$L$を$\mathrm{Lie}$代数とする。$L$のイデアルの列を次で定める。
$L^0:=L,\,L^1:=[L,L],\,L^2:=[L,L^1],\dots,L^{k+1}:=[L,L^k],\dots$
$L^0\supset L^1\supset\cdots\supset L^k\supset\cdots$を$L$の降中心列(descending central series)という。
$L$を$\mathrm{Lie}$代数とする。
$L$が巾零(nilpotent)であるとは、ある$n\in\mathbb{N}$が存在して$L^n=\set0$となることをいう。
$L$を$\mathrm{Lie}$代数とする。
$L$が巾零$\mathrm{Lie}$代数ならば、$L$は可解$\mathrm{Lie}$代数である。
$L^0=L^{(0)}=L,\,L^1=L^{(1)}=[L,L]$は定義よりすぐにわかる。
$L^{(k)}\subset L^k$を仮定して、$L^{(k+1)}\subset L^{k+1}$を示そう。
$L^{(k+1)}=[L^{(k)},L^{(k)}]\subset [L,L^k]=L^{k+1}$より正しい。
すなわち、すべての自然数$k$について、$L^{(k)}\subset L^k$が成り立つ。
$L$は巾零より、ある$n\in \mathbb{N}$が存在して、$L^n=\set0$
したがって、$L^{(n)}=\set0$がわかり、$L$は可解である。$\Box$
上三角行列の可解性のときに使った記号や補題を使うと次がわかる。
$L:=\mathfrak{t}_n(\mathbb{F})=\mathfrak{g}^{(0)}$とすると、$L^1=\mathfrak{n}_n(\mathbb{F})=\mathfrak{g}^{(1)}$
$L^2=[L,L^1]=[\mathfrak{g}^{(0)},\mathfrak{g}^{(1)}]=\mathfrak{g}^{(1)}$$(0+1=1)$
よって、$k\geq1$のとき、$L^k=L^1=\mathfrak{g}^{(1)}$であり、巾零でない。
この例は、上の命題の逆は成り立たないことを示している。
$M:=\mathfrak{n}_n(\mathbb{F})=\mathfrak{g}^{(1)}$とすると、$M^1=[\mathfrak{g}^{(1)},\mathfrak{g}^{(1)}]=\mathfrak{g}^{(2)}$
$M^2=[M,M^1]=[\mathfrak{g}^{(1)},\mathfrak{g}^{(2)}]=\mathfrak{g}^{(3)}$$(1+1=2)$
よって、$k\geq0$のとき、$M^k=\mathfrak{g}^{(k+1)}$であり、
$M^{n-1}=\mathfrak{g}^{(n)}=\set0$となるので、巾零である。
$L$を$\mathrm{Lie}$代数とする。
$\mathrm{(i)}\,L$が巾零ならば、$L$の部分$\mathrm{Lie}$代数や、準同型の像は巾零である。
$\mathrm{(ii)}\,L/Z(L)$が巾零ならば、$L$は巾零である。
$\mathrm{(iii)}\,L$が巾零で、$L\neq\set0$ならば、$Z(L)\neq\set0$である。
$\mathrm{(i)}\,M$を$L$の部分$\mathrm{Lie}$代数とすると、$M^k\subset L^k$となるので、$L$が巾零より、$M$も巾零である。
$\varphi:L\to M$を全射準同型とする。$\varphi(L^k)=M^k$を示そう。
$k=0$のときは、全射性より正しい。
$k$のとき正しいと仮定する。
$x\in L,\,y\in L^k$とすると、仮定より$\varphi(y)\in M^k$
よって、$\varphi([x,y])=[\varphi(x),\varphi(y)]\in [M,M^k]=M^{k+1}$
$\therefore \varphi(L^{k+1})\subset M^{k+1}$
$x\in M,\,y\in M^k$をとると、$[x,y]\in M^{k+1}$を考えると、
仮定より、ある$x'\in L,\,y'\in L^k$が存在して、$x=\varphi(x'),\,y=\varphi(y')$となる。
このとき、$[x,y]=[\varphi(x'),\varphi(y')]=\varphi([x',y'])\in \varphi(L^{k+1})$
$\therefore M^{k+1}\subset \varphi(L^{k+1})$
したがって、$\varphi(L^k)=M^k$が成り立つ。
よって、$L$が巾零なら準同型の像$M$も巾零である。
$\mathrm{(ii)}\,L/Z(L)$が巾零より、ある$k$が存在して、$(L/Z(L))^k=\set0$
$\pi :L\to L/Z(L)$を標準的な全射とすると、
$\mathrm{(i)}$の結果より、$\pi (L^k)=\set0$ $\therefore L^k\subset \mathrm{Ker}\,\pi=Z(L)$
$L^{k+1}=[L,L^k]\subset [L,Z(L)]=\set0$なので、$L$は巾零である。
$\mathrm{(iii)}\,L$が巾零で$L\neq\set0$より、
$L^{k-1}\neq\set0$かつ$L^k=\set0$をみたす$k\geq1$が存在する。
$L^k=[L,L^{k-1}]=\set0$より、中心の定義から$L^{k-1}\subset Z(L)$
$L^{k-1}\neq\set0$より、$Z(L)\neq\set0$がわかる。$\Box$
$\mathrm{Lie}$代数が巾零という性質は、元に注目してみると次のようにかける。
$L$が巾零$\mathrm{Lie}$代数ならば、$L$にのみ依存する$n\in\mathbb{N}$が存在して、
任意の$x_k,y\in L\,(1\leq k\leq n)$について、$\displaystyle\prod_{k=1}^n\mathrm{ad}\,x_k(y)=0$が成り立つ。
$L$にのみ依存する$n$とは、$L^n=\set0$となる$n$のことである。
$\mathrm{ad}\,x_n(y)=[x_n,y]\in L^1$
$\mathrm{ad}\,x_{n-1}\,\mathrm{ad}\,x_n(y)=[x_{n-1},[x_n,y]]\in [L,L^1]=L^2$
これを繰り返すと、$\displaystyle\prod_{k=1}^n\mathrm{ad}\,x_k(y)\in L^n=\set0$となる。$\Box$
$L$が巾零$\mathrm{Lie}$代数ならば、$L$にのみ依存する$n\in\mathbb{N}$が存在して、
すべての$x\in L$に対し、$(\mathrm{ad}\,x)^n=0$が成り立つ。
つまり、$\mathrm{ad}\,x$は巾零変換である。
補題3において、$x_k=x$とすれば、$(\mathrm{ad}\,x)^n(y)=0$
すなわち、$(\mathrm{ad}\,x)^n=0$がわかる。 $\Box$
驚くべきことに、この系の逆が成り立つ。
$L$を$\mathrm{Lie}$代数とする。
すべての$x\in L$に対し$\mathrm{ad}\,x$が巾零ならば、$L$は巾零$\mathrm{Lie}$代数である。
この証明は次回にまわす。
$x\in \mathfrak{gl}(V)$を巾零変換とする。このとき、$\mathrm{ad}\,x$も巾零である。
$x\in \mathfrak{gl}(V)$が巾零変換より、ある$n\in\mathbb{N}$が存在して、$x^n=0$となる。
次に$\mathrm{ad}\,x$を分解する。
$L_x,R_x\in \mathfrak{gl}(\mathfrak{gl}(V))$を次で定める。$L_x(y):=xy\,,R_x(y):=yx$
明らかに、$(L_x)^n=0\,,(R_x)^n=0$である。
さらに、$L_x$と$R_x$は可換で、$\mathrm{ad}\,x=L_x-R_x$とかける。
さて、可換なので、二項定理が適用できて、
$\displaystyle(\mathrm{ad}\,x)^{2n}=(L_x-R_x)^{2n}=\sum_{k=0}^{2n}\binom{2n}{k}(L_x)^k(-R_x)^{2n-k}$
各$k$に対し、$k$か$2n-k$は$n$以上なので、$(L_x)^k(-R_x)^{2n-k}=0$
$\therefore (\mathrm{ad}\,x)^{2n}=0$ すなわち、$\mathrm{ad}\,x$は巾零である。$\Box$
この補題の逆は成り立たないことに注意しよう。
$I_n\in\mathfrak{gl}_n\mathbb{(F)}$は巾零行列でないが、$\mathrm{ad}\,I_n=0$より巾零である。