0

東大数理院試過去問解答例(2022B05)

31
0
$$$$

ここでは東大数理の修士課程の院試の2022B05の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。

2022B05

集合
$$ M:=\left\{\begin{pmatrix} x&z\\ y&w \end{pmatrix}\in M_2(\mathbb{R})\middle| xz+yw=1\right\} $$
$$ N:=\left\{Y\in M_2(\mathbb{R})\middle|\mathrm{rank}Y=\mathrm{Tr}Y=1\right\} $$
をとり、写像
$$ \begin{split} \pi:M&\to N\\ \begin{pmatrix} x&z\\ y&w \end{pmatrix}&\mapsto \begin{pmatrix} xz&xw\\ yz&yw \end{pmatrix} \end{split} $$
を考える。
(1) $M$及び$N$$\pi$$C^\infty$級になるような$C^\infty$級多様体の構造を持つことを示せ。
(2) $M$上の$2$次形式$\eta:=dx\wedge dz+dy\wedge dw$を考える。このとき、$\eta=\pi^\ast\omega$なる$N$上の$2$次形式が一意的に存在することを示せ。
(3) $G=\mathrm{GL}_2(\mathbb{R})$とおく。ここで$g\in G$
$$ \begin{split} L_g:N&\to N\\ Y&\mapsto gYg^{-1} \end{split} $$
に対応させる作用は推移的であることを示せ。また任意の$g\in G$について$L_g^\ast\omega=\omega$であることを示せ。
(4) $b>0$に対して
$$ S(b):=\{Y\in N|\mathrm{Tr}(Y {}^tY-Y^2)\leq b^2\} $$
と定義する。このとき積分$\int_{S(b)}\omega$を計算しなさい。

  1. まずここで$M$の開集合
    $$ \begin{split} U_x&=\{A=(a_{i,j})\in M|a_{1,1}\neq0\}\\ U_y&=\{A=(a_{i,j})\in M|a_{2,1}\neq0\} \end{split} $$
    を取ったとき、$(x,y,z)$及び$(x,y,w)$$U_x$及び$U_y$の座標系を定めている。ここで作用$\mathbb{R}^\times\curvearrowright M$
    $$ \begin{split} \mathbb{R}^\times\curvearrowright M&\to M\\ r\curvearrowright \begin{pmatrix} x&z\\ y&w \end{pmatrix}&\mapsto\begin{pmatrix} rx&\frac{z}{r}\\ ry&\frac{w}{r} \end{pmatrix} \end{split} $$
    で定義する。このとき$N=M/\mathbb{R}^\times$である。上記の開集合及びその上の座標系から$N$の座標系が誘導される。この$N$の座標系は$M$の座標系を$\pi$を通して誘導しているから、$\pi$$C^\infty$級写像になる。
  2. $2$次形式$\eta$$\mathbb{R}^\times$の作用で不変であるから$\omega$が存在する。また$\pi$の全射性から$\omega$の一意性が従う。
  3. トレースの共役不変性から$N$の元は全て固有値$0,1$を持つから、$N$の元は全て共役である。よって前半が従う。 次に写像
    $$ \begin{split} L_g:M&\to M\\ \begin{pmatrix} x&z\\ y&w \end{pmatrix}&\mapsto \begin{pmatrix} g\begin{pmatrix} x\\ y \end{pmatrix}& {}^tg^{-1} \begin{pmatrix} z\\ w \end{pmatrix}\\ \end{pmatrix} \end{split} $$
    をとる。 このとき
    $$ \begin{split} (\pi^\ast L_g^\ast)\omega&=(L_g\circ\pi)^\ast\omega\\ &=(\pi\circ L_g)^\ast\omega \\   &=L_g^\ast \pi^\ast\omega\\ &=L_g^\ast\eta\\ &=\eta \end{split} $$
    であるから$\omega$の一意性より$L_g^\ast\omega=\omega$が従う。
  4. まず
    $$ T(b):=\left\{\begin{pmatrix} x&z\\ 1&w \end{pmatrix}\in M\middle|-b\leq xw-z\leq b \right\} $$
    とおく。ここで
    $$ \pi:T(b)\to S(b) $$
    を考える。$\pi$による$T(b)$の像は
    $$ \pi(T(b))=\left\{\begin{pmatrix} xz&xw\\ z&w \end{pmatrix}\in S(b)\right\} $$
    であり、$S(b)\backslash \pi(T(b))$は面積$0$であるから、所望の積分値は$\pi(T(b))$上で計算すれば良い。また$\pi:T(b)\to \pi(T(b))$は微分同相であるから、
    $$ \begin{split} \int_{S(b)}\omega&=\int_{T_1(b)}\pi^\ast\omega\\ &=\int_{T_1(b)}dx\wedge dz \end{split} $$
    である。ここで$T(b)$の向きを適切に定めるとこの積分値は
    $$ \begin{split} \int_{T_1(b)}dx\wedge dz&=2b\int_{-\infty}^\infty \frac{1}{1+x^2}dx=\color{red}2b\pi \end{split} $$
    である。
投稿日:36

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

佐々木藍(Ai Sasaki)です。趣味の数学と院試の過去問の(間違ってるかもしれない雑な)解答例を上げていきます。X(旧Twitter)→@sasaki_aiiro

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中