言葉の意味と記号について
まずいくつかの言葉の意味を定義します.
加法圏,三角圏,dg圏,導来圏などの定義については既知とします.
compact, generator
- 三角圏において,任意の直和をもつの対象の族に対して,自然な射
が同型であるとき,はコンパクト(compact)であるという. - 三角圏とその対象の集合について,を含む最小のlocalizing部分圏(=直和でとじる三角部分圏) がに一致するとき,はのgeneratorであるという.
- 三角圏とその対象の集合について,がのgeneratorであり,に属する任意の対象がコンパクトであるとき.はのcompact generatorであるという.
この記事では,記号を以下の意味で使用します.
: 可換環
: 上の加群の複体からなるdg圏
: dg圏からへの(反変)dg関手からなるdg圏
: dg圏の導来圏
: を含み直和因子で閉じるの最小の三角部分圏(のperfect derived category)
: の対象のsubsetを含む最小のthick部分圏(=直和因子でとじる三角部分圏)
: の対象のsubsetを含む最小のlocalizing部分圏
: のコンパクトな対象全体からなるのfull部分圏.
記事の概要
この記事では次の定理を示します.
[Kel94, Lemma 4.2]
をdg圏とし,を直和と可換な三角関手であるとする.また,とする.以下の条件を考える.
(a) 任意のとに対して
(b) 任意のに対して,である,
(c) はのgeneratorである.
これらの条件について,以下が成立する:
(1) (a)がfully faithful,
(2) (a)+(b) がfully faithful,
(3) (a)+(b)+(c) が圏同値関手.
この定理は,dg圏の導来圏の間に関手が与えられたときに,の中の表現可能な対象をで移した先でcompact generatorになっていれば,のにおけるfully faithful性からの圏同値性が導かれることを意味しています.最後に示しますが,表現可能な対象全体ものcompact generatorです.つまり,かなり乱暴にいうと,この定理は「ベクトル空間の間の線形写像がの基底をの基底に移すとき,は線形同型である」といった類の定理だといえると思います(知識が乏しくてしょぼいことしか言えなくて悲しい.もうちょっといい感じの意味合いを知っている方がいらっしゃったらコメント欄にコメントしていただけると助かります).
準備
2つの定理を事実として認めます.
米田の補題
をdg圏とする.と定める.dg関手に対して,次の加群の複体としての同型が存在する:
次の定理はBrownの表現定理から従います.時間のあるときにまた記事にしようと思います.→
記事にしました
[Kra07, Remark 4.5 (1), Lemma 6.5]
を任意の添字集合に対する直和を持つ三角圏とし,をの対象のcompact subsetとする.このとき次は同値:
- がのgenerator,
- 任意のとについて,ならば,
- .
次の補題は,私の学習不足のせいで証明が必要になった補題です.「そんなの知っとるわい」という人はスキップしてください.
加法圏とその間の加法関手と自然変換について,
が同型であれば
も同型となる.
まず,写像
が同型であることを示す.とその直和の間に存在する自然な射を以下のように定めておく:
このとき,次の図式が可換となる:
実際,図式
が自然変換の自然性から可換であるから,
となる.このとき,左辺の3つの写像は全て同型であるからは同型である.この逆写像を考えることでの逆写像を与えることができる.以上から示された.
さて,今回の定理より一般の状況で成立する補題を準備しておきます.実質これが定理の証明と言っても差し支えありません.
を任意の添字集合に対する直和を持つ三角圏,を直和と可換な三角関手であるとする.さらに,をのcompact generatorであるとする.また,
と定める.次の条件を考える:
(a) 任意のとに対して
(b) 任意のに対して,はのcompactな対象である,
(c) はのgenerator,すなわちである.
これらの条件に関して,以下が成立する:
(1) (a)がfully faithful,
(2) (a)+(b) がfully faithful,
(3) (a)+(b)+(c) が圏同値関手.
(1)を示す.は明らか.を示す.まず圏を
であるようなのfull部分圏とする.これがのthick部分圏であることを示す.がシフトで閉じることは定義から明らか.Coneで閉じることは次のようにして示される:
とその間の射に対して
を考える.このとき,任意のについて図式
がの関手性から可換であり,さらにが三角関手,とがホモロジー関手であることから上下の2つの列は完全列である.よって5-Lemmaからとなってが示される.以上からはの三角部分圏である.直和因子で閉じていることは補題4のを,をとおきかえることで示される.よってはのthick部分圏である.さらに,(a)の仮定からであるから,定理3の1.と3.の同値性から.
次に,を
であるようなのfull部分圏とする.これがthick部分圏であることはがthick部分圏であることと同様にして示される(シフトで閉じることはシフトが圏同型関手であることからすぐにわかる.coneで閉じることはHom関手の共変/反変の違いがあるものののときと同じようにして示される.直和因子で閉じることは補題4から直ちに従う).であることに注意すると,であることがわかるので,再び定理3の1.と3.の同値性から.よってはfully faithfulとなる.
(2)を示す.まず,(1)の証明中のについて,これがのlocalizing部分圏であることを示す.
三角部分圏であることは(1)の証明からわかっているので,あとは直和で閉じていることを示せばよい.(b)の仮定との直和との可換性から,任意のと集合の元で添字づけられたについて,次の図式が可換となる.
よって,となり,はのlocalizing部分圏である.さらに(a)の仮定からであるから,.
次に,を
で定まるのfull部分圏として,これがlocalizing部分圏であることを示す.三角部分圏であることは(1)におけるが三角部分圏であることの証明と同様.直和で閉じていることを示す.と直和の可換性から,任意のと集合の元で添字づけられたについて,次の図式が可換となる.
よって,となり,はのlocalizing部分圏である.さらにであることに注意すると,であるから,.よってはfully faithfulとなる.
(3)について,まずを示す.(a)は明らかである.(b)について示す.がコンパクトであるとき,任意の集合とその元で添字づけられたに対して,の稠密性からとなるが取れることと,の直和との可換性を用いることで
となり成立が示される.(c)は((b)が既に示されていることから)定理1の系の1.と2.の同値性により「任意のとについて,ならば」を示せば十分.実際,の稠密性からなるをとることで
であり,がcompact generatorであることから.したがってとなり示される.
を示す.がfully faithfulであることは(2)から従う.稠密性を示す.
とする.このとき,は直和と可換であることからは直和で閉じる.よって,(c)からを示せば十分であるがこれは明らか.以上から示された.
定理1の証明
さて,本題である定理1を示しましょう.補題5から,以下の定理を示せば十分です.
まずcompactであることを示す.任意のと集合の元で添字づけられたに対して,米田の補題から,
が成立する.両辺0次のホモロジーをとって
ここではにおいてacyclicな対象への射が0しかないことが上の最初の同型についてをacyclicな対象に置き換えることでわかるので,導来圏の定義から, .よって示された.
次にであることを示す.定理3の1.と2.の同値性から,「任意のとについて,ならば」を示せば良い.上の議論と同様に
となる.導来圏においてこれはを意味するので示された.
以上で示されました.間違っているところなどありましたら,コメントに書き込んでいただけますとありがたいです.
謝辞
定理1の証明方針は著者の参加するDG圏の自主ゼミで与えられたものです.特に本質的な部分である補題5についてはS氏のゼミノートを参考にいたしました.また,細かい部分のフォローをA氏にしていただきました.S氏,A氏はじめ自主ゼミに参加しているメンバーに感謝申し上げます.
参考文献
- [Kel94] B. Keller, Deriving DG categories, Ann. Sci. École Norm. Sup. (4) 27 (1994), no. 1, 63--102.
- [Kra07] H.Krause, Derived categories, resolutions, and Brown representability, Interactions between homotopy theory and algebra, 101--139, Contemp. Math., 436, Amer. Math. Soc., Providence, RI, 2007.