今回でついに$P(\bullet)$とは何なのかについて説明していくが,その前に,まずは前回( 確率論小ゼミ第1回 )で扱った$\sigma$-集合体・可測空間について軽くおさらいしておこう.もう大丈夫という方はこの部分は読み飛ばして構わない.
標本空間$\Omega$上の$\sigma$-集合体とは,次の[1], [2], [3']を満たす集合族$\mathscr{F}$のことである.
[1] $\Omega \in \mathscr{F}$
[2] $A \in \mathscr{F} ~ \Longrightarrow ~ A^c \in \mathscr{F}$
[3'] $A_1, A_2, \cdots \in \mathscr{F} ~ \Longrightarrow ~ \displaystyle\bigcup_{i=1}^\infty A_i \in \mathscr{F}$
$\mathscr{F}$を標本空間$\Omega$上の$\sigma$-集合体とする.このとき,組$(\Omega, \mathscr{F})$を可測空間という.また,$\mathscr{F}$の元$A$は$\Omega$上の$\mathscr{F}$-可測集合という.
$\Omega$を標本空間とする.このとき,$2^\Omega$は$\Omega$上の$\sigma$-集合体であることを示せ.
可測空間$(\Omega, \mathscr{F})$上の確率測度とは,次の[1], [2], [3]を満たす関数$P:\mathscr{F} \to [0, 1]$のことである.
[1] $P(\Omega) = 1$
[2] $A \in \mathscr{F} ~ \Longrightarrow ~ P(A) \geq 0$
[3] $A_1, A_2, \cdots \in \mathscr{F}, ~~ A_i \cap A_j = \varnothing ~~ (i \neq j) ~~ \Longrightarrow ~~ \displaystyle P\left(\bigcup_{i=1}^{\infty}A_i\right) = \sum_{i=1}^{\infty}P(A_i)$
この定義を言葉で書くと,次のようになる.
$P(A)$は「集合$A$を測度$P$で測った大きさ」とも捉えられる.それ故,$A$はちゃんと($P$で)測れる集合,つまり可測集合,つまり$\mathscr{F}$の元でなければならない.
[3]は$\sigma$-加法性とか可算加法性とも呼ばれる.
$(\Omega,\mathscr{F})$を可測空間とし,$P$を$(\Omega,\mathscr{F})$上の確率測度とする.このとき,3つ組$(\Omega, \mathscr{F}, P)$を確率空間という.
これらの用語は押さえておこう$\Omega$:標本空間,$\mathscr{F}$:$\Omega$上の$\sigma$-集合体,$P$:$(\Omega,\mathscr{F})$上の確率測度,$(\Omega, \mathscr{F})$:可測空間,$(\Omega, \mathscr{F}, P)$:確率空間
$(\Omega, \mathscr{F}, P)$を確率空間とする.このとき,次が成り立つ.
$\{A_n\}\uparrow ~ \colon\Leftrightarrow ~ \{A_n\} \text{ は単調増加列,i.e.,}A_1 \subseteq A_2 \subseteq \cdots$
$\{A_n\}\downarrow ~ \colon\Leftrightarrow ~ \{A_n\} \text{ は単調減少列,i.e.,}A_1 \supseteq A_2 \supseteq \cdots$
実際,確率測度の構成方法は少し分かりずらいと思われるので次の例で理解を深めてほしい.
1から6までの数字が書かれている6面体サイコロを3つ同時に振る.但し,どの出目も同様に確からしいとする.このとき,この結果を表す確率空間$(\Omega,\mathscr{F},P)$を構成してみよう.まず,標本空間は
$$~~~~~~~~~~
\begin{split}
\Omega &= \{1,2,3,4,5,6\}^3\\
&= \{\,(\omega_1, \omega_2, \omega_3) \mid \forall i \in \{1,2,3\},~\omega_i \in \{1,2,3,4,5,6\}\}\\
&= \{(1,1,1),(1,1,2),\ldots,(1,1,6),(1,2,1),\ldots,(6,6,6)\}
\end{split}
$$
とすれば良い.次に,$\Omega$上の$\sigma$-集合体として,
$$~~~~~~~~~~
\mathscr{F} = 2^\Omega
$$
を選べば,可測空間$(\Omega, \mathscr{F})$を構成することができる.最後に,関数$P:\mathscr{F}\to[0,1]$を,任意の$A\in\mathscr{F}$に対して,
$$~~~~~~~~~~
P(A) = \frac{|A|}{|\Omega|} = \frac{|A|}{6^3}
$$
と定めれば,$P$は確率測度となる①から,これで確率空間$(\Omega, \mathscr{F}, P)$を構成することができた.
例1において,
表の出る確率が$p ~ (0 < p < 1)$,裏の出る確率が$1-p$のコインを表が出るまで投げ続ける.このとき,この結果を表す確率空間$(\Omega,\mathscr{F},P)$を構成してみよう.まず,標本空間は
$$~~~~~~~~~~
\Omega = \{0,1,2,\cdots\}
$$
とすれば良い.次に,$\Omega$上の$\sigma$-集合体として,
$$~~~~~~~~~~
\mathscr{F} = 2^\Omega
$$
を選べば,可測空間$(\Omega, \mathscr{F})$を構成することができる.最後に,関数$P:\mathscr{F}\to[0,1]$を,任意の$A\in\mathscr{F}$に対して,
$$~~~~~~~~~~
P(A) = \sum_{\omega \in A}p(\omega), ~~~~ p(\omega) = p(1-p)^{\omega}
$$
と定めれば,$P$は確率測度となる②から,これで確率空間$(\Omega, \mathscr{F}, P)$を構成することができた.
実際,例3の標本空間は
$$~~~~~~~~~~
\Omega' = \{\text{表, 裏表, 裏裏表, 裏裏裏表, }\cdots\}
$$
であるが,確率空間を簡単に構成するために$\Omega = \{0,1,2,\cdots\}$を標本空間とした.もし,$\Omega'$を標本空間とする場合は
$$~~~~~~~~~~
X(\omega) = \text{「文字列 $\omega$ にある裏の出現回数」}
$$
という関数$X \colon \Omega' \to \mathbb{Z}$を導入して,
$$~~~~~~~~~~
f(x) = \left\{
\begin{array}{ll}
p(1-p)^x & (x = 0,1,2,\cdots)\\
0 & (\textrm{otherwise})
\end{array}
\right.
$$
として,任意の$A\in\mathscr{F}$に対して,
$$~~~~~~~~~~
P(A) = \sum_{x \in X(A)} f(x)
$$
とすれば良い.実はこの関数$X$は確率変数であり,関数$f$は$X$の確率(量)関数と呼ばれる.
$X(A) = \{\,X(\omega) \mid \omega \in A\,\}$
非可算無限の場合はまた今度...
$(\Omega, \mathscr{F}, P)$を確率空間とする.このとき,次が成り立つことを示せ.
今回はレイアウトに凝ってみましたw