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大学数学基礎解説
文献あり

グラフ曲面の平均曲率と定義域

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曲面論で習うGauss曲率と平均曲率. Gauss-Bonnetの定理 を通してトポロジーとも深く関わるGauss曲率に対して「平均曲率ってなんやねん?」と, 曲面論を習いたての頃の私は思っていました. 似たような感覚を抱いたまま気がつけば曲面論が終わってしまい, 結局あいつはなんだったのだ?と思った方も少なくないのではないでしょうか.

実は平均曲率は「空間の中に置かれた図形(部分多様体)の幾何学」と大きく関わりがあります. 今回は簡単な部分多様体の例である関数のグラフの成す曲面について, 「平均曲率の制限が, 関数の定義域のサイズを制限する」というHeinzの不等式を紹介します.

Heinzの不等式[1]

r>0, a>0を定数とし, Br={(x,y)R2|x2+y2<r2}とする. 関数uC0(Br)C2(Br)のグラフの平均曲率HHaを満たすならば,
r<1a
でなければならない.

習ったもののよくわからないまま終わった平均曲率の, 形を制御しうる重要な幾何学的量としての一側面を感じていただければと思います.

曲率の計算とHeinzの不等式

以下, uを円板Br上のC2関数で, 境界も込めて連続なものとします.

グラフ曲面の曲率の計算

関数uのグラフとして得られる曲面Σ={(x,y,u(x,y))R3|(x,y)Br}の曲率について復習しましょう.
曲面上の点p=(x,y,u(x,y))における独立な接ベクトルはpx=(1,0,ux), py=(0,1,uy)で与えられます. 内積pxpxなどを計算することで, 曲面Σ第一基本形式(Riemann計量)
g=(1+ux2uxuyuxuy1+uy2)
と表せます. ついでに, 第一基本形式の逆行列を計算すると,
g=11+|u|2(1+uy2uxuyuxuy1+ux2)
となります.

次に, 第二基本形式を計算します. まず, 点pにおける法ベクトルN
N(x,y)=11+|u|2(ux,uy,1)
で与えられます. pの二階微分は
pxx=(0,0,uxx),pxy=pyx=(0,0,uxy),pyy=(0,0,uyy)
となりますので, 内積pxxNなどを計算することで, Σの第二基本形式は
A=11+|u|2(uxxuxyuxyuyy)
となります.
以上を用いると, 曲面ΣGauss曲率および平均曲率
K=detg1A=uxxuyyuxy2(1+|u|2)2,H=12trg1A=(1+uy2)uxx2uxuyuxy+(1+ux2)uyy2(1+|u|2)32
と計算されます. A単体でなくg1をかけてから行列式やトレースを取っているのは, 計量gに関してそれらを考えているからです. こう考えると, Riemann幾何学とのつながりもわかりやすいかと思います.
少し式変形をすると, 平均曲率は次のように少しスッキリした形式で書くことができます.

H=12div(u1+|u|2)=12[(ux1+ux2+uy2)x+(uy1+ux2+uy2)y]

まず, 直接計算により,
(1+uy2)uxxuxuyuxy(1+|u|2)32=uxx(1+|u|2)12ux2uxx+uxuyuxy(1+|u|2)32=uxx(1+|u|2)12uxuxuxx+uyuyx(1+|u|2)32=uxx(1+|u|2)12ux(1+ux2+uy2)x2(1+|u|2)32=uxx(1+|u|2)12+ux(1(1+|u|2)12)x=(ux1+|u|2)x.
同様に,
uxuyuxy+(1+ux2)uyy(1+|u|2)32=(uy1+|u|2)y
となるので,
H=12div(u1+|u|2).

続いて, 簡単な例について平均曲率を計算してみます.

球面

関数u=r2(x2+y2)のグラフで表される曲面は, 半径rの半球面になります.
ux=xu,uy=yu,uxx=r2y2u3,uxy=xyu3,uyy=r2x2u3
を用いると,
(1+uy2)uxx=(1+ux2)uxx=(r2x2)(r2y2)u5,2uxuyuxy=2x2y2u5
となります. これらを用いて平均曲率を計算すると,
H=1r
となります. この結果から, 平均曲率の絶対値|H|=1/rが大きくなるには, あらかじめ定義域の半径rを小さくしておく必要があることがわかります.

円柱面

関数u=r2x2のグラフで表される曲面は, 半径rの円柱面になります.
ux=xu,uxx=r2u3,uy=uxy=uyy=0
より, Gauss曲率および平均曲率は
K=0,H=1r
となります. 特にGauss曲率K0になってしまうため, これだけでは円柱は平面と区別がつけられません. 平均曲率Hも加味することで, 我々は(空間内に置かれた)円柱を「曲がったもの」として認識でき, 平面と区別することができているのです.

また, この例でもやはり, |H|を大きくするためには円柱の半径rを小さくする必要があることが見て取れます.

定理の証明

具体例を通してHeinzの不等式の雰囲気を感じてもらったところで, いよいよ証明に入ります.

Heinzの不等式の証明

はじめに, 平均曲率の定義から, 法ベクトルNの符号を反転させると平均曲率Hの符号も反転することに注意する. 仮定|H|a>0より, Hの連続性からその符号は一定となるから, 必要ならば符号を反転させることで最初からHaと仮定してよい.

発散定理より
BrHdxdy=12Brdiv(u1+|u|2)dxdy=12Bruν1+|u|2ds,
ただし, νは円周Brの外向き単位法ベクトル, dsは円周の微小線素とする.
円周Br上で座標x=rcosθ, y=rsinθを導入すると,
ν=(cosθ,sinθ),ds=rdθ
と表せるので,
Bruν1+|u|2ds=r02πuxcosθ+uysinθ1+|u|2dθ.
ここで, Cauchy-Schwartzの不等式により
uxcosθ+uysinθux2+uy2<1+|u|2
となるから,
BrHdxdy<πr.
一方仮定より,
BrHdxdyπar2
となるので,
r<1a
でなければならない.

簡単な系として, 平面全体で定義された平均曲率が一定なグラフはH=0なものしかないことがわかります.

Heinzの不等式の

関数u:R2Rのグラフの平均曲率が一定なものは, H=0のものに限る.

|H|>0となるものがあったとする. 関数uの定義域を半径rの円板Brに制限すると, Heinzの不等式より
r<1|H|<
でなければならない. よってuの定義域は半径1/|H|の円板に含まれていなければならず, R2全体で定義されていることと矛盾する.

平均曲率が恒等的に0となる曲面は極小曲面と呼ばれ, 石鹸膜の数理モデルとして古くからよく知られ, 研究されています. 実は平面全体で定義された極小曲面のグラフは線形関数のグラフしか存在しない(Bernsteinの定理)ことが知られているため, 上の系の結論はより強くR2全体で定義された平均曲率一定な関数のグラフは平面のみ」とすることができます.

おわりに

今回は部分多様体の幾何学を特徴づける幾何学的量としての平均曲率を, 簡単なケースについて紹介しました. ちょっとでも平均曲率と仲良くなれましたでしょうか? 平均曲率は表面積の変分問題にも登場し, 理論の中心的な役割を果たします. そちらについても今後触れる機会があればと思っています.

参考文献

[1]
E. Heinz, Über Flächen mit eineindeutiger Projektion auf eine Ebene, deren Krümmungen durch Ungleichungen eingeschränkt sind, Math. Ann. , 1955, 451-454
[2]
剱持勝衛, 曲面論講義: 平均曲率一定曲面入門, 培風館, 2000
投稿日:2024423
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Torte
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数理系博士課程在籍. 幾何学や解析学が好きです. 多分大学数学メイン?

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