Mathematical Logic Advent Calendar 2020
の21日目の記事です.
この記事ではMathias強制法の初歩の解説を行う.
Mathias強制法の定義
での元の間の順序は
で定める.
をMathias強制法という.
の最大元はでありこれをと書く.
Mathias強制法はのある部分集合 (Mathias実数という)を追加する強制法であり,各条件 (の元)はその追加する実数の近似と思える.
mathias
まず,の元はに入れる.にもにも入っていない自然数はに入れない.に入っている自然数はに入れるかどうかは未定である.
このことをフォーマルに述べると次の通りだ.
ジェネリックフィルターに対してとおく.をMathias実数という.を表す名前をとする.
このとき,に対して
を含むジェネリックフィルターをとる.
このとき,の定義からである.
また,とするとがあってである.はフィルタ―なのでをとれる.の順序の定義よりなのででもある.ならばとなる.ならばの順序の定義よりなのでである.よって,どちらにせよ.
したがって強制定理により命題の主張を得る.
Mathias強制法はcccを満たさないが,Axiom Aという性質を満たし,したがってproperという性質を満たすことを注意しておく.
Mathias強制法はsplitting numberを上げる
についてがをsplitするとはとがともに無限なことと定める.
Mathias実数はグラウンドモデルのどんな実数によってもsplitされない.すなわち次が成り立つ.
で議論する.とし,とする.
が無限集合なのでとの少なくともどちらかは無限である.
が無限ならば,であるので,では有限集合なので.
が無限ならば,同様にとなる.
がsplitting familyであるとは,どんなもあるによってsplitされることをいう.
とおき,をsplitting numberという.
次は反復強制法やproper強制の性質を使うが,証明の概略は明快なので概略を述べる.
CHを仮定する.順序数についてをMathias強制法の回の可算サポート反復とする.このとき
iteration
概略
ジェネリックフィルターをとる.の中でをを満たすものとする.
CHの仮定とがサイズ連続体濃度のproper強制法なことから,proper強制法の性質により,は途中のステージ (ただし)で現れ,またでである.
からへ行くときに追加されるMathias実数を考える.このとき命題2よりの中で,どんなもをsplitしないことが分かる.二つの実数について「がをsplitする」という関係は絶対的であるので,同じことがでも成り立つ.したがって,の中ではsplitting familyではない.
は濃度以下で任意にとっていたことから,である.よってよりである.
ほかの性質
- Mathias強制法はdominating realを追加し,したがってを上げる
- Mathias強制法はLaverの性質を持ち,したがってとを小さくする
- ではBorel予想が成り立つ.
1はそれほど証明は難しくない.2の証明にはMathias forcingが"pure decision"という性質を持つことを使い,ちょっと議論が必要だ.3はさらに議論が必要.
余力があれば1と2についてこの記事に証明を追記したいと思う.特にpure decisionはMathias強制の最も重要な性質の一つなので書いておきたい思いはある.
今回書いたを上げるという事実と項目1と2により結局,Mathias強制法の回反復で次のような基数不変量の分離ができる.オレンジがになる部分,水色がになる部分である.薄いオレンジはになるが,この記事では証明しない部分である.
invariants
cichon
ただし1枚目の画像は参考文献1の図に色を付けたものである.
ZFCで証明できる不等式があることに注意しておく.よってが上がることからも上がる.また,という不等式もあるので,が下がることからも下がる.
実はが薄いオレンジの部分を上げることは既に証明を記事にしてある:
参考文献
- Blass A. (2010) Combinatorial Cardinal Characteristics of the Continuum. In: Foreman M., Kanamori A. (eds) Handbook of Set Theory. Springer, Dordrecht.
https://doi.org/10.1007/978-1-4020-5764-9_7