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Mathias強制法入門

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$$\newcommand{and}[0]{\mathrel{\mathrm{\&}}} \newcommand{cov}[0]{\operatorname{cov}} \newcommand{forces}[0]{\Vdash} \newcommand{M}[0]{\mathbb{M}} \newcommand{meager}[0]{\mathrm{meager}} \newcommand{nll}[0]{\mathrm{null}} \newcommand{non}[0]{\operatorname{non}} \newcommand{or}[0]{\mathrel{\mathrm{or}}} \newcommand{P}[0]{\mathbb{P}} $$

Mathematical Logic Advent Calendar 2020 の21日目の記事です.

この記事ではMathias強制法の初歩の解説を行う.

Mathias強制法の定義

$$ \M = \{ (s, A) : s \in [\omega]^{<\omega} \and A \in [\omega]^\omega \and \max s < \min A \} $$
$\M$の元の間の順序は
$$ (t, B) \le (s, A) \iff (s \subseteq t) \and (B \subseteq A) \and (t \setminus s \subseteq A) $$
で定める.

$\M$をMathias強制法という.

$\M$の最大元は$(\varnothing, \omega)$でありこれを$1_\M$と書く.

Mathias強制法は$\omega$のある部分集合$g$ (Mathias実数という)を追加する強制法であり,各条件 ($\M$の元)はその追加する実数の近似と思える.

mathias mathias

まず,$s$の元は$g$に入れる.$s$にも$A$にも入っていない自然数は$g$に入れない.$A$に入っている自然数は$g$に入れるかどうかは未定である.

このことをフォーマルに述べると次の通りだ.

$(V, \M)$ジェネリックフィルター$G$に対して$g = \bigcup \{ s : (\exists A)((s, A) \in G) \} \subseteq \omega$とおく.$g$をMathias実数という.$g$を表す名前を$\dot{g} \in V^\M$とする.
このとき,$(s, A) \in \M$に対して
$$ (s, A) \forces_\M s \subseteq \dot{g} \subseteq s \cup A. $$

$(s, A) \in \M$を含む$(V, \M)$ジェネリックフィルター$G$をとる.

このとき,$g$の定義から$s \subseteq g$である.

また,$n \in g$とすると$(t, B) \in G$があって$n \in t$である.$G$はフィルタ―なので$(u, C) \le (s, A), (t, B)$をとれる.$\M$の順序の定義より$t \subseteq u$なので$n \in u$でもある.$n \in s$ならば$n \in s \cup A$となる.$n \not \in s$ならば$\M$の順序の定義より$n \in u \setminus s \subseteq A$なので$n \in s \cup A$である.よって,どちらにせよ$n \in s \cup A$.

したがって強制定理により命題の主張を得る.

Mathias強制法はcccを満たさないが,Axiom Aという性質を満たし,したがってproperという性質を満たすことを注意しておく.

Mathias強制法はsplitting numberを上げる

$x, y \in [\omega]^\omega$について$x$$y$をsplitするとは$y \cap x$$y \setminus x$がともに無限なことと定める.

Mathias実数はグラウンドモデルのどんな実数によってもsplitされない.すなわち次が成り立つ.

$1_\M \forces_\M (\forall x \in \mathcal{P}(\omega) \cap V)(|\dot{g} \cap x| < \aleph_0 \or |\dot{g} \setminus x| < \aleph_0)$

$V$で議論する.$(s, A) \in M$とし,$x \in \mathcal{P}(\omega)$とする.
$A$が無限集合なので$A \cap x$$A \setminus x$の少なくともどちらかは無限である.

$A \cap x$が無限ならば,$(s, A\cap x) \forces_\M (\dot{g} \subseteq s \cup (A \cap x))$であるので,$(s, A\cap x) \forces_\M (\dot{g} \setminus x \subseteq (s \cup (A \cap x)) \setminus x \subseteq s)$$s$は有限集合なので$(s, A\cap x) \forces_\M (|\dot{g} \setminus x| < \aleph_0)$.
$A \setminus x$が無限ならば,同様に$(s, A\setminus x) \forces_\M (|\dot{g} \cap x| < \aleph_0)$となる.

$\mathcal{F} \subseteq [\omega]^\omega$がsplitting familyであるとは,どんな$Y \in [\omega]^\omega$もある$X \in \mathcal{F}$によってsplitされることをいう.

$$ \mathfrak{s} = \min\{|\mathcal{F}| : \text{$\mathcal{F} \subseteq [\omega]^\omega$はsplitting family} \} $$
とおき,$\mathfrak{s}$をsplitting numberという.

次は反復強制法やproper強制の性質を使うが,証明の概略は明快なので概略を述べる.

CHを仮定する.順序数$\alpha$について$\P_\alpha$をMathias強制法の$\alpha$回の可算サポート反復とする.このとき
$$ \P_{\omega_2} \forces \mathfrak{s} = 2^{\aleph_0} = \aleph_2. $$

iteration iteration

概略

$(V, \P_{\omega_2})$ジェネリックフィルター$G$をとる.$V[G]$の中で$A \subseteq [\omega]^\omega$$|A| \le \omega_1$を満たすものとする.

CHの仮定と$\M$がサイズ連続体濃度のproper強制法なことから,proper強制法の性質により,$A$は途中のステージ$V[G_\alpha]$ (ただし$\alpha < \omega_2$)で現れ,また$V[G]$$2^{\aleph_0} = \aleph_2$である.

$V[G_\alpha]$から$V[G_{\alpha+1}]$へ行くときに追加されるMathias実数$g$を考える.このとき命題2より$V[G_{\alpha+1}]$の中で,どんな$x \in A$$g$をsplitしないことが分かる.二つの実数$X, Y$について「$X$$Y$をsplitする」という関係は絶対的であるので,同じことが$V[G]$でも成り立つ.したがって,$V[G]$の中で$A$はsplitting familyではない.

$A$は濃度$\aleph_1$以下で任意にとっていたことから,$\mathfrak{s} > \aleph_1$である.よって$2^{\aleph_0} = \aleph_2$より$\mathfrak{s} = \aleph_2$である.

ほかの性質

  1. Mathias強制法はdominating realを追加し,したがって$\mathfrak{b}$を上げる
  2. Mathias強制法はLaverの性質を持ち,したがって$\cov(\nll)$$\cov(\meager)$を小さくする
  3. $V^{\P_{\omega_2}}$ではBorel予想が成り立つ.

1はそれほど証明は難しくない.2の証明にはMathias forcingが"pure decision"という性質を持つことを使い,ちょっと議論が必要だ.3はさらに議論が必要.

余力があれば1と2についてこの記事に証明を追記したいと思う.特にpure decisionはMathias強制の最も重要な性質の一つなので書いておきたい思いはある.

今回書いた$\mathfrak{s}$を上げるという事実と項目1と2により結局,Mathias強制法の$\omega_2$回反復で次のような基数不変量の分離ができる.オレンジが$\aleph_2$になる部分,水色が$\aleph_1$になる部分である.薄いオレンジは$\aleph_2$になるが,この記事では証明しない部分である.

invariants invariants

cichon cichon

ただし1枚目の画像は参考文献1の図に色を付けたものである.

ZFCで証明できる不等式$\mathfrak{s} \le \non(\nll)$があることに注意しておく.よって$\mathfrak{s}$が上がることから$\non(\nll)$も上がる.また,$\mathfrak{e} \le \cov(\meager)$という不等式もあるので,$\cov(\meager)$が下がることから$\mathfrak{e}$も下がる.

実は$\P_{\omega_2}$が薄いオレンジの部分を上げることは既に証明を記事にしてある:

参考文献

  1. Blass A. (2010) Combinatorial Cardinal Characteristics of the Continuum. In: Foreman M., Kanamori A. (eds) Handbook of Set Theory. Springer, Dordrecht. https://doi.org/10.1007/978-1-4020-5764-9_7
投稿日:20201220

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