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ここでは京大RIMS数学教室の修士課程の院試の1992II07の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。
1992II07
$\mathbb{C}$上の連結領域$D$をとり、$D$上の有界正則関数全体の集合を$A(D)$とおく。そして$z\in D$に対して
$$
M_D(z):=\sup_{f\in A(D)}|f'(z)|
$$
とおく。いま$D$は条件
- ある$z_0\in D$に対して$M_D(z)=0$
が満たされているとする。
- $A(D)=\mathbb{C}$であることを示しなさい。
- $D$上の非有界関数$\varphi$を任意に取ったとき、任意の$\alpha\in\mathbb{C}$に対して、
$$
\lim_{n\to\infty}\varphi(x_n)=\alpha
$$
なる$D$上の複素数列$\{x_n\}$が存在することを示しなさい。 - 条件を満たす$D$の例を$\mathbb{C}$以外で一つ挙げなさい。
- 条件を満たす$D$で単連結なものは$D=\mathbb{C}$に限ることを示しなさい。
- 背理法で示す。有界かつ非定数かつ$f'(z_0)=0$であるような$D$上の正則関数$f$が取れたとする。これは$f(z)-f(z_0)$を改めて$f$とおくことにより$f(z_0)=0$と取ることができる。$f$の$z_0$に於けるオーダーを$n$としたとき、$g=\frac{f(z)}{(z-z_0)^n}$とおく。これは$D$上有界かつ正則かつ$g'(z_0)\neq0$であり、$D$の満たすべき条件に矛盾する。よって$A(D)=\mathbb{C}$である。
- 背理法で示す。ある$\alpha$について$\varphi(x_n)\to \alpha$なる点列$x_n$が取れないとする。このとき$\alpha$を含む充分小さい円$C$の内部$B$に対して、$\varphi(D)\cap B=\varnothing$になる。しかしこの$\varphi$に$C$を保ち、その内側と外側を入れ替えるメビウス変換を合成させたものは有界かつ非定数な$D$上の正則関数になり(1)に矛盾する。よって仮定は誤りである。
- ${\color{red}D=\mathbb{C}^\times}$が所望の例であることを示す。$f$を$A(D)$上の元とする。$f$の有界性から$z=0$は$f$の除去可能特異点である。よって$A(D)=A(\mathbb{C})=\mathbb{C}$が従うから、$D=\mathbb{C}^\times$は所望の例である。
- 単連結な$D\neq\mathbb{C}$をとる。このときリーマンの写像定理により$D$は$\mathbb{C}$の単位開円板と双正則であるから、$D$上の非定数有界正則関数の存在が従う。よってこのような$D$は条件を満たさない。