2
大学数学基礎解説
文献あり

午年なので、馬蹄補題 (Horseshoe lemma) を証明してみた

141
0
$$\newcommand{coker}[0]{\text{coker}} \newcommand{Im}[0]{\text{Im}} \newcommand{Ker}[0]{\text{Ker}} $$

§1 自己紹介

皆さんはじめまして。京都大学数理科学系4回生の、いのっちと申します。
京都大学作問サークルというところで副団長を務めております。

今回、Mathlogに初めて記事を寄稿します。拙いところもあると思いますが、どうぞお付き合いください。

さて、突然ですが、昨年2025年の干支は覚えていますか?おそらくほとんどの人は忘れていたと思いますが、実は2025年は巳年(へびどし)でした。

数学徒にとって「ヘビ」といえば、やはり蛇の補題(Snake lemma)が思い浮かぶのではないでしょうか。実際、昨年の年始には私のサークルでもちょっとした話題になり、蛇の補題を"書き初め"する猛者(?)も現れました。

では、今年はどうでしょうか?2026年の干支は、午年(うまどし)です。「馬」にちなんだ、数学の話題はあるでしょうか?

実はあります。「馬蹄補題」(あるいは蹄鉄補題)というものです[注]。英語ではHorseshoe lemmaと呼ばれます。蛇の補題と同じく、ホモロジー代数で登場する補題です。

私は幾何学を専攻しているものの、ホモロジー代数にはあまり詳しくありません。しかしだからこそ、この機会にしっかり向き合ってみたいと思いました。また、2026年を気持ちよく始めるには、馬蹄補題を示すことが不可欠なのではないか、という気持ちも沸き上がってきました。

この記事は、馬蹄補題について理解することを目的としています。
しっかり理解して、気持ちよく2026年をスタートさせましょう!

(重要!!)

私はこういう記事を書くのが初めてな上、代数学があまり得意でないので、誤った内容を含む可能性が非常に高いです。誤植や、主張・証明の誤りを発見した場合、優しく教えていただけますと幸いです。

§2 準備

2.1 加群

まずは舞台設定として、加群と準同型写像の復習をしましょう。

可換環

集合$R$に演算$+$$\times$が定義されていて、

  1. $(a+b)+c=a+(b+c)$
  2. $a+0=0+a=a$
  3. $a+(-a)=(-a)+a=0$
  4. $a+b=b+a$
  5. $(a\times b)\times c=a\times (b\times c)$
  6. $1\times a=a\times 1=a$
  7. $a\times (b+c)=a\times b+a\times c$
  8. $(a+b)\times c=a\times c+b\times c$
  9. $a\times b=b\times a$

を満たすとき、$R$可換環という。

以下、$R$を可換環とします。

環上の加群

集合$M$$R$-加群であるとは、演算
$$M\times M\ni(m_{1},m_{2})\mapsto m_{1}+m_{2}\in M$$
$$R\times M\ni (r,m) \mapsto rm\in M$$
が定まっていて、次の条件

  1. $(m_1+m_2)+m_{3}=m_{1}+(m_{2}+m_{3})$
  2. $m+0=0+m=m$
  3. $m+(-m)=(-m)+m=0$
  4. $m_{1}+m_{2}=m_{2}+m_{1}$
  5. $(r_{1}\times r_{2})m=r_{1}(r_{2}m)$
  6. $1m=m$
  7. $(r_{1}+r_{2})m=r_{1}m+r_{2}m$
  8. $r(m_{1}+m_{2})=rm_{1}+rm_{2}$

を満たすことをいう。

準同型写像

$M,N$$R$-加群とする。写像$f:M\to N$準同型写像であるとは、
$$f(m_{1}+m_{2})=f(m_{1})+f(m_{2}),\quad f(rm)=rf(m)$$
を満たすことをいう。

像と核

$M,N$$R$-加群とし、$f:M\to N$を準同型写像とする。このとき、
$$\Im f:=\{n\in N\mid \exists m\in M, f(m)=n\},$$
$$\Ker f:=\{m\in M\mid f(m)=0\}$$
を定める。

$R$ が体のとき、$R$-加群はベクトル空間と呼ばれ、準同型写像は線型写像と呼ばれます。加群について詳しくない方は、全てベクトル空間と思っていただいても構いません。

2.2 完全列

馬蹄補題の準備として、補題をいくつか証明していきます。
まず最初に、完全列について復習します。

完全列

$R$-加群 $A_{i} \ (i\in\mathbb{Z})$と準同型写像 $f_{i}:A_{i}\to A_{i+1} \ (i\in\mathbb{Z})$ からなる列
$$ \cdots \longrightarrow A_{i-1} \stackrel{f_{i-1}}{\longrightarrow} A_{i} \stackrel{f_{i}}{\longrightarrow} A_{i+1} \longrightarrow \cdots$$
について考える(列は有限でもよい)。$i\in\mathbb{Z}$ において$\Im f_{i-1}=\Ker f_{i}$が成り立っているとき、この列は$A_{i}$完全であるという。また、全ての$i\in\mathbb{Z}$で完全であるとき、この列を完全列という。

以下、特に断らない限り、完全列や図式に出てくる集合は$R$-加群、写像は準同型写像であると仮定します。

完全列について、定義から明らかに次が成り立ちます。

完全列をなす写像の合成

$$ \cdots \longrightarrow A_{i-1} \stackrel{f_{i-1}}{\longrightarrow} A_{i} \stackrel{f_{i}}{\longrightarrow} A_{i+1} \longrightarrow \cdots$$
という完全列について、$f_{i}\circ f_{i-1}=0 \ (\forall i\in\mathbb{Z})$ が成り立つ。

$\forall x\in A_{i-1}$をとる。$f_{i-1}(x)\in\Im f_{i-1}=\Ker f_{i}$ なので、$f_{i}(f_{i-1}(x))=0$$\square$

$$ 0 \longrightarrow A \stackrel{f}{\longrightarrow} B \stackrel{g}{\longrightarrow} C \longrightarrow 0$$
が完全列であるとき、これを短完全列といいます。短完全列について、定義より$f$は単射、$g$は全射です。

以下しばしば、単射を$\hookrightarrow$、全射を$\twoheadrightarrow$と書きます。すると短完全列は
\begin{xy} \xymatrix @M=2ex { 0 \ar[r]^{0} & A \ar@{^{(}->}[r]^{f} & B \ar@{->>}[r]^{g} & C \ar[r]^{0} & 0 } \end{xy}
と表せます。

さて、短完全列に関する有名事実を紹介しておきます。

分裂補題(の一部) Ryu

\begin{xy} \xymatrix @M=2ex { 0 \ar[r] & A \ar@{^{(}->}[r]^{i} & B \ar@{->>}[r]^{p} & C \ar[r] & 0 } \end{xy}
を短完全列とする。このとき、以下は同値。
(1) 準同型写像 $j:B\to A$ が存在して、$j\circ i =\mathrm{id}_{A}$ となる。
(2) 準同型写像 $q:C\to B$ が存在して、$p\circ q =\mathrm{id}_{C}$ となる。

(1)$\Rightarrow$(2)

$q$の構成

$c\in C$に対し、$p:B\to C$の全射性より、$\exists b\in B,\ p(b)=c$となる。この$b$を使って、
$$q(c):=b-i\circ j(b)$$
と定める。

$q$がwell-definedであること

$p(b)=c$ となる $b\in B$ と、$p(b')=c$ となる $b'\in B$ を取ってくる。$p(b-b')=0$なので、$b-b'\in\Ker p$である。短完全列であることから$\Ker p=\Im i$ なので、$\exists a\in A, i(a)=b-b'$となる。このとき、
$$ b-i\circ j(b)=b'+i(a)-i\circ j(b'+i(a))=b'+i(a)-i\circ j(a)-i\circ j \circ i(b')=b'-i\circ j(b')$$
となる。したがって、$q$はwell-defined。

$q$が準同型写像であること

式の形より明らか。

$p\circ q=\mathrm{id}_{C}$であること

$$p\circ q(c)=p(b-i\circ j(b))=p(b)-0\circ j(b)=p(b)=c$$
であることから分かる。

(2)$\Rightarrow$(1)

$j$の構成

$b\in B$ に対して、$p(b-q\circ p(b))=0$となるので、$b-q\circ p(b)\in\Ker p$ である。短完全列であることから$\Ker p=\Im i$ なので、$\exists! a\in A, i(a)=b-q\circ p(b)$となる($\because$ $i$は単射なので、$a$は一意的に存在する)。このとき、
$$j(b):=a$$
が定められ、well-definedである。

jが準同型写像であること

式の形から容易に分かる。

$j\circ i=\mathrm{id}_{A}$であること

$i\circ j(b)=b-q\circ p(b)$であるので、
$$i\circ j\circ i(a)=i(a)-q\circ p\circ i(a)=i(a)-q\circ 0(a)=i(a)$$
となる。$i$は単射ゆえ$ j\circ i(a)=a$なので、$j\circ i=\mathrm{id}_{A}$である。

$\therefore$ 以上より、(1)$\iff$(2) である。$\square$

上の補題において、(1)(2)が成り立つとき $B\cong A \oplus C$ が成り立ちます。分裂補題の詳細な主張については、各自調べてください。

分裂

上の補題の条件(1)(2)が満たされるとき、この短完全列は分裂するという。

2.3 射影加群

次に射影加群について説明します。この節の内容はGatおよびLauを参考にしています。

射影加群 Gat

$R$-加群$P$射影加群であるとは、任意の$R$-加群$M,N$と、任意の全射準同型写像 $f:M\to N$ と任意の準同型写像 $g:P\to N$ に対して、ある準同型写像$h:P\to M$が存在して$g=f\circ h$ となることをいう。
\begin{xy} \xymatrix { & &P \ar[dl]_{^{\exists}h}\ar@{}[dl]!<+4ex, -2ex>|{\circlearrowleft} \ar[d]^{^{\forall}g}\\ &M \ar@{->>}[r]_{^{\forall}f} &N } \end{xy}

射影加群に関する補題を示します。

射影加群の直和

$R$-加群$A,C$が射影加群であるとき、直和$A\oplus C$も射影加群である。

$R$-加群$M,N$、全射準同型写像 $f:A\oplus C\to N$、準同型写像 $g:A\oplus C\to N$をそれぞれ任意にとる。
\begin{xy} \xymatrix { & &A\oplus C \ar[dl]_{^{\exists}h?}\ar@{}[dl]!<+4ex, -2ex>|{\circlearrowleft} \ar[d]^{^{\forall}g}\\ &M \ar@{->>}[r]_{^{\forall}f} &N } \end{xy}
$i:A\to A\oplus C$$i(a)=(a,0)$ で定め、$j:C\to A\oplus C$$j(c)=(0,c)$ で定める。$f$$g\circ i$$f$$g\circ j$ について、それぞれ射影加群であることの定義を使う。
\begin{xy} \xymatrix { & &A \ar[dl]_{^{\exists}h_{1}}\ar@{}[dl]!<+4ex, -2ex>|{\circlearrowleft} \ar[d]^{g\circ i}& &C \ar[dl]_{^{\exists}h_{2}}\ar@{}[dl]!<+4ex, -2ex>|{\circlearrowleft} \ar[d]^{g\circ j}\\ &M \ar@{->>}[r]_{f} &N&M \ar@{->>}[r]_{f} &N } \end{xy}
すると $\exists h_{1}:A\to M, f\circ h_{1}=g\circ i$$\exists h_{2}:C\to M, f\circ h_{2}=g\circ j$ がいえる。これを使って、$h:A\oplus C\to M$
$$h(a,c)=h_{1}(a)+h_{2}(c)$$
で定める。すると
$$f\circ h(a,c)=f(h_{1}(a)+h_{2}(c))=f\circ h_{1}(a)+f\circ h_{2}(c)=g\circ i(a)+g\circ j(a)=g(a,0)=g(0,c)=g(a,c)$$
となる。したがって、図式が可換になるような $h:A\oplus C\to M$ が存在するので、$A\oplus C$は射影加群である。$\square$

射影加群を含む短完全列の分裂

\begin{xy} \xymatrix @M=2ex { 0 \ar[r]^{0} & A \ar@{^{(}->}[r]^{i} & B \ar@{->>}[r]^{p} & C \ar[r]^{0} & 0 } \end{xy}
が短完全列で、$C$が射影加群のとき、この短完全列は分裂する。

$C$ は射影加群なので、定義より次の図式
\begin{xy} \xymatrix { & &C \ar[dl]_{^{\exists}q} \ar@{}[dl]!<+4ex, -2ex>|{\circlearrowleft} \ar[d]^{\mathrm{id}_{C}}\\ &B \ar@{->>}[r]_{p} &C } \end{xy}
を可換にする写像$\exists q:C\to B$が存在する。$p\circ q=\mathrm{id}_{C}$ なので、この短完全列は分裂する。$\square$

短完全列の間の写像の存在 Lau

\begin{xy} \xymatrix @M=2ex { &0 \ar[r] &A \ar@{^{(}->}[r]^{i} \ar[d]^{\alpha} &B \ar@{->>}[r]^{p} &C \ar[r] \ar[d]^{\gamma} &0\\ &0 \ar[r] &D \ar@{^{(}->}[r]_{f} &E \ar@{->>}[r]_{g} &F \ar[r]&0 } \end{xy}
という図式において、上の行と下の行は短完全列であるとする。$C$ が射影加群なら、準同型写像 $\beta : B\to E$ であって図式を可換にするものが存在する。
\begin{xy} \xymatrix @M=2ex { &0 \ar[r] &A \ar@{^{(}->}[r]^{i} \ar[d]^{\alpha} \ar@{}[dr]|{\circlearrowleft} &B \ar@{->>}[r]^{p} \ar[d]^{^{\exists}\beta} \ar@{}[dr]|{\circlearrowleft} &C \ar[r] \ar[d]^{\gamma} &0\\ &0 \ar[r] &D \ar@{^{(}->}[r]_{f} &E \ar@{->>}[r]_{g} &F \ar[r]&0 } \end{xy}

$C$ は射影加群なので、定義より準同型写像$h:C\to E$$g\circ h=\gamma$となるものが存在する。また、lem4より短完全列が分裂するので、lem2より、準同型写像$j:B\to A$$j\circ i=\mathrm{id}_{A}$となるものが存在する。
\begin{xy} \xymatrix@M=2ex { &0 \ar[r] &A \ar@<0.6ex>@{^{(}->}[r]^{i} \ar[d]^{\alpha} &B \ar@<0.6ex>[l]^{j} \ar@{->>}[r]^{p} &C \ar[r] \ar[d]^{\gamma} \ar[dl]_{h} \ar@{}[dl]!<+4ex, -2ex>|{\circlearrowleft} &0\\ &0 \ar[r] &D \ar@{^{(}->}[r]_{f} &E \ar@{->>}[r]_{g} &F \ar[r]&0 } \end{xy}
このとき、
$$\beta:=f\circ\alpha\circ j+h\circ p$$
とすればよい。実際、これは準同型写像であり、以下の計算により図式の可換性が示せる。$a\in A$ に対して、
$$\beta(i(a))=f\circ\alpha\circ j\circ i(a)+h\circ p\circ i(a)=f\circ\alpha(a)+h\circ 0(a)=f(\alpha(a))$$
なので、$\beta\circ i=f\circ\alpha$となる。また、$b\in B$に対して、
$$g(\beta(b))=g\circ f\circ\alpha\circ j(b)+g\circ h\circ p(b)=0\circ\alpha\circ j(b)+\gamma\circ p(b)=\gamma(p(b))$$
なので、$g\circ\beta=\gamma\circ p$となる。以上より、図式が可換になる。
\begin{xy} \xymatrix@M=2ex { &0 \ar[r] &A \ar@{^{(}->}[r]^{i} \ar[d]^{\alpha} \ar@{}[dr]|{\circlearrowleft} &B \ar@{->>}[r]^{p} \ar[d]^{\beta} \ar@{}[dr]|{\circlearrowleft} &C \ar[r] \ar[d]^{\gamma} &0\\ &0 \ar[r] &D \ar@{^{(}->}[r]_{f} &E \ar@{->>}[r]_{g} &F \ar[r]&0 } \end{xy}
$\square$

この節の最後に、射影分解という用語を導入しておきます。

射影分解 Gat

$R$-加群$A$に対して、
\begin{xy} \xymatrix { &\cdots \ar[r]^{d_{n+1}} & A_{n} \ar[r]^{d_{n}} &\cdots \ar[r]^{d_{2}}& A_{1} \ar[r]^{d_{1}} & A_{0} \ar[r]^{\varepsilon} & A \ar[r]^{0} & 0 } \end{xy}
という完全列であって、任意の$A_{i} \ (i\in\mathbb{Z}_{\ge 0})$が射影加群になっているようなものを、$A$射影分解という。

なお、任意の$R$-加群に対して射影分解は必ず存在することが知られています。このあたりの事実については、ここでは立ち入りません。

§3 蛇の補題

さて、昨年の干支にちなんで、蛇の補題も復習しておきましょう。

3.1 余核

その前に、余核を定義します。

余核

$f:A\to B$ を準同型写像とするとき、$f$余核$\coker f$$\coker f:=B/\Im f$で定める。

定義から明らかに、次が成り立ちます。

余核の性質

$f:A\to B$ を準同型写像とするとき、
$$\quad f\text{ が全射} \iff \coker f=0$$
が成り立つ。

定義から直ちにしたがう。$\square$

3.2 蛇の補題

蛇の補題の主張は以下の通りです。

蛇の補題 (Snake lemma) Bob

\begin{xy} \xymatrix@M=2ex{ &0\ar[r]&A \ar@{^{(}->}[r]^{f} \ar[d]^{\alpha} \ar@{}[dr]|{\circlearrowleft} &B \ar@{->>}^{g}[r] \ar[d]^{\beta} \ar@{}[dr]|{\circlearrowleft} &C \ar[r] \ar[d]^{\gamma} &0\\ &0 \ar[r] &D \ar@{^{(}->}[r]_{f'} &E \ar@{->>}[r]_{g'} &F\ar[r]&0 } \end{xy}
という図式において、上段と下段がそれぞれ短完全列であるとする。このとき、
$$0\to\Ker\alpha\to\Ker\beta\to\Ker\gamma\to\coker\alpha\to\coker\beta\to\coker\gamma\to 0$$
という完全列が存在する。

図式を描くとこんな感じです。

\begin{xy} \xymatrix @C=1ex@R=1ex@M=1.5em{ &0\ar[rr]&& \Ker \alpha\ar[dd]\ar[rr] && \Ker \beta\ar[dd]\ar[rr] && \Ker \gamma\ar[dd] \ar`r[3,1]`[3,-5]^{\delta}`[6,-5]`[6,-4][6,-4] && \\ &&&& \circlearrowleft && \circlearrowleft &&&\\ &0\ar[rr]&& A\ar@{^{(}->}[rr]^{f}\ar[dd]!<0ex, 3ex>^{\alpha} && B\ar@{->>}[rr]^{g}\ar[dd]!<0ex, 3ex>^{\beta} && C\ar[rr]\ar[dd]!<0ex, 3ex>^{\gamma} && 0 \\ &&&& \circlearrowleft && \circlearrowleft &&&\\ &0\ar[rr] && D\ar@{^{(}->}[rr]^{f'}\ar[dd] && E\ar@{->>}[rr]^{g'}\ar[dd] && F\ar[rr]\ar@{->>}[dd]&&0 \\ &&&& \circlearrowleft && \circlearrowleft &&&\\ &&& \coker \alpha\ar[rr] && \coker \beta\ar[rr] && \coker \gamma\ar[rr]&&0 } \end{xy}

$\Ker\gamma$から$\coker\alpha$への矢印が蛇のように見えることから、蛇の補題という名前が付いているようです。

この命題の証明は長いので省略させていただきます。BobLauを参照してください。

§4 馬蹄補題

ではいよいよ、馬蹄補題について述べていきます!主張は次の通りです。

馬蹄補題 (Horseshoe lemma) Lau

\begin{xy} \xymatrix { &&&&&&0\ar[d]&\\ &\cdots \ar[r]^{d_{n+1}} & A_{n} \ar[r]^{d_{n}} &\cdots \ar[r]^{d_{2}}& A_{1} \ar[r]^{d_{1}} & A_{0} \ar[r]^{\varepsilon} & A \ar[r]^{0}\ar[d] & 0\\ &&&&&& B\ar[d] &\\ &\cdots \ar[r]^{d''_{n+1}} & C_{n} \ar[r]^{d''_{n}} &\cdots \ar[r]^{d''_{2}}& C_{1} \ar[r]^{d''_{1}} & C_{0} \ar[r]^{\varepsilon''} & C \ar[r]^{0}\ar[d] & 0 \\ &&&&&&0& } \end{xy}
という図式において、縦の列は短完全列、横の行はそれぞれ$A$$C$の射影分解であるとする。このとき、$B$の射影分解$\{B_i\}_{i\in\mathbb{Z}_{\ge 0}}$であって、

  • 次の図式を可換にし、
  • 縦の列 $0\to A_{i} \to B_{i} \to C_{i} \to 0$ は全て短完全列である

ようなものが存在する。
\begin{xy} \xymatrix { && 0\ar[d] && 0\ar[d] & 0\ar[d] &0\ar[d]&\\ &\cdots \ar[r]^{d_{n+1}} & A_{n} \ar[r]^{d_{n}} \ar[d] &\cdots \ar[r]^{d_{2}}& A_{1} \ar[r]^{d_{1}} \ar[d] & A_{0} \ar[r]^{\varepsilon} \ar[d] & A \ar[r]^{0}\ar[d]^{f} & 0\\ &\cdots \ar[r]^{d'_{n+1}} & B_{n} \ar[r]^{d'_{n}}\ar[d] &\cdots \ar[r]^{d'_{2}}& B_{1} \ar[r]^{d'_{1}}\ar[d] & B_{0} \ar[r]^{\varepsilon'}\ar[d] & B\ar[r]^{0}\ar[d]^{g} &0\\ &\cdots \ar[r]^{d''_{n+1}} & C_{n} \ar[r]^{d''_{n}}\ar[d] &\cdots \ar[r]^{d''_{2}}& C_{1} \ar[r]^{d''_{1}}\ar[d] & C_{0} \ar[r]^{\varepsilon''}\ar[d] & C \ar[r]^{0}\ar[d] & 0 \\ && 0 && 0 & 0 &0& } \end{xy}

この補題の名前の由来は、仮定の図式の形が馬の蹄(ひづめ)のように見える、というところから来ているようです。

馬蹄(いらすとやより) 馬蹄(いらすとやより)

それでは、早速証明していきましょう。以下の証明は、Lauを参考にしています。

$B_{i} = A_{i}\oplus C_{i}$ として取ればよい(lem3より、このように構成すれば各$B_{i}$は射影加群になる)。以下、帰納的に示していく。

$B_{0}$ について

$B_{0}:=A_{0}\oplus C_{0}$ とし、
$$f_{0}:A_{0}\to A_{0}\oplus C_{0}, \ f_{0}(a)=(a,0)$$
$$g_{0}:A_{0}\oplus C_{0} \to C_{0}, \ g_{0}(a,c)=c$$
とすると、
\begin{xy} \xymatrix { 0 \ar[r]^{0} & A_{0} \ar[r]^{f_{0}} & A_{0}\oplus C_{0} \ar[r]^{g_{0}} & C_{0} \ar[r]^{0} & 0 } \end{xy}
は完全列である。次の図式を考える。

\begin{xy} \xymatrix { && 0\ar[d] &0\ar[d]&\\ &\cdots \ar[r] & A_{0} \ar@{->>}[r]^{\varepsilon} \ar[d]_{f_{0}} & A \ar[r]^{0}\ar[d]^{f} & 0\\ && B_{0} \ar[d]_{g_{0}} & B\ar[r]^{0}\ar[d]^{g} &0\\ &\cdots \ar[r] & C_{0} \ar@{->>}[r]^{\varepsilon''}\ar[d] & C \ar[r]^{0}\ar[d] & 0 \\ && 0 &0& } \end{xy}
$C_{0}$は射影加群なので、lem5より、準同型写像$\varepsilon':B_{0}\to B$ であって次の図式を可換にするものが存在する。
\begin{xy} \xymatrix { && 0\ar[d] &0\ar[d]&\\ &\cdots \ar[r] & A_{0} \ar@{->>}[r]^{\varepsilon} \ar[d]_{f_{0}} \ar@{}[dr]|{\circlearrowleft} & A \ar[r]^{0}\ar[d]^{f} & 0\\ && B_{0} \ar[r]^{\varepsilon'}\ar[d]_{g_{0}} \ar@{}[dr]|{\circlearrowleft} & B\ar[r]^{0}\ar[d]^{g} &0\\ &\cdots \ar[r] & C_{0} \ar@{->>}[r]^{\varepsilon''}\ar[d] & C \ar[r]^{0}\ar[d] & 0 \\ && 0 &0& } \end{xy}
あとは、$\varepsilon'$が全射なことを示せばよいが、それには蛇の補題を使う。
$$0\to\Ker\varepsilon\to\Ker\varepsilon'\to\Ker\varepsilon''\to\coker\varepsilon\to\coker\varepsilon'\to\coker\varepsilon''\to 0$$
という完全列において、$\varepsilon$$\varepsilon''$は全射なので、$\coker\varepsilon=0, \coker\varepsilon''=0$ である。完全列の性質により$\coker\varepsilon'=0$であり、ゆえに$\varepsilon'$は全射である。

$B_{1}$ について

$B_{1}:=A_{1}\oplus C_{1}$ とし、
$$f_{1}:A_{1}\to A_{1}\oplus C_{1}, \ f_{1}(a)=(a,0)$$
$$g_{1}:A_{1}\oplus C_{1} \to C_{1}, \ g_{1}(a,c)=c$$
とする。次の図式を考える。

\begin{xy} \xymatrix { &0\ar[d] &0\ar[d]\\ &A_{1}\ar[r]^{d_{1}} \ar[d]_{f_{1}} & \Ker\varepsilon\ar[d]\\ &B_{1}\ar[d]_{g_{1}}& \Ker\varepsilon'\ar[d]\\ &C_{1}\ar[r]^{d''_{1}}\ar[d]& \Ker\varepsilon''\ar[d]\\ &0&0 } \end{xy}

左の列は完全列で、右の列は蛇の補題より完全列である。$C_{1}$は射影加群なので、lem5より、準同型写像$d'_{1}:B_{1}\to \Ker\varepsilon'$ であって次の図式を可換にするものが存在する。

\begin{xy} \xymatrix { &0\ar[d] &0\ar[d]\\ &A_{1}\ar[r]^{d_{1}} \ar[d]_{f_{1}} \ar@{}[dr]|{\circlearrowleft} & \Ker\varepsilon\ar[d]\\ &B_{1}\ar[r]^{d'_{1}} \ar[d]_{g_{1}} \ar@{}[dr]|{\circlearrowleft}& \Ker\varepsilon'\ar[d]\\ &C_{1}\ar[r]^{d''_{1}}\ar[d]& \Ker\varepsilon''\ar[d]\\ &0&0 } \end{xy}

あとは、$\Im d'_{1}=\Ker\varepsilon'$が成り立つことを示せばよく、それには再び蛇の補題を使う。
$$0\to\Ker d_{1}\to\Ker d'_{1}\to\Ker d''_{1}\to\coker d_{1} \to\coker d'_{1}\to\coker d''_{1}\to 0$$
という完全列において、$d_{1}:A_{1}\to\Ker\varepsilon=\Im d_{1}$$d''_{1}:C_{1}\to\Ker\varepsilon''=\Im d''_{1}$は全射なので、$\coker d_{1}=0, \coker d''_{1}=0$ である。完全列の性質により$\coker d_{1}'=0$であり、ゆえに$d'_{1}:B_{1}\to\Ker\varepsilon'$は全射である。したがって、$d_{1}:B_{1}\to B_{0}$ に関して、$\Im d'_{1}=\Ker \varepsilon'$ となる。
これにより、次の図式が可換となり、左の列と真ん中の行が完全列となる。
\begin{xy} \xymatrix { &&0\ar[d]& 0\ar[d] &0\ar[d]&\\ &\cdots \ar[r]& A_{1}\ar[r]^{d_{1}}\ar[d]_{f_{1}} \ar@{}[dr]|{\circlearrowleft} & A_{0} \ar@{->>}[r]^{\varepsilon} \ar[d]^{f_{0}} \ar@{}[dr]|{\circlearrowleft} & A \ar[r]^{0}\ar[d]^{f} & 0\\ &&B_{1}\ar[r]^{d'_{1}}\ar[d]_{g_{1}} \ar@{}[dr]|{\circlearrowleft} & B_{0} \ar[r]^{\varepsilon'}\ar[d]^{g_{0}} \ar@{}[dr]|{\circlearrowleft} & B\ar[r]^{0}\ar[d]^{g} &0\\ &\cdots \ar[r]& C_{1}\ar[r]^{d''_{1}}\ar[d] & C_{0} \ar@{->>}[r]^{\varepsilon''}\ar[d] & C \ar[r]^{0}\ar[d] & 0 \\ && 0 & 0 & 0 & } \end{xy}

$B_{2}$ 以降について

$B_{1}$ のときと同様のことを行うことで、帰納的に$B_{2}, B_{3}, \cdots$ が構成できる。$\square$

馬蹄補題の証明に蛇の補題を使っています。干支との繋がりを感じられて美しいですね(?)

§5 おわりに

以上により、馬蹄補題が証明できました。
これで良い午年が迎えられたと思います。
皆さんにとって2026年が良い一年になりますように。

(重要!!)(再掲)

私はこういう記事を書くのが初めてな上、代数学があまり得意でないので、誤った内容を含む可能性が非常に高いです。誤植や、主張・証明の誤りを発見した場合、優しく教えていただけますと幸いです。



[注]:
英語での名称 "Horseshoe lemma" を日本語訳したものが見つからなかったため、私の判断で「馬蹄補題」と翻訳しています。Horseshoe は馬の蹄を保護するU字型の金具を指し、通常は「蹄鉄」と翻訳されます。「馬蹄」という用語は、狭義には「馬の蹄」を指し、広義には馬の蹄を保護するもの全般を指すとする流儀もある、という感じでした。そのため、Horseshoe lemma は「蹄鉄補題」と訳すほうが適切かもしれませんが、今年は午年なので馬を前面に押し出した訳をしたいという想いから、この記事では「馬蹄補題」という名称に統一しています。

参考文献

投稿日:17日前
更新日:17日前
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

saKUmonCircle

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中