雪江明彦先生著『代数学1 群論入門』、通称「赤雪江」における命題4.5.4についての覚え書き。
シローの定理の証明につながる重要な命題です。
有限群$G$の,$G$の部分集合の集合への左からの積による作用を考える.
このとき,$S \subset G$に対し,$|\mathrm{Stab}(S)|$は$|S|$の約数である.
この命題を自分なりに証明することが記事の目標です。
まずは作用についての基本的な事柄から復習していきます。
$G$を群、$X$は集合とする.
$G$の$X$への(左)作用とは,写像$\phi:G×X→X$であり,次の2つを満たすもののことである.
(以下,$\phi(g,x)$を$g \cdot x$と書くことにする)
(1)$e \cdot x = x$ (ただし$e$は$G$の単位元)
(2)$g,h \in G$に対して $g \cdot (h \cdot x) = (gh) \cdot x$
$G$の$X$への(左)作用があるとき,$G$は$X$に(左から)作用するといい,
$G$からの作用がある集合のことを,$G$集合という.
これからは、左作用を単に作用と書くことにします。
以下の注意は私が書きたかっただけなので、この記事の本題とはズレます。
$G$が$X$に作用するとし,$X$から$X$自身の全単射がなす群を$\Sigma(X)$とする.
また写像$\rho_g:X→X$を$\rho_g (x)= g \cdot x$で定義する. ($\rho_{g^{-1}}$が逆写像なのでこれは全単射となる)
ここで写像$f:G → \Sigma(X)$を$f(g) = \rho_g$で定義すると,これは準同型となる.
逆に,準同型$f:G → \Sigma(X)$があったとき,写像$\phi:G×X → X$を$\phi(g,x) = f(g) \,(x)$で定義すると,これは$G$から$X$への作用になる.
以上のことから,後者の準同型$f$を作用の定義としてよい.
(個人的には、"準同型"という、初学でもすでになじみのある言葉をつかって定義できている後者が好きです)
群$G$が集合$X$に作用するとする.
(1) $x \in X$に対し,$O_x = \{g \cdot x| \, g \in G\}$を$x$の$G$による軌道という.
(元を重要視しないときは,単に軌道という)
(2) ある$x \in X$が存在して$X = O_x$となるとき,この作用は推移的(または可移)であるという.
(3) $x \in X$に対し,$S_G(x) = \{g \in G| \, g \cdot x = x\}$は$G$の部分群となり,これを$x$の安定化群という.
これについての重要な命題が続きます。
群$G$が集合$X$に作用するとする. このとき,次が成り立つ.
(1)$y \in O_x \Leftrightarrow O_y = O_x$
(2)$x,y \in X$に対し,$O_x \cap O_y \neq \varnothing$ならば$O_x = O_y$である.
(3)「$x \sim y \Leftrightarrow O_x = O_y$」で$X$上に関係を定義すると,これは同値関係になる.
この関係における$x \in X$の同値類は$O_x$そのものである.
(4)$X$はいくつかの軌道の直和である.
(1)の証明
$y \in O_x$とする. ある$g \in G$が存在して,$y = g \cdot x$と書ける. $x = g^{-1}\cdot y$である.
$z \in O_x$に対し,ある$g' \in G$が存在して$z = g'\cdot x$となり,
$z = g'\cdot x = g'g^{-1}\cdot y \in O_y$より,$O_x \subset O_y$がわかる.
同様にして$O_y \subset O_x$もわかり,$O_x = O_y$であった.
逆に$O_x = O_y$のとき,$y \in O_y = O_x$である.
(2)の証明
$O_x \cap O_y \neq \varnothing$とする. 元$z \in O_x \cap O_y$が取れて,$z \in O_x$より,ある$g \in G$で$z = g\cdot x$と書ける.
同様に$z \in O_y$であるので,ある$g' \in G$で$z = g' \cdot y$とも書ける.
$g \cdot x = g' \cdot y$より,$y = g'^{-1}g \cdot x \in O_x$なので(1)よりわかる.
(3)の証明
$x \sim x$なので,反射律は満たされる.
$x \sim y$とすると,$O_y = O_x$なので明らかに$y \sim x$である. 対称律もOK.
$x \sim y$かつ$y \sim z$とする. このとき$O_x = O_y = O_z$なので,$x \sim z$となる. 推移律も成り立つので,$\sim$は$X$上の同値関係であった. (この場合同$\sim$の定義にイコールがそのまま使われているため,すごく証明がラク)
この同値関係による$x \in X$の同値類は,
$\{y \in X | x \sim y\} = \{y \in X | O_x = O_y\} = \{y \in X | y \in O_x\} = O_x$
となるので$x$の軌道$O_x$そのものである.
(4)の証明
(3)よりただちにわかる.
$\sim$は同値関係であるから$X$は$\sim$による同値類(したがって軌道)の直和に分解される.
$G$からの作用がある集合は,軌道の直和に分解されてしまいます。
群論ではこの分解を頻繁に用いるため、慣れておきたいですね。
次の定理は軌道の情報を群(の商)から調べられる画期的なものです。
$G/S_G(x)$と$O_x$の間に$\overline{g} \mapsto g \cdot x$なる全単射が存在する.
とくに,$|O_x| = [G:S_G(x)]$である.
写像$\phi : G/S_G(x) → O_x$を$\phi(\overline{g}) = g \cdot x$で定める.
まず$\phi$がwell-definedであることを確かめておこう.
$\overline{g} = \overline{g'}$とする. このとき,ある$h \in S_G(x)$が存在して$g = g'h$と書ける.
$g \cdot x = g'h \cdot x = g' \cdot (h \cdot x) = g' \cdot x$となるので,たしかにwell-definedである.
つぎに全射性を示す.
$y \in O_x$とすると,ある$g \in G$で$y = g \cdot x$と書ける. $y = \phi(\overline{g})$なので$\phi$は全射である.
最後に単射性を示す.
$\phi(\overline{g}) = \phi(\overline{g'})$とする. $g \cdot x = g' \cdot x$より$g'^{-1}g \cdot x = x$なので,$g'^{-1}g \in S_G(x)$である.
したがって$ \overline{g} = \overline{g'}$となり,$\phi$は単射であることがわかる.
以上より,$\phi$は全単射である.
準備ができたので,目標の命題の証明をやっていきます。
(注意:赤雪江においては群$G$からその部分集合の集合$X$(つまりべき集合$2^{G}$の部分集合)への作用を$g \cdot S = gS$としたとき、この作用における$S$の安定化群$S_G(S)$のことを$\mathrm{Stab}(S)$と書いています。)
有限群$G$の,$G$の部分集合の集合への左からの積による作用を考える.
このとき,$S \subset G$に対し,$|\mathrm{Stab}(S)|$は$|S|$の約数である.
$H = \mathrm{Stab}(S)$とおく.$H$の定義により,$h \in H$ならば$hS = S$である.
これは$s \in S$に対して$hs \in S$($h$をかけても$S$からはみ出ない!)となることを意味しており,
$h \cdot s = hs$と定めると,これによって$H$は$S$に作用する.
命題2(4)によって,$S$はさっき作った作用による軌道の直和に分解される. この分解を
$$S = O_1 \cup O_2 \cup \cdots \cup O_m$$
とする.
軌道・安定化群定理によって,$1 \leq i \leq m$に対して$|O_i| = |H|/|S_H(x_i)|$ (ただし$x_i$は$O_i$を代表する元)となる. ここで$S_H(x_i) = \{e\}$である. 実際,$g \in S_H(x_i)$なら$gx_i = x_i$であり,両辺に右から$x_i^{-1}$をかけると$g = e$を得るため.
したがって$|O_i| = |H|$であり,上の分解は直和によるものであるから,元数を数えて$|S| = m|H|$となる.
ゆえに,$|H|$は$|S|$の約数である.
この証明から,$H$の$S$への作用の軌道の数は$|S|/|H|$個であることもわかりますね。
私が群論初学のときに、この命題の証明で相当悩んだ思い出があります。
この記事が誰かの理解の助けになれば幸いです。
最後にこの命題の使いどころを書いて終わりにします.
これは赤雪江におけるシローの定理の証明の冒頭部分です.
$G$を有限群とし,$|G| = p^am$ ($a > 0,p$は$|G|$の素因数,$m$は$p$と互いに素な整数)となるとき,
位数$p^a$の部分群が存在する.
(この部分群をシロー$p$部分群という.)
$X = \{ S \subset G \, | \, |S| = p^a\}$とし,また$n = |G|$とおく.
$|X| = {}_n C_{p^a}$であり、これは$p$で割り切れない. (赤雪江に書いてある証明を見てください...)
$G$は左からの積$g \cdot S = gS$によって$X$に作用する.
$X$をこの作用の軌道によって直和に分解し,
$$ X = O_1 \cup O_2 \cup \cdots \cup O_k$$
とする. $|X|$は$p$で割り切れないので,ある軌道$O_i$が存在し,$|O_i|$は$p$で割り切れない.
(実際,すべての軌道$O_1,O_2,\cdots ,O_k$の元数が$p$で割り切れるなら,その軌道たちの元数の和である$|X|$も$p$で割り切れてしまい,矛盾する.)
この軌道$O_i$を代表する元を$S'$とおき,さらに$H = \mathrm{Stab}(S')$とおく.
先ほどの命題により$|H|$は$|S'| = p^a$を割り切る. したがって$|H|$は$p$のべきであることがわかる.
ここで軌道・安定化群定理によって
$$ |O_i| = \dfrac{|G|}{|H|} = \dfrac{p^a m}{|H|}$$
となるが,$|O_i|$は$p$で割り切れないのだから,$|H| = p^a$にならざるを得ない.
以上で存在が示された.
「元数が$p$で割れない$G$集合を軌道分解すると,元数が$p$で割れない軌道が見つかる」ことが核心です。
今回はこのへんで。