19

逆関数が導関数になるとき

2081
2
$$\newcommand{beku}[1]{\displaystyle\overrightarrow{\vphantom{b}\mbox{$#1$}}} \newcommand{bekutoru}[1]{\displaystyle\overrightarrow{\vphantom{b}\mbox{#1}}} \newcommand{bm}[1]{\boldsymbol{#1}} \newcommand{bunsuu}[2]{\dfrac{\,#1\,}{\,#2\,}} \newcommand{Deg}[0]{^{\circ}} \newcommand{dsqrt}[1]{\displaystyle\sqrt{\,#1\,}} \newcommand{gauss}[1]{\left[\mkern1mu {#1}\mkern1mu\right]} \newcommand{kaku}[1]{\angle\mbox{#1}} \newcommand{kumiawase}[2]{\mathord{{}_{#1}\kern-.12em{}\text{C}_{#2}}} \newcommand{mdot}[0]{\!\cdot\!} \newcommand{sankaku}[1]{\triangle \mbox{#1}} \newcommand{suuretu}[1]{\left\{#1\right\}} \newcommand{tsqrt}[1]{\textstyle\sqrt{\,#1\,}} \newcommand{zyunretu}[2]{\mathord{{}_{#1}\kern-.12em{}\text{P}_{#2}}} $$

動機

つい最近,アルバイトにて高校生に数学の指導をしていたとき,相手の生徒が逆関数と導関数の記号を混同している事案がありました。その時にふと思ったのが,逆関数と導関数が同じになる関数って存在する?という疑問です。この記事ではとりあえず,そうなる関数を1つ求めます。すべて求めたわけではないのでご注意ください。

前提

関数$f(x)$は実数上のある区間で定義されていて,逆関数$f^{-1}(x)$と導関数$f'(x)$が存在するとします。とりあえず議論を簡単にするために,逆関数や導関数の定義域はあまり考えないものとします。さらに$f'$$f^{-1}$共に定義される区間が存在して,その区間上では$$ f'(x)=f^{-1}(x) $$
が成り立つと仮定します。
(例えば$f(x)=x+2\; (x\in[0,1])$は逆関数の定義域が$[2,3]$となるため,もとの関数の定義域との共通部分が$\emptyset$となります。そのような例はつまらないため,考えないことにします。)

まず導関数$f'(x)$が存在するので,$f(x)$は連続であり,従って$f^{-1}(x)$もまた連続です。$f'(x)=f^{-1}(x)$としていましたので,$f'(x)$も連続な関数です。

$f(x)=Ax^r$のとき

先に結果だけ言っておきます。

$f(x)=Ax^r$のとき

$$ f(x)=\sqrt[\varphi]{\bunsuu1{\varphi}}x^{\varphi}\qquad \left(x\geq0,\quad \varphi=\bunsuu{1+\sqrt5}{2}\right) $$は,導関数$f'\colon \mathbb R_{>0}\to\mathbb R$と逆関数$f^{-1}\colon \mathbb R_{\geq0}\to\mathbb R$を持ち,$x>0$に対して$f'(x)=f^{-1}(x)$が成り立つ。

この命題が正しいことは計算すればすぐに分かります。以下,この関数を見つけた経緯を述べます。

見つけた経緯


$A$$r$$0$でない実数として,$f(x)=Ax^r$と表されると仮定します。このとき,$$ f'(x)=Arx^{r-1},\qquad f^{-1}(x)=\left(\bunsuu{x}{A}\right)^{\frac1r} $$
と計算できます。これらが一致するので,$$ Arx^{r-1}=\left(\bunsuu{x}{A}\right)^{\frac1r} $$
です。少し変形すれば,$$ x^{r-1-\frac1r}=\bunsuu1r\left(\bunsuu{1}{A}\right)^{1+\frac1r} $$
と表せます。右辺は定数なので,左辺も定数です。従って,$$ \bm{r-1-\bunsuu1r=0} $$
でなければいけません。これは……黄金数が見えますね!つまり$$ r=\bunsuu{1\pm\sqrt5}{2} $$
でなければいけません。とりあえず$f(x)$として1つ見つけることが出来れば満足ですので,$\varphi=\bunsuu{1+\sqrt5}{2}$として,それを$r$に代入します。すると,$$ 1=\bunsuu1\varphi\left(\bunsuu{1}{A}\right)^{1+\frac1{\varphi}} $$
となり,これを整理することで$$ A=\left(\bunsuu1{\varphi}\right)^{\frac1{\varphi}}=\sqrt[\varphi]{\bunsuu1{\varphi}} $$
と計算でき,従って$$ f(x)=\sqrt[\varphi]{\bunsuu1{\varphi}}x^{\varphi} $$
という表示を得ます。実際$$ f'(x)=f^{-1}(x)=\varphi\sqrt[\varphi]{\bunsuu1{\varphi}}x^{\frac1{\varphi}} $$
であることが確認できます。

また,$\varphi$の代わりに$\bunsuu{1-\sqrt5}{2}$を考えると,定数$A$の値が実数ではなくなってしまうので,$f(x)$を実数値関数で考えていたことに反します。すなわち,$f(x)=Ax^{r}$の形で表されるならば,$f(x)=\sqrt[\varphi]{\bunsuu1{\varphi}}x^{\varphi}$のみであることも分かりました。

全部求めたわけではない

上記の議論では,$f(x)$$x$の多項式(特に単項)の場合に解を1つ求めました。

さて,導関数と逆関数が一致するものは,先に求めたものだけですべてなのだろうか?という疑問が自然に発生します。しかしその疑問に対する答えはまだ与えられていません。なにかご存じの方,及び解けた!という方がいればコメントにて教えていただけると嬉しいです。

$f\circ f=f''$から行けたりしないのかな。。。こっちのが難しいかも?)

(複素数の範囲で考察するべきかなあ。)

追記

急に閲覧数が増えていたので何事⁈と思いTwitterを見てみたところ,
https://twitter.com/apu_yokai/status/1337730384214151172
にて拡散されていたようです。ありがとうございます!

また,その引用リツイートを漁っていると,少なくとも以下の動画で紹介されていることに言及している ツイート がありました。
https://youtu.be/rNUfiQgj6ZI
https://youtu.be/0IlWyIaMXqI
なんなら「みんな考えること一緒だなぁw」と言われましたので,オリジナリティを持たせるために,少し問題を一般化してみました。
逆関数がn階導関数になるとき
黄金数だけでなく,白銀数や青銅数が登場しますので,そちらも併せてご覧ください。

追記2

2020年12月16日に開催された〈オンライン数学デー〉において話題に出していただいたようです。
https://twitter.com/sugaku_day/status/1339198592964161536

また,MathOverlfowにて同様の議論がありました。
https://mathoverflow.net/questions/34052/function-satisfying-f-1-f
ここでの議論について,もしかしたら記事を書くかもしれません。

投稿日:20201210
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

ぱるち
ぱるち
135
23986
数学屋さんをしています。代数,数論系に興味があり,今は楕円曲線と戯れています。Mathlogは現実逃避用という噂もあります。@f_d00123

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中