n-tableやn項関係の定義周辺の詳細が必要ならば、前回の記事を参照してもらいたい。
https://mathlog.info/articles/vzYaB1kj0PB0ChQkkLfU
圏に於いて対象と射の有限列$(T;f_1,f_2,\cdots,f_n)$がn-tableとは、
任意の$i \in \{ 1,2, \cdots,n\}$に対し$T = \mathrm{dom}(f_i)$で、かつ$f_1,f_2,\cdots,f_n$がjointly monic familyを成すこと、
則ち任意の$x,y \colon X \to T$に対し、$\bigwedge_{i = 1}^n f_i \circ x = f_i \circ y$ならば$x = y$が従うことをいう。
空でない任意の圏に於いて、射$f \colon A \to B$が任意に与えられたとき、
2-table$(A;1_A,f)$が標準的に定義できる。この2-tableが表示する$A,B$上の二項関係を、
射$f$のグラフという。
射$f$のグラフの標準的代表元
射のグラフには次の特徴づけが存在する。
$A,B$上の2-table$(T;f_1,f_2)$が射$f\colon A \to B$のグラフの表示であることは、$f_1$が同型射であり$f = f_2 \circ f_1^{-1}$が成り立つことと同値。
$(\Longrightarrow)$
spanの同型の意味で$(A;1_A,f)\simeq (T;f_1,f_2)$が成り立つ。したがってある同型射$\theta\colon A \to T$が存在して、
$1_A = f_1 \circ \theta$かつ$f = f_2 \circ \theta$が成立。$f_1 = \theta^{-1}$より$f_1$は同型射で、$f = f_2 \circ f_1^{-1}$が成り立つ。
$(\Longleftarrow)$2-table$(T;f_1,f_2)$の$f_1$が同型射ならば、$(T;f_1,f_2)$が射$f_2\circ f_1^{-1}\colon A \to B$のグラフであることは次の図式より明らか。
射のグラフを表示する2-tableの特徴
集合論では、単射、全射という特殊な写像の種類があり、重要な役割を果たす。
圏論にも、これと類似の特殊な射の種類がある。
射$m$がmonicとは、任意の$x,y$に対し$m \circ x = m \circ y$ならば$x = y$が従うことをいう。
射$c$がcoverとは、任意の$c',m$に対して$c = m \circ c'$かつ$m$がmonicならば、$m$は同型射であることをいう。
coverの定義($m$はmonic)
集合論では、単射かつ全射である写像は全単射と呼ばれた。
圏論では、monicかつcoverであることは同型射であることと同値になるのを確かめよう。
射$f\colon A \to B$がmonicかつcoverであることは、$f$が同型射であることと同値。
$(\Longrightarrow)f = f\circ 1_A$という分解を考える。$f$はmonicかつcoverであるから、coverの定義より$f$は同型射でなければならない。
$(\Longleftarrow)f$は同型射だとする。$f$はmonicである。実際、$f \circ x = f \circ y$ならば、両辺に左から$f^{-1}$を合成して$x = y$が従う。
$f$はcoverであることを示す。$f = m \circ f',f' \colon A \to B',m\colon B' \to B$と任意に分解し、$m$はmonicだと仮定する。
このとき$m \circ f' \circ f^{-1} \circ m = m = m \circ 1_{B'}$であるから、monicの定義より$f' \circ f^{-1}\circ m = 1_{B'}$が成立。
さらに$f^{-1}\circ m \circ f' = f^{-1}\circ f = 1_A$であるから、$f^{-1}\circ m$は$f'$の逆射であり、$f'$は同型射である。
よって$m = f \circ f'^{-1}$が成立し、同型射の合成は再び同型射であるから、$m$は同型射。よって$f$がcoverであることが示された。
圏論では、対象$A,B$上の二項関係とは、$A,B$を足にもつ2-tableの同型類のことを言った。
二項関係には、同型類の要素となっている2-tableの性質が反映される。
その中でも特に重要な種類の二項関係を定義しよう。
$A,B$上の二項関係$R$が単純(simple)あるいは関数的(functional)とは、$R$の任意の表示$(T;f_1,f_2)$に関して脚の第一成分$f_1$がmonicであることをいう。
また$R$が全域(entire)とは、$R$の任意の表示$(T;f_1,f_2)$に関して$f_1$がcoverであることをいう。
$A,B$上の二項関係$R$がsimpleかつentireであることは、$R$が$A$から$B$へのある射のグラフであることと同値。
$R$がsimpleかつentireであることは、$R$の任意の表示$(T;f_1,f_2)$に対して$f_1$がmonicかつcover、則ち同型射であることと同値であり、そのとき$R$は射$f_2\circ f_1^{-1}$のグラフである。
このことから双方向が直ちに従う。
よって、射のグラフとは、simpleかつentireな二項関係のことだと言って良い。
集合論で数学をしているとき、何らかの二項関係を定義して、それが写像であることを証明する必要がでてくることがある。
二項関係が写像であることの定義は次で与えられる。
$f$が集合$A$から$B$への写像とは、集合の三つ組$(G_f,A,B)$で、$G_f$が写像のグラフであること、則ち
を満たすもののことをいう。
二項関係$R \subseteq A \times B$が写像のグラフの定義を満たすとき、$(R,A,B)$は写像としてwell-definedであるという。
前節で、二項関係が射のグラフであることは、simpleかつentireであることと同値であるのを示した。
一方、集合論の二項関係が写像のグラフであることは、右一意的かつ左全域的であることとして定義されている。
これらが密接に対応していることを示して終わりにしよう。
集合と写像の圏に於いて、写像$f\colon X \to Y$が全単射であることは、$f$が同型射であることと同値。
$(\Longrightarrow)f$が全単射のとき、これが同型射であることを示す。
$f$が三つ組$(G_f,X,Y)$で与えられているとする。このとき、二項関係$G_f^{\circ} \subseteq Y \times X$を次で定義する。
$$ G_f^{\circ} \overset{\mathrm{def}}{=} \{ (y,x) \in Y \times X \mid (x,y) \in G_f \} $$
(二項関係$G_f^{\circ}$は、$G_f$のreciprocationという。)
$(G_f^{\circ},Y,X)$は写像としてwell-definedであることを示そう。
よって$G_f^{\circ}$は写像のグラフである。
次に$(G_f^{\circ},Y,X)$が$f$の逆写像を与えることを示す。$(G_f^{\circ},Y,X)$が表す写像を$f^{\circ}$と書くとき、写像$f^{\circ}\circ f$は三つ組$(G_f^{\circ}\circ G_f,X,X)$で定義される。
$G_f^\circ \circ G_f$は二項関係の合成であるが、これが$X$上の対角線集合であることを示そう。
$$G_f^\circ \circ G_f = \{ (x,x') \mid \exists y . (x,y) \in G_f \land (y,x') \in G_f^\circ \}$$
ある$y \in Y$で$(x,y) \in G_f$かつ$(y,x') \in G_f^\circ$のとき、ある$y \in Y$で$y = f(x)$かつ$y = f(x')$であるから、$f$の単射性より、$x = x'$が従う。
よって$(x,x') \in G_f^\circ \circ G_f$ならば$x = x'$。
さらに$G_f,G_f^\circ$は左全域的であるから、任意の$x \in X$に対しある$x'$が存在して$(x,x') \in G_f^\circ \circ G_f$。
よって、$G_f^\circ \circ G_f = \{ (x,x) \mid x \in X \}$。
ほとんど同様にして、$G_f \circ G_f^\circ = \{ (y,y) \mid y \in Y \}$が成り立つ。
以上より$(G_f^\circ \circ G_f ,X,X),(G_f \circ G_f^\circ , Y,Y)$はそれぞれ恒等写像$1_X,1_Y$を定めるから、$f^\circ$は$f$の逆写像。
よって$f$は同型射である。
$(\Longleftarrow)f$が同型射のとき、逆写像$f^{-1}\colon Y \to X$が存在して、$f^{-1}\circ f = 1_X$かつ$f \circ f^{-1} = 1_Y$が成立する。
ここで恒等写像$1_X,1_Y$は全射かつ単射であるから、$f^{-1}\circ f = 1_X$より$f$は単射、$f \circ f^{-1} = 1_Y$より$f$は全射、したがって$f$は全単射である。
写像$f\colon X \to Y,g\colon Y \to Z$に対して、$g\circ f$が単射ならば、$f$は単射。また$g\circ f$が全射ならば、$g$は全射。
$g\circ f$が単射のとき、任意の$x,y \in X$に対し、$x \neq y$ならば$g(f(x)) \neq g(f(y))$である。
写像のwell-defined性の対偶より、$g(f(x)) \neq g(f(y))$ならば$f(x) \neq f(y)$。よって任意の$x,y \in X$に対し、$x \neq y$ならば$f(x) \neq f(y)$が成立し、$f$は単射。
$g\circ f$が全射のとき、任意の$z \in Z$に対し、ある$x \in X$で$z = g(f(x))$を満たすものが存在する。
よって任意の$z \in Z$に対し、ある$y \in Y$で$z = g(y)$を満たすものが存在し、$g$は全射。
集合と写像の圏に於いて、monicは単射と一致する。
$(\Longrightarrow)m\colon M \to X$をmonicとする。$x,y \in M$を任意に取り、$m(x) = m(y)$と仮定する。
このとき、一元集合$\{*\}$から$M$への写像$\overline{x},\overline y \colon \{*\} \to M,\overline x(*) = x,\overline y(*) = y$が存在して、
写像の等号の定義より$m\circ \overline x = m \circ \overline y$が成立する。$m$はmonicなので、$\overline x = \overline y$が成立し、$x = \overline x(*) = \overline y (*)= y$。
よって$m(x) = m(y)$ならば$x = y$であるから、$m$は単射の定義を満たす。
$(\Longleftarrow)m \colon M \to X$を単射とする。任意の集合$W$と任意の写像$f,g \colon W \to M$を取り、$m\circ f = m \circ g$と仮定する。
写像の等号の定義より、任意の$w \in W$で$m(f(w)) = m(g(w))$であるから、単射の定義より任意の$w \in W$で$f(w) = g(w)$が成立。よって写像の等号の定義より$f = g$が成立し、$m$はmonicの定義を満たす。
集合と写像の圏に於いて、coverは全射と一致する。
$(\Longrightarrow)c\colon X \to Y$をcoverとする。$c$を像分解して、$c = X \overset{\overline{c}}{\to} \mathrm{Im}(c) \overset{i}{\hookrightarrow} Y$とする。
命題6より、単射とmonicは一致するから、包含写像$i \colon \mathrm{Im}(c)\hookrightarrow Y$はmonicである。よってcoverの定義より$i$は同型射でなければならないが、
集合と写像の圏では同型射は全単射と一致するのであった。包含写像が全単射なので、$\mathrm{Im}(c) = Y$が成立し、$c$は全射である。
$(\Longleftarrow)c\colon X \to Y$を全射とする。任意の$\overline c,m$を取り、$c = m \circ \overline c$かつ$m$はmonic(則ち単射)と仮定する。
$c$が全射なので$m$も全射、よって$m$は全射かつ単射であるから全単射、則ち同型射である。したがって$c$はcoverの定義を満たす。
monicと単射、coverと全射が一致することを示したので、simpleと右一意性、entireと左全域性を対応づけるお膳立てが整った。
任意の集合$A,B$上で二項関係$R \subseteq A \times B$を任意に取り、その表示となる2-table$(T;f_1,f_2)$を与えたとする。
このとき、
2-tableとして、$(R;\pi_A \circ i,\pi_B \circ i)$を取る。ただし$i$は包含写像$i\colon R\hookrightarrow A\times B$で、$\pi_A,\pi_B$は積の射影。
$A,B$上の2-table間の同型$(T;f_1,f_2)\simeq (T';g_1,g_2)$が成り立つとき、$f_1$がmonicならば$g_1$もmonic,$f_1$がcoverならば$g_1$もcoverであることは、容易に確かめられるので、
証明は2-tableの代表の取り方に依らない。
$R$が右一意的$\iff \pi_A \circ i$が単射
$(\Longrightarrow)R$は右一意的であると仮定する。つまり、任意の$a \in A,b,b' \in B$に対し、$(a,b),(a,b') \in R$ならば$b = b'$が成り立つと仮定する。
任意の$(a,b),(a',b') \in R$を取り、$\pi_A \circ i(a,b) = \pi_A \circ i(a',b')$、則ち$a = a'$と仮定。このとき$R$の右一位性より、$b = b'$が従うから、$(a,b) = (a',b')$が成り立つ。
よって$\pi_A \circ i$は単射の定義を満たす。
$(\Longleftarrow)\pi_A \circ i$が単射であると仮定する。このとき、任意の$(a,b),(a',b')\in R$に対し、$a = \pi_A \circ i(a,b) = \pi_A \circ i(a',b') = a'$ならば$(a,b) = (a',b')$であるから、
任意の$(a,b),(a',b')\in R$に対し、$a = a'$ならば$b = b'$である。これは$R$が右一意的であることを示している。
$R$が左全域的$\iff \pi_A \circ i$が全射
$(\Longrightarrow)R$が左全域的であると仮定する。つまり、任意の$a \in A$に対し、ある$b \in B$で$(a,b) \in R$を満たすものが存在すると仮定する。
このとき任意の$a \in A$に対し、ある$(a,b) \in R$で$a = \pi_A \circ i(a,b)$を満たすものが存在することになるので、$\pi_A \circ i$は全射である。
$(\Longleftarrow)\pi_A \circ i$が全射であるとする。つまり任意の$a \in A$に対し、ある$(a,b)\in R$で$a = \pi_A \circ i(a,b)$を満たすものが存在すると仮定する。
このとき任意の$a \in A$に対しある$b \in B$で$(a,b) \in R$を満たすものが存在するから、$R$は左全域性の定義を満たす。
よって、射のグラフとは、写像のグラフの圏論的な一般化であることが従う。
集合$A,B$上の二項関係$R \subseteq A \times B$が写像のグラフであることは、集合と写像の圏に於いて$R$がある射$f_R\colon A \to B$の射のグラフであることと同値。
命題4では、$f$が全単射であるとき、$G_f$のreciprocationが再び写像のグラフになることを示した。
reciprocation = 2-tableの脚の入れ替え
二項関係を2-tableで表示する場合、reciprocationとは2-spanの脚の第一成分と第二成分を入れ替える操作である。
$G_f$を$(A;1_A,f)$で表示する場合、$G_f^{\circ}$は$(A;f,1_A)$で表示される。
これが写像のグラフであることは、$f$が全単射であるということに他ならない。