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ε-N論法を理解する.

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§1$.$数列の極限"$\displaystyle \lim_{n \to \infty} a_{n} $"とは何なのか?

「数列の極限とは$,$ある数列${a_{n}}$に対してこの添字である$n$を限りなく大きくした時$,$どのような値に近づくかを表したものである$.$

……高校までの数学では数列の極限についてこのように習ったのではないのでしょうか?実際$,$高校までの数学ならこれで定義としては十分だったかもしれません$.$

しかし冷静になって定義を吟味すると「$n$を限りなく大きくする」という文章が何を意味するのかが不明瞭ですね$.$

$n$$100$のとき$,$$n$は限りなく大きくなったとみなせますか?それとも$10000$のときですか?あるいは無量大数の時ですか?

皆さんもご存じの通り数の世界は無限に広がっています$.$「どの整数が一番大きいか?」という問いがいかに無意味なものであるか$,$お判りでしょう$.$(巨大数の研究をしている人たちに怒られそうですが)

さて$,$$n$が限りなく大きくなる」だの「$n$は無限大に限りなく近づく」だのと言った文言が数学的にいかに無意味であるかが分かったところで本題に入りましょう$.$

この記事の最大の目的は「$\epsilon -N$論法を理解して数列の極限についての理解を深める」ことです$.$少し難しそうですか?実際$,$数学に慣れてない人にとって$ \epsilon -N$論法を大まかな主張だけでも理解することはかなり難しいです$.$

なぜなら$\epsilon -N$論法は数学の言葉を使って定義されるものだからです$.$「数学の言葉」とは何でしょうか?実際に見てもらいましょう$.$

数列の収束(ε-N論法)

任意の正の実数$\epsilon$に対して$,$次の条件を満たす正整数Nが必ず存在するとき$,$数列${a_{n}}$$a$に収束するという$.$
条件)$ n \gt Nかつn \in \mathbb{Z} ^{+} \Rightarrow \vert a_{n} - a \vert \lt \epsilon $

これが数列の収束の定義です$.$定理ではなくて$,$定義です$.$

初見だと「$\epsilon$って何?任意のってどういう意味?下の式って何なの??」といった疑問を覚えるかもしれません$.$一つ一つ$,$読み解いていきましょう$.$

§2$.$実際の例$ \displaystyle \lim_{n \to \infty} \frac{1}{n}=0 $を示すには$.$

数学的な概念を理解するときに具体的な例を持ち出してきて吟味するのは有効な方法の一つです$.$本セクションでは見出しの通り$ \displaystyle \lim_{n \to \infty} \frac{1}{n}=0 $を示していきたいと思います$.$

まず$,$定義1に数列$\displaystyle {a_{n}}=\frac{1}{n} $を当てはめてみましょう$.$

$\frac{1}{n}$の収束

任意の正の実数$\epsilon$に対して$,$次の条件を満たす正整数Nが必ず存在するとき$,$$\displaystyle \frac{1}{n}$$0$に収束する$.$

条件)$ n \gt N$かつ$\displaystyle n \in \mathbb{N} ^{+} \Rightarrow \vert \frac{1}{n} \vert \lt \epsilon $

上の例を用いて$ \displaystyle {a_{n}}=\frac{1}{n} $$0$に収束することを示しましょう$.$

任意の$\epsilon$とはあなたが好きに決めていい数です$.$$100$でもいいですし$,$$\pi$でも$0$.$1$でも正の実数であれば何でも構いません$.$例えば$0.1$をとってみたとしましょう$.$この時$,$$ n \gt N$かつ$\displaystyle \in \mathbb{Z} ^{+} \Rightarrow \vert \frac{1}{n} \vert \lt 0$.$1 $」となる$N$を探せばいいわけです$.$例えば$N=3$ではどうでしょう?

……駄目ですね$.$例えば$n=5$のとき$,$$n$は仮定を満たしますが$\vert \frac{1}{n} \vert =\frac{1}{5} \gt 0.1$となってしまいます$.$では$N=10$ならどうでしょう?

このとき$,$仮定から$n \gt 10$となるので逆数をとって$ \displaystyle \frac{1}{n} \lt \frac{1}{10} = 0$.$1$となります$.$おや$,$良さそうな感じですね!これで$\epsilon =0$.$1$のときは$N=10$としてやればよいことがわかりました!

$,$まだ終わりではありません$.$$\epsilon$は任意の正の実数とあるので$,$どんな$\epsilon$が来てもそれに対応できるNが存在することを示さなければならないのです$.$つまり$,$$\epsilon$を用いて$N$を定式化してやる必要があるのです$.$やってみましょう$.$

それではまず不等式$\epsilon \gt 0$を用意します$.$この時$\epsilon$の逆数をとって$\displaystyle \frac{1}{\epsilon} \gt 0$となりますね$.$そして任意の正の実数にはそれより大きい正の整数が必ずあります$.$これらの整数のうち一番小さいものを$N$としてみましょうか$.$この時$\displaystyle N \gt\frac{1}{\epsilon} \gt 0 $かつ$N \in \mathbb{Z} ^{+}$となります$.$

先のために少し変形して$\displaystyle \epsilon \gt \frac{1}{N} \gt 0 $としてあげましょう$.$

さて$,$このNがちゃんと$\displaystyle \frac{1}{n} $が0に収束することを示すためのNとしての役割を果たしてくれるのか実際に確認してみましょう$.$

$ n \gt Nかつn \in \mathbb{N} ^{+}$のとき$,$$\displaystyle \frac{1}{N} \gt \frac{1}{n} \gt 0$となりますね$.$先ほど用意した式と組み合わせると$,$$\displaystyle \epsilon \gt \frac{1}{N} \gt \frac{1}{n} \gt 0$が得られます$.$また$,$$\displaystyle \vert \frac{1}{n} \vert = \frac{1}{n} $なので以上から$,$$\displaystyle \epsilon \gt \vert \frac{1}{n} \vert$が示されました$.$

これで証明終了です$.$お判りいただけましたか?初めてだと少し難しい議論かもしれません$.$理解できるまでじっくり吟味して$,$自分でノートに証明を書いてみるなどするとよいでしょう$.$

最後に例題を一つ$.$

$ \displaystyle \lim_{n \to \infty} \frac{n+2}{n} = 1 $を示せ

ぜひ解いてみてください$.$解答は こちら から!

投稿日:20201129

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