複素解析で有名なLiouvilleの定理は, 有界性の仮定を可積分に変えても成立します. 本稿ではこのことを証明しようと思います.
版Liouvilleの定理 (c.f. [1] Lemma 4.24.)
この命題の証明にはおそらく色々な方法が考えられるかと思います(文献[1]ではの場合に, 劣調和関数の平均値不等式を用いて証明しています). 今回はの場合に, 複素解析を(そこまで)用いない, やや幾何解析寄りの手法を紹介します.
Notation
- : 上のコンパクトな台を持つLipschitz関数のなす空間.
- : 関数の勾配(gradient).
- : ベクトル場の発散(divergence).
- : Laplacian.
- : 内の原点中心, 半径の開球体.
Caccioppoli型の不等式
はじめに, 正則関数の持つ次の基本的な性質を思い出します.
正則関数の実部と虚部は調和関数
正則関数の実部と虚部をそれぞれととすると, とは共に調和関数, すなわちを満たす.
Cauchy−Riemann方程式より, が成り立つので,
となる. 虚部についても同様.
正則関数に対し, 等が成り立つので, が可積分ならば実部と虚部も可積分になります. よって, 可積分な調和関数は恒等的にでなければならないことを示せれば, Liouvilleの定理の証明ができたことになります.
こうして話を調和関数の場合に帰着できました.
そこで, 以下ではとみなし, 関数は全て実数値で考えます.
調和関数は様々な性質を満たしますが, その中でも今回は次のような, Poincaréの不等式の逆向きに当たるCaccioppoli型の不等式を用います.
Caccioppoli型不等式
を上の調和関数とする. このとき任意の関数および任意のに対し,
はじめに,
となるので, 発散定理より
仮定よりだから,
となるので, より,
したがって,
ここで, Youngの不等式で, , とすることで,
を得るので, 移項して
いま, より, に注意して, とおくことで
調べたい関数のDirichletエネルギーを, 任意に選べるテスト関数のエネルギーで上から抑えられているのがこの不等式の特徴です. 微分を制御できるという性質上, 微分方程式や変分問題の解の正則性(regularity)を示すのにも応用されます(正則性について学べる和書としては, 手頃な価格で入手できる文献[2]があります).
定理の証明
冒頭の定理を証明します. といっても, 主要な部分の証明はほぼ終わっていて, あとは適切なテスト関数を取ってきてCaccioppoliの不等式を適用するだけです. 以下, 不等式の右辺の係数をとおくことにします.
のときの版Liouvilleの定理の証明
任意のを取る. 関数を次のように定義する:
すると, であり, が成り立つ.
とおいて不等式に代入して,
が成り立つ. 上式でとすると右辺がに収束することから, ほとんど至る所ででなければならないことがわかる. はなめらかだから恒等的にでなければならず, したがっては定数関数である. さらには可積分だから, でなければならない.
同様の計算により, 上の可積分な調和関数もまた恒等的にになることが証明できます.
ついでに
通常のLiouvilleの定理も今回の手法で示してみましょう. ひとまずの時と同じを用いると,
となってしまい, 極限操作をとってもエネルギーが有限なことまでしか言えません. ですのでテスト関数の取り方をもう少し工夫する必要があるのですが, 実はこれには上手い方法があって, 次のようにを修正することで解決します:
Liouvilleの定理
を有界な調和関数とする. 上のようにを取ると, を満たすので, とおいて,
ここで, 積分範囲を
と分割すると,
となるので,
上式でとしてを得る.
この証明のように対数的に減衰するテスト関数を用いる手法はlogarithmic cutoff trickと呼ばれることがあり, 例えば極小曲面(面積汎関数の変分問題の解)の研究の中で登場します.
幾何解析で用いられる計算の雰囲気を, 本記事を通して少しでも味わってもらえたなら幸いです.