導入
三角圏の中にアーベル圏を実現する方法として、-structureのheartを取るものが一番有名です。ここで例えばアーベル圏の導来圏の場合は、standard -structureのheartとしてもとのアーベル圏がでますが、複体の次ホモロジーを取る操作はコホモロジカル関手ができます。
このことは-structureのheartにも同じことが言え、次が成り立ちます。
主定理
三角圏の-structure とそのheart を考える。このとき、truncationの合成で関手が定まり、これはコホモロジカルである。
本記事ではこれの具体的な構成を行い、コホモロジカルであることを示すことを目標にします。
前提知識
三角圏とアーベル圏の定義を知っている、随伴関手やその性質を知っていることを仮定します。また-structureについてのtruncation functorは
Bridgeland安定性第1回
へ証明を投げており、途中で-structureのheartがアーベル圏になることはFactとして扱います(これについては
この記事
等参照)。
慣習と記法
いつもと同じです:
- 考える部分圏は全てfullで有限直和と同型で閉じることを仮定する(直和因子で閉じることは課さない)。
- 三角圏の部分圏に対して、やで通常の直交部分圏を指す。また二つの部分圏に対して、で、を表す。
- 三角圏の対象の集まりとに対し(部分圏でなくてもよい)、
というtriangleでとを満たすようなものが存在するようなを全て集めたものをと書く(この演算は結合的)。
-structureの定義と基本性質
他の記事ですでに現れていますが、記号の確認と基本性質を思い出すために確認しましょう。
三角圏の部分圏の組が-structureであるとは、以下を満たすときをいう。
- .
- .
- (またはとしても同値).
またここで整数について、と書く。
いくつかの基本性質を思い出します。
三角圏の-structure と任意の整数について次が成り立つ。
- 。
- とはともに拡大と直和因子で閉じる。
- 任意のに対して、三角
でかつなるものが存在するが、この性質を満たす三角はを固定すれば一意的な同型を除いて一意的に定まり、これを標準三角と呼ぶ。 - 各対象に対し、上の標準三角をchoiceし、そのを対応させる操作で関手が定まり、これは包含の右随伴である。同様にを対応させる操作で関手が定まり、これは包含の左随伴である。
Bridgeland安定性第1回
を適切に言い換えたりシフトでずらせば得られる(torsion radicalとtorsion-free coradicalがそれぞれやを与える)。
以下では各対象と整数について予め標準三角を固定して選んでおき、それにより関手とを固定しておきます。
上のなどをよくtruncationと言います。導来圏の場合は複体の普通の(stupidでない)truncationです。
またheartを思い出しましょう。
三角圏の-structure のheartとは、の部分圏を指す。
アーベル圏の導来圏を考え、標準的な-structureを入れます(つまりは以下にコホモロジーがconcentrateして複体)。このheartはコホモロジーが次以外消えている複体のなす部分圏です。これはよく知られた議論によりと圏同値になっています。
次がheartの基本性質です。
三角圏の-structure のheartをとすると次が成り立つ:
- はアーベル圏である。
- の射の組がで短完全列であることと、あるの三角が存在することは同値である。
主定理の証明
以下、三角圏とその-structure とそのheart や各truncation functor を固定します。
コホモロジカル関手の構成と二つの定義の同値性
作りたい関手はですが、定義だけなら簡単にできて、truncation functorの合成です(無理やりゼロ以上ゼロ以下にすればの元ができるので)。しかしという順番もありうるので、この二つが自然同値なことをまずは見ていきたいと思います。
関手はを導き、関手はを導き、さらに関手の自然同型がある。
これはもっと言えばへの二つの自然な関手にも拡張できるし、さらに包含がある二つの-structureや、包含がある二つのtorsion pairについても同様の「どっちから切っても同じ」という主張が成り立つはずだが、証明は全く同じだし、過度に一般化しても読者が分かりにくくなりそうなのでやめることにする。
まずが誘導されることは、以上のがあれば作られる三角
において、一番左が以上、が以上なことからも以上より従う。もう一つの方も同様。
自然同型を示す。対象をとり、二つの標準三角の射の合成を考える。これについて、随伴を2回使うと、次を可換にする一意的な射が得られる:
(以外の全ての射は標準三角に現れる射である。)このときが自然変換なことはすぐ分かる。
このときが同型なことを示す。そのため、まず標準三角の射はを経由する(と随伴より)ので、これを利用して八面体から次の三角ができる:
ここで縦の2列目と横の2行目は標準三角であり、横の1列目は写像錐を伸ばしたもの、縦の3列目は八面体により保証される三角である。このとき縦の3列目によりはとの拡大だが、それぞれ以上以上なのでは以上である。同様に横の1列目によりは以下となり、つまりとなっている。
よって横の1行目は実際はに関する標準三角と同型、縦の3列目はに関する標準三角と同型。つまり次の可換図式が得られる(縦や横は三角と限らない):
ここで上の図式の右の隅の合成がに等しいことが、上の可換性から従う。よっては同型である。
コホモロジカルなこと
三角圏の-structure を固定し、そのheart を考える。このとき前節命題4により自然同型があるが、これをという記号で定める。
さてこの関手がコホモロジカルだというのが本記事の一番の目的です。まず定義を思い出しましょう。
コホモロジカル関手
三角圏からアーベル圏への関手がコホモロジカルであるとは、任意のの三角
に対して、で飛ばした次の列
がアーベル圏の完全列になっているときをいう。
- よく知られている三角圏の性質から、表現可能関手はコホモロジカルです。
- アーベル圏の導来圏を考えると、次コホモロジーを取る関手ができますが、これはコホモロジカルです。
2番目の例を拡張するのが-structureからできるコホモロジカル関手です。
三角圏の-structure とそのheart について、定義3で定めた関手はコホモロジカルである。
いくつかの補題を準備して証明します。以下記号は前のように固定します。
- に対して、標準三角の射は同型である。
- に対して、標準三角の射を関手で飛ばすと同型になる。
- に対して、標準三角の射をで飛ばすと同型になる。
当たり前っぽいけど、一応初めに標準三角を全てchoiceしてfixしているのでちょっとは議論が必要(圏論の練習問題っぽい)(多分部分圏の包含が右随伴を持つときの一般論から従わせることができる)。
1について。がの標準三角になっているので、標準三角の一意性よりはど同型、よって同型。
2について。をで送ることを考えて、次の図式を考える:
ここで一番右の射が最初の標準三角の射で、下と上の射はそれぞれとに関する標準三角の射、一番左の射は求める射で、それは上の図式を可換にする一意的な射である。ここで1により上の射は同型、また一意性から左の射は上の射と一致している。よって左の射も同型である。
- の表示を使うと2よりすぐ従う。
まずこの三角を取り換えてとしてよいことを見る。標準三角の射とその合成に逆八面体を使うと、三角からなる次が得られる:
ここで横1行目を見るとが分かり、よって縦2列めはについての標準三角と同型である。ゆえに先の補題6によりとは同型で、初めに取った三角(横2行目)をで送ったものは横1行目の三角をで送ったものと同型。よって横1行目に取り換えることで、初めからとしてよい。
すると任意にをとると、次の可換図式がある:
ここで1行目から2行目はの定義、2行目から3行目はとの左随伴性、3行目から4行目への同型は各から補題6により従う。またはとから従う。
さて一番下の列はがコホモロジカル関手なことから完全。よって一番上も完全である。これはがで完全なことを意味している。
これの双対的に次が得られます(ここで暗にを使っている):
これらを認めると、主定理の証明ができます
がコホモジカルなことの証明
任意にの三角をとる。このとき標準三角の射に対して八面体により下の図式ができる。
このときで送って次のの図式を考える。
上のの図式において、
- 左上のが同型
- 縦2列目のが完全
- 横3行目のが完全
の3つが示せれば、が完全なことが従う。しかし、それぞれ
- の同型は補題6
- の右完全列は補題7(より)
- の単射性は補題8(の一部)(により)
から従う。
感想
落ち着いて八面体を使って帰着させれば証明はできるけど、まあまあ面倒なので人生で一回追えばいいタイプの証明だと思いました。