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大学数学基礎解説
文献あり

log f(z)の分枝を正しく定められるようになろう(log f(z)はlogとf(z)の合成ではない!)

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この記事では、次の問題を通して、複素対数関数について理解を深めたいと思います。

$a< b,$実軸上の有界閉区間を$[a,b]$とする。一次変換を$$f(z)=\frac{z-b}{z-a}$$とする。このとき、対数関数$$\log f(z)$$
が領域$\Omega=\mathbb{C}\setminus [a,b]$上の正則関数として定義できることを示せ。

よく知られているように、単連結領域$D$上で定義された$0$を値に取らない正則関数$f:D\rightarrow \mathbb{C}^*$に対し、その$D$上正則な対数関数は、$p\in D$に対し$f(p)=e^c$なる$c\in \mathbb{C}$を取ると、$$\log f(z)= \int_{p}^{z}\frac{f'(\zeta)}{f(\zeta)}d\zeta+c$$と定義できますね。ただしここで積分は、$D$内で$p$$z$につなぐ曲線に沿った積分です。この積分値がそのような曲線の取り方に依って変わらないためには、$D$が単連結であるという仮定が重要で、ホモトピー型のコーシーの積分定理から成り立つのでした。つまり、単連結領域上の正則関数は原始関数を持つという重要な事実を用いていることに注意しましょう。

一方で、上の問題で考える領域$\Omega=\mathbb{C}\setminus [a,b]$は単連結ではないので、この結果をそのまま適用することは出来ません。
そこで、まずは単純に$f(z)=\frac{z-b}{z-a}$$\log z$を合成できないか考えてみます。

$f(z)=\frac{z-b}{z-a}$をリーマン球面$\hat{\mathbb{C}}$上の関数と考えると、$$f(\Omega)=\mathbb{C}\setminus ((-\infty ,0]\cup \lbrace 1 \rbrace)$$であることを示せ。

一次変換は、相異なる三点の行き先を決めれば一意に決まり、さらにリーマン球面内の円を円にうつすことを使うと簡単である。

$f(\infty)=1,f(b)=0,f(a)=\infty$であるから、$f(\mathbb{R}\cup \lbrace \infty \rbrace)=\mathbb{R}\cup \lbrace \infty \rbrace$である。したがって、$f([a,b])=(-\infty ,0]\cup \lbrace \infty \rbrace$であるから、$$f(\Omega)=\hat{\mathbb{C}}\setminus ((-\infty ,0]\cup \lbrace 1 \rbrace\cup \lbrace \infty \rbrace)=\mathbb{C}\setminus ((-\infty ,0]\cup \lbrace 1 \rbrace)$$となる。(証明終)

以上より、負の実軸を除いた複素平面上で定義される正則な対数の主値を$f$と合成することで、$\log f$を定めることが出来ます。

しかし、単連結領域上の$f$に対して$\log f(z)$を定めるとき、一般に$f$の像が上のような都合の良い領域になるとは限らないので、$f$$\log$を合成して定義したわけではないのでした。
そこで、今度は原始関数を積分を用いて定める方針でやってみましょう。

問題1再考

$a< b,$実軸上の有界閉区間を$[a,b]$とする。一次変換を$$f(z)=\frac{z-b}{z-a}$$とする。このとき、対数関数$$\log f(z)$$
が領域$\Omega=\mathbb{C}\setminus [a,b]$上の正則関数として定義できる。

$\Omega$内の閉曲線$\gamma$に対し、$$\int_{\gamma}(\frac{1}{\zeta-b}-\frac{1}{\zeta-a})d\zeta=0$$が成り立つことが最大のポイントである。

回転数の定義より上の積分は、$$\int_{\gamma}(\frac{1}{\zeta-b}-\frac{1}{\zeta-a})d\zeta=2\pi i\cdot n(\gamma,b)-2\pi i\cdot n(\gamma,a)$$となる。ここで、$n(\gamma,z)$$\gamma$$z \notin \gamma$まわりの回転数である。
いま、$\gamma$$\mathbb{C}\setminus [a,b]$の閉曲線であるから、$\gamma$は線分$[a,b]$を横切ることはない。したがって、線分$[a,b]$上で$\gamma$の回転数は変化しないから、上の積分は$0$になる。
よって、ホモトピー型のコーシーの積分定理より、$$F(z)=\frac{1}{z-b}-\frac{1}{z-a}$$は、$\Omega$上で正則な原始関数$G(z)$をもつ。
あとは、$e^{G(z)}=\frac{z-b}{z-a}$を示せばよい。$G'(z)=F(z)$より、
$$(\frac{z-a}{z-b}e^{G(z)})'=\frac{(z-b)e^{G(z)}(1+(z-a)G'(z))-(z-a)e^{G(z)}}{(z-b)^2}=0$$である。よって、定数$C\neq 0$により、$$e^{G(z)}=C\frac{z-b}{z-a}$$となる。そこで、$e^c=C$なる$c$を取り、$G(z)$$G(z)-c$と取り直せば、$$e^{G(z)}=\frac{z-b}{z-a}$$が成り立つ。したがって、$$G(z)=\log \frac{z-b}{z-a}$$であり、これは$\Omega=\mathbb{C}\setminus [a,b]$上の正則な関数である。(証明終)

なお、上の結果を使うと次のことも簡単に分かります。

$a< b,$実軸上の有界閉区間を$[a,b]$とする。このとき、$$\sqrt{(z-a)(z-b)}$$が領域$\Omega=\mathbb{C}\setminus [a,b]$上の正則関数として定義できる。

定理1の証明の$G(z)=\log \frac{z-b}{z-a}$を用いる!

$H(z)=(z-a)e^{G(z)/2}$とおくと、これは$\Omega$上の正則関数であり、$$H^2(z)=(z-a)^2e^{G(z)}=(z-a)(z-b)$$である。よって、$$H(z)=\sqrt{(z-a)(z-b)}$$である。(証明終)

今回はこれで終わりたいと思います。お疲れ様でした。

参考文献

投稿日:20231113
更新日:20231118

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