こんにちは!ヘカテーと申します!院生をやっています!
楕円曲線の群構造の概要が学べる前日のRyuさんによる記事、
楕円曲線論への誘い~ロマ数トレラン受講記録~
に引き続き、2020年
日曜数学
アドベントカレンダー21日目の記事です!
年の瀬は早いものでクリスマス(アドカレ最終日)まで残り4日になる12/22今日この頃ですが、"毎月22日はショートケーキの日"と国内のケーキ屋さんで呼ばれていることを皆様ご存じですか?
layered_cake
その理由はカレンダーにありまして、22日の一週間前が15日であるため、カレンダー上でちょうど22日の真上に15日(イチゴ)が乗っている形になるからだそうです!面白い!
この理屈でいくと一週間後は29日(肉の日)なので、イチゴと肉にはさまれるスポンジケーキみたいな絵面になりますね!混ぜるな危険!
でも12月ならショートケーキとターキーのクリスマスセットということで許される気がします!クリスマスは正義!
えー、一切今回の話と関係ない前座でしたが、今回は 前回の記事 で提示した論理パズルの解答とその 参考元 のチェス盤のパズルの解答に共通する性質、完全性について書きます!前回の記事を特に読んでいなくても概要は掴めると思います!
まず、前回の論理パズルの概要がこちら。
裏表の区別しかない52枚の同じカードの束を、悪魔が裏表バラバラにシャッフルする。その後、悪魔は囚人Aだけに
それを聞いた囚人Aは、その52枚のカードの束に、同じカード1枚を裏か表かにして挿入する。その際、52枚のカードの束を順番を崩さずに広げて何枚目が裏なのか表なのかを確認してよい。
その後、囚人Bは同様にその53枚のカードの束の何枚目が裏なのか表なのかだけを確認し、囚人Aに伝えられた整数を当てる。
このゲームを成功させるために、囚人Aと囚人Bはこのゲームのルールを知った上で事前にどのような戦略をとればいいか?
(問題変わってるじゃないか!というツッコミはご容赦あそばせ。)
つまり、囚人Aと囚人Bの入力と操作の一部と出力は以下の通り。
input
数式で表すとこんな感じ。(区間
input2
この論理パズルの解答を、前回定義したVT符号とその性質を用いて解説していきます。
VT符号の定義とその性質を以下に再掲します。自然数は
この集合を符号長
VT符号の元を符号語と呼ぶ。
整数
任意の自然数
かつ、相異なる符号語
が成り立つ。ただし、
(
上記の完全性の例は前回の「お前、どこ産?」の例と同じものです。
さらに自然数
perfect1
灰色の三角形(の底辺)が削除球面
また、VT符号の完全性はパラメータ
すなわち整数
perfect2
(一般に
これらの図を見ると前回紹介した定理1の系は納得出来る主張になっていると思います。
任意の自然数
定理1の系がこの論理パズルを解く鍵になります。この定理1の系を用いて、52枚のカードの束
この場合の解法は以下の図の通りです。当てる整数は
figure1
カードの束が1枚しかないので初期状態は表か裏かですが、どちらであっても囚人Aは1枚カードを挿入することで3通りの状態が作れ、上図の数字の割り振り方で囚人Bに
この解法を定理1の系の視点から捉え直します。
となり、
今までは整数
しかし、これは
figure2
結局のところ、定理1の系は整数
従って、
囚人Bはカードの表裏を
これで悪魔に勝てます!VT符号の完全性すごい!
friend
さて、囚人Aのカードの挿入の仕方ですが、定理1の系から与えられた52枚のカードの束(上から表を
① 与えられた長さ
② ①の値を与えられた整数
③ 与えられた長さ
④ ②の値が③の個数以下である場合、カードは表にして挿入する。挿入位置は挿入する場所より上にある
⑤ ②の値が③の個数より大きい場合、カードは裏にして挿入する。挿入位置は挿入する場所より下にある
大変申し訳ありませんが、このアルゴリズムの正しさとVT符号の単一削除誤りに対する完全性の証明は今回は省略いたします!
以上で論理パズル(カード)の解説は終了です!
前回扱った論理パズルには 参考元 があり、前回のパズルを削除・挿入誤りver.だとするなら、参考元のパズルは反転誤りver.です。(二つの誤りについては 前回の記事 をご参照下さい。)
すなわち、なんと参考元のパズルの方にも反転誤りに対する、ある種の完全性が使われています!そして対応する符号はハミング符号という符号(構造を持った集合)に少し修正を加えた符号になっています。
(個人的に論理パズルは解き方そのものも興味が湧きますが、やはりそのパズルを成り立たせる構造に俄然興味が湧いてしまいます!一般化したいのです!わくわく!)
この節でその視点から参考元のパズルを解説します。
chess
8×8のチェス盤のマスに、悪魔がランダムに同じポーンを好きなだけ(0~64個)置く。その後、悪魔は囚人Aだけに
それを聞いた囚人Aは、そのチェス盤に対して、ポーンを一つ取り除くか、空いているマスにポーンを一つ置くのどちらか一方を必ず行う。
その後、囚人Bはチェス盤の何マス目にポーンが置いてあるかだけを確認し、囚人Aに伝えられた整数を当てる。
このゲームを成功させるために、囚人Aと囚人Bはこのゲームのルールを知った上で事前にどのような戦略をとればいいか?
このパズルの入力、操作の一部、出力を表したフローチャートはこちら
input3
数式ver.
input4
ここで整数の部分集合である
以降、
このパズルを解くのに用いるハミング符号(広義)の定義はこちら。
(前回と同様、符号の構造からパズルの解答に迫ります。)
に対して、集合
この集合を
混乱の恐れがない限り、ハミング符号の元も符号語と呼ぶ。
要するに行列
ハミング符号は一文字の反転誤りが訂正出来ます。(実は代数的に構成される(反転)誤り訂正符号の中で最も古いものの一つです。)具体例を見ます。
(
とすると、
解は
ハミング符号といえばこの集合を指すと定義する場合もあります。(狭義の定義)
three
例3の
このとき起こりうる
従って、もし符号語
が成り立ちます。すなわち、符号語
例として
この行列を左から掛けると
となり、二進表記で
ちなみに
例4で、符号語
(中心が入るので球面(sphere)ではなく球(Ball)と呼ぶ方が適切ですが、球面と呼ばれることも多いです。また、一般に反転球や削除球面の概念は適当な距離を用いて定義されます。)
さらに符号語
が成り立ちます。(
このことから符号語
であり、反転球たちが長さ
こういった性質を持つ符号を完全符号と言います。この性質のことを(単一反転に対する)完全性と呼びます。
一般に以下の性質が成り立つことが分かります。
任意の自然数
かつ、相異なる符号語
が成り立つ。ただし、
削除球面とは違い反転球の要素数は一定である為、一般には別の形で(単一)反転誤りに対する完全性が定義されますが、定理2もハミング符号の完全性を表しています。
任意の自然数
削除のときと同じような定理とその系が導けました!
しかし、このままだと問題点が2つあります。
この問題を解決するために、ハミング符号を修正し、このパズルに対応する完全性を考える必要があります。
では、どのような修正をしたらよいでしょうか?
その答えはシンプルで、ハミング符号の符号語の先頭に
実際には先頭である必要は無いので一般的には以下のように定式化出来ます。
に対して、集合
この集合を
混乱の恐れがない限り、伸長ハミング符号の元も符号語と呼ぶ。
(この集合は通常の誤り訂正の能力を失っているので符号と呼ぶべきかは怪しく、伸長ハミング符号はこのブログだけの用語です。)
ハミング符号と異なる点は
完全性の方もこの符号に合わせたものになります。
任意の自然数
かつ、相異なる符号語
が成り立つ。ただし、
完全性の気持ちとしては、特定の誤りを考えたとき、起こりうる(受信しうる)系列全体が元の空間と一致してる!です。ハミング符号の完全性における反転球
伸長したことにより符号語の長さを
残りはパラメータ
削除のときと同じく小さな具体例を見ることで一般の場合につなげます!
チェス盤が4マスで、
行列
であり、行列
は線形空間であり、準同型定理から
があります。
それは各
イメージとしては以下の図になります。色を固定して頂点を動かしたり、頂点を固定して色を動かしたりすると面白いです。
colorful
削除の完全性の図と違って、元同士ではなくて集合間の矢印にしています。今回も完全性を与える集合
囚人達でこの図を共通認識すれば、囚人Bは受け取ったチェス盤に行列
定理
任意の自然数
チェス盤のパズルの具体的な解き方は既に解説が書かれた記事があるため、チェス盤のパズルの完全性の視点からの解説は以上にしたいと思います!
(少し触れると、特に例5において
の各値、もとい、
の値を計算しているということですが、これらの値が
参考元
のサイト様における、
ちなみにチェス盤のパズルは非負整数
最後に、このチェス盤のパズルは、2007年秋に
Tournament of the town
という数学オリンピックに準ずる大会において出題されたマジックの問題(Senior A-level 5番)が元になっているそうです!悪魔が言う数字
全
一文字反転させることと一文字削除することに耐性をもつ仕組みに共通(対応)する性質があることはとても不思議に思います!
ちなみに蛇足になってしまいますが、ある削除誤りに関する完全性に対する研究が、有限コクセター群などの道具を用いて現在もなお進行中です。
例えば
54枚のカードの論理パズルの言葉で言うと、
囚人Aは、表裏もしくは裏表と連なった二枚のカードを束に必ず挿入するというルールでも、囚人Bに
このとき囚人Aが、どこに挿入すれば整数を伝えられるかというアルゴリズムの構成が自分の研究だったりします。(このパズルと意外な繋がりがあって自分でもびっくりしています。)
また、およそ2ヶ月前(2020/10/27)のプロシーディング(学会発表用の論文)で面白い結果が出ました。54枚のカードの論理パズルの言葉で言うと、
といったルールたちの中からどれを選んでゲームを始めても、必ず囚人Bに
という完全性が発見されました。選べるルールの個数は
もはや面白いというより恐ろしいです
明日は Mathlog からの マスログ で、matyuuさんによる 偏角の原理を使って五次方程式を解く です!!五次方程式は(数値的に)解ける!