1
現代数学解説
文献あり

積分で定まる関数を解析接続する重要な手法

461
0
$$$$

この記事では、積分で定義される関数を、複素平面全体で定義された有理型関数へ解析接続する重要な手法について、問題を通して紹介します。

ここで紹介する手法は、ガンマ関数やゼータ関数の解析接続など、複素解析の様々な所で出てくる有用な考え方なので、ぜひ出来るようになっておきましょう。

$z\in \mathbb{C}$に対し、積分$F(z)=\int_{0}^{1}t^{z}\sin t \ dt$とする。

  1. $F(z)$$\mathrm{Re}\ z>-2$において収束し、その上の正則関数を定めることを示せ。
  2. $F(z)$$\mathbb{C}$上の有理型関数に解析接続できることを示し、その極と留数を求めよ。

(1)まず、収束性を確かめる。$\lim _{t\to 0}\frac{\sin t}{t}=1$より、ある$0< r<1$が存在し、$0< t< r$ならば、$0\le \sin t \le 2t$となる。$$F(z)=\int_{0}^{r}t^z \sin t \ dt+\int_{r}^{1}t^z \sin t \ dt$$と分ければ、第一項が絶対収束することをいえばよい。$|t^z|=|e^{z \log t}|=t^{\mathrm{Re}\ z}$に注意すると、
\begin{align} \int_{0}^{r}|t^z \sin t|dt &\le \int_{0}^{r}t^{\mathrm{Re}\ z}\cdot 2t \ dt \\ &=2\int_{0}^{r} t^{\mathrm{Re}\ z+1}\ dt \end{align}
最後の式は、$\mathrm{Re}\ z>-2$のとき、$\mathrm{Re}\ z+1>-1$なので、収束する。

次に、$\mathrm{Re}\ z>-2$上の正則関数を定めることを確かめる。これには、$0<\delta <1$を任意に固定し、$D_{\delta}:=\lbrace z\in \mathbb{C}\ | \ \mathrm{Re}\ z>-2+\delta \rbrace$上で正則関数となることを示せばよい。
そこで、$0<\epsilon<1$に対し、$F_{\epsilon}(z):=\int_{\epsilon}^{1}t^z \sin t \ dt$とおく。$\epsilon < r$とすると、$z\in D_{\delta}$に対し、
\begin{align} |F(z)-F_{\epsilon}(z)| &= |\int_{0}^{\epsilon}t^z \sin t \ dt| \\ &\le \int_{0}^{\epsilon}|t^z \sin t| \ dt \\ &\le 2\int_{0}^{\epsilon} t^{\mathrm{Re}\ z+1}\ dt \\ &\le 2\int_{0}^{\epsilon}t^{-1+\delta}\ dt \end{align}
と評価でき、最後の式は$-1<-1+\delta$より、$\epsilon \to 0+$とすると、$z$に依らずに$\to 0$となる。
よって、$\lim _{\epsilon \to 0+}F_{\epsilon}(z)=F(z)$は、$D_{\delta}$上一様収束する。

さて、一般に領域上の正則関数列の広義一様収束極限は正則関数となるから、あとは$F_{\epsilon}(z)$$D_{\delta}$上の正則関数となることを示せば、$F(z)$$D_{\delta}$上の正則関数となり、証明が終わる。

$F_{\epsilon}(z)$$D_{\delta}$上の正則関数となることを示すのには、Moreraの定理を用いる。(Moreraの定理は、正則関数であることを示すのに有用な定理である!)

そのため、まず$F_{\epsilon}(z)$$D_{\delta}$上連続であることを示す。$a\in D_{\delta}$を任意に固定し、$a$で連続であることを確かめる。$\lim_{z\to a}F_{\epsilon}(z)=F_{\epsilon}(a)$を示せばよい。これを示すため、積分と極限の交換を正当化することを考える。

ある$q>0$が存在し、中心$a$で半径$q$の閉円板$[\triangle(a,q)]\subset D_{\delta}$となる。
コンパクト集合$[\epsilon,1] \times [\triangle(a,q)]$上の連続関数$g(t,z)=t^z\sin t$を考える。$g(t,z)$はコンパクト集合上の連続関数なので、一様連続である。よって、$\lim_{z\to a}\mathrm{sup}_{\epsilon \le t \le 1}|g(t,z)-g(t,a)|=0$となるから、積分と極限が交換できて、$\lim_{z\to a}F_{\epsilon}(z)=\lim_{z\to a}\int_{\epsilon}^{1}g(t,z)\ dt =\int_{\epsilon}^{1}g(t,a)\ dt=F_{\epsilon}(a)$となる。
したがって、$F_{\epsilon}(z)$$D_{\delta}$上連続である。

$\gamma$$D_{\delta}$内の$C^1$閉曲線とする。$\int_{\gamma}F_{\epsilon}(z)\ dz=\int_{0}^{1}F_{\epsilon}(\gamma (t))\gamma '(t)\ dt$は可積分なので、フビニの定理により重積分の順序が交換できて、
\begin{align} \int_{\gamma}F_{\epsilon}(z)\ dz &= \int_{\gamma} \int_{\epsilon}^{1}t^z \sin t\ dt\ dz \\ &=\int_{\epsilon}^{1}\sin t \int_{\gamma}t^z \ dz\ dt \\ &=0 \end{align}
となる。ここで、最後の等式では、$D_{\delta}$$t^z$が正則関数であることとコーシーの積分定理により$\int_{\gamma}t^z \ dz=0$となることを用いた。

したがって、Moreraの定理より、$F_{\epsilon}(z)$$D_{\delta}$上の正則関数である。(証明終)

(2)$\mathrm{Re}\ z>-2$上の正則関数$F(z)=\int_{0}^{1}t^{z}\sin t \ dt$を、$\mathbb{C}$上の有理型関数に解析接続する。テイラー展開$\sin t=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^n}{(2n+1)!}t^{2n+1},t\in \mathbb{R}$を考えると、これはコンパクト集合$[0,1]$上で一様収束するので、
\begin{align} F(z) &=\int_{0}^{1}t^{z}\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^n}{(2n+1)!}t^{2n+1} \ dt \\ &= \sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^n}{(2n+1)!} \int_{0}^{1}t^{z+2n+1}\ dt \\ &=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^n}{(2n+1)!}\frac{1}{z+2n+2}\cdots ( \heartsuit ) \\ &=:G(z) \end{align}
が、$\mathrm{Re}\ z>-2$上で成立する。

$G(z)$は、$\mathbb{C}$上の有理型関数からなる級数であり、これが$\mathbb{C}$上で広義一様収束することを示せれば、$G(z)$$\mathbb{C}$上の有理型関数を定める。

$R>0$とする。$|z|< R$上で、級数が一様収束することを示す。$N>2R$を満たす自然数$N$を取れば、任意の$n>N$に対し、$\frac{1}{z+2n+2}$$|z|< R$上で極を持たない。
また、$|z|< R,n>N$のとき、$|2n+2+z|\ge 2n+2-R>3R+2$なので、
\begin{align} \sum_{n>N}^{\infty}|\frac{(-1)^n}{(2n+1)!}\frac{1}{z+2n+2}| &\le \sum_{n>N}^{\infty}\frac{1}{(2n+1)!}\frac{1}{3R+2}<+\infty \end{align}
となる。最後の級数の収束は$z$によらない。

よって、$|z|< R$上で$G(z)$は一様収束する。$R>0$は任意なので、級数$G(z)$$\mathbb{C}$上で広義一様収束し、$\mathbb{C}$上の有理型関数を定める。

$(\heartsuit)$より、領域$\mathrm{Re}\ z>-2$上で$F(z)=G(z)$であるから、$G(z)$$F(z)$$\mathbb{C}$への解析接続である。そこで、これも$F(z)$と書くことにする。

$G(z)$の定義式より、$F(z)$$\mathbb{C}$上の極の集合は、$\lbrace -2n-2 \ | \ n=0,1,2,\cdots \rbrace=\lbrace -2,-4,-6,\cdots \rbrace$で与えられ、
その主要部は、$$\frac{(-1)^n}{(2n+1)!}\frac{1}{z+2n+2}$$であることが分かる。
よって、留数は、$$\mathrm{Res}_{-2n-2}\ F(z)=\frac{(-1)^n}{(2n+1)!},\ n=0,1,2,\cdots$$
となる。(証明終)

上の証明で出てきた有理型関数からなる級数の収束については、Cartanの本の説明が分かりやすいのでオススメです。
また、私の過去の記事「正の偶数に対するゼータ値ζ(2n)を有理型関数の部分分数展開を用いて求める方法」 https://mathlog.info/articles/8YAcGHiDGBuI2npDZE3O
でも軽く扱っています。

また、上と同様の手法を用いたガンマ関数やゼータ関数の解析接続については、例えばSteinとShakarchiの本に載っています。

この方法の良い点は、あまり上手い関数等式を使わずとも比較的簡単に出来るという点と、解析接続した有理型関数項級数の形から極やその留数が簡単に分かる所です。

今回はこれで終わりたいと思います。お疲れ様でした。

参考文献

[1]
Elias M. Stein, Rami Shakarchi, Complex Analysis (Princeton Lectures in Analysis), Princeton University Press, 2003
[2]
Henri Cartan, Elementary Theory of Analytic Functions of One or Several Complex Variables, Dover Publications, 1995
[3]
Lars V. Ahlfors, COMPLEX ANALYSIS, 3rd ed., International Series in Pure & Applied Mathematics, McGraw-Hill Education, 1979
投稿日:2023125

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中