Eulerの公式
は、特に
の形で、強く印象に残る公式である。またこの公式は
とあらわせることも意味する。なお、このことから、 が超越数であることがGel'fond-Schneiderの定理から従う(
Sep氏の記事を参照
)。もちろんGel'fond-Schneiderの定理の証明は(複素関数に関するCauchyの定理よりも高級な手法を使わずに可能であるものの)本記事の議論よりもずっと難しい。
本記事では、Eulerの公式 を、可能な限り初等的に示すにはどうすればよいかを考える。
により複素数全体で再定義された関数 について
が成り立つことは極限の計算、あるいはTaylor展開の計算により確かめられる。また指数法則も三角関数の加法定理により確かめられる。また、このとき の逆演算は、 の整数倍を法として、
により定まる。
では、逆に の自然な拡張がそのようなものしかないことをどのように示すか?
自然な拡張とは何かだが、微分に関する公式に整合的であることを求めたい。
具体的には、関数 について、実数上で(つまり がともに実数値であるときに)
となっていることが実関数の微分法により示されているとき、 が実数値をとらないときにもこの関係が成り立つように を定める。このようにして拡張された をつかって、微分公式や指数法則・対数法則に整合的になるように、複素数上で を定めるのである。
したがって、そのような整合性を保ちながら を定義するには のように定めるしかないことを示せばよいことになる。
指数関数や三角関数のTaylor展開を用いて、冪級数の一意性からこれを示すことはできるが、そのような冪級数に関する議論は避けて、基本的な微分法のみで示したいのである。
では、上記の関数 として何をとればよいかであるが、選び方はいろいろあるが、 で実数値をとる関数 を考える。そうすると のとき
となる。そこで、 のときにもこの等式が成り立つように
を定義する。さて のとき(ここでは でもよい)整数 を何でもよいから選ぶと(たとえば )、
となる がとれる。 は
とあらわせるので
と、 に関する微分の式でいい替えられる。
したがって と定めれば において
が成り立たなければならない。
ただし、ここで単純に もすべての実数 に対して成り立つようにすることはできない。というのは、すべての実数 に対して が成り立つならば もすべての実数に対して成り立つことになるがその場合、
となって、矛盾してしまうからである。よって は の動く範囲を制限しなければ成り立たない。
あるいは などのように幅が で、片方の端点のみ取り除くように の動く区間をとれば
矛盾なく が成り立つ。
ところで について、
となるが、先と同様に、 に拡張する。この場合 のとき
となる がとれる。
となるから、結局は が成り立つ。ただし の動く範囲が異なる。
さて、 が成り立てば、実数 に対して
が成り立つから、この逆関数を取れば が( が を含む、幅 の区間を動くときに)成り立つ。
は任意にとれるから、結局任意の実数 に対して が成り立たなければならないのである。