Eulerの公式
\begin{equation*}
e^{x+yi}=e^x(\cos y+i\sin y)\ \ \textrm{for all real }x, y\ \ \ \ \ \cdots\textrm{(1)}
\end{equation*}
は、特に
\begin{equation*}
e^{\pi i}+1=0
\end{equation*}
の形で、強く印象に残る公式である。またこの公式は
\begin{equation*}
e^{\pi}=(-1)^{-i}
\end{equation*}
とあらわせることも意味する。なお、このことから、$e^{\pi}$ が超越数であることがGel'fond-Schneiderの定理から従う(
Sep氏の記事を参照
)。もちろんGel'fond-Schneiderの定理の証明は(複素関数に関するCauchyの定理よりも高級な手法を使わずに可能であるものの)本記事の議論よりもずっと難しい。
本記事では、Eulerの公式 $(1)$ を、可能な限り初等的に示すにはどうすればよいかを考える。
$(1)$ により複素数全体で再定義された関数 $e^x$ について
\begin{equation*}
(e^x)^\prime=e^x
\end{equation*}
が成り立つことは極限の計算、あるいはTaylor展開の計算により確かめられる。また指数法則も三角関数の加法定理により確かめられる。また、このとき $e^x$ の逆演算は、$2\pi i$ の整数倍を法として、
\begin{equation*}
\log (r(\cos\theta+i\sin\theta))=\log r+i\theta
\end{equation*}
により定まる。
では、逆に $e^x$ の自然な拡張がそのようなものしかないことをどのように示すか?
自然な拡張とは何かだが、微分に関する公式に整合的であることを求めたい。
具体的には、関数 $f(x), g(x)$ について、実数上で(つまり $x, f(x)$ がともに実数値であるときに)
\begin{equation*}
g^\prime(x)=f(x)
\end{equation*} となっていることが実関数の微分法により示されているとき、 $f(x)$ が実数値をとらないときにもこの関係が成り立つように $g(x)$ を定める。このようにして拡張された $g(x)$ をつかって、微分公式や指数法則・対数法則に整合的になるように、複素数上で $e^x$ を定めるのである。
したがって、そのような整合性を保ちながら $e^x$ を定義するには $(1)$ のように定めるしかないことを示せばよいことになる。
指数関数や三角関数のTaylor展開を用いて、冪級数の一意性からこれを示すことはできるが、そのような冪級数に関する議論は避けて、基本的な微分法のみで示したいのである。
では、上記の関数 $f(x), g(x)$ として何をとればよいかであるが、選び方はいろいろあるが、$x\geq 1$ で実数値をとる関数 $\log(x\pm \sqrt{x^2-1})$ を考える。そうすると $\abs{x}\geq 1$ のとき
\begin{equation*}
(\log(x+\sqrt{x^2-1}))^\prime=\frac{1+\frac{x}{x^2-1}}{x+\sqrt{x^2-1}}=\frac{1}{\sqrt{x^2-1}}\ \ \ \ \ \cdots\textrm{(2)}
\end{equation*}
となる。そこで、$-1\leq\abs{x}<1$ のときにもこの等式が成り立つように
$\log (x+\sqrt{x^2-1})$ を定義する。さて $\abs{x}\leq 1$ のとき(ここでは $x=1$ でもよい)整数 $n$ を何でもよいから選ぶと(たとえば $n=0$)、
\begin{equation*}
x=\cos\theta, \sqrt{x^2-1}=i\sin\theta, 0\leq \sin\theta\leq 1, 2n\pi \leq \theta\leq (2n+1)\pi
\end{equation*}
となる $\theta$ がとれる。$(2)$ は
\begin{equation*}
\frac{d}{dx}(\log(\cos\theta+i\sin\theta))=\frac{1}{\sqrt{x^2-1}}=\frac{1}{i\sin\theta}
\end{equation*}
とあらわせるので
\begin{equation*}
\frac{d}{d\theta}(\log(\cos\theta+i\sin\theta))=\frac{1}{i\sin\theta}\frac{dx}{d\theta}=\frac{-\sin\theta}{i\sin\theta}=i\ \ \ \ \ \cdots\textrm{(3)}
\end{equation*}
と、$\theta$ に関する微分の式でいい替えられる。
したがって $\log (\cos 0+i\sin 0)=\log 1=0$ と定めれば $2n\pi\leq \theta\leq (2n+1)\pi$ において
\begin{equation*}
\log(\cos\theta+i\sin\theta)=i\theta\ \ \ \ \ \cdots\textrm{(4)}
\end{equation*}
が成り立たなければならない。
ただし、ここで単純に $(3)$ もすべての実数 $\theta$ に対して成り立つようにすることはできない。というのは、すべての実数 $\theta$ に対して $(3)$ が成り立つならば $(4)$ もすべての実数に対して成り立つことになるがその場合、
\begin{equation*}
i\theta=\log(\cos\theta+i\sin \theta)=\log(\cos(\theta+2\pi)+i\sin(\theta+2\pi))=i(\theta+2\pi)
\end{equation*}
となって、矛盾してしまうからである。よって $(3)$ は $\theta$ の動く範囲を制限しなければ成り立たない。
$0\leq \theta<2\pi$ あるいは $-\pi<\theta\leq \pi$ などのように幅が $2\pi$ で、片方の端点のみ取り除くように $\theta$ の動く区間をとれば
矛盾なく $(4)$ が成り立つ。
ところで $\log (x-\sqrt{x^2-1})$ について、
\begin{equation*}
(\log(x-\sqrt{x^2-1}))^\prime=\frac{1-\frac{x}{x^2-1}}{x-\sqrt{x^2-1}}=\frac{-1}{\sqrt{x^2-1}}
\end{equation*}
となるが、先と同様に、$-1\leq\abs{x}<1$ に拡張する。この場合 $\abs{x}\leq 1$ のとき
\begin{equation*}
x=\cos\theta, -\sqrt{x^2-1}=i\sin\theta, -1\leq \sin\theta\leq 0, (2n-1)\pi\leq\theta\leq 2n\pi
\end{equation*}
となる $\theta$ がとれる。
\begin{equation*}
\frac{d}{dx}(\log(\cos\theta+i\sin\theta))=\frac{-1}{\sqrt{x^2-1}}=\frac{1}{i\sin\theta}
\end{equation*}
となるから、結局は $(4)$ が成り立つ。ただし $\theta$ の動く範囲が異なる。
さて、 $(4)$ が成り立てば、実数 $r$ に対して
\begin{equation*}
\log (r(\cos\theta+i\sin\theta))=\log r+i\theta
\end{equation*}
が成り立つから、この逆関数を取れば $(1)$ が( $y$が $2n\leq y\leq (2n+1)\pi$ を含む、幅 $2\pi$ の区間を動くときに)成り立つ。
$n$ は任意にとれるから、結局任意の実数 $x, y$ に対して $(1)$ が成り立たなければならないのである。