1 ではCauchy-Schwarzの不等式を示したのでした.本記事では,ベクトルのなす角を一般の次元で定め,それが既知の$2,3$次元におけるなす角の定義と整合性がとれているのかを確認?していきます.
最初に記号を導入しておけばよかったと今更後悔していますが,次のような定義を与えておきます:
ベクトルたち$\mathbb{a}=(a_i)_i,\mathbb{b}=(b_i)_i\in \mathbb{R}^n$に対して$||\mathbb{a}||:=\sqrt{a_1^2+\dots a_n^2}$ をベクトル$\mathbb{a}$の大きさ(長さ)と呼び, $(\mathbb{a},\mathbb{b}):=a_1b_1+\dots + a_nb_n$を$\mathbb{a}$と$\mathbb{b}$の内積という.
すぐに分かることとして,ベクトル$\mathbb{a}\in \mathbb{R}^n$に対して「$\mathbb{a}=\mathbb{0}\iff||\mathbb{a}||=0$」や$|\mathbb{a}|=\sqrt{(\mathbb{a},\mathbb{a})}$が得られます.
さて,この記号をもとにCaushy-Schwarzの不等式は$$(\mathbb{a},\mathbb{b})^2\leq ||\mathbb{a}||^2 ||\mathbb{b}||^2$$と書け,両辺$\sqrt{}$をとることで$|(\mathbb{a},\mathbb{b})|\leq ||\mathbb{a}|| ||\mathbb{b}||$ を得ます(大きさは非負であることに注意する).つまり
$$- |\mathbb{a}||\,||\mathbb{b}||\leq (\mathbb{a},\mathbb{b})\leq ||\mathbb{a}||\,||\mathbb{b}|| $$
が成り立ちます.ここで,ベクトルたち$\mathbb{a},\mathbb{b}$が共にゼロベクトルにならないと仮定すると,すぐに分かることから$||\mathbb{a}||\neq 0,\,||\mathbb{b}||\neq 0$ なので,いましがた得られた不等式を$||\mathbb{a}||||\mathbb{b}||>0$で割ることで
$$ -1 \leq \frac{(\mathbb{a},\mathbb{b})}{||\mathbb{a}||\,||\mathbb{b}||} \leq 1 $$
を得られます.
非ゼロなベクトルたち$\mathbb{0}\neq \mathbb{a},\mathbb{b}\in \mathbb{R}^n$に対して,次で定まる値を$\mathbb{a}$と$\mathbb{b}$のなす角と呼ぶ:
$$ \theta:= \cos^{-1}(\frac{(\mathbb{a},\mathbb{b})}{||\mathbb{a}||\,||\mathbb{b}||}). $$
ここで,$\cos:[0,\pi]\to [-1,1]$,つまり$\cos^{-1}$ はアーク・コサイン関数のこと.
さて,これをなす角と呼ぶためには,既存の概念と一致しているかどうかが気になる訳ですが,実際次が成立します(簡単なので,手を動かしてみてください):
非ゼロなベクトルたち$\mathbb{0}\neq \mathbb{a},\mathbb{b}\in \mathbb{R}^n$に対して,以下が成立する:
(i) $\theta=0$または$\theta=\pi \iff $あるスカラー$k\in \mathbb{R}$ を用いて$ \mathbb{b}=k\mathbb{a}$と書ける,
(ii) $\theta=\frac{\pi}{2}\iff (\mathbb{a},\mathbb{b})=0.$
ここまで読んでくださった方に感謝申し上げます.また機会があれば,新しい記事を作成したときにお目通しを頂けたら何よりです.