この節では函手を定義して,その性質を見ていきます.
ここでもずっとで余接束をあらわしてまたは単にでそのゼロ切断をあらわします.さらにと定めてを制限とします.
函手
ここでは超局所化函手の拡張となる函手を導入して,その性質を調べます.は上の層ふたつから余接束上の層を作る操作で,その台は二つの層のマイクロ台と関係しています.このことよりは超局所圏からの函手を誘導することが分かり,さらに強くのでの茎が超局所圏のHomを回復することが示せます.超局所圏のHomは定義からは計算が難しいですが,は具体的に構成されているので多くの場合に計算が可能であることが良い点のひとつです.
函手の定義
ともかく函手の定義を与えて,それから基本的な性質を見てみることにしましょう.を対角写像としてをの対角集合とします.局所的にはとなるので,第1射影によってとを同一視します.さらにをそれぞれ第1・第2射影とします.
超局所化の性質から次のに関する重要な性質が得られます.
第4節
の定理5の(iv)より
が得られる.ここで同一視によりは射影の意味でも用いた.すると閉埋め込みの場合の上付きびっくりの計算よりだから,
層理論と導来圏第11節
の命題6(とその直後の注意)によって,これはさらに
と同形である.
さらには次のように超局所化函手の一般化にもなっています.この証明は超局所化の函手的性質から示せますが,前節ではそれをすっ飛ばしたので証明は述べません.
超局所化はから回復可能
,をの閉部分多様体とする.このとき,を余法束の埋め込みとすると,同形
が成り立つ.
の台とマイクロ台の関係は期待していた通り次のようになります.
第2節
の補題4の(ii)の直積上のsheaf Homのマイクロ台の評価より,
となる.ゆえに,第1射影によって同一視していることに注意して
第4節
の命題6の超局所化の台の評価を使うと
が得られる.
上の証明を見ると,第1射影による同一視で命題の主張が成り立つようにの定義で一見不自然なという射影の現れ方が理解できると思います.
次のようにの茎も計算することができますが,結構面倒なので飛ばしても構いません.証明には超局所化の茎の計算公式(
第4節
の定理5の(ii))を使って頑張ります.
第2節
で有限次元ベクトル空間内の閉凸錐に対して,超局所切り落とし函手を定義したことを思い出しましょう.ここではの双対錐で,の部分集合に対してはを満たす対象からなるの充満部分圏でした.
の茎
を有限次元実ベクトル空間,として,とする.このとき,同形
が成り立つ.ここではの開近傍をわたり,はを満たす閉凸固有錐をわたる.
超局所圏との関係
次にと
第3節
で導入した超局所圏の関係について調べていきましょう.
まず,が超局所圏からの函手を誘導することを見ましょう.をの部分集合とします.もしがまたはを満たしたとすると,上の命題3からとなることが分かります.特にはからへの函手を引き起こします.これも
と書いてしまいます.
さて上の命題1から
が得られますが,これはの部分集合に対して射
を引き起こします.実際,の射が上同形,すなわちの写像錐のマイクロ台がと交わらなければ完全三角を考えることによってが成り立つからです.この射は一般には同形ではないのですが,が一点の場合は次のように同形が成り立ちます.証明は超局所切り落としの考え方が活躍します.
概略
のときは両辺とものが内のの開近傍をわたる際の帰納極限だからよい.
とすると,上の命題4より
が成り立つ.ここでは命題4の条件を満たすようにわたる.
定理の射をとする.まずが単射であることを示す.であるとすると,あるが存在して合成射がとなる.ここで超局所切り落としの性質(
第2節
の定理6)より,射はにおける同形なので,においてはとなる.次にの全射性を示す.とすると,あるとが存在してを代表する.再び超局所切り落としの性質から射はにおける同形なので,はの元を定め,この元のによる像がである.
この定理で大事なことは,右辺のは具体的な層による操作で構成されたのでしばしば計算可能になるということです.左辺は圏論的超局所化で構成されたHom集合なので一般には難しいものですが,これを具体的に構成されたの茎で計算できるというのがうれしいことなのです!
この定理を用いるとの台とマイクロ台との関係について命題3よりもさらに強いことが言えます.に対して,であったことを思い出しましょう.これによって射
が得られます.この射によるの像をと書きます.
であり,上の命題3からも分かる.
を示す.がを満たしたとする.するとなので,上の定理5よりはである.ゆえににおいてとなり,これはを意味する.
上の命題6はマイクロ台の包合性定理(
第3節
の定理1)を示す際にも用いられます.すなわち,が包合的であることを示すのにの台を調べるのです.部分集合を台として持つ層を構成しておいて.その層について調べるというアイデアなのです.
まとめ
この節では
について説明しました.
[1]
Masaki Kashiwara and Pierre Schapira, Sheaves on Manifolds, Grundlehren der mathematischen Wissenschaften, Springer, 1988
[2]
Masaki Kashiwara and Pierre Schapira, Categories and Sheaves, Grundlehren der mathematischen Wissenschaften, Springer, 2006
[3]
William Fulton, Intersection Theory (Second edition), Springer, 1998
[4]
Alexandru Dimca, Sheaves in Topology, Universitext, Springer, 2013
[5]
竹内潔, D加群, 共立講座数学の輝き, 共立出版, 2017
[6]
Mark Goresky and Robert MacPherson, Stratified Morse Theory, Ergebnisse der Mathematik und ihrer Grenzgebiete, Springer, 1988
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John Willard Milnor(著),佐伯修(翻訳),佐久間一浩(翻訳), 複素超曲面の特異点, シュプリンガー数学クラシックス, 丸善出版, 2012
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Jörg Schürmann, Topology of Singular Spaces and Constructible Sheaves, Monografie Matematyczne, Birkhäuser, 2003
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Marco Robalo and Pierre Schapira, A Lemma for Microlocal Sheaf Theory in the ∞-Categorical Setting, Publications of the Research Institute for Mathematical Sciences, 2018, 379-391
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