複素解析で有名なLiouvilleの定理は, 有界性の仮定を$L^p$可積分に変えても成立します. 本稿ではこのことを証明しようと思います.
正則関数$f: \mbb{C} \to \mbb{C}$がある$1\leq p <\infty$に対して$f \in L^p(\mbb{C})$を満たすならば, $f\equiv0$である.
この命題の証明にはおそらく色々な方法が考えられるかと思います(文献CMでは$p=1$の場合に, 劣調和関数の平均値不等式を用いて証明しています). 今回は$p>1$の場合に, 複素解析を(そこまで)用いない, やや幾何解析寄りの手法を紹介します.
はじめに, 正則関数の持つ次の基本的な性質を思い出します.
正則関数$f$の実部と虚部をそれぞれ$u$と$v$とすると, $u$と$v$は共に調和関数, すなわち$\Delta u = \Delta v=0$を満たす.
Cauchy−Riemann方程式より$u_x=v_y$, $u_y=-v_x$が成り立つので,
\begin{align}
\Delta u = u_{xx}+u_{yy} = (u_x)_x + (u_y)_y = (v_y)_x + (-v_x)_y = v_{yx} - v_{xy} = 0,
\end{align}
となる. 虚部$v$についても同様.
正則関数$f$に対し, $|f|^p=(u^2+v^2)^{p/2}\geq (u^2)^{p/2} = |u|^p$等が成り立つので, $f$が$L^p$可積分ならば実部$u$と虚部$v$も$L^p$可積分になります. よって, $L^p$可積分な調和関数$u$は恒等的に$0$でなければならないことを示せれば, Liouvilleの定理の証明ができたことになります.
こうして話を調和関数の場合に帰着できました.
そこで, 以下では$\mbb{C}=\mbb{R}^2$とみなし, 関数は全て実数値で考えます.
調和関数は様々な性質を満たしますが, その中でも今回は次のような, Poincaréの不等式の逆向きに当たるCaccioppoli型の不等式を用います.
$u$を$\mbb{R}^2$上の調和関数とする. このとき任意の関数$\phi \in \mrm{Lip}_0(\mbb{R}^2)$および任意の$q > 1/2$に対し,
\begin{align}
\int \phi^2 |\nabla u^q|^2 \leq \left(\frac{2q}{2q-1}\right)^2\int |u|^{2q} |\nabla \phi|^2. \label{eq:caccioppoli} \tag{1}
\end{align}
はじめに,
\begin{align}
\div{\phi^2 u^q \nabla u^q} = \phi^2|\nabla u^q|^2 + u^q\nabla \phi^2 \cdot \nabla u^q + \phi^2 u^q \Delta u^q,
\end{align}
となるので, 発散定理より
\begin{align}
\int \phi^2 |\nabla u^q|^2 = -\int u^q\nabla \phi^2 \cdot \nabla u^q - \int \phi^2 u^q \Delta u^q.
\end{align}
仮定より$\Delta u=0$だから,
\begin{align}
\Delta u^q = \div{qu^{q-1}\nabla u} = q(q-1)u^{q-2}|\nabla u|^2,
\end{align}
となるので, $q > 0$より,
\begin{align}
\phi^2 u ^q \Delta u^q = q(q-1)\phi^2 u^{2(q-1)} |\nabla u|^2=(1-q^{-1})\phi^2|qu^{q-1}\nabla u|^2 = (1-q^{-1})\phi^2|\nabla u^q|^2.
\end{align}
したがって,
\begin{align}
\frac{2q-1}{q}\int \phi^2 |\nabla u^q|^2 &= -\int u^q\nabla \phi^2 \cdot \nabla u^q =-2\int\phi u^q \nabla \phi \cdot \nabla u^q \\
&\leq 2\int |\phi| |u^a||\nabla \phi| |\nabla u^a|.
\end{align}
ここで, Youngの不等式$2ab \leq \eps a^2+\eps^{-1} b^2$で, $a=|\phi| |\nabla u^q|$, $b=|u^q| |\nabla \phi|$とすることで,
\begin{align}
\frac{2q-1}{q}\int \phi^2 |\nabla u^q|^2 \leq \eps \int \phi^2 |\nabla u^q|+\frac{1}{\eps}\int |u|^{2q} |\nabla \phi|^2,
\end{align}
を得るので, 移項して
\begin{align}
\left(\frac{2q-1}{q}-\eps \right)\int \phi^2 |\nabla u^q|^2 \leq \frac{1}{\eps} \int |u|^{2q} |\nabla \phi|^2.
\end{align}
いま, $q > 1/2$より, $(2q-1)/q > 0$に注意して, $\eps=(2q-1)/{2q}$とおくことで
\begin{align}
\int \phi^2 |\nabla u^q|^2 \leq \left(\frac{2q}{2q-1}\right)^2 \int |u|^{2q} |\nabla \phi|^2.
\end{align}
調べたい関数$u$のDirichletエネルギーを, 任意に選べるテスト関数$\phi$のエネルギーで上から抑えられているのがこの不等式の特徴です. 微分を制御できるという性質上, 微分方程式や変分問題の解の正則性(regularity)を示すのにも応用されます(正則性について学べる和書としては, 手頃な価格で入手できる文献Taがあります).
冒頭の定理を証明します. といっても, 主要な部分の証明はほぼ終わっていて, あとは適切なテスト関数$\phi$を取ってきてCaccioppoliの不等式を適用するだけです. 以下, 不等式\eqref{eq:caccioppoli}の右辺の係数を$C$とおくことにします.
任意の$R>0$を取る. 関数$\phi$を次のように定義する:
\begin{align}
\phi(x) =
\begin{cases}
1 &\text{on $B_R$,}\\
2-\frac{|x|}{R} &\text{on $B_{2R}\setminus B_R$}, \\
0 &\text{otherwise.}
\end{cases}
\end{align}
すると, $\phi \in \mrm{Lip}_0(\mbb{R}^2)$であり, $|\nabla \phi|\leq 1/R$が成り立つ.
$p=2q$とおいて不等式\eqref{eq:caccioppoli}に代入して,
\begin{align}
\int_{B_R}|\nabla u^q|^2 \leq \int_{B_{2R}}\phi^2 |\nabla u^q|^2 \leq C\int_{B_{2R}} |u|^{2q} |\nabla \phi|^2 \leq \frac{C}{R^2}\int_{B_{2R}\setminus B_R}|u|^p \leq \frac{C \|u\|_{L^p}^p}{R^2},
\end{align}
が成り立つ. 上式で$R \to \infty$とすると右辺が$0$に収束することから, ほとんど至る所で$|\nabla u^q| = 0$でなければならないことがわかる. $u$はなめらかだから恒等的に$\nabla u=0$でなければならず, したがって$u$は定数関数である. さらに$u$は$L^p$可積分だから, $u \equiv 0$でなければならない.
同様の計算により, $\mbb{R}^n$上の$L^p$可積分な調和関数もまた恒等的に$0$になることが証明できます.
通常のLiouvilleの定理も今回の手法で示してみましょう. ひとまず$L^p$の時と同じ$\phi$を用いると,
\begin{align}
\int_{B_R}|\nabla u|^2 \leq \frac{C}{R^2}\int_{B_{2R}\setminus B_R}|u|\leq \frac{C\|u\|_{\infty}}{R^2}\pi R^2=C\pi\|u\|_{\infty},
\end{align}
となってしまい, 極限操作をとってもエネルギーが有限なことまでしか言えません. ですのでテスト関数$\phi$の取り方をもう少し工夫する必要があるのですが, 実はこれには上手い方法があって, 次のように$\phi$を修正することで解決します:
\begin{align}
\phi(x)=
\begin{cases}
1 &\text{on $B_{e^N}$}, \\
2- \frac{\log{|x|}}{N} &\text{on $B_{e^{2N}}\setminus B_{e^N}$}, \\
0 &\text{otherwise.}
\end{cases}
\end{align}
$u$を有界な調和関数とする. 上のように$\phi$を取ると, $|\nabla \phi| \leq (N|x|)^{-1}$を満たすので, $r=|x|$とおいて,
\begin{align}
\int_{B_{e^N}}|\nabla u|^2 \leq \frac{C}{N^2}\int_{B_{e^{2N}}\setminus B_{e^N}}|u|r^{-2} \leq \frac{C\|u\|_{\infty}}{N^2}\int_{B_{e^{2N}}\setminus B_{e^N}}r^{-2}.
\end{align}
ここで, 積分範囲を
\begin{align}
B_{e^{2N}} \setminus B_{e^N} = \bigcup_{k=N+1}^{2N}B_{e^{k}} \setminus B_{e^{k-1}}
\end{align}
と分割すると,
\begin{align}
\int_{B_{e^{2N}}\setminus B_{e^N}}r^{-2} = \sum_{k=N+1}^{2N}\int_{B_{e^{k}}\setminus B_{e^{k-1}}}r^{-2} \leq \sum_{k=N+1}^{2N}e^{2}e^{-2k}\cdot \pi e^{2k}=N\pi e^2,
\end{align}
となるので,
\begin{align}
\int_{B_{e^N}}|\nabla u|^2 \leq \frac{\pi C e^2\|u\|_{\infty}}{N}.
\end{align}
上式で$N \to \infty$として$\nabla u \equiv 0$を得る.
この証明のように対数的に減衰するテスト関数を用いる手法はlogarithmic cutoff trickと呼ばれることがあり, 例えば極小曲面(面積汎関数の変分問題の解)の研究の中で登場します.
幾何解析で用いられる計算の雰囲気を, 本記事を通して少しでも味わってもらえたなら幸いです.