積分曲線の高次元化
この頁を書く前までは計算をしない証明の方がいいと思っていましたが、素朴な感覚を上手く証明に落とし込めなかったので、Morの2章の証明を読んだ方が良いかもしれません(唯一この頁の「直感的な説明」だけは価値があると思いますが)。
積分曲線
ベクトル場の積分曲線とはを満たす曲線のこと。
の各点に対しそこを通る積分曲線が存在し一意である、ODEの局所解の定理。
これの高次元版が積分多様体である。つまり、個のベクトル場が与えられたらそれらを「積分」してできる部分多様体が存在したり存在しなかったりするのである。ただし、個のベクトル場として扱うのではなく、という「各点に接空間の部分空間を滑らかに与えたもの」として扱う。これはとは局所的にはからGrassman多様体への写像だと思ってこれが級と言っても、局所的には個のベクトル場がの基底になることと言っても、単に接束の部分束と言っても同じことである。こういうを分布と呼ぶ。
積分多様体
が分布の積分多様体であるとは、各に対しとなること。今頁より後はを省略して単にと書くが、はめ込まれた部分多様体である(が色々大丈夫という話が前頁の結論だった)。
包合的
分布とベクトル場に対し、と書く。
このとき、が包合的とはなること。
は局所的な条件だから包合性も局所的である。特に、分布の局所的な基底を用いると、とは「が級関数環係数での線形結合と書けること」、が包合的とは「がの線形結合と書けること」である。リー環の場合は係数でこれが成り立ってるから次の定理から何らかしら多様体が取れる(実はリー群になる)というのが次頁のネタバレ。
右から左が本質的だが、次の図から同値が直感的に分かると思う。
ベクトル場に沿って貼り合わせる図
まず、とは、の非可換性を表す量であった。時刻0でを通るの積分曲線の時刻での点をと書くと、とは一般には一致せず、その差がくらいになる。
積分曲線とはベクトル場の矢印をなぞって曲線を描く操作だったのと同様、積分多様体とはという微小な正方形をペタペタ貼り合わせていく操作となる。このとき貼り合わせていく順番が問題となる。
まず、に対しをに動かす操作は「スライド」するだけで「上下方向のズレ」は生じない(これはだから)。つまり、とは貼り合わされるべきである。故にのときは貼り合っていて、とに上下方向のズレはないから、さっきの議論とは逆にとなる。これは「積分多様体があれば包合的」を意味するが、逆に包合的であれば微小な正方形を貼り合わせていく順番にほぼ依存しないから積分多様体を構成することができる(上下左右の二次元分の動きにより二次より大きい誤差は無視できる)。
前半
積分多様体の存在から包合性を言う。次の-relatedは何故か便利。
-related
と上のベクトル場が-relatedとはなること。
このとき とが-relatedならばも-related。
と微分作用素として定まっていたこと、上の条件はと言い換えられることから計算ができる。
積分多様体とに対し、 on から、となるように上のベクトル場が局所的には取れる。局所的と言ったら今までの位相についてだったが、ここだけの位相についてである。
先の補題から となる。初めのを取り換え、全ての点での結論を得る。
後半
ベクトル場は非退化なら局所的な標準形を持つ。つまり上のベクトル場とに対しならの局所座標でとできる。
積分曲線は復習したが時間発展はしていないな、上ではと書いたがちゃんとの部分関数(の近傍でのみ定まる)と書く。これの時間微分が、つまりは-relatedである。を適当にに制限すれば、逆関数定理からがあるで-relatedになる。この逆写像が。
より少し強いことを示す。
Frobeniusの定理(後半)
包合的な場合、上の補題が高次元化できる。つまり包合的なとに対しある局所座標でとなる。
故に積分多様体はが局所的にとなって、前頁から部分多様体構造が一意的になる。
「任意の多様体とその上の次元包合的分布について主張が成立」という命題をについての帰納法で示す。まず、の局所的な基底を取る。局所座標を取ってとし、更にとすればとできる。
とすると、よりは上のベクトル場だと思える。この上のベクトル場が貼る次元分布に対する帰納法の仮定から上の局所座標が取れる。勿論上の座標だが、の時間発展により上の座標に延ばす。
と置く。どちらも次元だからを示せばいい(に注意)。上では取り方そのものであり、それ以外のではその時間発展であること、つまり右辺の時間発展での整合性 を示す。
状況を整理し直すために一度証明を切る。
ここで微分同相に対しである。主張を示すためにはというグラスマン多様体(の次元部分空間全体)内の曲線の微分が各で至る時間消えていたらいいが、なのででのみ消えればいい。
もう全部局所の話なので、と諸々単純化しておく。曲線のでの微分が消えていないときでとなる曲線が取れる(下注)。今の場合、であり、はの積分曲線に沿ったベクトル場である。の曲線近傍への拡張を同じくと書くと、となって矛盾。
下注と書いたのはという商(とはfull rank行列全体の空間)の場合に接空間のレベルでも商になっているということから出るが、そういうことを感じながら具体的に基底を取って考えるともっと簡単に分かる。
極大積分多様体
極大積分多様体
積分多様体は最大なものが取れる。つまり、包合的なとに対し次を満たす積分多様体が存在し一意である:
を通る積分多様体に対し、でありの位相でこれが開。
を標準化する局所座標に付随するスライス全体をアトラスとすることで集合としてのにめっちゃ非可分な次元多様体構造が生え、これのの連結成分をとすれば最大性がconnectedness argumentから出る。の第二可算性は「高々可算次数のグラフの連結成分は高々可算」をやるのだが、ちゃんと書くと長くなってしまった。
を標準化する局所座標に対し付随するスライスは積分多様体である。(不連結でもいい)積分多様体について第二可算性からがの可算個の和に含まれるので、前頁とその証明から上の部分多様体構造が一意であることとがの位相で開であるが分かる。特に、別のスライスについて、が内で開であることとの変換関数が級であることが分かる。
これで必要な議論は全て尽くした(証明前のスケッチの意味が通る)のだが、もうちょっと書く。
の可算アトラスであってを標準化するものを取る。の部分集合に対し、と交わる全てのとの合併を取る操作を考える。最初のステップでははを含む適当なであり、この操作を有限回行っても上段の理由で高々可算個のスライスの和であり、全ての回目についての合併をとする。これは第二可算である。
このには合併をした全体としてアトラスが入る、これがちゃんと多様体になることは上に書いたことから分かる。
最大性について、勝手な積分多様体がと分かれば、の位相で開であることは自動的である(自動的級性と次元が同じはめこみが開写像であること)。さて、これはの連結性から分かるが、を(スライスの交わりに関する)グラフの連結成分と定めた一方、の連結性は位相的な連結性なので注意が必要だ。しかしは弧状連結なので、のコンパクト性によって、の任意の点は上の合併操作有限回でから到達できる。