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大学数学基礎解説
文献あり

リー代数1.3.2 可解リー代数と巾零リー代数

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巾零性

巾零の定義

(降中心列)

 LLie代数とする。Lのイデアルの列を次で定める。

 L0:=L,L1:=[L,L],L2:=[L,L1],,Lk+1:=[L,Lk],

 L0L1LkL降中心列(descending central series)という。

(巾零)

 LLie代数とする。
 L巾零(nilpotent)であるとは、あるnNが存在してLn={0}となることをいう。

巾零の性質

 LLie代数とする。
 Lが巾零Lie代数ならば、Lは可解Lie代数である。

 L0=L(0)=L,L1=L(1)=[L,L]は定義よりすぐにわかる。
 L(k)Lkを仮定して、L(k+1)Lk+1を示そう。
 L(k+1)=[L(k),L(k)][L,Lk]=Lk+1より正しい。
 すなわち、すべての自然数kについて、L(k)Lkが成り立つ。
 Lは巾零より、あるnNが存在して、Ln={0}
 したがって、L(n)={0}がわかり、Lは可解である。

 上三角行列の可解性のときに使った記号や補題を使うと次がわかる。
 L:=tn(F)=g(0)とすると、L1=nn(F)=g(1)
 L2=[L,L1]=[g(0),g(1)]=g(1)(0+1=1)
 よって、k1のとき、Lk=L1=g(1)であり、巾零でない。
 この例は、上の命題の逆は成り立たないことを示している。

 M:=nn(F)=g(1)とすると、M1=[g(1),g(1)]=g(2)
 M2=[M,M1]=[g(1),g(2)]=g(3)(1+1=2)
 よって、k0のとき、Mk=g(k+1)であり、
 Mn1=g(n)={0}となるので、巾零である。

 LLie代数とする。
 (i)Lが巾零ならば、Lの部分Lie代数や、準同型の像は巾零である。
 (ii)L/Z(L)が巾零ならば、Lは巾零である。
 (iii)Lが巾零で、L{0}ならば、Z(L){0}である。

 (i)MLの部分Lie代数とすると、MkLkとなるので、Lが巾零より、Mも巾零である。

 φ:LMを全射準同型とする。φ(Lk)=Mkを示そう。
 k=0のときは、全射性より正しい。
 kのとき正しいと仮定する。

 xL,yLkとすると、仮定よりφ(y)Mk
 よって、φ([x,y])=[φ(x),φ(y)][M,Mk]=Mk+1
 φ(Lk+1)Mk+1

 xM,yMkをとると、[x,y]Mk+1を考えると、
 仮定より、あるxL,yLkが存在して、x=φ(x),y=φ(y)となる。
 このとき、[x,y]=[φ(x),φ(y)]=φ([x,y])φ(Lk+1)
 Mk+1φ(Lk+1)
 したがって、φ(Lk)=Mkが成り立つ。
 よって、Lが巾零なら準同型の像Mも巾零である。
 
 (ii)L/Z(L)が巾零より、あるkが存在して、(L/Z(L))k={0}
 π:LL/Z(L)を標準的な全射とすると、
 (i)の結果より、π(Lk)={0} LkKerπ=Z(L)
 Lk+1=[L,Lk][L,Z(L)]={0}なので、Lは巾零である。

 (iii)Lが巾零でL{0}より、
 Lk1{0}かつLk={0}をみたすk1が存在する。
 Lk=[L,Lk1]={0}より、中心の定義からLk1Z(L)
 Lk1{0}より、Z(L){0}がわかる。

巾零と冪零変換

 Lie代数が巾零という性質は、元に注目してみると次のようにかける。

 Lが巾零Lie代数ならば、Lにのみ依存するnNが存在して、
 任意のxk,yL(1kn)について、k=1nadxk(y)=0が成り立つ。

 Lにのみ依存するnとは、Ln={0}となるnのことである。
 adxn(y)=[xn,y]L1
 adxn1adxn(y)=[xn1,[xn,y]][L,L1]=L2
 これを繰り返すと、k=1nadxk(y)Ln={0}となる。

補題3

 Lが巾零Lie代数ならば、Lにのみ依存するnNが存在して、
 すべてのxLに対し、(adx)n=0が成り立つ。
 つまり、adxは巾零変換である。

 補題3において、xk=xとすれば、(adx)n(y)=0
 すなわち、(adx)n=0がわかる。 

驚くべきことに、この系の逆が成り立つ。

エンゲルの定理 (EngelsTheorem)

 LLie代数とする。
 すべてのxLに対しadxが巾零ならば、Lは巾零Lie代数である。

この証明は次回にまわす。

 xgl(V)を巾零変換とする。このとき、adxも巾零である。

 xgl(V)が巾零変換より、あるnNが存在して、xn=0となる。
 次にadxを分解する。
 Lx,Rxgl(gl(V))を次で定める。Lx(y):=xy,Rx(y):=yx
 明らかに、(Lx)n=0,(Rx)n=0である。
 さらに、LxRxは可換で、adx=LxRxとかける。
 さて、可換なので、二項定理が適用できて、
 (adx)2n=(LxRx)2n=k=02n(2nk)(Lx)k(Rx)2nk
 各kに対し、k2nkn以上なので、(Lx)k(Rx)2nk=0
 (adx)2n=0 すなわち、adxは巾零である。

 この補題の逆は成り立たないことに注意しよう。

補題の逆の反例

 Ingln(F)は巾零行列でないが、adIn=0より巾零である。

参考文献

[1]
James E. Humphreys, Introduction to Lie Algebras and Representation Theory
投稿日:110
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  3. 巾零の性質
  4. 巾零と冪零変換
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