著者: uchgalois
この記事は、雪江明彦氏の「代数学1 群論入門」を参考に、$GL_n(\mathbb{R})$が群をなすことの証明をまとめたものです。
また、初めての投稿なので間違いがあればぜひ指摘をお願いします。
まず、群の定義を確認します。集合$G$と$G$上の二項演算「$\cdot$」の組が群であるとは、以下の性質を満たすことをいいます。
一般線形群 $GL_n(\mathbb{R})$とは、実数($\mathbb{R}$)を成分に持つ$n \times n$の正則行列全体の集合のことです。
今回は、この集合$GL_n(\mathbb{R})$が、通常の行列の積を演算として群をなすことを証明します。
$n \times n$の単位行列$I$は正則であり、$GL_n(\mathbb{R})$の元です。したがって、$GL_n(\mathbb{R})$は空集合ではありません。
$A, B \in GL_n(\mathbb{R})$とします。このとき、$A, B$はともに正則なので、その行列式は$0$ではありません($\det(A) \neq 0, \det(B) \neq 0$)。
積$AB$の行列式を考えると、
$$ \det(AB) = \det(A)\det(B) \neq 0 $$
となるため、$AB$も正則です。また、$A, B$が実数成分の行列なので、その積$AB$も実数成分の行列です。
よって、$AB \in GL_n(\mathbb{R})$となり、演算は閉じています。
$n \times n$の単位行列$I$を考えます。任意の$A \in GL_n(\mathbb{R})$に対して、
$$ IA = AI = A $$
が成り立ちます。単位行列$I$は正則なので、$I \in GL_n(\mathbb{R})$です。
よって、単位行列$I$が単位元となります。
$A \in GL_n(\mathbb{R})$とします。$A$は定義より正則行列なので、その逆行列$A^{-1}$が存在します。逆行列の定義から、
$$ AA^{-1} = A^{-1}A = I $$
が成り立ちます。また、$A^{-1}$も正則であり、その成分は実数となるため、$A^{-1} \in GL_n(\mathbb{R})$です。
よって、任意の元に対して逆元が存在します。
最後に行列の積の結合法則を示します。$A = (a_{ij}), B = (b_{ij}), C = (c_{ij})$を$GL_n(\mathbb{R})$の任意の元とします。
積$(AB)C$の$(i, j)$成分は、
$$
\begin{aligned}
((AB)C)_{ij} &= \sum_{l=1}^n (AB)_{il} c_{lj} \\
&= \sum_{l=1}^n \left( \sum_{k=1}^n a_{ik} b_{kl} \right) c_{lj} \\
&= \sum_{k=1}^n \sum_{l=1}^n a_{ik} b_{kl} c_{lj}
\end{aligned}
$$
となります。
一方、積$A(BC)$の$(i, j)$成分は、
$$
\begin{aligned}
(A(BC))_{ij} &= \sum_{k=1}^n a_{ik} (BC)_{kj} \\
&= \sum_{k=1}^n a_{ik} \left( \sum_{l=1}^n b_{kl} c_{lj} \right) \\
&= \sum_{k=1}^n \sum_{l=1}^n a_{ik} b_{kl} c_{lj}
\end{aligned}
$$
となります。
したがって、
$$ ((AB)C)_{ij} = (A(BC))_{ij} $$
が成り立ちます。
よって、結合法則 $(AB)C = A(BC)$ が成立します。
(注:途中の計算では、実数の和と積に関する分配法則・結合法則、および有限和の順序交換が可能であることを利用しています。)
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今回は実数の場合を考えましたが、成分を複素数($\mathbb{C}$)とした一般線形群$GL_n(\mathbb{C})$も同様に群となることを示すことができます。
また、重要な注意点として、一般に行列の積は可換ではありません(つまり、$AB \neq BA$)。このため、一般線形群は可換群(アーベル群)ではないことに注意してください。