}
u(x,x)=0,\quad u_y(x,x)=1,\tag{6}\label{eq:bc}
\end{align}
のもとで解きたい. 離散版の解(\ref{eq:sol_d})に倣って$u(x,y)=f(x)g(y)-f(y)g(x)$というansatzをおくと, (\ref{eq:bc})より$f(x)g'(x)-f'(x)g(x)=1$. このとき(\ref{eq:cfp})も満たされる. よって$f(x), g(x)$は適当な重み函数$w(x)$に対してSturm-Liouville型微分方程式
\begin{align}
\left[\frac{d^2}{dx^2}+w(x)\right]\psi(x)=0,
\end{align}
の線型独立な解になっている. なお、境界条件は$f(0)=g'(0)=1, f'(0)=g(0)=0$が$u(0,y)=g(y),u_x(0,y)=-f(y) $に対応する.
Liouville方程式(を変数変換したもの)
\begin{align}
uu_{xy}-u_xu_y=1,
\end{align}
の解, 特に離散版の"元祖" frieze pattern のような周期的な解を求めたい. 一般解(\ref{eq:general_solution_liouville})において$\varphi(x)=f(x)^{-1}, \psi(y)=g(y)$とおくと(\ref{eq:cfp})の一般解は
\begin{align} u(x,y)=(-\lambda)^{-1/2}=\frac{1+f(x)g(y)}{\sqrt{f'(x)g'(y)}}, \end{align}
である. しかし、実周期解$u(x,y)$を作ろうと思って$f$や$g$を実周期函数にすると不都合が生じる;つまり、実周期函数$f(x)$はどこかで$f'(x)=0$となるので$u$が特異点を持ってしまうのである.
これを解決するには$f$や$g$を複素周期函数にすればよい. つまり, $u$が実になるように$f(x)=ie^{2i\phi(x)}, g(y)=ie^{-2i\psi(y)}$とおくと,
\begin{align}
u(x,y)=\frac{\sin(\phi(x)-\psi(y))}{\sqrt{\phi'(x)\psi'(y)}}.
\end{align}
今度は$\phi$や$\psi$に課される条件がより緩やかな"準周期性"
\begin{align}
\phi(x+2\pi)-\phi(x)\in2\pi\mathbb N,\psi(y+2\pi)-\psi(y)\in2\pi\mathbb N,\label{eq:cond_period}
\end{align}
になるので, これと分母が消えない条件$\phi', \psi'\ne0$をみたすような$\phi,\psi$をとればよい. たとえば$\phi'(x)=\psi'(x)=(3+2\sin x)^2>0$とすると,
\begin{align}
u(x,y)=\frac{\sin(11(x-y)-12(\cos x-\cos y)-\sin 2x+\sin 2y)}{(3+2\sin x)(3+2\sin y)},
\end{align}
という解が得られる. なお, 条件$\phi(x)-\psi(x)\in2\pi\mathbb N$を課すと, 境界条件$u(x,x)=0, u_y(x,x)=1$がみたされる.