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大学数学基礎解説
文献あり

平面の重心座標系における距離の公式

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前書き

平面の重心座標系における距離の公式を紹介します。

この記事は重心座標について既に知っている人向けです。
重心座標そのものについての説明は行いません。

この記事における約束事

基準三角形

重心座標系の基準となる三角形をABCとし、辺BC,CA,ABの長さをそれぞれa,b,cとおきます。

SA=12(b2+c2a2),SB=12(c2+a2b2),SC=12(a2+b2c2)とします。

重心座標

重心座標が正規化されている必要がある箇所はその旨を記載します。
記載がなければ正規化された重心座標である必要はありません。

この記事では、座標は原則として(x1,x2,x3)(p1,p2,p3)のように添え字1,2,3を使用し、3つの数をまとめてxpのように太字で書くことにします。

Pの座標のひとつがpであること(座標pが指し示す点がPであること)を、点P(p)のように書き表します。

座標に対して、ベクトルと同様の演算(和と定数倍)を定義します。
つまり、kp+lq=(kp1+lq1,kp2+lq2,kp3+lq3) とします。

距離の公式(基本形)

2点P(p),Q(q)間の距離PQの公式は様々な形があります。(作ろうと思えば無限に作れます。)
まずは私が基本の形だと思っている式から載せます。

距離の公式 (基本形)

PQ2=a2(p2q3p3q2)2+b2(p3q1p1q3)2+c2(p1q2p2q1)22SA(p3q1p1q3)(p1q2p2q1)2SB(p1q2p2q1)(p2q3p3q2)2SC(p2q3p3q2)(p3q1p1q3)(p1+p2+p3)2(q1+q2+q3)2

はい、長いですね。
ですが、次のように見ればそれほど難しくはありません。
座標p,qをベクトルだと思って、その外積(クロス積,ベクトル積)を u=p×q とおきます。(uは行ベクトルとします。)
また、行列A
A=(a2SCSBSCb2SASBSAc2)
で定義します。
すると、fmlBasicの分子は uAtu となります。とても簡単ですね。

なお、p,qが正規化された重心座標である場合にはfmlBasicの分母が1になり、よりシンプルになります。

クリックして詳細をチェック


式の簡略化のため、
Tp=p1+p2+p3,Tq=q1+q2+q3
および
u1=p2q3p3q2,u2=p3q1p1q3,u3=p1q2p2q1
とおいておきます。
すると、fmlBasicの右辺は
1Tp2Tq2(a2u12+b2u22+c2u322SAu2u32SBu3u12SCu1u2)
となります。

Oをユークリッド平面上の(つまり無限遠点ではない)任意の点とすると、重心座標の性質により、
OP=p1p1+p2+p3OA+p2p1+p2+p3OB+p3p1+p2+p3OC および
OQ=q1q1+q2+q3OA+q2q1+q2+q3OB+q3q1+q2+q3OC が成り立ちます。

PQ2をベクトルで計算すると次のようになります。
|PQ|2=|OQOP|2=|(q1q1+q2+q3OA+q2q1+q2+q3OB+q3q1+q2+q3OC)(p1p1+p2+p3OA+p2p1+p2+p3OB+p3p1+p2+p3OC)|2=|(q1q1+q2+q3p1p1+p2+p3)OA+(q2q1+q2+q3p2p1+p2+p3)OB+(q3q1+q2+q3p3p1+p2+p3)OC|2=|q1(p1+p2+p3)p1(q1+q2+q3)(p1+p2+p3)(q1+q2+q3)OA+q2(p1+p2+p3)p2(q1+q2+q3)(p1+p2+p3)(q1+q2+q3)OB+q3(p1+p2+p3)p3(q1+q2+q3)(p1+p2+p3)(q1+q2+q3)OC|2=1(p1+p2+p3)2(q1+q2+q3)2×|((p3q1p1q3)(p1q2p2q1))OA +((p1q2p2q1)(p2q3p3q2))OB +((p2q3p3q2)(p3q1p1q3))OC|2=1Tp2Tq2|(u2u3)OA+(u3u1)OB+(u1u2)OC|2=1Tp2Tq2{(u2u3)2|OA|2+(u3u1)2|OB|2+(u1u2)2|OC|2+2(u3u1)(u1u2)OBOC+2(u1u2)(u2u3)OCOA+2(u2u3)(u3u1)OAOB }=1Tp2Tq2{ (|OB|2+|OC|22OBOC)u12+(|OC|2+|OA|22OCOA)u22+(|OA|2+|OB|22OAOB)u32(2|OA|2+2OBOC2OCOA2OAOB)u2u3(2|OB|22OBOC+2OCOA2OAOB)u3u1(2|OC|22OBOC2OCOA+2OAOB)u1u2 }=1Tp2Tq2{ (|OB|22OBOC+|OC|2)u12+(|OC|22OCOA+|OA|2)u22+(|OA|22OAOB+|OB|2)u32((|OC|22OCOA+|OA|2)+(|OA|22OAOB+|OB|2)(|OB|22OBOC+|OC|2))u2u3((|OA|22OAOB+|OB|2)+(|OB|22OBOC+|OC|2)(|OC|22OCOA+|OA|2))u3u1((|OB|22OBOC+|OC|2)+(|OC|22OCOA+|OA|2)(|OA|22OAOB+|OB|2))u1u2 }=1Tp2Tq2{ |OCOB|2u12+|OAOC|2u22+|OBOA|2u32(|OAOC|2+|OBOA|2|OCOB|2)u2u3(|OBOA|2+|OCOB|2|OAOC|2)u3u1(|OCOB|2+|OAOC|2|OBOA|2)u1u2 }=1Tp2Tq2{ |BC|2u12+|CA|2u22+|AB|2u32(|CA|2+|AB|2|BC|2)u2u3(|AB|2+|BC|2|CA|2)u3u1(|BC|2+|CA|2|AB|2)u1u2 }=1Tp2Tq2(a2u12+b2u22+c2u32(b2+c2a2)u2u3(c2+a2b2)u3u1(a2+b2c2)u1u2)=1Tp2Tq2(a2u12+b2u22+c2u322SAu2u32SBu3u12SCu1u2)
これでfmlBasicが示されました。

距離の公式(円の式の活用形)

その他の距離の公式は円の式を利用したもので、正規化された重心座標を使います。

まず、正規化された重心座標について説明します。

無限遠点ではない点P(p)p1+p2+p30 を満たします。
そこで、p=1p1+p2+p3p とおくと p1+p2+p3=1 が成り立ちます。
このように、 p1+p2+p3=1 を満たす重心座標pを正規化された重心座標といいます。

一般の円の式を使用する場合

円の式を利用した距離の公式について、まずは一般の円の場合です。
ここで使う円の式は実円または虚円または点円を表すものならば何でもいいので、公式はいくらでも作れることになります。
(実円・虚円・点円などの広義の円に関しては下の方に 付録 を書いたので参考にしてください。)

d1,d2,d3,e1,e2,e3Rとして、x1,x2,x3の関数g
g(x)=d1x12+d2x22+d3x32+2e1x2x3+2e2x3x1+2e3x1x2
とします。
xを重心座標としてg(x)=0が広義の円を表している場合、
1a2g(0,1,1)=1b2g(1,0,1)=1c2g(1,1,0)
が成り立つので、この値をKgとおくことにします。
g(x)=0が実円または虚円または点円ならばKg0になります。

距離の公式 (円の式の活用形)

g(x)=0は実円または虚円または点円を表す式であるとし、Kgを上に書いたように定めます。

p=1p1+p2+p3p および q=1q1+q2+q3q とします。

このとき、距離の公式は次のようになります。
PQ2=1Kgg(qp)

クリックして詳細をチェック


式の簡略化のため、
Tp=p1+p2+p3,Tq=q1+q2+q3
および
u1=p2q3p3q2,u2=p3q1p1q3,u3=p1q2p2q1
とおいておきます。

g(qp)を計算すると、
g(qp)=g(1Tqq1Tpp)=d1(q1Tqp1Tp)2+d2(q2Tqp2Tp)2+d3(q3Tqp3Tp)2+2e1(q2Tqp2Tp)(q3Tqp3Tp)+2e2(q3Tqp3Tp)(q1Tqp1Tp)+2e3(q1Tqp1Tp)(q2Tqp2Tp)=1Tp2Tq2{d1(q1Tpp1Tq)2+d2(q2Tpp2Tq)2+d3(q3Tpp3Tq)2+2e1(q2Tpp2Tq)(q3Tpp3Tq)+2e2(q3Tpp3Tq)(q1Tpp1Tq)+2e3(q1Tpp1Tq)(q2Tpp2Tq)}=1Tp2Tq2{ d1((p3q1p1q3)(p1q2p2q1))2+d2((p1q2p2q1)(p2q3p3q2))2+d3((p2q3p3q2)(p3q1p1q3))2+2e1((p1q2p2q1)(p2q3p3q2))((p2q3p3q2)(p3q1p1q3))+2e2((p2q3p3q2)(p3q1p1q3))((p3q1p1q3)(p1q2p2q1))+2e3((p3q1p1q3)(p1q2p2q1))((p1q2p2q1)(p2q3p3q2))}=1Tp2Tq2{d1(u2u3)2+d2(u3u1)2+d3(u1u2)2+2e1(u3u1)(u1u2)+2e2(u1u2)(u2u3)+2e3(u2u3)(u3u1)}=1Tp2Tq2{(d2+d32e1)u12+(d3+d12e2)u22+(d1+d22e3)u32+2(d1e1+e2+e3)u2u3+2(d2e2+e3+e1)u3u1+2(d3e3+e1+e2)u1u2}=1Tp2Tq2{ (d2+d32e1)u12+(d3+d12e2)u22+(d1+d22e3)u32((d3+d12e2)+(d1+d22e3)(d2+d32e1))u2u3((d1+d22e3)+(d2+d32e1)(d3+d12e2))u3u1((d2+d32e1)+(d3+d12e2)(d1+d22e3))u1u2}
となって、g(x)=0が広義の円を表しているときは
d2+d32e1=g(0,1,1)=a2Kg および
d3+d12e2=g(1,0,1)=b2Kg および
d2+d32e1=g(1,1,0)=c2Kg が成り立つので、
=1Tp2Tq2{a2Kgu12+b2Kgu22+c2Kgu32(b2Kg+c2Kga2Kg)u2u3(c2Kg+a2Kgb2Kg)u3u1(a2Kg+b2Kgc2Kg)u1u2}=KgTp2Tq2(a2u12+b2u22+c2u322SAu2u32SBu3u12SCu1u2)=KgPQ2
と式変形されます。(最後の等号はfmlBasicによります。)

g(x)=0が実円または虚円または点円を表す式である場合はKg0なので、g(qp)=KgPQ2 の両辺をKgで割ると、fmlGCが得られます。

特別な円の式を使用する場合

次に、基準三角形によって決まる円の式を使ってfmlGCの距離の公式の具体例を求めてみます。

基準三角形の外接円を使用

ABCの外接円の式は a2x2x3+b2x3x1+c2x1x2=0 です。
Kgの値は1になります。

距離の公式 (外接円の式の活用形)

p=1p1+p2+p3p および q=1q1+q2+q3q とします。
PQ2=a2(q2p2)(q3p3)b2(q3p3)(q1p1)c2(q1p1)(q2p2)

基準三角形の極円の式を使用

ABCの極円の式は SAx12+SBx22+SCx32=0 です。
Kgの値は1になります。

距離の公式 (極円の式の活用形)

p=1p1+p2+p3p および q=1q1+q2+q3q とします。
PQ2=SA(q1p1)2+SB(q2p2)2+SC(q3p3)2

基準三角形の頂点の点円の式を使用

A,B,Cの点円の式はそれぞれ
c2x22+b2x32+2SAx2x3=0,
a2x32+c2x12+2SBx3x1=0,
b2x12+a2x22+2SCx1x2=0
です。
Kgの値はいずれも1になります。

距離の公式 (頂点Aの点円の式の活用形)

p=1p1+p2+p3p および q=1q1+q2+q3q とします。
PQ2=c2(q2p2)2+b2(q3p3)2+2SA(q2p2)(q3p3)

距離の公式 (頂点Bの点円の式の活用形)

p=1p1+p2+p3p および q=1q1+q2+q3q とします。
PQ2=a2(q3p3)2+c2(q1p1)2+2SB(q3p3)(q1p1)

距離の公式 (頂点Cの点円の式の活用形)

p=1p1+p2+p3p および q=1q1+q2+q3q とします。
PQ2=b2(q1p1)2+a2(q2p2)2+2SC(q1p1)(q2p2)

ブロカール点の証明に用いる円の式を使用

ABCの1頂点を通り別の1頂点で辺に接する円の式は
a2x32+(a2b2)x3x1c2x1x2=0,
b2x12+(b2c2)x1x2a2x2x3=0,
c2x22+(c2a2)x2x3b2x3x1=0,
a2x22b2x3x1+(a2c2)x1x2=0,
b2x32c2x1x2+(b2a2)x2x3=0,
c2x12a2x2x3+(c2b2)x3x1=0
です。
Kgの値はいずれも1になります。

距離の公式 (ブロカール点の証明に用いる円の式の活用形)

p=1p1+p2+p3p および q=1q1+q2+q3q とします。
PQ2=a2(q3p3)2+(a2b2)(q3p3)(q1p1)c2(q1p1)(q2p2)
PQ2=b2(q1p1)2+(b2c2)(q1p1)(q2p2)a2(q2p2)(q3p3)
PQ2=c2(q2p2)2+(c2a2)(q2p2)(q3p3)b2(q3p3)(q1p1)
PQ2=a2(q2p2)2b2(q3p3)(q1p1)+(a2c2)(q1p1)(q2p2)
PQ2=b2(q3p3)2c2(q1p1)(q2p2)+(b2a2)(q2p2)(q3p3)
PQ2=c2(q1p1)2a2(q2p2)(q3p3)+(c2b2)(q3p3)(q1p1)

付録:広義の円

広義の円という用語は一般には反転幾何でよく用いられます。
しかし、ここでは射影幾何における広義の円を考えるので、混同しないようにしてください。

この記事で説明する広義の円は反転幾何に出てくる広義の円とは少し異なります!

広義の円錐曲線

d1,d2,d3,e1,e2,e3Rとして、x1,x2,x3の関数g
g(x)=d1x12+d2x22+d3x32+2e1x2x3+2e2x3x1+2e3x1x2
とします。つまりg(x)x1,x2,x3の2次斉次多項式です。
座標xg(x)=0を満たす点X(x)の集合を広義の円錐曲線(広義の二次曲線)といいます。

行列(d1e3e2e3d2e1e2e1d3)を用いると広義の円錐曲線g(x)=0を次の5つに分類できます。

  1. 実円錐曲線 (行列が正則かつ不定値)
  2. 虚円錐曲線 (行列が正定値または負定値)
  3. 1点 (行列がRank2半正定値またはRank2半負定値)
  4. 2直線 (行列がRank2不定値)
  5. 1直線 (行列がRank1)

i.の実円錐曲線は通常の円錐曲線で楕円・放物線・双曲線があります。
ii.の虚円錐曲線は平面上に図形は現れず空集合になります。ただし、座標が虚数になる虚点というものを考えれば、式を満たす虚点の集合として図形が存在することになります。
iii.の1点は実平面上ではただの1点です。ただし、虚点の範囲まで考えれば複素共役な2本の虚直線になります。
iv.の2直線は、交差する2直線・平行な2直線・通常の直線と無限遠直線を合わせた2直線という3種があります。
v.はiv.の2直線が近づいて同じ直線になったものと思ってください。つまり2本の直線が重なって1直線になったものです。

広義の円

再掲

この記事で説明する広義の円は反転幾何に出てくる広義の円とは少し異なります!

2つの虚円点を通る広義の円錐曲線を(射影幾何における)広義の円といいます。(この名称や定義が一般的に使用されているかどうかはわかりませんが、私はそう呼んでいます。)
その条件を整理すると、g(x)の各項の係数が
d2+d32e1a2=d3+d12e2b2=d1+d22e3c2
を満たすような広義の円錐曲線g(x)=0が広義の円になります。

広義の円には次の5種類があり、広義の円錐曲線の5分類と対応しています。

  1. 実円
  2. 虚円
  3. 点円
  4. 無限遠直線と別の直線を合わせた2直線
  5. 無限遠直線

i.の実円はいわゆる通常の円です。広義の円に対する言葉としての狭義の円がこの実円になります。
ii.の虚円は平面上に図形は現れず空集合になります。ただし、座標が虚数になる虚点というものを考えれば、式を満たす虚点の集合が存在します。
iii.の点円は平面上の1点です。これは円の半径が0になったものと考えてください。
iv.は円の半径が無限大になったものとみなせます。反転幾何においては直線が広義の円に含まれますが、射影幾何においては無限遠直線を含めた2直線になることに注意してください。
v.はiv.における"別の直線"が"同じ無限遠直線"になったものと思ってください。つまり無限遠直線2つが重なったものです。

g(x)=0が広義の円ならば次の等式も成り立ちます。
1a2g(a2,SC,SB)=1b2g(SC,b2,SA)=1c2g(SB,SA,c2)=S2a2g(0,1,1)=S2b2g(1,0,1)=S2c2g(1,1,0)
ただし、S=2ABC=122(b2c2+c2a2+a2b2)(a4+b4+c4) です。

後書き

参考文献jkftでは外接円の式を使用したfmlCircumcircleが距離の公式として載っており、どうやらこれが一般的なようです。
fmlCircumcircle以外にも距離の公式はいろいろと作れるということを紹介したくて今回この記事を書きました。

参考文献

[1]
一松 信/畔柳和生, 重心座標による幾何学, 現代数学社, 2014
[2]
エヴァン・チェン, 数学オリンピック幾何への挑戦 ユークリッド幾何学をめぐる船旅, 日本評論社, 2023
投稿日:14日前
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工学系物理工学出身のただの社会人です。 数学は趣味のひとつです。どうやら文字計算が好きらしい。 2022年から三角形の幾何学にはまり、重心座標などでいろいろ計算しています。

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  1. 前書き
  2. この記事における約束事
  3. 距離の公式(基本形)
  4. 距離の公式(円の式の活用形)
  5. 一般の円の式を使用する場合
  6. 特別な円の式を使用する場合
  7. 付録:広義の円
  8. 後書き
  9. 参考文献