今回は,Fibonacci多項式$F_n(X) \in \symbb{Z}[X]$が,有限体上の多項式環$\symbb{Z}_q[X]$において完全冪となるための条件について,arXivの論文pfをもとに書いていきます.
最も有名な数列の一つに,Fibonacci数列と呼ばれるものがあります.フィボナッチ数列$f_n$は,次の漸化式によって定義されます:
$$
f_0 = 0, f_1 = 1, f_n = f_{n - 1} + f_{n - 2}\ (n \ge 2)\text{.}
$$
Fibonacci数列の最初の10項は
$$
0, 1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34
$$
となります.
Bugeaud, Mignotte, Siksekは,完全冪となるFibonacci数列に関して,次の定理を証明しましたpf
Fibonacci数列で完全冪となるものは,$f_0 = 0, f_1 = f_2 = 1, f_6 = 8, f_{12} = 144$のみである.
まず最初に,今回の主役となるFibonacci多項式の定義をします.
Fibonacci多項式$F_n(X) \in \symbb{Z}[X]$を,次の漸化式により定義する.
\begin{align}
F_0(X) &= 0\text{}\\
F_1(X) &= 1\text{}\\
F_n(X) &= TF_{n - 1}(X) + F_{n - 2}(X)\quad(n \ge 2)
\end{align}
Fibonacci多項式の最初の5つは
$$
0, 1, T, T^2 + 1, T^3 + 2T
$$
です.
Fibonacci多項式において,Fibonacci数列におけるBinetの公式の類似が成り立ちます.(以下,この命題2をBinetの公式と呼ぶことにします)
$\alpha(X), \beta(X)$を多項式$T^2 - XT - 1$の根とする.このとき
$$
F_n(X) = \frac{\alpha(X)^n - \beta(X)^n}{\alpha(X) - \beta(X)} \tag{1}
$$
が成り立つ.特に,標数が2でない体において
$$
\alpha(X) = \frac{X + \sqrt{X^2 + 4}}{2},\ \beta(X) = \frac{X - \sqrt{X^2 + 4}}{2}
$$
であり,
$$
F_n(X) = \frac{\left(\frac{1}{2}X + \frac{1}{2}\sqrt{X^2 + 4}\right)^n - \left(\frac{1}{2}X - \frac{1}{2}\sqrt{X^2 + 4}\right)^n}{\sqrt{X^2 + 4}}
$$
が成り立つ.
$n$に関する帰納法.$n = 0, 1$のときは自明.$n \ge 2$とし,$n$より小さい正整数についてはこの命題が成り立つと仮定すると,
\begin{align}
F_n(X) &= XF_{n - 1}(X) + F_{n - 2}(X)\\
&=\frac{X \alpha(X)^{n - 1} - X \beta(X)^{n - 1} + \alpha(X)^{n - 2} - \beta(X)^{n - 2}}{\alpha(X) - \beta(X)}\\
&= \frac{\alpha(X)^{n - 2}(X\alpha(X) + 1) - \beta(X)^{n - 2}(X\beta(X) + 1)}{\alpha(X) - \beta(X)}\\
&= \frac{\alpha(X)^n - \beta(X)^n}{\alpha(X) - \beta(X)}
\end{align}
となり,(1) が示された.ここで,最後の等号は,$\alpha(X), \beta(X)$がともに多項式$T^2 - XT - 1$の根であることによる.
今回紹介したいのは,pfで証明された次の定理です.(以下,特に説明しない場合は文字はこの定理と同じものとします)
$j$を正整数とする.$p$を$2j$と互いに素な奇素数とし,$q$を$p$の冪とする.このとき,任意の正整数$n$に対し,Fibonacci多項式$F_n(X)$が$\symbb{F}_q[X]$において$j$乗の元となる(すなわち,ある$p(x) \in \symbb{F}_q[X]$が存在して$F_n(X) = p(X)^j$となる)ための必要十分条件は,ある非負整数$k$が存在して$n = p^{ak}$となることである.ただし,$a = \ord_{2j}(p)$は,群$(\symbb{Z} / 2j \symbb{Z})^\times$における$p$の位数を表す.
以下,pfに沿って証明を行っていきます.
$\symbb{F}_q[X]$において,
$$
F_{p^k}(X) = (X^2 + 4)^{\frac{p^k - 1}{2}}
$$
が成り立つ.
$k = 0$のときは自明.$k \ge 1$とすると,Binetの公式により
\begin{align}
F_{p^k}(X) &= \frac{\alpha(X)^{p^k} - \beta(X)^{p^k}}{\alpha(X) - \beta(X)}\\ &= \frac{(\alpha(X) - \beta(X))^{p^k}}{\alpha(X) - \beta(X)}\\ &= (\alpha(X) - \beta(X))^{p^k - 1}\\&=(X^2 + 4)^{\frac{p^k - 1}{2}}
\end{align}
となる.
$n = p^k m$($m$と$p$は互いに素)とするとき,$F_n(X)$は$\symbb{F}_q[X]$において次のように分解する.
$$
F_{p^k m}(X) = F_{p^k}(X) F_{m}(X)^{p^k}\text{.}
$$
Binetの公式により,
\begin{align}
F_n(X) &= \frac{\alpha(X)^{p^km} - \beta(X)^{p^km}}{\alpha(X) - \beta(X)}\\&=\frac{(\alpha(X)^m - \beta(X)^m)^{p^k}}{\alpha(X) - \beta(X)}\\&= \frac{(\alpha(X) - \beta(X))^{p^k}}{\alpha(X) - \beta(X)} \frac{(\alpha(X)^{m} - \beta(X)^{m})^{p^k}}{(\alpha(X) - \beta(X))^{p^k}}\\&=\frac{(\alpha(X) - \beta(X))^{p^k}}{\alpha(X) - \beta(X)} \left(\frac{\alpha(X)^m - \beta(X)^m}{\alpha(X) - \beta(X)}\right)^{p^k}\\&=F_{p^k}(X)F_m(X)^{p^k}
\end{align}
となり,補題の式を得る.
補題4と5を合わせることにより,次の命題が得られます.
$m$を$p$と互いに素な正整数とするとき,Fibonacci多項式$F_{p^km}(X)$は$\symbb{F}_q[X]$において次のように分解する.
$$
F_{p^km}(X) = (X^2 + 4)^{\frac{p^k - 1}{2}}F_m(X)^{p^k}\text{.}
$$
命題6により,$F_m(X)$が$\symbb{F}_q[X]$でどのように分解するのかが分かればよいこととなります.実は,$F_m(X)\ (p \nmid m)$は$\symbb{F}_q[X]$においてsquare-free(平方因子を持たない)であることがわかります.
任意の$n \ge 0$に対し
$$
F_n(X) = \prod_{k = 1}^{n - 1} (X - i(\zeta_{2n}^k + \zeta_{2n}^{-k}))
$$
が成り立つ.ただし,$i$は$1$の原始$4$乗根を,$\zeta_{2n}$は$1$の原始$2n$乗根を表す.
$m$を$p$と互いに素な正整数とするとき,$F_m(X)$は$\symbb{F}_q[X]$においてsquare-freeである.
$F_m(X)$がsquare-freeでないと仮定する.このとき,補題7により,ある整数$1 \le k < \ell < m$が存在して$\zeta_{2m}^k + \zeta_{2m}^{-k} = \zeta_{2m}^\ell + \zeta_{2m}^{-\ell}$,すなわち$(\zeta_{2m}^{-k} - \zeta_{2m}^{-\ell})(\zeta_{2m}^{k + \ell} + 1) = 0$となるから,$\zeta_{2m}^{-k} = \zeta_{2m}^{-\ell}$または$\zeta_{2m}^{k + \ell} = 1$となるが,$k, \ell$の取り方によりどちらもあり得ない.それゆえ$F_m(X)$はsquare-freeである.
$\symbb{F}_q[X]$において
$$
F_n(X) \pmod{X^2 + 4} = \begin{cases}
(-1)^{\frac{n - 1}{2}}n & (2 \nmid n)\\
(-1)^{\frac{n}{2} + 1} \frac{nX}{2} & (2 \mid n)
\end{cases}
$$
が成り立つ.
$n$に関する帰納法.$n = 0, 1$のときは明らか.
$n = 2m\ (m \in \symbb{Z})$であるとき,
\begin{align}
F_{2m}(X) &= XF_{2m - 1}(X) + F_{2m - 2}(X)\\
&\equiv (-1)^{\frac{2m - 2}{2}}(2m - 1)X + (-1)^{\frac{2m - 2}{2} + 1}(2m - 2)X \cdot \frac{1}{2}\\
&= (-1)^{m - 1}(2m-1)X + (-1)^m(m - 1)X\\
&= (-1)^{m - 1}[(2m - 1) - (m - 1)]X\\
&= (-1)^{m + 1}mX\\
&= (-1)^{\frac{2m}{2} + 1}\frac{2mX}{2}
\end{align}
となり,補題が成り立つ.
$n$が奇数であるときも同様に示される.
$n$を$p$と互いに素な正整数とするとき,$\symbb{F}_q[X]$で$F_n(X)$と$X^2 + 4$は互いに素である.
$F_n(X)$と$X^2 + 4$が共通因数を持つと仮定する.このとき,$F_n(X)$と$X^2 + 4$は共通因数$\alpha \in \symbb{F}_{q^2}$を持つ.しかし,補題9により,これはあり得ない.実際,例えば$2 \mid n$の場合,$F_n(\alpha) = (-1)^{\frac{n}{2} + 1}\frac{n}{2}\alpha \neq 0$とならなければならない.
以上の補題を用いて,定理3の証明を行います.
(十分)命題6により,$F_{p^{ak}}(X) = (X^2 + 4)^{\frac{p^{ak} - 1}{2}}$であり,$p^a \equiv 1 \pmod{2j}$であるから,$\frac{p^{ak} - 1}{2} \equiv 0 \pmod{j}$.それゆえ$F_{p^{ak}}(X)$は$j$乗の元である.
(必要)$n = p^{ak+b}m\ (0 \le k < p, \gcd(p, m) = 1)$とする.このとき,命題6により
$$
F_n(X) = (X^2 + 4)^{\frac{p^{ak + b} - 1}{2}}F_m(X)^{p^{ak + b}}
$$
が成り立つ.
$F_n(X)$が$\symbb{F}_q[X]$において$j$乗の元であるとする.
$b > 0$であると仮定する.このとき$p^{ak + b} = p^{ak}p^b \equiv p^b \pmod{2j}$であり,$p^b \not\equiv 1 \pmod{2j}$であるから,$(X^2 + 4)^{\frac{p^{ak + b} - 1}{2}}$は$j$乗の元ではない.よって,命題8,10により矛盾.それゆえ$b = 0$である.
$m > 1$であると仮定する.このとき,$p^{ak} \equiv 1 \pmod{2j}$であるから,$(X^2 + 4)^{\frac{p^{ak} - 1}{2}}$は$j$乗の元であるが,$F_{m}(X)^{p^{ak}}$はそうでない.しかし,仮定により$F_n(X) = (X^2 + 4)^{\frac{p^{ak} - 1}{2}}F_m(X)$は$j$乗の元であり,命題10に矛盾.それゆえ,$m = 1$である.
以上により,$F_{p^{ak + b}m}(X)$が$j$乗の元であるならば,$b = 0, m = 1$,すなわち$n = p^{ak}$である.
今回は,有限体上の多項式環における,Fibonacci数列とその冪に関するアナロジーを紹介しました.論文pfでは,$p = 2$の場合や一般化などより詳しく書いてあるので,興味のある方はぜひ読んでみてください.