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現代数学
文献あり

Lie群Lie環対応

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$$\newcommand{abs}[1]{\left\lvert#1\right\rvert} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{End}[0]{\mathrm{End}} \newcommand{g}[0]{\mathfrak{g}} \newcommand{GL}[0]{\mathrm{GL}} \newcommand{Grass}[0]{\mathrm{Grass}} \newcommand{h}[0]{\mathfrak{h}} \newcommand{id}[0]{\mathrm{id}} \newcommand{inpro}[1]{\mathopen{\langle}#1\mathclose{\rangle}} \newcommand{mapsfromup}[0]{\genfrac{}{}{0}{}{\xymatrix@=3pt{{} \\ {}\ar@/^15pt/[u]}}{}} \newcommand{mapstodown}[0]{\genfrac{}{}{0}{}{\xymatrix@=3pt{{} \ar@/^15pt/[d] \\ {}}}{}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{norm}[1]{\left\lVert#1\right\rVert} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{set}[2]{\{\, #1 \mid #2\,\}} \newcommand{setmid}[0]{\mathrel{}\middle|\mathrel{}} \newcommand{span}[0]{\mathrm{span}} \newcommand{ve}[0]{\varepsilon} \newcommand{X}[0]{\mathfrak{X}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

Lie群Lie環対応

準同型$\phi:G\to H$は(グラフを取ることで)$G\times H$の良い部分群と見做せる。
前頁の部分群部分環の対応を準同型のグラフに用いることで次を得る(Cartanの方法)。

連結Lie群$G,H$とそのLie環の準同型$\Phi:\g\to\h$が与えられたとする。$G$が単連結ならLie群の準同型$\phi:G\to H$$\phi_*=\Phi$となるものが存在し、一意。

一意性から示す。$G\times H$というLie群に対応するLie環は$\g\times\h$であり、$\Phi$のグラフは$\g\times\h$の部分Lie環である。このような$\phi$はグラフにより$G\times H$の連結部分Lie群を与えるが、その付随するLie環は$\Phi$のグラフとなり、前頁の一意性から得る。
$\Phi$のグラフは$\g$への射影がLie環の同型を与えるから、前定理から対応する$G\times H$の連結部分Lie群$G'$$p:G'\hookrightarrow G\times H\twoheadrightarrow G$は局所微分同相。これがもし同型なら
$$\phi:G\overset{p^{-1}}{\longrightarrow}G'\hookrightarrow G\times H\twoheadrightarrow H$$
という準同型は$\phi_*=\Phi$であり存在性を得る。$p$が被覆写像なことを言う。
$p$は開写像であり群準同型だから、その像は連結性により$G$である。evenly coveredな近傍($p^{-1}(U)\to U$が自明な被覆になる$U$)の存在は平行移動から単位元でのみ言えばいい。十分小さい単位元の近傍$V\subset G'$$p$により$U:=p(V)$と微分同相であり、$p^{-1}(U)=V\ker p$だから$\{Vs\}_{s\in\ker p}$が互いに素であれば$U$がevenly coveredな近傍を与える。
演算の連続性から$V^{-1}V$が十分小さく($p$の局所微分同相性を与えるくらい)なるように取ることができる。

以上をまとめると、次になる。

単連結Lie群とLie環の対応

$G\longmapsto\g,\ \hom(G,H)\ni\phi\longmapsto\phi_*\in\hom(\g,\h)$
は単連結Lie群のなす圏とLie環のなす圏の圏同値を与える。

忠実充満性、即ち$\hom(G,H)\ni\phi\mapsto\phi_*\in\hom(\g,\h)$の全単射性は上の定理で既に示した。本質的全射性は次の代数的な事実から分かる。

Adoの定理

任意のLie環は行列環の部分Lie環として実現される。 タオのブログ を参照。

部分Lie群と部分Lie環の対応から、Lie環$\g$に対応するLie群$G$$\mathrm{GL}(n,\R)$の部分群として構成できる。更にその普遍被覆$\tilde{G}$を取れば、$\tilde{G}$のLie環と$\g$は同型である。

次頁でこの本質的全射性(Lieの第三定理)の幾何的な証明を与える。

連結Lie群$G$の被覆空間$p:\tilde{G}\to G$には$p$が局所微分同相かつ群準同型となるようなLie群の構造が入る。特に、$G$の普遍被覆は単連結Lie群となる。

$p$が微分同相となるような$\tilde{G}$上の多様体構造は一意(局所座標のlift全体がアトラス)である。$\tilde{e}\in p^{-1}(e)$を一つ選ぶと、それに応じて$p$が群準同型となるように$\tilde{G}$にLie群の構造が入って一意的であることを確認する。

lifting property

基点を保つ被覆写像$(\tilde{X},\tilde{x_0})\to(X,x_0)$と連続写像$f:(Y,y_0)\to(X,x_0)$$f_*\pi_1(Y,y_0)\subset p_*\pi_1(\tilde{X},\tilde{x_0})$を満たすなら、基点を保つ連続写像$\tilde{f}:(Y,y_0)\to(\tilde{X},\tilde{x}_0)$であって$p\circ\tilde{f}=f$なるものが存在し一意。

$\xymatrix{ & (\tilde{X},\tilde{x}_0)\ar[d]_p\\ (Y,y_0)\ar[ru]^{\exists!\tilde{f}}\ar[r]_f & (X,x_0) }$

$F:(G\times G,(e,e))\ni (x,y)\longmapsto x^{-1}y\in (G,e)$と置き、$f:=F\circ(p\times p)\ :(\tilde{G}\times\tilde{G},(\tilde{e},\tilde{e}))\to(G,e)$ を持ち上げたい。

位相群の基本群は可換

$\pi_1(G,e)$の積として基本群の積(ループの結合)と各点毎の群の積があるが、この二つは一致し更に可換である。

ので、$F_*([c],[d])=[c^{-1}\times d]=[c]^{-1}[d]$は基本群のレベルでも$F_*(\alpha,\beta)=\alpha^{-1}\beta$という準同型になる。故にlifting propertyの仮定が満たされる。
$\xymatrix{ \tilde{G}\times\tilde{G}\ar[r]^{\tilde{f}}\ar[d]_{p\times p} &\tilde{G}\ar[d]_p\\ G\times G\ar[r]^f & G }$

群の公理は$f:G\times G\ni(x,y)\mapsto x^{-1}y\in G$$e\in G$の言葉だけで書けるが、lifting propertyの一意性から、$G$での群の公理が$\tilde{G}$上でも成立することが分かる。また、$\tilde{f}$には連続性しかないが、$p$は局所微分同相なので$\tilde{f}$$C^\infty$級。即ち$\tilde{G}$はLie群となる。

普遍被覆を取る関手$G\mapsto\tilde{G}$は忠実かつ本質的全射。つまり、Lie群の準同型$\phi:G\to H$は一意的に普遍被覆に持ち上がる。更に、次の準同型$\tilde{\phi}$は存在し一意:
$\xymatrix{ \tilde{G}\ar[r]^{\tilde{\phi}}\ar[d]_p &\tilde{H}\ar[d]_p\\ G\ar[r]^\phi & H }$

$\tilde{\phi}$の存在一意性はlifting propertyから従う。

例えば、Lie環が同型であることと同型な普遍被覆を持つことが同値だったり、$\hom(G,H)\ni\phi\longmapsto\phi_*\in\hom(\g,\h)$が一般に単射であることが分かる。Lie群は「そのLie環と基本群」の情報だけで同型類を記述することができ、こういうノリがLie群Lie環対応である。

参考文献

[1]
Frank W. Warner, Foundations of Differentiable Manifolds and Lie Groups, Graduate Texts in Mathematics, Springer New York, NY, 1983, 276
[2]
森田 茂之, 微分形式の幾何学, 岩波書店, 2005, 372
[3]
Gijs M. Tuynman., An elementary proof of Lie’s Third Theorem., Publications de l’U.E.R. Mathematiques Pures et Appliquees, I.R.M.A. Univ. Lille, 1994, 4
投稿日:829
更新日:91

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