この記事ではラマヌジャンの書いた論文"Irregular numbers"を読んでいきます。
タイトルの4という番号はハーディによる書籍"Collected Papers of Srinivasa Ramanujan"におけるナンバリングに準じています。ちなみに"Collected Papers"の全容については
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や
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にて閲覧することができます。
なお各命題の証明については論文で示されている式変形以外は自力で考案したものとなるので至らぬ点もあるかもしれませんがあしからず。
この論文の主題はゼータ関数のオイラー積
$$\z(s)=\prod_p\frac1{1-p^{-s}}$$
およびその類似を用いることで、例えば
\begin{align}
1+\frac1{2^2}+\frac1{5^2}+\frac1{7^2}+\cdots+\frac1{30^2}+\frac1{31^2}+\cdots
&=\frac{9\pi^2}2\\
1+\frac1{2^4}+\frac1{5^4}+\frac1{7^4}+\cdots+\frac1{30^4}+\frac1{31^4}+\cdots
&=\frac{15\pi^2}2
\end{align}
のようにある特定の性質を持つ数の逆数和を求めることにあります。
数論的関数$a(n)$が完全乗法的であるとは任意の$m,n$に対し
$$a(mn)=a(m)a(n)$$
を満たすことを言う。このとき$n=\prod_{p\mid n}p^{e_p}$と素因数分解すると
$$a(n)=\prod_{p\mid n}a(p)^{e_p}$$
が成り立つことに注意する。
$n$の素因数分解$n=\prod_{p\mid n}p^{e_p}$に対し$\O(n)$を
$$\O(n)=\sum_{p\mid n}e_p$$
と定める。このとき
$$\la(n)=(-1)^{\O(n)}$$
は完全乗法的な関数を定めることに注意する(これをリウヴィル関数と言う)。
完全乗法的な関数$a(n)$に対し
\begin{align}
\prod_p\frac1{1-a(p)}&=\sum^\infty_{n=0}a(n)\\
\prod_p\frac1{1+a(p)}&=\sum^\infty_{n=0}(-1)^{\O(n)}a(n)
\end{align}
が成り立つ。
\begin{align}
\prod_p\frac1{1-a(p)}
&=\prod_p\sum^\infty_{e_p=0}a(p)^{e_p}\\
&=\sum^\infty_{e_2,e_3,\ldots=0}\prod_pa(p)^{e_p}\\
&=\sum^\infty_{n=0}a(n)
\end{align}
とわかる。
また第二式については$b(n)=(-1)^{\O(n)}a(n)$が完全乗法的であることからわかる。
\begin{align} \prod_p\l(1-\frac1{p^s}\r)&=\frac1{\z(s)}\\ \prod_p\l(1+\frac1{p^s}\r)&=\frac{\z(s)}{\z(2s)} \end{align}
第一式は$a(n)=1/n^s$に対し公式1を適用することでわかる。
また第二式は
$$\prod_p\l(1+\frac1{p^s}\r)=\prod_p\frac{1-p^{-2s}}{1-p^{-s}}$$
と変形することでわかる。
\begin{align} \prod_p\l(1+\frac1{p^2}\r)&=\frac{15}{\pi^2}\\ \prod_p\l(1+\frac1{p^4}\r)&=\frac{105}{\pi^4} \end{align}
よく知られているように
$$\z(2)=\frac{\pi^2}6,\quad\z(4)=\frac{\pi^4}{90},\quad\z(8)=\frac{\pi^8}{9450}$$
が成り立つことからわかる。
$\O(n)$が奇数となるような自然数全体を
$$X=\{2,3,5,7,8,11,12,\ldots\}$$
とおくと
$$\sum_{n\in X}\frac1{n^s}=\frac{\z(s)^2-\z(2s)}{2\z(s)}$$
が成り立つ。
$$\frac{1-(-1)^{\O(n)}}2=\l\{\begin{array}{cl}
0&(\O(n):\mbox{偶数})\\
1&(\O(n):\mbox{奇数})
\end{array}\r.$$
に注意すると
\begin{align}
\sum_{n\in X}\frac1{n^s}
&=\frac12\l(\sum^\infty_{n=1}\frac1{n^s}-\sum^\infty_{n=1}\frac{(-1)^{\O(n)}}{n^s}\r)\\
&=\frac12\l(\prod_p\frac1{1-\frac1{p^s}}-\prod_p\frac1{1+\frac1{p^s}}\r)\\
&=\frac12\l(\z(s)-\frac{\z(2s)}{\z(s)}\r)
\end{align}
を得る。
\begin{align} \sum_{n\in X}\frac1{n^2}&=\frac{\pi^2}{20}\\ \sum_{n\in X}\frac1{n^4}&=\frac{\pi^4}{1260} \end{align}
平方因子を持たない自然数全体を
$$Y=\{1,2,3,5,6,7,10,\ldots\}$$
とおくと完全乗法的な関数$a(n)$に対し
\begin{align}
\prod_p(1+a(p))&=\sum_{n\in Y}a(n)\\
\prod_p(1-a(p))&=\sum_{n\in Y}(-1)^{\O(n)}a(n)\\
\end{align}
が成り立つ。
\begin{align}
\prod_p(1+a(p))
&=\prod_p\sum_{e_p\in\{0,1\}}a(p)^{e_p}\\
&=\sum_{e_2,e_3,\ldots\in\{0,1\}}\prod_pa(p)^{e_p}\\
&=\sum_{n\in Y}a(n)
\end{align}
とわかる。
$$\sum_{n\in Y}\frac1{n^s}=\frac{\z(s)}{\z(2s)}$$
公式3,5からわかる。
奇数個の異なる素数の積として表せる自然数全体を
$$Z=\{2,3,5,7,11,13,17,19,23,29,30,31,37,41,42,\ldots\}$$
とおくと
$$\sum_{n\in Z}\frac1{n^s}=\frac{\z(s)^2-\z(2s)}{2\z(s)\z(2s)}$$
が成り立つ。
$Z=X\cap Y$に注意すると公式2と同様にして
\begin{align}
\sum_{n\in Z}\frac1{n^s}
&=\frac12\l(\sum_{n\in Y}\frac1{n^s}-\sum_{n\in Y}\frac{(-1)^{\O(n)}}{n^s}\r)\\
&=\frac12\l(\prod_p\Big(1+\frac1{p^s}\Big)-\prod_p\Big(1-\frac1{p^s}\Big)\r)\\
&=\frac12\l(\frac{\z(s)}{\z(2s)}-\frac1{\z(s)}\r)
\end{align}
を得る。
\begin{align} \sum_{n\in Z}\frac1{n^2}&=\frac9{2\pi^2}\\ \sum_{n\in Z}\frac1{n^4}&=\frac{15}{2\pi^2} \end{align}
平方因子を持つ自然数全体を
$$Y'=\{4,8,9,12,16,18\ldots\}$$
とおくと
$$\sum_{n\in Y'}\frac1{n^s}=\frac{\z(s)(\z(2s)-1)}{\z(2s)}$$
が成り立つ。
\begin{align}
\sum_{n\in Y'}\frac1{n^s}
&=\sum^\infty_{n=1}\frac1{n^s}-\sum_{n\in Y}\frac1{n^s}\\
&=\z(s)-\frac{\z(s)}{\z(2s)}
\end{align}
とわかる。