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現代数学
文献あり

μhom函手

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この節ではμhom函手を定義して,その性質を見ていきます.

ここでもずっとπで余接束TXXをあらわして0Xまたは単にXでそのゼロ切断をあらわします.さらにT˚X:=TX0Xと定めてπ˚:=π|T˚X:T˚XXを制限とします.

μhom函手

ここでは超局所化函手の拡張となるμhom函手を導入して,その性質を調べます.μhomX上の層ふたつから余接束TX上の層を作る操作で,その台は二つの層のマイクロ台と関係しています.このことよりμhomは超局所圏からの函手を誘導することが分かり,さらに強くμhompTXでの茎が超局所圏Db(kX;p)のHomを回復することが示せます.超局所圏のHomは定義からは計算が難しいですが,μhomは具体的に構成されているので多くの場合に計算が可能であることが良い点のひとつです.

μhom函手の定義

ともかくμhom函手の定義を与えて,それから基本的な性質を見てみることにしましょう.δ:XX×X,x(x,x)を対角写像としてΔ:=δ(X)={(x,x)X×X}X×Xの対角集合とします.局所的にはTΔ(X×X)={(x,x;ξ,ξ)T(X×X)(x;ξ)TX}となるので,第1射影TΔ(X×X)TXによってTΔ(X×X)TXを同一視します.さらにq1,q2:X×XXをそれぞれ第1・第2射影とします.

μhom

F,GDb(kX)に対して,
μhom(F,G):=μΔ(RHom(q21F,q1!G))DR>0b(kTX)
と定める.これは函手
μhom:Db(kX)op×Db(kX)DR>0b(kTX)
を定める.

超局所化の性質から次のμhomに関する重要な性質が得られます.

μhomのゼロ切断への射影はRHom

F,GDb(kX)とする.このとき,同形
Rπμhom(F,G)μhom(F,G)|XRHom(F,G)
が成り立つ.

第4節 の定理5の(iv)より
Rπμhom(F,G)RπμΔRHom(q21F,q2!G)RΓΔ(RHom(q21F,q2!G))|Δ
が得られる.ここで同一視によりπは射影TΔ(X×X)Δの意味でも用いた.すると閉埋め込みの場合の上付きびっくりの計算よりδRΓΔδ!だから, 層理論と導来圏第11節 の命題6(とその直後の注意)によって,これはさらに
δ!RHom(q21F,q2!G)RHom(F,G)
と同形である.

さらにμhomは次のように超局所化函手の一般化にもなっています.この証明は超局所化の函手的性質から示せますが,前節ではそれをすっ飛ばしたので証明は述べません.

超局所化はμhomから回復可能

FDb(kX)MXの閉部分多様体とする.このとき,i:TMXTXを余法束の埋め込みとすると,同形
μhom(kM,F)iμM(F)
が成り立つ.

μhomの台とマイクロ台の関係は期待していた通り次のようになります.

μhomの台とマイクロ台

F,GDb(kX)とする.このとき,
Supp(μhom(F,G))SS(F)SS(G)
が成り立つ.

第2節 の補題4の(ii)の直積上のsheaf Homのマイクロ台の評価より,
SS(RHom(q21F,q1!G))SS(G)×(SS(F))
となる.ゆえに,第1射影TΔ(X×X)TXによって同一視していることに注意して 第4節 の命題6の超局所化の台の評価を使うと
Supp(μhom(F,G))TΔ(X×X)(SS(G)×(SS(F)))=SS(F)SS(G)
が得られる.

上の証明を見ると,第1射影TΔ(X×X)TXによる同一視で命題の主張が成り立つようにμhomの定義で一見不自然なRHom(q21F,q2!G))という射影の現れ方が理解できると思います.

次のようにμhomの茎も計算することができますが,結構面倒なので飛ばしても構いません.証明には超局所化の茎の計算公式( 第4節 の定理5の(ii))を使って頑張ります. 第2節 で有限次元ベクトル空間E内の閉凸錐γに対して,超局所切り落とし函手Pγ:Db(kE)DE×γb(kE)を定義したことを思い出しましょう.ここでγγの双対錐で,TXの部分集合Aに対してDAb(kX)SS(F)Aを満たす対象FからなるDb(kX)の充満部分圏でした.

μhomの茎

Eを有限次元実ベクトル空間,(x0;ξ0)TEとして,F,GDb(kE)とする.このとき,同形
Hn(μhom(F,G))(x0;ξ0)limU,γHn(U;RHom(Pγ(FU),G))
が成り立つ.ここでUx0の開近傍をわたり,γγ{vEv,ξ0>0}{0}を満たす閉凸固有錐をわたる.

超局所圏との関係

次にμhom 第3節 で導入した超局所圏Db(kX;Ω)の関係について調べていきましょう.

まず,μhomが超局所圏からの函手を誘導することを見ましょう.ΩTXの部分集合とします.もしF,GDb(kX)SS(F)Ω=またはSS(G)Ω=を満たしたとすると,上の命題3からμhom(F,G)|Ω0となることが分かります.特にμhomDb(kX;Ω)op×Db(kX;Ω)からDb(Ω)への函手を引き起こします.これも
μhom:Db(kX;Ω)op×Db(kX;Ω)Db(Ω)
と書いてしまいます.

さて上の命題1から
HomDb(kX)(F,G)H0RΓ(X;RHom(F,G))H0RΓ(X;Rπμhom(F,G))H0(TX;μhom(F,G))
が得られますが,これはTXの部分集合Ωに対して射
HomDb(kX;Ω)(F,G)H0(Ω;μhom(F,G))
を引き起こします.実際,Db(kX)の射ψ:GGΩ上同形,すなわちψの写像錐のマイクロ台がΩと交わらなければ完全三角を考えることによってμhom(F,G)|Ωμhom(F,G)|Ωが成り立つからです.この射は一般には同形ではないのですが,Ωが一点pの場合は次のように同形が成り立ちます.証明は超局所切り落としの考え方が活躍します.

μhomの茎は一点での超局所圏のHom

F,GDb(kX)pTXとする.このとき,同形
HomDb(kX;p)(F,G)H0(μhom(F,G))p
が成り立つ.

概略

p0Xのときは両辺ともHomDb(kU)(F,G)UX内のpの開近傍をわたる際の帰納極限だからよい.

p=(x0;ξ0)T˚Xとすると,上の命題4より
H0(μhom(F,G))(x0;ξ0)limU,γH0(U;RHom(Pγ(FU),G))limU,γHomDb(kX)(Pγ(FU)U,G)
が成り立つ.ここでU,γは命題4の条件を満たすようにわたる.
定理の射をΞとする.まずΞが単射であることを示す.Ξ(ϕ)=0であるとすると,あるU,γが存在して合成射Pγ(FU)UFϕG0となる.ここで超局所切り落としの性質( 第2節 の定理6)より,射Pγ(FU)UFDb(kX;p)における同形なので,Db(kX;p)においてϕ0となる.次にΞの全射性を示す.ψH0(μhom(F,G))pとすると,あるU,γαHomDb(kX)(Pγ(FU)U,G)が存在してψを代表する.再び超局所切り落としの性質から射Pγ(FU)UFDb(kX;p)における同形なので,αHomDb(kX;p)(F,G)の元を定め,この元のΞによる像がψである.

この定理で大事なことは,右辺のμhomは具体的な層による操作で構成されたのでしばしば計算可能になるということです.左辺は圏論的超局所化で構成されたHom集合なので一般には難しいものですが,これを具体的に構成されたμhomの茎で計算できるというのがうれしいことなのです!

この定理を用いるとμhomの台とマイクロ台との関係について命題3よりもさらに強いことが言えます.FDb(kX)に対して,HomDb(kX)(F,F)H0RΓ(TX;μhom(F,F))であったことを思い出しましょう.これによって射
HomDb(kX)(F,F)Γ(TX;H0(μhom(F,F)))
が得られます.この射によるidFHomDb(kX)(F,F)の像をsΓ(TX;H0(μhom(F,F)))と書きます.

マイクロ台はμhomから回復可能

上の状況で
supp(s)=Supp(μhom(F,F))=SS(F)
が成り立つ.特に
pSS(F)μhom(F,F)p0
が成り立つ.

supp(s)Supp(μhom(F,F))であり,上の命題3からSupp(μhom(F,F))SS(F)も分かる.
SS(F)supp(s)を示す.pTXpsupp(s)を満たしたとする.するとsp=0なので,上の定理5よりidFHomDb(kX;p)(F,F)0である.ゆえにDb(kX;p)においてF0となり,これはpSS(F)を意味する.

上の命題6はマイクロ台の包合性定理( 第3節 の定理1)を示す際にも用いられます.すなわち,SS(F)が包合的であることを示すのにμhom(F,F)の台を調べるのです.部分集合を台として持つ層を構成しておいて.その層について調べるというアイデアなのです.

まとめ

この節では

  • μhom函手の定義とその性質
  • μhomと超局所圏との関係

について説明しました.

参考文献

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