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解説大学数学基礎
文献あり

ガウス和と符号決定問題

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$$\newcommand{dis}[0]{\displaystyle} \newcommand{l}[0]{\lambda} \newcommand{ol}[1]{\overline{#1}} \newcommand{t}[0]{\tau} \newcommand{x}[0]{\chi} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} \newcommand{z}[0]{\zeta} $$

はじめに

この記事ではGauss和$\tau(\chi)$の絶対値と$\tau(\Big(\frac{\cdot}{p}\Big))$の符号決定問題について解説していきます。

まずガウス和の定義を確認しておきます。

ガウス和

ガウス和$\t(\x)$とは法$N$のディリクレ指標$\x$に対し
$\dis\t(\x)=\sum^N_{a=1}\x(a)\z^a_N$で定める和のことを言う。ただし$\z_N=e^{\frac{2\pi i}{N}}$とした。

$N$が一般の自然数のときにおいては少し議論がややこしくなるので、ここでは$N=p$(奇素数)とします。このとき以下のことが成り立ちます。

$p$の非自明なディリクレ指標$\x$について$|\t(\x)|=\sqrt{p}$

この記事では解説しませんが一般には以下のような事実が成り立ちます。
(追記.やっぱり解説することにしました)

$N$の原始的ディリクレ指標$\x$について$|\t(\x)|=\sqrt{N}$

つまり定理1は原始指標の定義から法$p$の非自明な指標は全て原始指標となることに起因するというわけです。また法$p$の非自明な実指標はルジャンドル記号によって$\x(n)=\Big(\frac{n}{p}\Big)$と表され、このガウス和について

$\t(\Big(\frac{\cdot}{p}\Big))=\sqrt{(-1)^{\frac{p-1}{2}}p}=\left\{\begin{array}{cl}\sqrt{p}&p\equiv1\pmod{4}のとき\\\sqrt{-p}&p\equiv3\pmod{4}のとき\end{array}\right.$

と符号が定まります。

ガウス和の絶対値

以下$\x$を法$N$のディリクレ指標とし、$\z=\z_N=e^{\frac{2\pi i}{N}}$とおく。

$\x(n)\neq0$ならば$\dis\;\ol\x(n)\t(\x)=\sum^N_{a=1}\x(a)\z^{an}$が成り立つ。

$\x$$(\Z/N\Z)^\times$の指標と見なすと$\ol\x(n)=\x(n)^{-1}=\x(n^{-1})$なので
$\dis\ol\x(n)\t(\x)=\sum_{a\in(\Z/N\Z)^\times}\x(an^{-1})\z^a=\sum_{a\in n^{-1}(\Z/N\Z)^\times}\x(a)\z^{an}=\sum_{a\in (\Z/N\Z)^\times}\x(a)\z^{an}$となる。

補題 4

補題4において$n=-1,\;\x\mapsto\ol\x$とすると$\ol{\t(\x)}=\x(-1)\t(\ol\x)$

原始指標$\x$においては$\x(n)=0$でも$\dis\;\ol\x(n)\t(\x)=\sum^N_{a=1}\x(a)\z^{an}$が成り立つ。

補題4から$\x(n)=0$のとき、右辺も$0$となることを示せばよい。
このとき$(n,N)=g>1,\;N=gN',\;n=gn'$とおくと
$\dis\sum^N_{a=1}\x(a)\z^{an}=\sum^N_{a=1}\x(a)\z_{N'}^{an'}=\sum_{b\in(\Z/N'\Z)^\times}\z_{N'}^{bn'}\sum_{\substack{a\in(\Z/N\Z)^\times\\a\equiv b\pmod{N'}}}\x(a)$
とでき、$\x$は原始的であったので最後の式の内側の和は この記事 の命題6の3より$0$になる。

定理2の証明

補題5,補題4系より
$\dis|\ol\x(n)\t(\x)|^2=(\ol\x(n)\t(\x))(\x(-n)\t(\ol\x)) \\\dis=(\sum^N_{a=1}\x(a)\z^{an})(\sum^N_{b=1}\ol\x(b)\z^{-bn})=\sum^N_{a,b=1}\x(a)\ol\x(b)\z^{(a-b)n}$
${}$
これを$\dis|\x(n)|=0,1,\quad\sum^N_{n=1}\z^{kn}=\left\{\begin{array}{cl}N&N|k\;のとき\\0&N\!\!\not|k\;のとき\end{array}\right.\quad$に注意して$n$について足し合わせると
$\dis \varphi(N)|\t(\x)|^2=\sum^N_{a,b=1}\x(a)\ol\x(b)\sum^N_{n=1}\z^{(a-b)n}=p\sum_{a=b}\x(a)\ol\x(b)=p\sum^N_{a=1}|\x(a)|^2=N\varphi(N)$
よって$|\t(\x)|^2=N$つまり$|\t(\x)|=\sqrt{N}$を得る。

符号決定問題

この記事 の定理2で見たように法$p$のディリクレ指標のなす群は$(\Z/p\Z)^\times$に同型である。実指標は値域に$\pm1$しかとらないのでその二乗が自明な指標となるものとして特徴付けられ、$(\Z/p\Z)^\times$において二乗して単位元になるものは$\pm1$だけであるので実指標も$\pm1$に対応する自明な指標と非自明な指標の丁度2つあることになる。

また以下で定義するルジャンドル記号によって法$p$の非自明な実指標が定まることが知られている。先に述べたように非自明な実指標はただ一つしか存在しないのでそれはルジャンドル記号の定める指標と一致するわけである。よってまずルジャンドル記号について解説する。

ルジャンドル記号

ルジャンドル記号

ルジャンドル記号$\dis\left(\frac{\cdot}{p}\right)$

  • $p|n$のとき$\dis\left(\frac{n}{p}\right)=0$
  • $x^2\equiv n\pmod{p}$なる整数$x$があるとき$\dis\left(\frac{n}{p}\right)=1$
  • $x^2\equiv n\pmod{p}$なる整数$x$がないとき$\dis\left(\frac{n}{p}\right)=-1$

で定義する。

ルジャンドル記号には以下の明示的な公式が成り立つ。

オイラーの規準

$\dis\left(\frac{a}{p}\right)\equiv a^{\frac{p-1}{2}}\pmod{p}$

ざっくりと説明する。
$p$の原始根の一つを$r$について$r^{\frac{p-1}{2}}\equiv-1\pmod{p}$に注意すると、$r^2,r^4,\ldots,r^{p-1}$と合同なものが平方剰余でその$\frac{p-1}{2}$乗は$1$に合同となる。また$r,r^3,\ldots,r^{p-2}$と合同なものが非平方剰余となりその$\frac{p-1}{2}$乗は$-1$に合同となる。$a\equiv0\pmod{p}$のときは自明。

オイラーの規準からルジャンドル記号が指標を定めることそしてその指標が非自明な指標であることがわかる。また$a=-1$を代入すると以下の公式を得る。

第一補充則

$\dis\left(\frac{-1}{p}\right)=(-1)^{\frac{p-1}{2}}$

いま実指標を考えているので第一補充則と補題4系から$\ol{\t(\Big(\frac{\cdot}{p}\Big))}=(-1)^{\frac{p-1}{2}}\t(\Big(\frac{\cdot}{p}\Big))$つまり$\t(\Big(\frac{\cdot}{p}\Big))$$p\equiv 1\pmod{4}$で実数$\pm\sqrt{p}$に、$p\equiv3\pmod{4}$で純虚数$\pm\sqrt{-p}$となる。

ここでその符号$\pm$を確定させようというのが符号決定問題である。

さて最後にもう一つ公式を紹介しておく。

第二補充則

$\dis\left(\frac{2}{p}\right)=(-1)^{\frac{p^2-1}{8}}$

$\l=\z_8+\z_8^{-1}=2\cos(\frac{\pi}{4})=\sqrt{2}$とおく。このとき合同式を$\Z[\z_8]$で考えると
$\l^p=(\l^2)^{\frac{p-1}{2}}\l=2^{\frac{p-1}{2}}\l\equiv\Big(\frac{2}{p}\Big)\l\pmod{p}$であってまた、
$\l^p\equiv\z_8^p+\z_8^{-p}=2\cos(\frac{\pi n}{p})=\left\{\begin{array}{cl}2\cos(\frac{\pi}{4})&p\equiv\pm1\pmod{8}\\-2\cos(\frac{\pi}{4})&p\equiv\pm3\pmod{8}\end{array}\right\}=(-1)^{\frac{p^2-1}{8}}\l\pmod{p}$
でもあるので$\Big(\frac{2}{p}\Big)\l\equiv(-1)^{\frac{p^2-1}{8}}\l\pmod{p}$となり、$\l=\sqrt{2}$$p$と互いに素なので主張を得る。

定理3の証明

以下、簡単のため$\x_p=\Big(\frac{\cdot}{p}\Big),\;m=\frac{p-1}{2}$とおく。
最終的に符号決定問題は以下の等式を示すことで解決する。

$\dis\sum^p_{a=1}\x_p(a)\z^a=\left(\frac{-2}{p}\right)\prod^m_{k=1}(\z^k-\z^{-k})$が成り立つ。

まず右辺が求めたい形になっているか確かめる。

$\dis\left(\frac{-2}{p}\right)\prod^m_{k=1}(\z^k-\z^{-k})=\sqrt{(-1)^mp}$

簡単のため$\delta=(与式)$とおく。
$\dis\delta^2=\prod^m_{k=1}(\z^k-\z^{-k})^2=\left(\prod^m_{k=1}(-\z^{-k})(1-\z^{2k})\right)\left(\prod^m_{k=1}\z^k(1-\z^{-2k})\right) \\\dis=(-1)^m\prod^{p-1}_{k=1}(1-\z^{2k})$

ここで$\dis\prod^{p-1}_{k=1}(x-\z^k)=\sum^{p-1}_{k=0}x^k$であるので
$\dis\prod^{p-1}_{k=1}(1-\z^k)=p,\;\prod^{p-1}_{k=1}(1+\z^k)=(-1)^{p-1}\prod^{p-1}_{k=1}((-1)-\z^k)=1$
つまり$\delta^2=(-1)^mp$がわかる。

いま$\dis\prod^m_{k=1}(\z^k-\z^{-k})=\prod^m_{k=1}2i\frac{\z^k-\z^{-k}}{2i}=2^mi^m\prod^m_{k=1}\sin(\frac{2\pi k}{p})$であって
$\sin(\frac{2\pi k}{p})$は正なので$\delta$の(虚数単位を含めた)符号は$i^m\Big(\frac{-2}{p}\Big)$に等しい。
そして$i^m\Big(\frac{-2}{p}\Big)=i^m(-1)^m(-1)^{\frac12m(m+1)}=i^{m^2}$なので主張を得る。

さて第一補充則の下部に書いたように$\t(\x_p)^2=(-1)^mp=\delta^2$であるから$\t(\x_p)=\pm\delta$まではわかっている。この符号$\pm$が正であることを示すには$(\t(\x_p))=(\delta)=(\sqrt{p})=(1-\z)^m$に注意すると以下のことを確かめればよい。

$\t(\x_p)\equiv \delta\pmod{(1-\z)^{m+1}}$

具体的には以下の合同式が成り立つことを示す。

$\t(\x_p)\equiv \delta\equiv m!(1-\z)^m\pmod{(1-\z)^{m+1}}$

簡単のため$\l=1-\z$とおく。

$\delta\equiv m!\l^m\pmod{\l^{m+1}}$

$\delta$の各因数について
$\z^k-\z^{-k}=(1-\l)^k-(1-\l)^{p-k}\equiv (1-k\l)-(1-(p-k)\l)=-2k\l\pmod{\l^2}$
であってまたオイラーの規準から$\Big(\frac{-2}{p}\Big)\equiv(-1)^m2^m\pmod{p=\l^{p-1}}$および$2^{p-1}\equiv1\pmod{p}$から
$\delta\equiv(-1)^m2^m\prod^m_{k=1}(-2k\l)=2^{p-1}m!\l^m\equiv m!\l^m\pmod{\l^{m+1}}$を得る。

$\t(\x_p)\equiv m!\l^m\pmod{\l^{m+1}}$

$\t(\x_p)=\sum^{p-1}_{a=1}\x_p(a)\z^a=\sum^{p-1}_{a=1}\x_p(a)(1-\l)^a =\sum^{p-1}_{a=0}\sum^a_{k=0}(-1)^k\x_p(a)\binom{a}{k}\l^k$と展開でき、
$\binom{a}{k}=\frac{a(a-1)(a-2)\cdots(a-k+1)}{k!}$$a$についての$k$次多項式であり、
オイラーの規準から$\x_p(a)\equiv a^m\pmod{p}$であることから$\sum^{p-1}_{a=1}a^j$を求めたい。
${}$
ここで$p$の原始根のひとつを$r$とおくと$\sum^{p-1}_{a=1}a^j\equiv\sum^{p-1}_{i=1}r^{ij}\pmod{p}$となり、これは$(p-1)|j$のとき$-1$それ以外で$0$に合同である。
したがって$\mod{\l^{m+1}}$$\t(\x_p)$$\l^{m-1}$以下の項は消え、$\l^m$の係数は$\sum^{p-1}_{a=1}(-1)^m\x_p(a)\binom{a}{m}\equiv(-1)^{m+1}/m!\pmod{p}$となる。

さてウィルソンの定理から$(p-1)!\equiv-1\pmod{p}$であり、$(p-1)!=(\prod^m_{k=1}k)(\prod^m_{k=1}(p-k))=(-1)^m(m!)^2$すなわち$(-1)^{m+1}/m!\equiv m!\pmod{p}$を得る。
よって$\t(\x_p)\equiv((-1)^{m+1}/m!)\l^m\equiv m!\l^m\pmod{\l^{m+1}}$

以上より定理3は示された。

参考文献

投稿日:20201212

投稿者

主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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