$$\newcommand{beku}[1]{\displaystyle\overrightarrow{\vphantom{b}\mbox{$#1$}}}
\newcommand{bekutoru}[1]{\displaystyle\overrightarrow{\vphantom{b}\mbox{#1}}}
\newcommand{bm}[1]{\boldsymbol{#1}}
\newcommand{bunsuu}[2]{\dfrac{\,#1\,}{\,#2\,}}
\newcommand{Deg}[0]{^{\circ}}
\newcommand{dsqrt}[1]{\displaystyle\sqrt{\,#1\,}}
\newcommand{gauss}[1]{\left[\mkern1mu {#1}\mkern1mu\right]}
\newcommand{kaku}[1]{\angle\mbox{#1}}
\newcommand{kumiawase}[2]{\mathord{{}_{#1}\kern-.12em{}\text{C}_{#2}}}
\newcommand{mdot}[0]{\!\cdot\!}
\newcommand{sankaku}[1]{\triangle \mbox{#1}}
\newcommand{suuretu}[1]{\left\{#1\right\}}
\newcommand{tsqrt}[1]{\textstyle\sqrt{\,#1\,}}
\newcommand{zyunretu}[2]{\mathord{{}_{#1}\kern-.12em{}\text{P}_{#2}}}
$$
はじめに
以前の記事[
逆関数が導関数になるとき
]がTwitter上で拡散されて(
拡散されたツイート
),せっかくなのでもう少し考えてみることにしました。
しかし,2020年12月13日時点ではぱるちは2例目を見つけることすらできていません。
その代わりに,少し一般化された問題でも似たようなことが言えないかを考えましたので,ここにメモ書き程度の備忘録を残します。
問題
正の整数$n$を固定し,関数$f(x)$が以下の条件を満たすとします。(前回結構がばがばに書いていていたので,真面目に書きます。)
- $f(x)$はある実数上のある区間$I$上で定義されており,実数値を取る関数である。$f(x)$の値域を$f(I)$と表記する。
- $f(x)$は$I$(の内部)上で$n$階微分可能である。$n$階導関数を$f^{(n)}(x)$と表記する。
- $f(x)$は$f(I)$上で逆関数$f^{-1}(x)$を持つ。
- $\cancel{f(x)}$
は$\cancel{I\cap f(I)}$上の任意の内点$\cancel x$に対して,$\cancel{f^{(n)}(x)=f^{-1}(x)}$を満たす。
【追記】以下のように訂正します。ご指摘頂いたbdさん,誠にありがとうございます。 - $I\cap f(I)$の内部は空集合ではなく,その任意の内点$x$に対して$f^{(n)}(x)=f^{-1}(x)$を満たす。
このような$f(x)$は存在するのか? すべて求めることは出来ないか? というのが今回考えている問題です。
もしも“内部”とか“内点”という言葉に聞き覚えがなければ,$I$や$f(I)$は開区間であるとして考えてもらっても大差はありません。具体的には
- $f(x)$はある実数上のある開区間$I$上で定義されており,実数値を取る関数である。
- $f(x)$は$I$上で$n$階微分可能である。
- $f(x)$は$f(I)$上で逆関数$f^{-1}(x)$を持つ。
- $I\cap f(I)$は空集合ではなく,任意に$x\in I\cap f(I)$をとったときに$f^{(n)}(x)=f^{-1}(x)$を満たす。
という状況で考えてもらっても構いません。
とりあえず1つ求めることに
前回の記事
と同様に,条件を満たす関数$f(x)$を探してみました。
逆関数が$\bm n$階導関数になるとき
各正の整数$n$に対して,区間$[0,\infty)$上の関数$f_n$を$f_n(x)=A_nx^{M_n}$とする。この$A_n$と$M_n$については,$$
M_n:=\bunsuu{n+\sqrt{n^2+4}}{2},$$$$A_n:=\left(\bunsuu 1{{M_n}({M_n}-1)({M_n}-2)\cdot\dots\cdot({M_n}-n+1)}\right)^{\frac{M_n}{M_n+1}}
$$
と定める。この$f_n$は,$(0,\infty)$上の任意の点$x$に対して${f_n}^{(n)}(x)={f_n}^{-1}(x)$を満たす。
ガンマ関数とか下降階乗冪の記号を使えばもっと楽に記述できるって?ちなみに,$$
M_1=\bunsuu{1+\sqrt5}{2},\quad M_2=1+\sqrt2,\quad M_3=\bunsuu{3+\sqrt{13}}{2}
$$
は,それぞれ黄金数,白銀数,青銅数と呼ばれている値です。また,$M_n$は第$\bm n$貴金属数です! まさかこんなところでお目にかかれるとは思いませんでした。(参考:[
貴金属比 - Wikipedia
])
以下,この関数を見つけた経緯を述べていきます。やってることはほとんど前回の記事と同じです。
見つけた経緯
$0$でない実数$A,r$を用いて$f_n(x)=Ax^r$と表せると仮定します。このとき$n$階微分と逆関数をそれぞれ計算しますと,$$
\begin{cases}
{f_n}^{(n)}(x)&=Ar(r-1)(r-2)\cdot\dots\cdot(r-n+1)x^{r-n}\\
{f_n}^{-1}(x)&=\left(\bunsuu xA\right)^{\frac 1r}
\end{cases}
$$となります。条件より${f_n}^{(n)}(x)={f_n}^{-1}(x)$ですので,$$
Ar(r-1)(r-2)\dots(r-n+1)x^{r-n}=\left(\bunsuu xA\right)^{1/r}
$$です。$\bm r$が整数でないとしてこの式を少し変形すると,$$
x^{r-n-\frac 1r}=\bunsuu 1{A^{1+\frac 1r}\cdot r(r-1)(r-2)\cdot\dots\cdot(r-n+1)}
$$となります。右辺は定数ですから,左辺も定数でなければなりません。すなわち,$$
\bm{r-n-\bunsuu 1r=0}
$$でなければいけません。これは……貴金属数を特徴付ける方程式ですね! 言い換えると,$$
r=\bunsuu{n\pm\sqrt{n^2+4}}{2}
$$でなければなりません。1つ見つけられれば満足ですので,$M_n$を第$\bm n$貴金属数として,$r=M_n$を代入します。このとき$A$は$$
A^{1+\frac 1{M_n}}=\bunsuu 1{{M_n}({M_n}-1)({M_n}-2)\cdot\dots\cdot({M_n}-n+1)}
$$を満たさなければなりません。つまり,$$
A=\left(\bunsuu 1{{M_n}({M_n}-1)({M_n}-2)\cdot\dots\cdot({M_n}-n+1)}\right)^{\frac{M_n}{M_n+1}}
$$です。従って$f_n(x)$の表示として,$$
f_n(x)=\left(\bunsuu 1{{M_n}({M_n}-1)({M_n}-2)\cdot\dots\cdot({M_n}-n+1)}\right)^{\frac{M_n}{M_n+1}}x^{M_n}
$$を得ることが出来ました。実際にこれが条件を満たすことは,計算することによって確認出来ます。少し追記
[見つけた経緯]において,$r$を整数でないとして議論していましたが,$r$を整数だと仮定するとなんだかんだで条件に反してしまいます。
また,$n$が偶数であれば,$r=\bunsuu{n-\sqrt{n^2+4}}{2}$としても条件を満たします。$n$が奇数の時は$A$が実数でなくなるため条件に反します。
やはり全部求めたわけではない
条件を満たす関数をすべて求めるためには今やってるような十分条件から攻める方法ではダメで,全く違う方法を考える必要がありますね。。。
そもそもぱるちは(本質的に異なる)2例目を見つけることすら出来ていません。簡単な状況なのに難しいですね......
この問題について進展があった! どこかで似たようなものを見たことがある! という場合は,コメントにて教えていただけると嬉しいです。